愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋愛編

閑話2「愛の証明」①

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 二階建ての一軒家のリビングにて。食卓の上に置かれたお弁当を指差して、私の愛娘、姫川ひめかわ心美みみが怒鳴り声をあげた。


「こんなお弁当ヤダ!」


 5歳程度の幼女の叫びに、私こと姫川詩子は愕然とする。私は目を丸くして、思わず心美みみに言い返した。


「ちょっ、心美みみ、なんでそんなこと言うの!」

「だって、お母さんの作るお弁当、かわいく無いんだもん! 幼稚園の他の子はみんなかわいいのに、私だけおかず並べただけ! 私もみんなみたいにかわいいお弁当がいい!」


 心美みみは大声で駄々をこねる。私はそんな娘を見ながら、内心、勘弁してくれ、と思っていた。

 姫川詩子、33歳。そろそろ身も心も熟して男の需要が無くなる歳だが、未だに私は料理を苦手としていた。

 別に、以前のように、卵焼き程度を焦がしたり、『弱火で10分? なら中火で5分、強火で3分ね!』という判断をしてしまったりだとかではない。なんと言うか、もうそれなりに料理はできるが、料理と言う概念その物がしんどいのだ。


「え~、心美みみ~、そのお弁当も十分素敵じゃない。全部お母さんの手作りだよ?」

「でもかわいくないもん!」

「そ、そうだけどさぁ。ほら、ハンバーグ。小さいハンバーグ。心美みみ、好きでしょ?」

「でもかわいくないもん!」


 私は聞かぬ存ぜぬの娘に肩を落とした。

 朝早くに起きてちゃんと準備したのにこれだ。これがどこぞのおっさんとかなら文句を言い返すのだが、愛娘故、そう言うのも言い難い。


「……うう……きっと、そうなんだ……」

「……な、なにが?」

「お母さん、私のこと、本当は愛していないんだ。だからお弁当も、かわいいのにしてくれないんだ」

「ちょっ、そんなわけないじゃない! 私は心美みみのこと、真剣に愛してるよ!」

「でも、友達がそう言ってたもん! 心美みみちゃんのお弁当がかわいくないのは、ウチのママより愛が足りてないからなんだ、って」


 ぐ……! 誰だ、いたいけな幼女にこんなクソみたいなこと吹き込んだクソガキは。クソ、成人したいい大人ならぶん殴ってるところなのに。

 私は心美みみの言い分に困り果てて、「そんなことないって~!」と、情けなく叫ぶしかなかった。

 と。


「……ごめん、ちょっと、何かあったのかい?」


 リビングの出入口から、胸板の厚い、筋肉質な男が現れた。黒髪を短く切って、爽やかな印象が出るように額を出している。


「あ、真白」

「ん。ごめんね、トイレ行ってた」

「たはは、相変わらず長いうんこね」


 私が真白の言葉に笑うと、心美みみが「お母さん汚い」と言った。まさか娘から品性を指摘されるとは。


「とにかく、私こんなお弁当ヤダよ! お母さん、今すぐ新しいのに変えて!」

「えっ……い、今から!? ム、ムリ! 幼稚園に間に合わないじゃない!」

「嫌だ! 私、こんなダサいお弁当持って行きたくない!」


 心美みみの叫びを聞き、私はまたしてもガーンとショックを受けた。

 ダサい……私が手塩にかけて作った弁当がダサい……。娘から差し向けられた言葉は、ナイフのように心を抉った。


「コラ、心美みみ


 と、真白が語りかけながら、心美みみに目線を合わせた。


「お母さん、せっかく作ってくれたんだから。あんまりそう言うことを言っちゃダメ」

「えー、でも、ダサいんだもん!」

「そんなこと言うと、お母さんが傷付くよ。いつも言ってるでしょ? 無闇に人を傷付けちゃダメだよ、って」

「んー……」


 心美みみは納得のいかないような、いくような、なんとも言えないふくれっ面で黙り込んだ。


心美みみ。今から新しくお弁当を作るのは難しいから、今日は我慢して幼稚園行ってくれないかな?」

「………………わかった」


 心美みみは不満げながらも、真白の言葉に頷いた。どういうわけかこの子、真白の言うことはちゃんと聞くんだよな。


「ん。偉いぞ。それじゃあ、詩子。僕、心美みみ送ってくから」

「あ、うん。お願い」


 私が言うと、真白は「ほら、行こう、心美みみ」と、娘の手を引きリビングを出た。

 ……愛情が足りていない、か。私は心美みみの言葉を思い出し、一人罪悪感に駆られていた。


◇ ◇ ◇ ◇


 翌朝。私はじっとYouTubeのキャラ弁作りの動画を見ていた。

 今日作るのは○カチュウのお勉強だ。うちの娘はポ○モンが大好きなので、これなら喜ぶに違いない。


「詩子、別に、無理しなくていいんだよ?」


 と、ダイニングキッチンの向こう側で、机に座る真白が話しかけてくる。私は「いや、やる」と真白に向けて決意を返した。


「だって、あんなこと言われてやらない訳にはいかないじゃない。私にだって、母親としてのプライドがあるのよ」

「……んー。でもさ、詩子……」

「でももカカシも無い。私はちゃんとあの子を愛してるんだって証明しないと」


 私が張り切ると、しかし真白は、どことなく歯切れの悪い相槌を打った。いつもなら私にそこまで反論しないはずなのだが、なぜか料理の事になると、真白は少し微妙そうな顔をする。

 ……人がせっかく張り切ってんのに。とは思うが、気にしても仕方がない。私は早速、料理に取り掛かった。

 と。そこまではまあ、良かった。だけれど、料理を始めてみると、色々問題が起こり始めた。

 まず、『誰でも簡単に!』と言う銘打ちの動画を見ていたのだけれど、全くそんなこと無かった。チキンライスに焼いた卵を乗せるオムライスで○カチュウの黄色さを表現していくのだが、そもそも動画のような綺麗な卵が焼けなかった。

 なんかでこぼこしているし、ところどころ焦げている。動画では非常に滑らかな卵を使っていたのだが、そもそもそれが無理だった。

 ま、まあ、初めてだし。こう言うこともある。私は内心でそう呟き、更に○カチュウを作っていく。

 腰を折り曲げ必死に形作った○カチュウの型に、フライパンから卵を乗せるが、オムを被せただけだと、全体的にシワが寄って、不格好になった。そもそも焼き過ぎて卵が固くなって、型に上手いことかぶさらない。

 動画ではあんなに綺麗に乗っけられていたのに。私はそう思いながら、菜箸を使って無理やり型の形になるよう卵を押さえていった。

 その後は海苔のりを乗っけたり、○カチュウの周りを飾ったりとしていたのだが。ウィンナーをタコさんにしたり、レタスやミニトマトなどでいい感じに華やかにしたりなどをしていたら、あっという間に1時間半程度の時間が経っていた。


「……おし、できた……!」


 私は達成感を味わいながら、出来上がったキャラ弁を見る。

 ……まあ、うん。○カチュウにはなってる。私はふう、と息を吐き、傍らに置いたスマホで弁当の写真を撮った。


「ん、おつかれ」


 真白が言って、私の隣にやって来る。私は「んん、疲れた」と真白に返した。


心美みみを送ったら腰揉んであげるよ。結構来てるでしょ?」

「ん、中腰になりっぱなしだったからね。けど、まあ、ようやっとできた~って感じ」


 私は体を伸ばして、あくびをする。すると真白が、「詩子、」と私に話しかけてきた。


「ん、どしたの?」

「……あー、いや。……ん~。……ちょっと、あの子のことについて、ちゃんと話し合おうかなって」

「……どゆこと?」

「ん、まあ、色々」


 真白は頭を掻きながら、気まずそうに私から目を逸らした。


「まあ、とりあえず、心美みみ起こしてくるね」

「あ、うん。お願い」


 真白がそう言って、2階への階段を上っていく。私は流し場に突っ込まれたフライパンやフライ返しなどの調理道具を見つめ、肩を落とした。


「……料理って、料理よりコッチのがしんどいんだよなぁ」


 とは言え、いくらかの道具は食洗機にぶち込むだけなのだが。私はため息を吐いてから、流し場の調理道具を洗い始めた。

 しばらくして、真白が心美みみと共に2階から降りてきた。どうも起こすのに苦労したらしく、心美みみは大きくあくびをして、目を擦っている。


「お父さぁん……まだ眠いよぉ……」

「でも、幼稚園の時間なんだから。遅れちゃうよ」

「ぶえぇ……」


 もう何度も見た光景だ。私は気だるげにしている心美に、「おはよう、心美みみ」と声をかける。

 心美みみはあくびをしてから、「おはよう、お母さん」と私に挨拶を返す。私は娘の声を可愛らしく思って、思わずくすりと笑ってしまった。


「ごめん、心美みみ。朝ごはん、菓子パンでいい?」

「ん~、うん。私パン好き」


 心美みみは言いながら、食卓に座る。と、ふと、彼女は、どうやら机の上に置かれた、別の存在に気が付いたようだった。

 私が作ったキャラ弁だ。これ見よがしに置かれたそれを見た心美みみは、途端に目をキラキラとさせて、私とお弁当を交互に見つめた。


「お母さん、これ、今日のお弁当?」

「うん。ちょっと、初めてだから、失敗してるけど」

「ううん、全然そんなことない! うわああ、○カチュウだ! かわいい!」


 5歳児らしく、朝から大声を出して、手足をバタバタさせて喜んでいる。私はそれを見た途端、朝早くに起きて苦労したかいがあった、と心の底から思った。


「お母さん、ありがとう! 本当に嬉しい!」


 心美みみはかわいらしく笑った。私は「ん、いいよ、別に。アンタのためだし」と、娘に応えるように笑顔を向けた。

 と、真白が微笑みながら、心美みみの頭を撫でる。心美みみは「どうしたの、お父さん?」と首を傾げると、真白は「いや。ちょっと、かわいかったから、つい」と笑った。


「まあ、とにかく、心美みみ。朝ごはん食べて、幼稚園に行く準備しよう」

「うん! お母さんの作ったお弁当、みんなに自慢するんだ!」


 心美みみは足をパタパタさせて真白に答えた。私はそんな娘を見て、ずっと、じんわりと達成感を味わい続けていた。
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