87 / 151
サブストーリー1【いじめはいじめられる方が悪い】
2
しおりを挟む
吉田航平は、デパートのゲームセンターを出たところで、視界に映った光景に固まってしまった。
――ウソだろ。あの女が……姫川が、河野君と一緒にいる。
航平の視線の先には、ベンチの前で子供と応対している真白と詩子がいた。
航平は一瞬、2人に子供でも出来たのかと疑ったが、すぐにそんなわけが無いと考えを修正する。おおよそ迷子でも見つけたのだろうと考え直した航平だが、彼にとって、子供の状況はどうでも良いことだった。
詩子と真白が共にいる。それが何を指し示すか、航平にとって最も気になっていたのは、その一点のみであった。
考えなくともわかる。2人は付き合っているのだ。そしてデートでこのデパートを訪れ、迷子に出会った……と言うところだろう。
航平は自らの中で、とりわけ河野真白に対する評価がガタガタと崩れ落ちるのを感じた。
以前、真白と話した時、航平は彼に良い印象を抱いていた。自分のコンプレックスに気付き、それを『変わることができる』と言った彼に、航平は少し勇気づけられたのだ。
しかし、現実はそう甘くない。航平はその時こそ意気込んでいたが、ずるずると怠惰な生活を送り、結局現在も、変わるための具体的な努力は行っていない。
それがどこか真白に対する後ろめたさにもなっていたのだが、今回デートをする2人を見たことで、航平の中でそれが取り払われる感覚がした。
「……なんだよ。あの時は、『そんな関係じゃない』って否定していた癖に。結局、やることをやっているじゃん」
航平は聞こえないように、真白に不満を口にした。
以前、真白と詩子が付き合っているのでは、と言う噂が立った時、航平は確かに、詩子への理想が打ち砕かれたような、そんな感触を覚えていた。しかし、確かに詩子への幻滅が大きくなったとは言え、航平にとって、詩子が大層可愛らしい女性であることは変わりなかった。
クラスでかわいい女の子が、誰かと付き合い出したと聞くと、別段好きでなくとも、少しだけショックを受けることがあるだろう。航平にとって、詩子が真白と付き合っていると言う事実は、その程度の衝撃だったのだが。
しかし、感情が過激化しやすい航平にとって、その程度の衝撃であっても、腹が唸るような寝取られ感を覚えてしまったのだ。
航平は真白に嫉妬していた。そして、その身勝手な嫉妬心に理由を付けるために、真白を倫理的に非難していたのだ。
どうせ、顔が良くて、おっぱいが大きいから付き合ったんだろう、と。男が女に対して向ける目線など、そんなものなのだ、と。
◇ ◇ ◇ ◇
開け放したカーテンから、昼過ぎの太陽光が入り込んでくる。青山四郎は、「ん……」と、瞼に飛び込んできた光に目を覚ました。
1人用のベッドで体を起こす。掛け布団がめくれ、ほのかに寒気のある空気に素肌が晒される。
と、四郎の傍らで、同じく裸になっている女が、狭苦しそうに「んん……」と身をよじった。
四郎の恋人である、琴月(ことつき)優花里(ゆかり)だ。茶色い髪の毛がわずかに上裸を覆っている姿に、四郎は少しばかり微笑ましさを感じ、何も言わずに彼女の頭を撫でた。
「…………んん……朝?」
「ん~……こりゃもう、昼だな」
四郎が答えると、優花里は枕の傍らに置かれたスマートフォンを手に取った。
寝転がった姿勢のまま画面を付ける。優花里は目を細めて時間を確認し、「うわぁ、マジじゃん」と呟いた。
「ちょっと、昨日ヤリ過ぎたわ……」
「……すまん」
「別にいいよ~。まあ、昼過ぎまでだらだらする休日もありじゃん」
優花里はそう言いながら、「ヨイショ」と体を起こした。
ボサボサの髪が垂れる。優花里は「シャワー借りていい?」と四郎に尋ね、四郎は「うん」と短く答えた。
「…………。四郎」
「ん?」
「なんかあった?」
優花里が四郎に尋ねる。四郎はしばらく押し黙ってから、「まあ」と小さく答えた。
「ちょっと、昔の夢見てて」
「昔?」
「……いや。まあ、なんだ。……別に、なんでもないって言うか」
四郎はもごもごとバツが悪そうに口を動かす。優花里はあくびをしてから、「まあ、じゃあ、気にしないよ」と答えた。
「……ああ、そう言えばさ」
「ん?」
「四郎って、河野君と友達じゃん? ……なんで、アイツと友達になったのかなって」
四郎は優花里に言われ、「あー」と天井を見上げた。
腕を組み、四郎は昔を思い出す。そして四郎は、ゆっくりと、かつての事を語り始めた。
「……正直、昔はさ、俺、アイツのこと好きじゃなかった」
「へぇ、そうなんだ」
「ただ、付き合っていくうちに……なんて言うか……アイツの良さに気付いた……って言うか……自分の未熟さに気付かされたって言うか……」
「どゆこと、それ?」
優花里が四郎の口ぶりに笑う。四郎は「なんだよ」とやや照れ臭そうに口を尖らせる。そしてガリガリと頭を搔いて、仕切り直すように言葉を紡いだ。
「昔の俺はさ、正直……ゴミもいいところな奴でさ。今の俺は、アイツがいたから出来上がったようなもんなんだよ」
「へぇ」
「だから、なんっつーか……アイツはだから、俺にとっては本当に、無二の親友なんだよ」
「……なんか、四郎ってやっぱ、河野君のことは特別扱いしてるよね」
四郎は優花里に言われ、「まあな」と頬を指先で掻いた。
「……アイツと関わるようになったのは中学の頃からなんだけど。……アイツは、それまでいなかった奴だったから。だから、俺にとって、こんだけデカい存在になったのかもな」
四郎は恍惚とした表情で、遠い過去を見つめながら、語る。
「……やっぱきっかけは、デパートで迷子を見つけた時だったな……」
――ウソだろ。あの女が……姫川が、河野君と一緒にいる。
航平の視線の先には、ベンチの前で子供と応対している真白と詩子がいた。
航平は一瞬、2人に子供でも出来たのかと疑ったが、すぐにそんなわけが無いと考えを修正する。おおよそ迷子でも見つけたのだろうと考え直した航平だが、彼にとって、子供の状況はどうでも良いことだった。
詩子と真白が共にいる。それが何を指し示すか、航平にとって最も気になっていたのは、その一点のみであった。
考えなくともわかる。2人は付き合っているのだ。そしてデートでこのデパートを訪れ、迷子に出会った……と言うところだろう。
航平は自らの中で、とりわけ河野真白に対する評価がガタガタと崩れ落ちるのを感じた。
以前、真白と話した時、航平は彼に良い印象を抱いていた。自分のコンプレックスに気付き、それを『変わることができる』と言った彼に、航平は少し勇気づけられたのだ。
しかし、現実はそう甘くない。航平はその時こそ意気込んでいたが、ずるずると怠惰な生活を送り、結局現在も、変わるための具体的な努力は行っていない。
それがどこか真白に対する後ろめたさにもなっていたのだが、今回デートをする2人を見たことで、航平の中でそれが取り払われる感覚がした。
「……なんだよ。あの時は、『そんな関係じゃない』って否定していた癖に。結局、やることをやっているじゃん」
航平は聞こえないように、真白に不満を口にした。
以前、真白と詩子が付き合っているのでは、と言う噂が立った時、航平は確かに、詩子への理想が打ち砕かれたような、そんな感触を覚えていた。しかし、確かに詩子への幻滅が大きくなったとは言え、航平にとって、詩子が大層可愛らしい女性であることは変わりなかった。
クラスでかわいい女の子が、誰かと付き合い出したと聞くと、別段好きでなくとも、少しだけショックを受けることがあるだろう。航平にとって、詩子が真白と付き合っていると言う事実は、その程度の衝撃だったのだが。
しかし、感情が過激化しやすい航平にとって、その程度の衝撃であっても、腹が唸るような寝取られ感を覚えてしまったのだ。
航平は真白に嫉妬していた。そして、その身勝手な嫉妬心に理由を付けるために、真白を倫理的に非難していたのだ。
どうせ、顔が良くて、おっぱいが大きいから付き合ったんだろう、と。男が女に対して向ける目線など、そんなものなのだ、と。
◇ ◇ ◇ ◇
開け放したカーテンから、昼過ぎの太陽光が入り込んでくる。青山四郎は、「ん……」と、瞼に飛び込んできた光に目を覚ました。
1人用のベッドで体を起こす。掛け布団がめくれ、ほのかに寒気のある空気に素肌が晒される。
と、四郎の傍らで、同じく裸になっている女が、狭苦しそうに「んん……」と身をよじった。
四郎の恋人である、琴月(ことつき)優花里(ゆかり)だ。茶色い髪の毛がわずかに上裸を覆っている姿に、四郎は少しばかり微笑ましさを感じ、何も言わずに彼女の頭を撫でた。
「…………んん……朝?」
「ん~……こりゃもう、昼だな」
四郎が答えると、優花里は枕の傍らに置かれたスマートフォンを手に取った。
寝転がった姿勢のまま画面を付ける。優花里は目を細めて時間を確認し、「うわぁ、マジじゃん」と呟いた。
「ちょっと、昨日ヤリ過ぎたわ……」
「……すまん」
「別にいいよ~。まあ、昼過ぎまでだらだらする休日もありじゃん」
優花里はそう言いながら、「ヨイショ」と体を起こした。
ボサボサの髪が垂れる。優花里は「シャワー借りていい?」と四郎に尋ね、四郎は「うん」と短く答えた。
「…………。四郎」
「ん?」
「なんかあった?」
優花里が四郎に尋ねる。四郎はしばらく押し黙ってから、「まあ」と小さく答えた。
「ちょっと、昔の夢見てて」
「昔?」
「……いや。まあ、なんだ。……別に、なんでもないって言うか」
四郎はもごもごとバツが悪そうに口を動かす。優花里はあくびをしてから、「まあ、じゃあ、気にしないよ」と答えた。
「……ああ、そう言えばさ」
「ん?」
「四郎って、河野君と友達じゃん? ……なんで、アイツと友達になったのかなって」
四郎は優花里に言われ、「あー」と天井を見上げた。
腕を組み、四郎は昔を思い出す。そして四郎は、ゆっくりと、かつての事を語り始めた。
「……正直、昔はさ、俺、アイツのこと好きじゃなかった」
「へぇ、そうなんだ」
「ただ、付き合っていくうちに……なんて言うか……アイツの良さに気付いた……って言うか……自分の未熟さに気付かされたって言うか……」
「どゆこと、それ?」
優花里が四郎の口ぶりに笑う。四郎は「なんだよ」とやや照れ臭そうに口を尖らせる。そしてガリガリと頭を搔いて、仕切り直すように言葉を紡いだ。
「昔の俺はさ、正直……ゴミもいいところな奴でさ。今の俺は、アイツがいたから出来上がったようなもんなんだよ」
「へぇ」
「だから、なんっつーか……アイツはだから、俺にとっては本当に、無二の親友なんだよ」
「……なんか、四郎ってやっぱ、河野君のことは特別扱いしてるよね」
四郎は優花里に言われ、「まあな」と頬を指先で掻いた。
「……アイツと関わるようになったのは中学の頃からなんだけど。……アイツは、それまでいなかった奴だったから。だから、俺にとって、こんだけデカい存在になったのかもな」
四郎は恍惚とした表情で、遠い過去を見つめながら、語る。
「……やっぱきっかけは、デパートで迷子を見つけた時だったな……」
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる