愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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サブストーリー1【いじめはいじめられる方が悪い】

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 中学生の頃。僕は仲良くなり始めた四郎や勇次郎と一緒に、放課後の道を歩いていた。

 その日は部活が無く、周りにも、運動部や吹奏楽部の面々が溢れていた。スカートを履いた女子生徒や、大きなリュックを背負った野球部男子など、色々な人が横をすり抜ける度、僕は動くそれらに反応して視線を向ける。


『なあ、ちょっと腹減ったから、コンビニ寄らね?』


 と、四郎が勇次郎にそう声をかけた。勇次郎も、『おう、いいな。○ァミチキ奢って』と返事をして、四郎が『嫌だわ。自分で買え』と笑いながら言い返す。

 僕はその時、『え?』と、誰にも聞こえないような声で呟いていた。2人が買い食いに乗り気だったことに、驚いたからだ。

 僕たちの通っている中学校では、放課後、帰り際にコンビニ等に立ち寄る事は禁止されている。度々見つかった生徒もいるらしく、その都度担任の教師から注意をされる。

 ようは、いけないことなのだ。そんな良くないことを、平然とやろうと言っているのだから、僕はその神経に驚きを感じたのだ。


『ちょっ、ちょっと……それは、いくらなんでも、ま、ま、まずい……と……思う…………』


 僕は声を絞り出して2人に言う。2人はきょとんとした顔で、僕の方をじっと見つめていた。


『……は? え? 何が悪いん?』

『いや……ビビってるだけだろ。先公に見つかるのが』

『そ、そ、そうじゃ……なくて。だから、その…………えっと……こ、校則違反……だし……』


 僕がまた声を絞り出すと、勇次郎が『あ~』と言って空を見上げた。


『まあそうっちゃそうだけど……別に良くね? バレなきゃ』

『いや……バレるバレない…………とかじゃなくてさ…………』


 僕がおどおどとすると、四郎がため息を吐いて、僕に背中を向けた。


『ほら、行くぞ勇次郎。別に、無理して来させなくていいって』

『まあ、そうだな。真白は別に待ってりゃいいぞ?』

『えっ、えぇ……いや、でも……』


 僕が勇次郎の呼び掛けにおどおどすると、四郎は舌打ちして、『別に、無理言わねぇから』とキツく言い放った。


『嫌なら来なくていいって。シラケるだけだから』

『え……』

『無理に付き合わせるとさ、こっちも悪い気がするんだよ。だったら、お互い納得できる形で終わらせる方が万倍良いの。お前がまあ、クソまじめなのはわかったからさぁ。それならそれで、俺らとは一線引けばいいから。な?』


 僕は四郎のため息に気を落とした。

 正直なことを言えば、当時の僕は、彼に苦手意識を持っていた。言動からどことなく、僕のことを煙たがっているのは感じられたし、何より、根本的な性格が合っていなかった。

 四郎はサッカー部に所属していて、部内でも結構な活躍をしている。人望も厚くて、周りからも慕われていて、普段の体育や学校祭でも頼りにされている、絵に書いたようなリア充だった。

 しかしその割には、今のような、悪いことをその場のノリで平気でやってしまう、そんな所もある、あまり褒められたものではない性格でもあった。

 制服は着崩すし、携帯ゲーム機を持ってきて休み時間にはしゃいでいるし、買い食いはするし。僕から見て、彼はそうした違反ばかりを繰り返す、悪い人でもあった。

 その癖、みんなからは『良い人』として扱われているし。彼からの嫌悪感をよくよく受けていた自分の身からしたら、周囲の評価も合わせて、心底納得がいかなかった。

 ただ、勇次郎が謎に僕を気に入ったのと、それに四郎が付属してくるのと、僕自身、断るのが苦手な性格だったからというのがあり、こうして一緒にいることも多々あったのだけれど。本当のことを言えば、四郎とはあまり関わりたくはなかった。

 僕はこの日も、四郎にやや気だるそうに突き放されて、それでちょっとだけムキになって、おどおどしながらも、2人について行くことにした。

 結局、僕はコンビニで何も買わなかった。おっかなびっくり、周りをきょろきょろと見ながら、2人が欲しい物を買って、それを後ろから眺めていた。

 コンビニを出た後、四郎と勇次郎は、空になったビニール袋を手にかけたまま、〇ァミチキをパクパクと食べる。僕はそれを、よくわからない罪悪感と共に、ちらちらと見つめていた。

 もしも怒られたらどうしよう。買い食いなんてして、本当に良かったのだろうか。
 いや、そもそも、僕は何も買っていないし。付いていっただけで、それ以上は何もしていないんだから。そんなことを考えながら、僕は黙って、2人の駄弁りながらの食事が終わるのを待っていた。


『……お前さあ』


 そうしていると、突然、四郎が僕に話しかけてきた。


『そんな、引くような目で俺らのこと見んなよ。なんか、悪いことしてるみたいじゃん』


 僕は四郎の言葉を聞いて、彼の認識を疑ってしまった。

 買い食いをしているのに、悪いことをしていないとでも思っているのだろうか。当時の僕は、四郎の発言にそう思ってしまったのだ。

 勇次郎が『四郎、別にいいじゃねぇか』と彼を制止した。だけど、四郎は、『いや、なんか、気分悪いじゃん』と、やっぱり不快そうな表情で勇次郎に受け答えていた。

 僕は彼の言動に、ついイラッとしてしまった。それで僕は、四郎に向かって、『だって、悪いこと、してるじゃん』と、吃りながら答えてしまった。


 四郎は眉間にしわを寄せて、『は?』と言う。僕は構わずに、四郎に向かって反論した。


『だって、先生からも言われてるし。買い食いは良くないって。校則違反なのだから、本当はしちゃいけないのに、でも、それを悪びれもしないって、僕はどうかと思う』


 確か、主張の内容としてはそんな感じだったと思う。四郎は僕の言葉を聞いて、鬱陶しそうに大きくため息を吐き、『ダルっ』と声を漏らした。

 僕は四郎のこう言うところが嫌いだった。いや、四郎の、と言うよりかは、いわゆる陽キャの、と言った方が良いだろうか。

 だって、僕の方が正しいのに。アッチの方が間違ったことを言っているのに。なのに、陽キャって言うのは、反省もしないし、それを「だるい」とか「テンション下がる」とか、そんな感情論にすらならない言葉を持ち出して、全部否定する。

 おかしいのはお前らじゃないか。だったら、お前らが反省して、直すのが筋だ。この時の僕は、四郎に対して、そんな感じの念を送っていた。

 だけど四郎は、僕のそんな感情に対して、やれやれと肩を竦めながらも反論した。


『お前さ、真白。自分が正しいって思ってるようだけど。お前、本当に自分が正しいのか、考えたのか?』

『……え?』

『だって、お前が買い食いを悪いって言う理由って、先生に言われたから、とか、校則がどうって、そう言うのばっかだろ?』


 僕は四郎に言われ、口を閉ざしてしまった。彼の言葉はその通りで、僕は「先生がそう言ってるから」と言う理由だけで、買い食いを否定していたからだ。


『逆に言えばそれ以上の理由なんて無いじゃん。それってさ、みんなが赤信号渡ってるから、俺も渡って良い、って話と大して違わないと思うぞ? お前、偉い人が赤信号渡れって言ったら、素直に渡るのかよ?』

『あ……。それは、なんか、違うと思う……』

『なんでだよ?』

『……だって、赤信号を渡ると……信号無視だし、何より……事故に合うし……』

『そうだよな。赤信号無視しちゃいけない理由って、事故にあって危ないからだよな』


 四郎はそう言って、更に僕に反論を続けた。


『同じだよ。こう言うのってさ、誰が言ってたからとか、みんながどうって理由で守る、守らないを決めちゃダメなんだよ。それよりも、もっとちゃんとした理由の所に目を向けて、だからダメって言わないとダメなんよ』


 僕は四郎の言葉に、ハッと、何かに気付かされるような感覚を得た。


『んじゃ、買い食いがダメな理由ってなんだ? ……特に無いだろ。先公に聞いても、アイツら、ちゃんとした理由なんて答えらんねぇし』


 僕は四郎の言葉で、買い食いがダメな理由を改めて考えてみた。だけれど、答えはまったく浮かんで来なくて、僕は四郎の言葉に、黙るしかなかった。


『だから、守んなくてもいいんだよ。まあ、見つかると面倒だから隠す必要はあっけど。何よりもだけど、そっちのが楽しいじゃん。そう言うのって、結構大事だと俺は思うぞ』


 その時、僕は四郎の言葉に、自分の価値観が変わる程の大きな衝撃を受けた。

 それは、ある種の正当化だったのかもしれない。苦しい言い訳と言えばそれまでだし、無論、褒められた意見ではないのは確かだ。

 だけど、その時の僕は――四郎の言葉に、こう感じたのだ。

 ――ああ、そうか。この人は、僕とは、正しさの軸が違うんだ、と。

 決まりだとか、ルールだとか。そう言った物を『正しさ』だと思っていた僕と、合理性や周りの人、あるいは自分の感情を含んで『正しさ』を考える四郎。その違いを自覚させられた瞬間、僕は、今までの自分が酷く幼く見えた。

 つまり、僕は考えていなかったのだ。誰かから言われた正しさを、そのままなぞるだけで。

 僕は自分の真面目さと言うところに、ある種の誇りを感じていた。僕が唯一誇ることのできた物が、それだけだったからだ。

 だけど、それは真面目なのではなくて、ただの阿呆――あるいは、臆病と捉えた方が良かったのかもしれない。

 四郎の考えを聞いたその瞬間、そうした様々なことを自覚させられて。しかし、不思議なことに、僕はそれに、何か、体が軽くなるような、そんな感覚を覚えていた。


『……ごめん』


 僕はだからこそ、四郎に謝った。


『自分の正しさばかりにこだわって、みんながどう思うのかを考えてなかった。……ごめん』


 驚くほど素直に、吃ることも無く言葉が出た。やけに神妙な雰囲気を出してしまったから、四郎も、勇次郎も、少し引いていた気がする。


『……まあ、わかればいいって』


 四郎は僕に対して、呆れたように、だけど、肩の力を抜いて、物凄く自然に笑った。

 それは、今まで僕が見てきた、気を使っていて、でも内心僕を毛嫌いしているような、そんな笑みとはまったく違う物だった。

 この瞬間、僕の四郎への印象と、いわゆる『陽キャ』への認識が大きく変わった。

 こいつは、この人たちは、僕が思っている以上に何かを感じて、考えて生きている。それを、自然とこなしている。

 ――自分は、バカだ。周りの事を見もしないで、自分の中で編み出した結論ばかりを『正しさ』と感じて。僕はそれ以降、自分の考えを強く反省した。

 この日以来、僕は、『周りの人の感情』と言うのを考えるようになった。感情論と言うのを、それだけで見下さないようになった。

 今の僕と言う人間の原点は、間違いなく、この時の四郎にある。

 だから四郎は、僕と言う人間を変えてくれた恩人なのだ。もしも彼がいなければ、僕は、自分がどうして周りと上手くやれないのか、それを自覚出来ず、いつまでも周りを疎んでいただろう。

 彼は、僕の陰キャとしての悪い側面を、陽キャの光で見事に変えてくれたのだ。
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