愛と友情は紙一重!~オタサーの姫と非モテ童貞陰キャオタクがパコパコするまでの物語~

オニオン太郎

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恋人編

第2話「険悪な夫婦はただそれだけで毒である」②

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 ――最悪だ。最悪過ぎる。

 私は真白の部屋の中で、小さい机の前でかしこまって正座をしていた。

 机を挟んで向かい側には、真白と、真白の家族3人が並んでいる。私は顔をかぁ、と赤くさせて、しどろもどろに首をあちらこちらへと動かした。


「あ……ひ、姫川詩子…………こ、河野真白さんとは…………お、お、お付き合いを…………させて、いただいてまヒュッ」


 頭を小さく下げ、緊張と焦りで声を裏返す。真白のお父さんが「いえいえいえ、そんな、緊張しなくても」と笑い、一方でお母さんの方は、ものすごく何とも言えない表情で私に微笑み掛けている。

 やべぇ。お父さんの方はともかく、お母さんの方からはまったく歓迎されてねぇ。私は気まずさにぐるぐると目を回した。

 当然だろう。現在の私の服は、所謂地雷系ファッションのテンプレートとも呼べる、肩や胸の辺りにフリルの付いたピンク色のトップスに、紐が肩や腰に巻き付いていて、いい感じにおっぱいを強調する黒いスカートを履いている。

 いくらなんでも浮世離れしすぎている。本来この格好で出歩いている時点でアレなのに、ましてや今回は両親と鉢合わせてしまっている。

 普段なら『は~? 好きな格好をするのは基本的人権じゃい!』とかブイブイするのだが。今回は状況が特別だ。流石に何も言えなくなる。


「……あー、姫川さん? って言いましたよね?」


 と。真白のお父さんやお母さんではなく、なぜか突然、爽やかなイケメン男のお兄さんが話しかけてきた。


「あっ、はい」

「マジで気になるんですけど、コイツの一体どこを好きになったんですか?」

「え?」


 ぬおお、いきなり変なこと聞きやがるなこの人。私は驚いて、目を丸くしてしまった。

 どこを好きになったか。……そうだな。私は少し考えてから、答えようと口を開く。


「ん~、どこって……」

「はっきり言いますけど、やめといた方がいいですよ?」


 は? 私は、私の言葉を待たずして声を発したお兄さんに驚いた。


「コイツ、今は部屋とかそれなりに綺麗にしてますけど、実際は結構だらしないんで。実家にいた時は部屋とかかなりごちゃごちゃしてたんですよ。なによりコイツ、なんかキメーじゃないですか。人とまともに関わることもできないキモオタだから、仕事始めてもちょっとしたらやめますよ。こんなクソみたいな奴と付き合うと、マジでろくなことにならないんで。俺なら絶対やめときますよ」


 真白のお兄さんは突然つらつらと語り始めた。私は彼の言葉に呆気に取られ、頭が真っ白になってしまう。

 ……ん? どういうこと? え、こいつ、もしかして、なんか私を説得してる?

 弟と付き合うのはやめろって、は? なんでコイツがそんなこと言うの? 私は色々と訳がわからず、ぽかんとしてしまう。

 と、


「こら、正斗まさと!」


 真白のお母さんが、お兄さんを叱りつけた。


「初対面の人に何言ってるのアンタ! そんな、真白のことボロクソに言わんでもいいでしょ! ちょっと常識を考えなさい!」

「いや、お前、それでコイツと付き合わされるとか彼女の方が可哀想だろ。常識とかじゃなくて。なんでそんなこともわかんねーの?」

「いやだから、普通はそんなこと言わないんだって。頭おかしいよ、アンタ」

「知らねぇって。大体、俺が頭おかしいのはわかってっから。世間の常識で俺を計んなっていつも言ってるだろ。そんなんだからお前はバカなんだよ」


 私は真白のお母さんとお兄さんの様子に目を回してしまった。

 えええええ? なんだコイツら、なに喧嘩始めてんだ? つーか、なんだこの男。明らか間違えてんのお前なのに、なんでこんな偉そうなんだ?

 私がそうしてぐるぐるしていると、真白が「ちょっと」と2人に声を掛けた。


「客人の前なのに、やめなよ、そう言うの。それに、兄貴。いくら僕でも怒るよ?」

「は? なにキレてんだよお前。それに、母ちゃんが始めたんだろ」

「いい加減にしろって、そう言うの。詩子が困惑する」


 真白が眉間にしわを寄せて言う。真白のお兄さんはこちらをチラッと見ると、舌打ちをしてそっぽを向いた。

 やべぇ、何もかも意味がわからねぇ。私は緊張と困惑でとにかく頭がぐるぐるとして、何も考えられなくなってしまった。


「いやあ、すみませんね、姫川さん。コイツらちょっとアレなんで」


 と、真白のお父さんが笑いながら私に話しかけてきた。私は「あっ、はい」と目を点にしながら、とりあえず受け答える。


「そうだ、どうです? もうそろそろお昼ですし、一緒にご飯とか行きません?」

「えっ……えぇ!? 昼食!? 家族で!? えっと、その……」

「ちょっと、アンタ」


 突然の提案に私が困惑していると、真白のお母さんが、私たちの会話に割り込んで来た。


「なにアホな事言ってんの。ご飯はもう買ってあるんだし、それ食べればいいじゃないの」

「いやあ、でもせっかくの彼女さんだし、」

「お金もったいないじゃない。それに、突然ご飯に誘われたら、彼女さんだって迷惑でしょ。ねぇ?」


 真白のお母さんがこちらを向いて同意を求めてくる。

 ぬおお、まじか。いきなりキラーパス飛ばしてくんな。私は「えっ、あっ、えっと、」と、いつもより上擦った声で、あたふたと両手をひらひらさせる。

 アニメに出てくる地味~な女の子のように、上目遣いで周りを見回す。私は家族と言う圧に頭が真っ白になって、どうすればいいのかと考えることもままならなくなり、


「あっ、お、お願いします」


 咄嗟に真白のお父さんの提案を受け入れてしまった。

 や、やべぇ、やらかした。なんで私こんな返答したんだ。頭の中に焦りが募り、私は更に目をぐるぐるとさせる。


「お、おお、そうですか! いやぁ、よかった! それなら早く準備しないと! お母さん、昼飯用意して!」


 真白のお父さんがニコニコと言う。真白のお母さんは、少しばかり不機嫌そうな顔をしてから、「ハイハイ」と言って立ち上がった。




 一人暮らしの部屋に5人と言うのは流石に狭い。加えて真白が普段使っているこたつ机も1人用であり、そこに5人分の食事やコップを乗せるのは難しかった。

 そう言うわけで、私と真白のお兄さんは、床に皿やお惣菜を直接置いて食べることになった。

 私は当然として、真白のお兄さんも自分から「俺は床で食うから」と発言してきたのには少しびっくりした。加えて私から結構距離を離した位置に陣取ったので、こう言う気遣いはできるんだな、と意外に思った。


「いやぁ、実は私、真白が付き合えるかどうか凄い心配してたんですよ。コイツ、女っ気がまったく無くてですねぇ。ははは、本当、よかった。これで河野家も安泰だなぁ」

「は、はぁ……」


 真白のお父さんが、揚げ物を食べながらゲラゲラと笑う。彼の位置には揚げ物の衣が細かくポロポロ落ちていて、あまり綺麗とは言い難い。

 めっちゃ喋るなこの人。私は引き笑いをしながらそう思った。

 見た目通りと言うべきか、かなり調子の良い性格のようだ。本当に心底嬉しそうにずっと話しているので、歓迎されているのは伝わってくる。

 ただ、なんだろう、この違和感。私はキョロキョロと目を動かし、真白たち一家を見る。

 真白は黙々といなり寿司を食べていて、お母さんはどことなく不機嫌そうな雰囲気を醸している。真白のお兄さんの方に目を向けると、彼はじとっとこちらを睨み付けていて、なんか例えようもない気まずさがベッタリと張り付いていた。

 どことなく重い空気の中、しかし、お父さんだけが異様と言う程に明るい。おそらくこのアンバランスさが、この謎の違和感を生み出しているのだ。


「それにしても、こんなにかわいい女の子が付き合ってくれるなんて、結構やるじゃないか。いやまったく、親の育て方がよかったおかげだな!」


 お父さんの言葉に、真白はピクリと眉根を寄せる。しかし真白は淡々と「うん」とだけ答え、親子の受け答えはそこで終わってしまった。

 な、なんだ、この異様な空気。て言うか、何よりもおかしいのは、真白の反応だ。

 普段私にはしない反応をずっとしている。なんと言うか、どことなく不快感を向けていると言うか、間違いなくこの場をあまり良く思っていないと言うか。

 もしかしてだけど、この家族、あまり仲良くない? 私はなんとなく、この一家の事情というのを察してしまった。


「あっ、」


 と、真白のお父さんが、いなり寿司を箸で取った途端、ぽろりとそれを机に落とした。

 机に落ちたいなり寿司が、米粒をまき散らす。途端、「ちょっと!」と、真白のお母さんが大声で旦那を怒鳴りつけた。


「なにやってんのもう! いつもいつも言ってるでしょ、なんでアンタは食べ方が汚いのって! それいざって時出るって言ってたよね!?」


 私は真白のお母さんの様子に『ええぇ』と引いてしまった。
 いや、確かに食べ方汚いし、物落としてるけど。でもそんなに怒るか? ていうか、今私いるんだけど?

 私がお母さんの様子を黙って見ていると、真白のお父さんは、「はははは、俺は幸せだなぁ。こんなに美味い飯が食えて。しかも真白が彼女まで連れてきて」と言い始めた。は?

 
「またそうやって話逸らして! いつも言ってるでしょ、その汚い食い方直しなさいって」

「真白、どうだ? 俺の揚げ物食うか?」

「話聞きなさいよ! そんなんだからアンタはいつもいつも、」


 真白のお母さんがなお怒る。と、その瞬間だった。

 真白のお父さんが、机を思い切りバンと叩いて、激しく怒り狂って大声で叫んだ。


「やかましいんじゃボケェ!!!!!」


 男の大声に、私はビクリと体を震わせた。真白のお父さんは、目を爛々とさせて、とんでもない威圧感を放っていた。


「お前さっきからごちゃごちゃと! 誰のおかげで飯食えてると思ってるんや!」

「逆ギレせんといてよ! アンタが悪いんでしょうが!」

「こんな飯の食い方くらいでぎゃあぎゃあやかましいって言ってんじゃ!」

「なんだよ、私が悪いっての!?」

「女の腐ったみたいな口が気に食わんって言っとんじゃあ!」

「だからアンタの食い方が汚いからって言っとるだろうが! みっともない!」


 ぬ、ぬおお、やべぇ、めっちゃヒートアップしてる。私はギャンギャンと怒鳴り散らす2人にただただ目を丸くするしかなかった。

 と、その時、「いい加減にしろ!」と、2人の大声に負けないくらいの声で真白が怒鳴り散らした。


「お前ら、お客さんいるんだぞ! やめろよ、こんなみっともない!」

「親に向かってお前ってなんじゃボケ!」

「どうでもいいだろ今はそんなの! いいから落ち着けよ、2人とも!」


 私は真白が怒鳴る姿にまた目を丸くしてしまった。

 ぬおお、珍しい。真白のガチギレだ。コイツがこんなになったの、私が痴漢された時以来じゃないか?

 て言うか、そうか。コイツが何気に声デカいの、親譲りだったのか。私は不思議な因果に妙な感心をした。


「ああもう、アンタとなんか話にならんわ」


 と、真白のお母さんが舌打ちをして立ち上がった。


「姫川さん、ちょっと外出よう。こんな所いても嫌なだけでしょ?」

「え? え、えぇ?」

「はよ!」


 真白のお母さんが急かし、私は「うぁ、は、はひっ!」と焦り彼女の後をついて行った。

 玄関のドアを開ける間際、ふと後ろを見ると、とことん最悪な空気が真白たちの間を漂っていた。
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