愛と友情は紙一重!|キュンとしないのになぜか尊い、陰キャ同士の捻くれた純愛ヒューマンドラマ

オニオン太郎

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恋人編

第5話「自他の境界が曖昧な者は精神的に幼い」①

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 真白の部屋の中で、私はカーペットに座り込み、小さな机の上に置いたiPadでアニメを見ていた。

 真白はと言うと、ベッドの上で、ポチポチとスマホをいじっている。冷えきったカップルあるあるの光景に見えるが、私と真白はこんな感じの付き合いをする、と言う考えのもとこうしているので、別に惰性で付き合っているとか、そう言う訳では無い。

 そんな感じで、「あははは」と笑いながら過ごしていると。突然真白が、「ね、詩子」と声を掛けてきた。


「ん?」


 私はアニメの再生を止めながら、真白の方を見る。真白は少し面倒臭そうな雰囲気を醸すと、「ちょっと、申し訳ないこと言うけど」と話し始めた。


「……実は。また来週、僕の母さんが来る」


 私はそれを聞き、「はぁ」と呟く。


「……別に、良いと思うけど。ああ、でも、そうなると来週は私、こっち来れないね」

「いや。えっと、その……たぶんだけど……」


 真白はまたもじもじとし始める。私は訝しい顔をしながら、「?」と首を傾げる。


「……その。……君を、見に来る。だから、君と母さんは鉢合う」

「……。…………はぁ~~????」


 私は目を丸くして、真白の言葉に声をあげてしまった。


「ちょっ、えぇ!? マジで!? な、なんで!?」

「……僕のせい。その、君の部屋が綺麗かどうか聞かれて、つい、その、そうでもないって……」


 私は「うぐっ、」と声を詰まらせてしまった。

 ……まあ。確かに、私の部屋は汚いけど。真白に整頓してもらってなお乱雑になってしまう位にはアレな有り様だけど。
 いや、でも、なんでそんな、私の部屋なんか気にするんだよ。親だからって、いくらなんでも息子に関わり過ぎじゃないか? 私は真白の母親の在り方に深く深くため息を吐いた。


「……ごめんね。うまくごまかせば、こんなこともなかったのだろうけど……」

「いや、でも、アンタ嘘ヘタだし。それに、別にアンタが悪いわけじゃないから。だって、普通息子の彼女の部屋に来る、って言い出す親いる? そこまでする必要ないと思うのだけど」

「……母さんは昔から過保護なんだ。お祭りに行くって言ったら、門限は6時って言われたことがあるよ。高校2年の頃に」

「高2で門限6時~!?!? しかも祭りの日に!? うっわぁ、そう言う日くらい大目に見てあげりゃあいいのに」

「まあ、無視したけど。後で物凄い怒られたよ」


 う~ん……。心配なのはわかるけど、だからって、ちょっとな。

 いやでも。これ、このままだとたぶん部屋入られるなぁ。私はもう一度、ため息を吐いて、肩を落とした。


「…………ねぇ、真白。ちょっと、断ること、出来ない?」

「……うん。やってみるよ。いくらなんでも、めんどくさいし」

「だよね。頼むよ~、マジで」


 私は心の底から、真白に懇願した。


◇ ◇ ◇ ◇


 そして、6日が経ち。私は真白の家にお呼ばれして、例の人物と対面した。


「また会ったわね、姫川さん。1週間ぶりかしら」


 幸薄そうな雰囲気を醸しながら、細身の女性が私に微笑みを向ける。一方で私は、「そうですね。お久しぶりです」と苦笑いをし、ぺこりと小さく頭を下げる。

 ――ああ、結局こうなったか。私は内心でため息を吐いた。

 あの後、真白は何度か母親に説得を試みたようだが、しかし、彼女は息子の言葉を聞かず、なんやかんやでこの状態になってしまった。

 2日ほど前に、真白から「もう無理」と聞かされた時には、胃が果てしなく痛くなるのを感じたが。他方で、今回は唐突な鉢合わせではない。こちらはこちらでちゃんとした準備をしてきた。

 とりあえず、いつものような地雷系マシマシぴえぴえファッションは捨て置いて、あくまで『清廉潔白な誠実美少女』を意識して、まともな格好をしてきた。

 白のトップスに、モンブランのような薄茶色のロングスカート。それに小さめのハンドバッグを合わせた、まあどこにでもある綺麗な格好だ。

 高校時代はあくまでも『普通女子』として生活して来たのだ。もったいなくて捨てたり売ったりもしなかったから、この手の服も私はちゃんと持っている。

 これなら、このお母様も眉間にしわは寄せないだろう。そんなことを思いながら私は彼女に目を向けるが、しかし、どことない敵意を感じて、非常にいたたまれない。


「それじゃあ、真白。お母さんは姫川さんと話があるから。アンタはここで待ってて」


 と、真白のお母さんは、突然彼に向かってそう提言した。真白は当然「は?」と呟き、レンズの奥で目を丸くする。


「ちょっと、待って。え、母さん、詩子とどこ行くの?」

「どこって、彼女の家よ。ちょっと、確認したいことがたくさんあるから」


 さらなる発言に私はギョッと目を丸くさせた。

 ええええぇぇ!? は? なんで? そんなの聞いてないんだけど。マジでこの人、私の家に来るつもりなの?

 ちょっと、待って。信じられない。私は目を見開いたまま、脳が徐々にパニックになるのを感じながら真白の母親を見つめた。



「待って。え? 今から? なんで突然? おかしいでしょ、詩子が驚くでしょ」


 真白がかなり真剣な眼差しで、責め立てるように母親へと言う。しかし真白の母親は、「そんなことしたら、ちゃんとあの子のこと見れないでしょうが。私には、アンタの親として、彼女のことを見る必要があるの」と、息子の口調にかなりイライラとした様子で強い語感で返す。


「母さん、ちょっと待って。たとえそうだとしても、まず本人に了承を得ないといけないでしょ。普通はいきなりなんてこと、しないんだよ」

「それは確かに私も悪いと思っているけど。でも、必要なことなのよ。仕方がないじゃない」

「仕方ないもクソもないって。常識とかマナーの問題だって」

「ちょっと、何よその言い方。いつもいつも、アンタはそうやって正論で人を殴って。親のことを何だと思っているの?」

「いやでもこれは明らかに君が悪いよ」

「君ってなに? 人のことをそうやって呼ぶのは失礼だっていつも言ってるじゃない。私は、アンタの言い方に問題があるって話をしているの」


 ぬおおお、会話がぐだぐだとし始めた。一体どこへ向かっているんだこれ?

 私は真白が表情を怒らせていく横で、黙って笑いながら2人の会話を聞く。

 なんというか、なんでこんなにも無駄話が多いんだ。この会話失くすだけでもうちょいテンポ良く物事が進むだろ。


「とにかく、姫川さん。今日はあなたの部屋に行きたいの。いいわよね?」


 私がぽかんとしていると、真白のお母さんは、突然私に話を振ってきた。私は少し間を空けて、「……え?」と声を出すと、真白の母親は一瞬肩を竦め、「あなたの家に行きたいの。いいわよね?」とさらに追求してきた。

 いや。良いも何も、良いわけないだろ。私は心の中でそうギリギリと呟いた。

 しかし、この感じ――間違いなく、『はい』って言わない限り、永遠に同じ会話を続けることになる。

 ぐわぁ、面倒くせぇ。私は努めて笑顔を作り、明るい雰囲気を出しながら、「は、はい。大丈夫ですよ」と言ってみせた。


「詩子、いいのかい?」

「い、いや。だって、やましい物なんて何も無いから」


 母親の前で、清廉潔白な女子を演じて受け答えてみる。

 無論ウソだ。むしろ私の部屋には、これでもかと言うくらいにやましい物が詰め込まれている。BL本とか、BL本とか、BL本とか。

 だが、そこはずる賢さと腹黒さに定評のある私。1週間を掛けて全て片付け済みであり、部屋を頑張って綺麗にした。

 正直、こうなることはなんとなく予想していた。だったら、面倒臭くっても対応するだけだ。

 私がニコニコと笑うと、真白は不安そうな表情で、「……まあ、君がそう言うなら」と呟いた。そりゃあ、心配にもなるよな。

 と。真白がそう言った途端、「それじゃあ、いいわね?」と、真白の母親が私に問いかける。


「……はい。まあ、わかりました。部屋まで、案内するんで」

「お願いします」


 真白の母親はそう言って頭を下げる。私は内心で舌打ちをしながら、彼女を引き連れ、真白の部屋を出て、自分の住むアパートにへと向かった。
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