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第18話
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◇――第4月曜日 PM12時35分――◇
昼休みの時間。白雪未来は、怜斗や加奈、誠治と共に中庭にいた。
昨日――日曜日。未来たちは推理をまとめ、啓吾に連絡した。すると啓吾は、自分たちにあれこれと指示をして。その指示通り動くため、4人はジッと待機していた。
約束の時間は昼休み。緊張して、食事が喉を通らない。どくん、どくんと鳴る胸を抱えて、未来はジッと、必要な物が入ったバッグを腕に抱えて。
そして――
≪生徒のお呼び出しをします。青山美和さん、鳥谷(とりたに)美久(みく)さん、栗山(くりやま)千秋(ちあき)さん、松岡(まつおか)恵子(けいこ)さん。至急校長室まで来なさい≫
美和と、取り巻きたちの名前が呼ばれた。未来たちはそれを合図に立ち上がり。
アイツのいるB組へ、歩き出した。
携帯をいじり、歩いて、歩いて。B組の中に、4人はぞろぞろと、強く顔を強張らせて入った。
それに周りが混乱しだす。嘲笑が聞こえる、無視を決め込む奴がいる。未来はその空気を、ドンドンと感じていた。
そして、竜輝のいる席へ行った時。竜輝は、不思議そうな顔で自分たちを見てきた。
「なに?」
その声を聞いて。怜斗が竜輝を、喰い殺さんばかりに睨みつけた。
「てめぇのやったことを、暴きに来たんだよ」
怜斗の放った一言。それは瞬く間に周囲に伝染し、1つの大きな空気を作った。
聞こえてくる、クスクスとした笑い。とうとうおかしくなったか、そんな声が、投げかけられるような嘲笑が耳に響いた。
「何を言ってるの? 俺がやったこと? 残念だけど、俺は何もやってないよ?」
「これ見てもそんなこと言えんのか?」
怜斗がそう言って取り出したのは、自身の携帯電話(スマートフォン)。そこには、TIESの会話記録が映っていた。
未来と竜輝が会話した、短いやり取りの記録が。
「これは、お前が未来と話した決定的な証拠だ。未来はお前に対し、『明日のデート楽しみにしています』と連絡している。クラスも部活も違うお前が、未来のアカウントを『グループから』ゲットするのは困難。となると、一度接触していなきゃならねー。その時に、デートの約束をした。……違うか?」
怜斗が言うと。竜輝の表情が、大きく変わった。笑っている、だが目が、笑っていない。
「……ああ、それ? それはな、『白雪さんがあまりにしつこくアタックしてきたから、仕方なく連絡先を渡した』んだよ」
「だとしたら、デート、までが納得いかねーな。軽くあしらえば……」
「俺だって嫌だったよ。でも、傷つけたくないじゃん? だから、デートの時、改めて断ろうとしたんだ。好きでもない女と付き合うなんて、そんなのありえねーし」
と、「待ってください!」と真面目な声が、クラスに響いた。
声を上げたのは、新聞部の雄だった。
「彼の言っていること、説得力があります」
そして彼は、カバンの中からカメラを取り出して。そして、堂々とそれを見せつけた。
画面に映っているのは、校舎裏で竜輝が未来に頭を下げている写真だった。
「この後に『白雪さんが頭を下げた画像』があります。日付も秒数も『この画像の後』になっています。つまり、竜輝くん。アタックを仕掛けてきたのは、あなただった。……違いますか?」
その一言が通った直後。クラスがざわざわと、騒ぎ出した。明らかな証拠、それがさっきまでの嘲笑を打ち消していた。
途端、バンと大きな音が鳴り響き、竜輝は机に手をつき立ち上がった。
「なんだよ、お前ら。俺を、ハメようってのか?」
たらり。彼の頬には、汗が一滴流れていた。
「上等だよ。てめぇらの戯言に付き合ってやる」
そして怒りを露わにして、怜斗を睨みつけるように対峙した。
「その写真の説明だがな。俺が頭を下げた時は『ごめんなさい』って言ったんだ。そしてその後、また食い下がった。その瞬間だけの写真だ、都合よく撮ってくれちゃってるじゃんよぉ、新聞部!」
竜輝がギロリと雄を睨む。雄はビクリと身を震わせるが、直後に怜斗が声を出す。
「てめぇが未来をたぶらかした証拠は他にもあるんだよ」
「あぁ? なんだよ、言ってみろよ、ホラ、なぁ!」
「これだよ!」
怜斗が叩きつけたのは、一枚の手紙。それは未来が竜輝から渡された、事の発端となる手紙。未来は、それを見た途端。
「は、なんだよこれ! こんな紙切れに一体何が……」
「こいつは未来がお前から渡された手紙だ! 書いてあるんだよ、『好きです、改めて放課後告白します』ってな!」
「そんなのてめぇらでいくらでも作りようがあるモノなんだよ! そんなのを証拠? 笑えるな、バカもここまでくるとただの芸だ!」
これだ。これが、不安になった。信じてもらえなかった手紙、証拠になり得なかった手紙。
周りが納得したように流れたその瞬間。怜斗がポケットからクシャクシャの手紙をもう一枚出して、それを、竜輝の机に叩きつけた。
「これは俺の机に入っていた、お前からの手紙だ」
「は? 何言ってんだよお前? 俺がお前に手紙を送る? そんなことあるわけ……」
「ないな。だから、俺への手紙じゃない」
そして怜斗は、その手紙の文面を広げ、周りに見せつけた。
「これは、俺の机に入っていた、『伊泉詩恵』への手紙だ。ほら見やがれ、お前の字が、名前が……しっかり刻み込まれているぞ!」
怜斗の声に空気が震える、ざわめく周囲。焦りを覚えたように竜輝は声を、震わせた。
「ば、バカじゃねーのか! なんでお前が伊泉への手紙持ってんだよ! 第一どうやって俺が、伊泉に手紙を出すって……」
「それについては、俺が説明する」
声を出したのは誠治。すると誠治は、ポケットからスマホを取り出しながらクラスの人間に、叫んだ。
「このクラスに、サッカー部の奴はいるよな?」
それに釣られ周りのサッカー部員たちが一心に誠治を見始める。
「3つ前の月曜日、この日『竜輝が誰もいないA組へと入る様子を見た』という奴がいた。しかも『目撃者に気付いて慌てて飛び出してきた』とも。証言者は共に同じサッカー部の奴だった!」
「なんだよ、それがどうしたんだよ! そんなこと確かにあったけど、それが……」
と、直後。怜斗が誠治の言葉を引き継いだ。
「俺が手紙を手に入れたのは、『その日の後』なんだよ。つまり、『火曜日』。不思議だよな、お前が誰もいない俺のクラスへ入った次の日に見つかるなんてよぉ」
「だから、仮に俺が手紙を入れたとしても! なんでお前の席にそれがあるんだよ! 説明してみろよオラ!」
「わかった、コイツを見ろ!」
怜斗が叩きつけたのは、A組の座席表。竜輝はそれを見た瞬間、「ああ!」と声を上げてしまった。
「そう、この座席表は『見辛い』んだ。注意して見ないと、『席が真反対に見えて、対角線側の所が入れ替わってしまう』。誰もいない教室へ入った所を見られたお前は慌ててしまい、『しっかり座席表を見られなかった』。だから対角線上にある俺の席と伊泉の席を間違え、手紙を俺に渡してしまった。これがお前のミスの、トリックだ!」
ドスン、その言葉は竜輝に刺さり彼を仰け反らせた。汗が顔ににじんでいる、竜輝はふふふと笑いそして顔を強く上げた。
「すごいな、ここまで言葉が出てくると圧巻だ! だがそれがどうした、『そんなもの全部お前らの手の込んだ自作自演』だろ! 俺が白雪に手紙を渡した? お前に手紙を間違えて送った? バカが、『その証明はこれの答えにはなってない』んだよ! なぁ、出してみろよ! その手紙が自作自演じゃなく、俺が出したんだっていう決定的な証拠をよぉ!」
直後。響いてきたのは、ひどく弱々しい、小さな、声。
「竜輝、くん……」
それに全員が、そこを向いた。そして全員が、確かに見た。
伊泉詩恵。震える彼女は、泣きそうな彼女は、精一杯の勇気を目に込めて、一枚の手紙を両手で握りしめていた。
「全部聞いたよ。あなたがしたことも、わたしをどう見ていたかも」
「お、おい、なんだよ変な雰囲気出して。それ、その紙、なんなんだよ一体? 冗談キツイって伊泉さん」
「この前まで『詩恵』って呼んでくれてたのに、今はそう呼ぶんだね」
「なに変なこと言ってんだよ! どうでもいいからよ、こんなお遊びやめろよ! ホラ、それをこっちに寄越せよ! そしたらそれで……」
「静かにして。あなたの声は、聞きたくない!」
詩恵は直後、机に強く手紙を叩きつけた。そこに書かれていたのは、怜斗が出した手紙と完全に一致した言葉の羅列。
騒ぐ、歪む、波が広がる。クラスの雰囲気が明らかに変わっていく。竜輝を味方する空気は、淀み、変わり、彼への疑念に。
詩恵の手紙。未来の手紙。そして、怜斗の手紙。彼が繋げたいくつもの結び。未来は大きな流れを感じていた。
誰にも信じてもらえなかった自分の手紙(しょうこ)。それが今、怜斗たちが紡いだいくつもの行動で、何よりも決定的な証拠になっている。
未来は勝利を、確信した。
「どうだ、竜輝! この3つ、文面は全て『ほぼ』同じだ!」
怜斗が叫ぶ。竜輝が顔を歪ませ苦しく。
「な、なにを言ってんだ! てめぇら全員でグルになって俺をハメようとしてるだろ! そんなのはてめぇらが勝手に用意した偽物だ、俺は認めな……」
「3つの文字をよく見てみろ! 全て同じ筆跡だ! 鑑定なんてものじゃねーが、それだけで十分証拠になる!」
「そんなのはお前らの内誰か1人が全部に書けば……」
「なら、ハッキリさせてやる。
お前のバッグに入ったノートを見せろ。お前が普段から書いている文字を見れば、必然的に答えは出てくる!」
途端、竜輝は「ぐぐぐ……!」と押し黙る。そして、息を荒げた彼に、怜斗は。
「さぁ、さっさと見せやがれ! てめぇの潔白を証明する、決定的な証拠をよ!」
直後、竜輝は歯を食いしばり、目を血走らせ、
「ああああああああああああ!!!!」
叫びながら、腕を広げ襲いかかってきた。
狙いは、未来――!
「未来!」
瞬間、彼女の前に怜斗が飛び出した。そして、突っ込んでくる竜輝に、
全力で、前蹴りを浴びせた。
「ガハァ!」
竜輝は腹を蹴られて後ろへ吹き飛ぶ。尻もちをつきながら後ろへ滑り、そして壁に勢いよく背中をぶつけた。
「……1つ、言っておくぞ。竜輝」
暗く重たい声。怜斗は目の前で咳き込む竜輝を見下し、そして、
「てめぇがもし、俺や俺の友達を傷付けようとするのなら。俺はお前を、許さない。俺は全力で、お前をぶっとばす!
いいか! クズは必ずぶっ潰す! わかったかこのクソ野郎が!」
竜輝の胸を掴み上げ、顔の横に足を突き刺す。壁が強く音を立て、竜輝は首をブンブンと縦に振った。
「……最後に言うことを聞いてもらう」
直後、怜斗は。自分のポケットから、携帯を取り出した。
「てめぇが未来の写真をばらまいたことは、俺たちにとって承知の事実。それをバラされたくなけりゃ……未来の写真を送りつけてきた人間とのTIESでの会話、そしてウッちゃんとの会話。それを、今すぐ俺に送信しろ」
「ちょ、それは……」
「早く!」
怜斗が怒鳴ると、竜輝は慌てながら携帯を取り出し、画面を操作した。そして何枚か、スクリーンショットを撮ると、そのままそれを怜斗に送信した。
怜斗の携帯が、ブルブル震える。画面をしっかり確認した怜斗は、そのまま指を動かして。
「……啓吾に送信、と」
そう言って、画像を啓吾に送った。竜輝がそれを聞いて、目を見開く。
「ちょ、ちょっと待てよ! 送信、したのか? 誰に?」
「一言で言うと『探偵』だ。いずれ警察にあの画像は流れていく」
「待てよ! ば、バラさないんじゃなかったのか!? 俺は見逃してくれるって……」
「んなわけねーだろ。やったことがでかすぎる、誰が見逃すかクズが」
怜斗の言葉を聞いて、竜輝は声も出さずにうなだれた。
怜斗は、一通りの仕事を終えて。ふぅ、とため息を吐くと、未来の前に行き。
「未来、電話はまだ繋がってるか?」
「うん。今すぐでも、啓吾さんと話せるよ」
それを聞いて、怜斗は「おう、そんじゃあ代わってくれ」と未来に頼み。その時、竜輝が怜斗を不思議そうに見つめてきた。と、怜斗はそれの顔を見下して。
「あらかじめ携帯を通話モードにして、『探偵』に繋げていた。てめぇと俺らのこの会話は、校長室まで全て筒抜けだ」
そう吐き棄て、怜斗は耳に未来の携帯を押し当てた。
「……啓吾か? ああ、送ったぞ、証拠の写真。それじゃ、あとは流れ作業だな。そっちはそっちでうまくやってくれ」
そして通話を切って、彼は未来に携帯を返した。
◇――同日――◇
「……ナイスだよ、怜斗くん」
啓吾は校長室で、涼子とともに立っていた。後ろにいるのは学長、そして前に相対するのは。
青山美和、およびその取り巻き3人のいじめっ子グループ。啓吾は携帯の画面を操作すると、意地悪くニヤリと笑った。
「さぁて、どうします? 青山美和さん」
その時、その世界の空気はどこまでも重く淀んだ。
昼休みの時間。白雪未来は、怜斗や加奈、誠治と共に中庭にいた。
昨日――日曜日。未来たちは推理をまとめ、啓吾に連絡した。すると啓吾は、自分たちにあれこれと指示をして。その指示通り動くため、4人はジッと待機していた。
約束の時間は昼休み。緊張して、食事が喉を通らない。どくん、どくんと鳴る胸を抱えて、未来はジッと、必要な物が入ったバッグを腕に抱えて。
そして――
≪生徒のお呼び出しをします。青山美和さん、鳥谷(とりたに)美久(みく)さん、栗山(くりやま)千秋(ちあき)さん、松岡(まつおか)恵子(けいこ)さん。至急校長室まで来なさい≫
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それに周りが混乱しだす。嘲笑が聞こえる、無視を決め込む奴がいる。未来はその空気を、ドンドンと感じていた。
そして、竜輝のいる席へ行った時。竜輝は、不思議そうな顔で自分たちを見てきた。
「なに?」
その声を聞いて。怜斗が竜輝を、喰い殺さんばかりに睨みつけた。
「てめぇのやったことを、暴きに来たんだよ」
怜斗の放った一言。それは瞬く間に周囲に伝染し、1つの大きな空気を作った。
聞こえてくる、クスクスとした笑い。とうとうおかしくなったか、そんな声が、投げかけられるような嘲笑が耳に響いた。
「何を言ってるの? 俺がやったこと? 残念だけど、俺は何もやってないよ?」
「これ見てもそんなこと言えんのか?」
怜斗がそう言って取り出したのは、自身の携帯電話(スマートフォン)。そこには、TIESの会話記録が映っていた。
未来と竜輝が会話した、短いやり取りの記録が。
「これは、お前が未来と話した決定的な証拠だ。未来はお前に対し、『明日のデート楽しみにしています』と連絡している。クラスも部活も違うお前が、未来のアカウントを『グループから』ゲットするのは困難。となると、一度接触していなきゃならねー。その時に、デートの約束をした。……違うか?」
怜斗が言うと。竜輝の表情が、大きく変わった。笑っている、だが目が、笑っていない。
「……ああ、それ? それはな、『白雪さんがあまりにしつこくアタックしてきたから、仕方なく連絡先を渡した』んだよ」
「だとしたら、デート、までが納得いかねーな。軽くあしらえば……」
「俺だって嫌だったよ。でも、傷つけたくないじゃん? だから、デートの時、改めて断ろうとしたんだ。好きでもない女と付き合うなんて、そんなのありえねーし」
と、「待ってください!」と真面目な声が、クラスに響いた。
声を上げたのは、新聞部の雄だった。
「彼の言っていること、説得力があります」
そして彼は、カバンの中からカメラを取り出して。そして、堂々とそれを見せつけた。
画面に映っているのは、校舎裏で竜輝が未来に頭を下げている写真だった。
「この後に『白雪さんが頭を下げた画像』があります。日付も秒数も『この画像の後』になっています。つまり、竜輝くん。アタックを仕掛けてきたのは、あなただった。……違いますか?」
その一言が通った直後。クラスがざわざわと、騒ぎ出した。明らかな証拠、それがさっきまでの嘲笑を打ち消していた。
途端、バンと大きな音が鳴り響き、竜輝は机に手をつき立ち上がった。
「なんだよ、お前ら。俺を、ハメようってのか?」
たらり。彼の頬には、汗が一滴流れていた。
「上等だよ。てめぇらの戯言に付き合ってやる」
そして怒りを露わにして、怜斗を睨みつけるように対峙した。
「その写真の説明だがな。俺が頭を下げた時は『ごめんなさい』って言ったんだ。そしてその後、また食い下がった。その瞬間だけの写真だ、都合よく撮ってくれちゃってるじゃんよぉ、新聞部!」
竜輝がギロリと雄を睨む。雄はビクリと身を震わせるが、直後に怜斗が声を出す。
「てめぇが未来をたぶらかした証拠は他にもあるんだよ」
「あぁ? なんだよ、言ってみろよ、ホラ、なぁ!」
「これだよ!」
怜斗が叩きつけたのは、一枚の手紙。それは未来が竜輝から渡された、事の発端となる手紙。未来は、それを見た途端。
「は、なんだよこれ! こんな紙切れに一体何が……」
「こいつは未来がお前から渡された手紙だ! 書いてあるんだよ、『好きです、改めて放課後告白します』ってな!」
「そんなのてめぇらでいくらでも作りようがあるモノなんだよ! そんなのを証拠? 笑えるな、バカもここまでくるとただの芸だ!」
これだ。これが、不安になった。信じてもらえなかった手紙、証拠になり得なかった手紙。
周りが納得したように流れたその瞬間。怜斗がポケットからクシャクシャの手紙をもう一枚出して、それを、竜輝の机に叩きつけた。
「これは俺の机に入っていた、お前からの手紙だ」
「は? 何言ってんだよお前? 俺がお前に手紙を送る? そんなことあるわけ……」
「ないな。だから、俺への手紙じゃない」
そして怜斗は、その手紙の文面を広げ、周りに見せつけた。
「これは、俺の机に入っていた、『伊泉詩恵』への手紙だ。ほら見やがれ、お前の字が、名前が……しっかり刻み込まれているぞ!」
怜斗の声に空気が震える、ざわめく周囲。焦りを覚えたように竜輝は声を、震わせた。
「ば、バカじゃねーのか! なんでお前が伊泉への手紙持ってんだよ! 第一どうやって俺が、伊泉に手紙を出すって……」
「それについては、俺が説明する」
声を出したのは誠治。すると誠治は、ポケットからスマホを取り出しながらクラスの人間に、叫んだ。
「このクラスに、サッカー部の奴はいるよな?」
それに釣られ周りのサッカー部員たちが一心に誠治を見始める。
「3つ前の月曜日、この日『竜輝が誰もいないA組へと入る様子を見た』という奴がいた。しかも『目撃者に気付いて慌てて飛び出してきた』とも。証言者は共に同じサッカー部の奴だった!」
「なんだよ、それがどうしたんだよ! そんなこと確かにあったけど、それが……」
と、直後。怜斗が誠治の言葉を引き継いだ。
「俺が手紙を手に入れたのは、『その日の後』なんだよ。つまり、『火曜日』。不思議だよな、お前が誰もいない俺のクラスへ入った次の日に見つかるなんてよぉ」
「だから、仮に俺が手紙を入れたとしても! なんでお前の席にそれがあるんだよ! 説明してみろよオラ!」
「わかった、コイツを見ろ!」
怜斗が叩きつけたのは、A組の座席表。竜輝はそれを見た瞬間、「ああ!」と声を上げてしまった。
「そう、この座席表は『見辛い』んだ。注意して見ないと、『席が真反対に見えて、対角線側の所が入れ替わってしまう』。誰もいない教室へ入った所を見られたお前は慌ててしまい、『しっかり座席表を見られなかった』。だから対角線上にある俺の席と伊泉の席を間違え、手紙を俺に渡してしまった。これがお前のミスの、トリックだ!」
ドスン、その言葉は竜輝に刺さり彼を仰け反らせた。汗が顔ににじんでいる、竜輝はふふふと笑いそして顔を強く上げた。
「すごいな、ここまで言葉が出てくると圧巻だ! だがそれがどうした、『そんなもの全部お前らの手の込んだ自作自演』だろ! 俺が白雪に手紙を渡した? お前に手紙を間違えて送った? バカが、『その証明はこれの答えにはなってない』んだよ! なぁ、出してみろよ! その手紙が自作自演じゃなく、俺が出したんだっていう決定的な証拠をよぉ!」
直後。響いてきたのは、ひどく弱々しい、小さな、声。
「竜輝、くん……」
それに全員が、そこを向いた。そして全員が、確かに見た。
伊泉詩恵。震える彼女は、泣きそうな彼女は、精一杯の勇気を目に込めて、一枚の手紙を両手で握りしめていた。
「全部聞いたよ。あなたがしたことも、わたしをどう見ていたかも」
「お、おい、なんだよ変な雰囲気出して。それ、その紙、なんなんだよ一体? 冗談キツイって伊泉さん」
「この前まで『詩恵』って呼んでくれてたのに、今はそう呼ぶんだね」
「なに変なこと言ってんだよ! どうでもいいからよ、こんなお遊びやめろよ! ホラ、それをこっちに寄越せよ! そしたらそれで……」
「静かにして。あなたの声は、聞きたくない!」
詩恵は直後、机に強く手紙を叩きつけた。そこに書かれていたのは、怜斗が出した手紙と完全に一致した言葉の羅列。
騒ぐ、歪む、波が広がる。クラスの雰囲気が明らかに変わっていく。竜輝を味方する空気は、淀み、変わり、彼への疑念に。
詩恵の手紙。未来の手紙。そして、怜斗の手紙。彼が繋げたいくつもの結び。未来は大きな流れを感じていた。
誰にも信じてもらえなかった自分の手紙(しょうこ)。それが今、怜斗たちが紡いだいくつもの行動で、何よりも決定的な証拠になっている。
未来は勝利を、確信した。
「どうだ、竜輝! この3つ、文面は全て『ほぼ』同じだ!」
怜斗が叫ぶ。竜輝が顔を歪ませ苦しく。
「な、なにを言ってんだ! てめぇら全員でグルになって俺をハメようとしてるだろ! そんなのはてめぇらが勝手に用意した偽物だ、俺は認めな……」
「3つの文字をよく見てみろ! 全て同じ筆跡だ! 鑑定なんてものじゃねーが、それだけで十分証拠になる!」
「そんなのはお前らの内誰か1人が全部に書けば……」
「なら、ハッキリさせてやる。
お前のバッグに入ったノートを見せろ。お前が普段から書いている文字を見れば、必然的に答えは出てくる!」
途端、竜輝は「ぐぐぐ……!」と押し黙る。そして、息を荒げた彼に、怜斗は。
「さぁ、さっさと見せやがれ! てめぇの潔白を証明する、決定的な証拠をよ!」
直後、竜輝は歯を食いしばり、目を血走らせ、
「ああああああああああああ!!!!」
叫びながら、腕を広げ襲いかかってきた。
狙いは、未来――!
「未来!」
瞬間、彼女の前に怜斗が飛び出した。そして、突っ込んでくる竜輝に、
全力で、前蹴りを浴びせた。
「ガハァ!」
竜輝は腹を蹴られて後ろへ吹き飛ぶ。尻もちをつきながら後ろへ滑り、そして壁に勢いよく背中をぶつけた。
「……1つ、言っておくぞ。竜輝」
暗く重たい声。怜斗は目の前で咳き込む竜輝を見下し、そして、
「てめぇがもし、俺や俺の友達を傷付けようとするのなら。俺はお前を、許さない。俺は全力で、お前をぶっとばす!
いいか! クズは必ずぶっ潰す! わかったかこのクソ野郎が!」
竜輝の胸を掴み上げ、顔の横に足を突き刺す。壁が強く音を立て、竜輝は首をブンブンと縦に振った。
「……最後に言うことを聞いてもらう」
直後、怜斗は。自分のポケットから、携帯を取り出した。
「てめぇが未来の写真をばらまいたことは、俺たちにとって承知の事実。それをバラされたくなけりゃ……未来の写真を送りつけてきた人間とのTIESでの会話、そしてウッちゃんとの会話。それを、今すぐ俺に送信しろ」
「ちょ、それは……」
「早く!」
怜斗が怒鳴ると、竜輝は慌てながら携帯を取り出し、画面を操作した。そして何枚か、スクリーンショットを撮ると、そのままそれを怜斗に送信した。
怜斗の携帯が、ブルブル震える。画面をしっかり確認した怜斗は、そのまま指を動かして。
「……啓吾に送信、と」
そう言って、画像を啓吾に送った。竜輝がそれを聞いて、目を見開く。
「ちょ、ちょっと待てよ! 送信、したのか? 誰に?」
「一言で言うと『探偵』だ。いずれ警察にあの画像は流れていく」
「待てよ! ば、バラさないんじゃなかったのか!? 俺は見逃してくれるって……」
「んなわけねーだろ。やったことがでかすぎる、誰が見逃すかクズが」
怜斗の言葉を聞いて、竜輝は声も出さずにうなだれた。
怜斗は、一通りの仕事を終えて。ふぅ、とため息を吐くと、未来の前に行き。
「未来、電話はまだ繋がってるか?」
「うん。今すぐでも、啓吾さんと話せるよ」
それを聞いて、怜斗は「おう、そんじゃあ代わってくれ」と未来に頼み。その時、竜輝が怜斗を不思議そうに見つめてきた。と、怜斗はそれの顔を見下して。
「あらかじめ携帯を通話モードにして、『探偵』に繋げていた。てめぇと俺らのこの会話は、校長室まで全て筒抜けだ」
そう吐き棄て、怜斗は耳に未来の携帯を押し当てた。
「……啓吾か? ああ、送ったぞ、証拠の写真。それじゃ、あとは流れ作業だな。そっちはそっちでうまくやってくれ」
そして通話を切って、彼は未来に携帯を返した。
◇――同日――◇
「……ナイスだよ、怜斗くん」
啓吾は校長室で、涼子とともに立っていた。後ろにいるのは学長、そして前に相対するのは。
青山美和、およびその取り巻き3人のいじめっ子グループ。啓吾は携帯の画面を操作すると、意地悪くニヤリと笑った。
「さぁて、どうします? 青山美和さん」
その時、その世界の空気はどこまでも重く淀んだ。
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