Revenge 仕返し屋―復讐の代理人―

オニオン太郎

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第19話

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◇――第4月曜日 PM12時35分――◇

 始まりは単なる呼び出しからだった。美和は今の状況を悔やみ、そして憎んでいた。
 なんてことはない、ただ呼び出されただけ。校長室までなんて珍しいこと、とも思ったけれども、大したことにはならない。自分たち4人全員が、そう思っていたのに。
 なのに今、この状況は。自分の人生を左右しかねないとんでもない事態になっていた。

 美和と取り巻き3人は唇を噛みながら、目の前で相対し声を紡ぐ男を睨み続けていた。
 話の内容は、自分たちが未来にした行為について。目の前の、背高のっぽで痩せた男は。なんとも楽しそうに笑いながら、未来の保護者代理を名乗り次々と美和たちに言葉のナイフを突き刺していた。

「さてさて、青山さん。僕はあなたが白雪さんにした数々の行動を証明できます」
「は、ハッ! さっきから白雪さんにいじめただのなんだの言って! じゃあしてみろよ、私がそーいうのしたっていう証明を!」
「はい、まずコレです」

 男は臆せず携帯の画面を見せつける。そこに写っていたのは未来の机に書かれた悪口の数々だった。

「白雪さんは毎朝早く登校しこの落書きを消していました。見てくださいよこの言葉の数々、人をバカにしてるとしか思えませんね」

 男は隣に立つボブカットの女や、机に座る校長にアピールするようにそれを高々掲げる。放課後に未来が帰った後、毎日のようにチョークで書いた侮蔑の数々。美和はそれが自分の喉を占めている感覚に苦しんでいた。

「そ、それがなんなのよ! そんなんじゃ私がやったって証明には……」
「なりませんねぇ、実際はあなたではなく誰か他の人がやっていたのかもしれない。これだけでは、ね」
「は、はぁ?」

 直後、男は隣の女性に「涼子さん、アレを」と呟いた。女性は傍に置いていた黒いバッグから緑のノートを一冊、取り出して。美和はその瞬間、身がぞくりと落ちるのを感じた。

「さぁて、青山さん。これがなんだかわかりますか?」
「し、知らねーよそんなの。私がなんでそんなのを……」
「これは、白雪さんのノートです。これには誰かが書いた白雪さんへの悪口が多く載っています」

 胃が痛む、顔が自然と硬直する。美和は「へ、へぇ?」と平然を装いながら、ひたすらに浮かぶ疑念を「嘘だ」と沈み込ませていた。
 そう、あれは確かに捨てたはず。そんなものがこの場にあるわけがない。美和の確信は、ずっと心にモヤモヤと残り続け、確かな不快感が胸を包む。

「それがいったいどうしたのよ? 悪口ノートと私になんの関係が……」

 直後、男は携帯で動画を再生させた。部屋中に響いた声は、

『そういえばさー。これ、どうしたらいいと思う?』

 美和たちがノートを捨てた時に交わした、あの会話だった。

『うわー、それ持って何する気だったんだろうねあいつ』『捨てちゃえばいいじゃん、ここで』『それもそうね』

 動画は彼女らの後ろから撮られている。見た目が一致、声も一致、捨てたノートも一致。全てに言い逃れができない状況が成立してしまっていた。

「な、んだよこれ……私たちを、盗撮したってか? しかも、下校の時間に合わせて!」
「はい。この学校には僕の知り合いがいましてね。その人から、あなたたちが帰る時間を聞き出し、そして尾行したというわけです」
「は、はぁ!? なにキメーことしてんだよ! つーか、誰だよその知り合いってのは……」
「今、彼らと電話が繋がっております」

 と、男はポケットからもう1つの携帯を取り出して、それを美和に見せつけた。

「ちょうどいい、他の話も全て、彼らに説明してもらいましょう」

 そして、男は携帯の通話をスピーカーにした。声が大きく、響いてくる。

≪てめぇが未来をたぶらかした証拠は他にもあるんだよ≫
≪あぁ? なんだよ、言ってみろよ、ホラ、なぁ!≫

 竜輝と誰か男子の声だった。美和はそれにビクリと身を震わせ、それでも続きを聞いていく。話の内容はどうやら、竜輝がなにをしたかということだった。
 しばらく声が流れて流れて、美和は徐々に怒りが募っていたのを感じていた。そして、

≪ああああああああああああ!!!!≫

 竜輝の叫びが聞こえた瞬間。美和は爪を、噛み切った。

「あいつ、あいつマジで浮気付いてたのか……! 私は、私は信じてたのに……!」
「今そんな話は重要じゃありません」

 と、男はニヤリと笑って。そしてスピーカーをオフにして、耳に携帯を押し当てると。

「はい。ありがとうございます。これでもう言い逃れはできない。……はい、大丈夫です。任せてください」

 そしてほのかに微笑むと、

「……ナイスだよ、怜斗くん」

 呟いて、ニヤリと笑った。そして携帯の画面を、周りに見せつけるように掲げると。

「さぁて、どうします? 青山美和さん」

 男の声は質量を持っていた。美和は胃がドスンと落ち込むような感覚を覚え、そして画面を見つめると。
 そこには、美和が竜輝に、未来の写真を送りつけた記録が残されていた。指示を送った様子もしっかり残されている、美和は目を、呆然と見開いていた。

「さてさて、青山さん。あなたはやってはいけないことをやってしまった。1人の少女の裸をいたずらに撮り、それで恐喝してあまつさえネットにばらまくよう『彼氏』に指示をする。……後で白雪さんのこの裸の画像は、本当にネットにばら撒かれました。あなたが撮り、あなたが人に送りつけた写真です。それにより……彼女がどんな傷を受けたか、わかりますか?」

 美和は体をカタカタ震わし。何か、口を開いた。しかし、

「反論があるのなら。確かな証拠と論理を持ってきてください」

 ピシャリと叩くように、男は口を出した。美和は何かを言おうと思考を巡らしたが、考えても考えても言葉は出なかった。男はその様子を見て、「無いようです」と笑った後。一気に目に力を込めて、吐いた。

「これらの証拠は、後日警察にも届け出ます。もう既に捜査はやっていただいているので、確認が取れ次第あなたたちのやったことは明らかになるでしょう」

 そして、校長の方を振り向きながら。

「御手洗さん。どうしますか?」

 そう問いかけた。初老の校長は4人を残念そうに見つめて。

「……残念な話だが。これだけのことをして、何も処分をしないわけにはいかない。特にこれは事が重大だ。
 4人――いえ、この事件に加担した人たち全員。退学にせざるを得ません」

 美和は足元が崩れ去ったかのように、ガラガラと膝をついて。そのまま茫然自失に床を見つめていた。しばらく、そんな時間が流れて。

「あのう……」

 取り巻きの1人が、声を出した。

「私たち、その、このいじめについて見ていただけっていうか……実質何もしていないっていうか。だから、私たちはその……退学に、なるほどじゃないなって」

 それを聞いて、美和は。

「あんた、何言ってんのよ……」

 震えた体を立ち上がらせて、その女子につかみ掛かった。

「あんたたちだって、笑ってたじゃない! トイレに連れ込んだ時も一緒だった、写真だって共有している、みんなで一緒に笑ってたじゃない! なにをそんな、私だけが悪いみたいに……!」
「だって、事実じゃん! 私たちだって悪いって思ってたよ、本当は止めたかったんだよ! でも、あんたが怖いから誰も逆らわなかったんじゃない! そうだよ、事の発端はあんたよ、私たちはちょっと間違っただけ! むしろ私たちだって、あんたの被害者じゃない!」
「今さらなに見苦しいことを……!」

 4人の喧騒は大きく、大きく。大声で叫び、互いに互いを糾弾し、互いに罪をなすりつけあい。膨れ上がった空気の中、突き刺すような一言が。

「静かにしてくれませんか? ひどく耳障りです」

 長身の、ボサボサ頭の男が。4人を睨み殺そうと目を向けていた。

「何をふざけたこと言ってるんですか、みなさん? あなたたちは結局、自分の勝手で人を蔑んだ、それだけのこと。気持ちなんか関係ない、ここまで来たらそんなことよりやった行為が大きくなる。何が自分は悪くない? 違うでしょ、あんたら結局自分ばかりが大切なんですよ。それをさも正義とでも言わんばかりに同情を買おうと。見苦しくて見苦しくて、吐き気がします。
 いいか? 1つ言っておく。クズは必ず糾弾する! ……以上です。後は好きに、生きてください」

 男は吐き捨てて。そしてそのまま、隣にいた女性を連れて校長室から出て行ってしまった。
 後に残ったのは。何も言えず固まって、将来を見えなくなったモノたちだけだった。
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