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2人の一撃
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ラキアは魔術で飛ばされ、殴られ、蹴られと、エリーナに弄ばれていた。
殴られる度、痛みは徐々に消えていった。だが、同時に視界が眩み、意識が何度か飛びそうになった。その度ラキアは、気合いと意地で体を起こし、そしてエリーナへと向き合った。
エリーナの方も、力を出しすぎて疲れているようだ。息を荒らげ、膝に手を付きながら、肩で大きく呼吸をしていた。
「や、やりますわね……ラキアさん」
エリーナはそう言って、しかし、笑った。
「ですが、やはり、わたくしの勝ち――ということになりそうですわね。あなたはもう、わたくしを打ちのめすための力を持っていない」
ラキアはその言葉に何も言い返せなかった。事実、そうだ。ダメージが大きい、自分がこのまま戦えば、どう考えてもここで負けるのは明白だった。
――切り札を使えば。瞬時、そんな思考がよぎったが、それこそやってはならない。切り札を使うには、まずマナを溜める時間が必要だ。そして溜めている間は移動ができない。つまり、ラキアは相手から格好の的として扱われてしまうのだ。
チャージの時間は長くない。たかだか数秒だ。だが、戦いの場でその時は果てしなく長い。時間を稼ぐ方法もない、先程の芝生の奇襲は奇襲であったからこそ成功したものだ。次にやろうと思ったら、あれ単体では確実に活かせないだろう。
詰みだ。ラキアは悔しそうに表情を歪め、エリーナを睨んだ。
「あらあら……やっぱり、わたくしの言う通り、みたいですわね」
エリーナは汗を拭いながら言う。
観客席から声が聞こえる。よくやったよ、あそこまで戦うとは。そんな賞賛の声もあれば、結局あの子は負けるのかという落胆とも受け取れる声。それ以外にも、エリーナを応援する声が、ラキアを窘める声が、会場には響いていた。
――もう、ダメだ。私にはこれ以上、戦えない。ラキアの気力がプツリと、途絶えてしまった。
地面に膝をつく。力が、入らない。意地も気合いも尽きた、もはや自分を立ち上がらせる因子は無い。
エリーナが笑う。笑え、笑うなら笑うがいい。もはや、立てぬ。ラキアが諦め、地面に倒れ込みそうになった、その瞬間。
「ラキアァ!」
聞き覚えのある声が会場に響いた。
「……てめえ……こんな、ところで、あきらめんじゃねぇ!」
倒れそうになった体を持ち直し、ラキアは、声のする方を向いた。
そこに、いたのは。
自身の父親に介抱されながらも、無様な姿を晒しながらも、強く、強く自分に呼びかける、カツヒトの姿だった。
「お前……頑張って、来たんだろうが! 自分を馬鹿にする奴ら全員見返そうって、この大会で、一勝をもぎ取ろうって……努力してきたんだろうがァ!
ここで負けたら、全てが無駄だ! ここで諦めたら、全てが無駄だ! もったいねーんだよ、そこで諦めたらよォ!
何やってんだよ、ラキア! 悔しいだろ! 苦しいだろ! だったら立てよ! 立って、お前の力を、ここに居る全員の鼻っ面に、叩きつけてやれよォ!」
――本当に、笑わせる声だ。ラキアは意識が朦朧とする中、微笑んだ。
最初はムカついた。腹が立った、ぶん殴ってやろうと思った。だが、それがいつしか、一緒にいたい、大切な人だと思うようになった。
――そうだ、カツヒト。お前は、あの時からいつだって私に――。ラキアは笑うと、ゆっくりと、立ち上がった。
「……あなた……まだ、立つんですの?」
「へ、へへ……カツヒトが応援に来てくれたんだ。だから私は、まだまだ立ち上がる」
「ほ、ほほ……おーっほっほっほ! 何を格好つけて! いいでしょう、かかって来なさい! しかしあなたにはもう、わたくしに抗うだけの力なんてありませんわ!」
「あるよ! だって、カツヒトが応援してくれたんだ! それは私に――力をくれるんだ!」
瞬間、ラキアは「濃霧!」と叫び、水と炎の属性を混ぜた魔術を放つ。ラキアの体から、とてつもない勢いで蒸気が吹き出し、それはステージを取り囲むような濃霧となった。
「あら、あらあらあら……これは、あの人間がお父様に使った技……」
瞬間、エリーナは大きく笑った。
「とち狂ったかしら、ラキアさん! この技の欠点は、既に指摘されていたはずですわよ! それなのになぜ、あなたはこんなものを使うのでしょう? 体力の無駄遣いという奴ですわ!」
直後、エリーナは風を吹き荒れさせ、ステージの霧を吹き飛ばす。エリーナが哄笑し、そして、ラキアを見据えた。
「さあ、ラキアさん! わたくしの最後の一撃を、くらいな……」
エリーナの目に映ったラキアは。
右腕を、黒い光で輝かせ、地面にしゃがみこみ、左手を地につけていた。
「な、なんですの、その構えは?」
「――濃霧の悪い点なんて、わかってたに決まってるじゃん。確かにあの技は欠陥だらけだよ。でもね――」
ラキアの右腕から、強い光が放たれる。
「あの技は、1つだけ強い点があった! 自分の姿を、隠してくれる! それでほんの少しだけ時間を稼げたら、十分だったんだ!
行くぞ、エリーナ!」
エリーナはただならぬ気配を察知したのか、「くっ……」とその場から離れようとした。しかしその直後、エリーナはなぜか足が動かなかった。
芝生が、足に巻きついている。そう、ラキアが左手を地につけていたのは、濃霧の中芝生を操り、エリーナの動きを止まるため。
エリーナは完全に、ラキアに捕えられてしまった。
「覚悟しろ――これが、あんたがバカにした――」
ラキアはそして、エリーナに向けて突進する。
「低俗な奴らの、全身、全霊だァ!」
ラキアは満身の力を込め、エリーナの腹部を殴りつけた。
黒い爆発、そして轟音。会場中に衝撃が伝わったそれは、エリーナの足に巻きついた芝生を弾き飛ばし、そしてエリーナを殴り飛ばすには十分すぎる威力だった。
エリーナは、そのままステージから飛び出、観客席へと突っ込んでいった。
エリーナは動かない。ラキアは勝利を確信した途端、糸が切れたかのように、そのまま倒れ込んでしまった。
殴られる度、痛みは徐々に消えていった。だが、同時に視界が眩み、意識が何度か飛びそうになった。その度ラキアは、気合いと意地で体を起こし、そしてエリーナへと向き合った。
エリーナの方も、力を出しすぎて疲れているようだ。息を荒らげ、膝に手を付きながら、肩で大きく呼吸をしていた。
「や、やりますわね……ラキアさん」
エリーナはそう言って、しかし、笑った。
「ですが、やはり、わたくしの勝ち――ということになりそうですわね。あなたはもう、わたくしを打ちのめすための力を持っていない」
ラキアはその言葉に何も言い返せなかった。事実、そうだ。ダメージが大きい、自分がこのまま戦えば、どう考えてもここで負けるのは明白だった。
――切り札を使えば。瞬時、そんな思考がよぎったが、それこそやってはならない。切り札を使うには、まずマナを溜める時間が必要だ。そして溜めている間は移動ができない。つまり、ラキアは相手から格好の的として扱われてしまうのだ。
チャージの時間は長くない。たかだか数秒だ。だが、戦いの場でその時は果てしなく長い。時間を稼ぐ方法もない、先程の芝生の奇襲は奇襲であったからこそ成功したものだ。次にやろうと思ったら、あれ単体では確実に活かせないだろう。
詰みだ。ラキアは悔しそうに表情を歪め、エリーナを睨んだ。
「あらあら……やっぱり、わたくしの言う通り、みたいですわね」
エリーナは汗を拭いながら言う。
観客席から声が聞こえる。よくやったよ、あそこまで戦うとは。そんな賞賛の声もあれば、結局あの子は負けるのかという落胆とも受け取れる声。それ以外にも、エリーナを応援する声が、ラキアを窘める声が、会場には響いていた。
――もう、ダメだ。私にはこれ以上、戦えない。ラキアの気力がプツリと、途絶えてしまった。
地面に膝をつく。力が、入らない。意地も気合いも尽きた、もはや自分を立ち上がらせる因子は無い。
エリーナが笑う。笑え、笑うなら笑うがいい。もはや、立てぬ。ラキアが諦め、地面に倒れ込みそうになった、その瞬間。
「ラキアァ!」
聞き覚えのある声が会場に響いた。
「……てめえ……こんな、ところで、あきらめんじゃねぇ!」
倒れそうになった体を持ち直し、ラキアは、声のする方を向いた。
そこに、いたのは。
自身の父親に介抱されながらも、無様な姿を晒しながらも、強く、強く自分に呼びかける、カツヒトの姿だった。
「お前……頑張って、来たんだろうが! 自分を馬鹿にする奴ら全員見返そうって、この大会で、一勝をもぎ取ろうって……努力してきたんだろうがァ!
ここで負けたら、全てが無駄だ! ここで諦めたら、全てが無駄だ! もったいねーんだよ、そこで諦めたらよォ!
何やってんだよ、ラキア! 悔しいだろ! 苦しいだろ! だったら立てよ! 立って、お前の力を、ここに居る全員の鼻っ面に、叩きつけてやれよォ!」
――本当に、笑わせる声だ。ラキアは意識が朦朧とする中、微笑んだ。
最初はムカついた。腹が立った、ぶん殴ってやろうと思った。だが、それがいつしか、一緒にいたい、大切な人だと思うようになった。
――そうだ、カツヒト。お前は、あの時からいつだって私に――。ラキアは笑うと、ゆっくりと、立ち上がった。
「……あなた……まだ、立つんですの?」
「へ、へへ……カツヒトが応援に来てくれたんだ。だから私は、まだまだ立ち上がる」
「ほ、ほほ……おーっほっほっほ! 何を格好つけて! いいでしょう、かかって来なさい! しかしあなたにはもう、わたくしに抗うだけの力なんてありませんわ!」
「あるよ! だって、カツヒトが応援してくれたんだ! それは私に――力をくれるんだ!」
瞬間、ラキアは「濃霧!」と叫び、水と炎の属性を混ぜた魔術を放つ。ラキアの体から、とてつもない勢いで蒸気が吹き出し、それはステージを取り囲むような濃霧となった。
「あら、あらあらあら……これは、あの人間がお父様に使った技……」
瞬間、エリーナは大きく笑った。
「とち狂ったかしら、ラキアさん! この技の欠点は、既に指摘されていたはずですわよ! それなのになぜ、あなたはこんなものを使うのでしょう? 体力の無駄遣いという奴ですわ!」
直後、エリーナは風を吹き荒れさせ、ステージの霧を吹き飛ばす。エリーナが哄笑し、そして、ラキアを見据えた。
「さあ、ラキアさん! わたくしの最後の一撃を、くらいな……」
エリーナの目に映ったラキアは。
右腕を、黒い光で輝かせ、地面にしゃがみこみ、左手を地につけていた。
「な、なんですの、その構えは?」
「――濃霧の悪い点なんて、わかってたに決まってるじゃん。確かにあの技は欠陥だらけだよ。でもね――」
ラキアの右腕から、強い光が放たれる。
「あの技は、1つだけ強い点があった! 自分の姿を、隠してくれる! それでほんの少しだけ時間を稼げたら、十分だったんだ!
行くぞ、エリーナ!」
エリーナはただならぬ気配を察知したのか、「くっ……」とその場から離れようとした。しかしその直後、エリーナはなぜか足が動かなかった。
芝生が、足に巻きついている。そう、ラキアが左手を地につけていたのは、濃霧の中芝生を操り、エリーナの動きを止まるため。
エリーナは完全に、ラキアに捕えられてしまった。
「覚悟しろ――これが、あんたがバカにした――」
ラキアはそして、エリーナに向けて突進する。
「低俗な奴らの、全身、全霊だァ!」
ラキアは満身の力を込め、エリーナの腹部を殴りつけた。
黒い爆発、そして轟音。会場中に衝撃が伝わったそれは、エリーナの足に巻きついた芝生を弾き飛ばし、そしてエリーナを殴り飛ばすには十分すぎる威力だった。
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