魔王の娘がこちらを見ている〜人間に手違いで召喚された俺は、魔王たちと仲良くやります〜

オニオン太郎

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勝負の行方

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 ラキアの試合から1時間が経った頃。俺は魔王と共に、保健室のベッドの傍らに座り、眠るラキアを心配して見ていた。

 保健室は、板張りの床に、レンガの壁というこの世界ならではの物だった。よくわからない薬品や、瓶に詰められた異世界植物などが棚には並んでいて、他にも、診察用の机と椅子が部屋には用意されている。

「ん……」

 しばらくラキアの様子を見ていると、ラキアはゆっくりと目を開けた。魔王と俺は、「ラキア!」と同時に叫び、思わず立ち上がってラキアの顔を覗き込んだ。

「あれ? お父さん、カツヒト? どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか、お前試合後に倒れたんだぞ! それで、保健室に運ばれて――」

 俺から説明を聞いた瞬間、ラキアはハッと上体を起こし、俺たちの顔を見つめて尋ねてきた。

「結果は、どうだった!?」

 あまりの迫り方に思わずビクリと来た。俺はラキアに結果を伝えようとしたが、1歩先に、魔王がラキアの質問に答えてしまった。

「試合の結果は、見事な勝利だ。おそらく、今日一番の盛り上がりだったぞ」
「か、勝ったの……? 私?」
「うむ。文句無し、お前の勝ちだ、ラキア」

 その瞬間、ラキアは「ヤッター!」と万歳をして、大いに喜んだ。

「やった、やったよお父さん! 私、エリーナに勝ったんだ! すごいよ、私すごいよ! お父さん、褒めて褒めて!」
「ああ、ラキア。お前は本当によくやった。1回戦勝利、おめでとう。我は心の底から嬉しいぞ」

 そう言って魔王はラキアの頭を撫でた。本当に嬉しそうに、ラキアは顔をほころばせて、顔から花でも出しているかのように見えた。

「カツヒト!」

 ラキアが俺を見てくる。俺は、思わず反射的に「すまん!」と謝ると、ラキアは「そうじゃなくて!」と笑い、俺に頭を突き出してきた。

「ナデナデして!」

 俺は、思わず惚けてしまった。
 俺はこいつに酷いことをした。自分の願望を無理矢理乗せ、利用しようとした。それは間違いなく、許されることではない。

 だが、ラキアは。そんなことを、本当に、気にしていないようだった。

 俺は、ラキアの歯切れの良さに笑ってしまうと、ラキアの頭にぽんと手を乗せ、わしゃわしゃと頭を撫で回した。

「えへへ、えへへへへ!」

 ラキアはとろんとしたような、恍惚とした顔で俺のなでなでを堪能している。
 こんな子供っぽい奴が、必死に努力して、勝利をもぎ取ったんだもんな。俺は、ラキアの中にある確かな力を再確認して、より一層強く、頭を撫でてやった。

 と――

「ラキアさん!」

 保健室のドアを開け、大声をあげ入ってきたのは、エリーナだった。エリーナはベッドで眠っているラキアを発見すると、怒りを顕にし、そして人差し指を強く突きつけた。

「認めませんわ! わたくしが、あなたごときに負けるなどと! もう一度、もう一度勝負ですわ!」
「見苦しい真似はやめなさい、エリーナ」

 と、次いでユキアスの声が聞こえた。ユキアスは保健室に入ってくると、エリーナの頭を軽く叩き、そしてため息をついて俺たちを見つめた。

「どうも、ムダさん、ラキアさん、そして――魔王様」
「ぬ、ユキアスか。どうした?」
「いえ、エリーナがなにかしでかさないように見張っていただけです。そして、用は――ラキアさんと、ムダさんにあります」

 と、ユキアスはラキアの顔を見て、大きくため息をついた。

「ラキアさん、あなたは今日、誰よりも素晴らしい成果を残した。――娘が負けたという点は、私としてはすごく複雑な気分ですが――認めます。あなたは、素晴らしい。ええ、本当に、本当に」

 ユキアスが言い終えると、ラキアは「ありがとうございます!」と笑った。そしてユキアスは、次に俺の顔を見ると、ふん、と鼻で一度笑った。

「ムダさん。結局、あなたはダメダメなままでしたね。よくもまあ、公衆の面前に出られたものです」
「うっせ。悪口言いに来たのなら、俺は帰れって言うぞ?」
「はは、そうですね。――正直な話、悔しいです。まさかあなたが使った死に技を、ラキアさんが生かしてくるとは。本当に、本当に腹が立ちます。
 しかし――あなたにはひとつ、言っておかねばならないことがあります」
「ほぉ、なんだよ?」

 俺が喧嘩腰に言うと、ユキアスは頭を下げ、「ごめんなさい」と謝った。

「あなたの言う通り、私の見誤りでした。ラキアさんが今日出した結果は、まさに努力の賜物としか言いようがありません。ええ、認めます。ラキアさんは、人の何倍も頑張り屋なんだ、と。ですので、ラキアさんへの言葉は全て、撤回致します」

 俺は言葉が出なかった。こいつはプライドが高くって、結局自分の事だけだと思っていた。
 だが、プライドが高いなりに、そのプライドをうまく利用する心意気もあったようだ。完全にこいつという生き物を見誤っていた俺は、恥ずかしさのあまり一度舌打ちし、やがてバカらしくなって笑った。

「わかりゃあ、いいんだ。ラキアはな、誰よりも努力をする奴なんだ。それさえ知ってもらえりゃ、俺は十分だよ」
「――ありがとうございます。さ、エリーナ、行きますよ」

 そう言ってユキアスは、泣きそうな顔になっているエリーナの手を引き、保健室を出ようとした。

 ――いや、まだだ。まだ俺の話は終わっていない。

「ユキアス!」

 俺はユキアスを呼び止めた。奴はピタリと足を止め、「なんです?」と俺に尋ねてくる。

「いいか――いつかお前の鼻っ面、叩きおってやる。だから、なんだ、その……」

 俺は頭をかく。ユキアスは、俺が何を言わんとしているのかがわからないと言った様子でこちらを見てきた。

 恥ずかしがってる場合じゃねぇ。俺は一度咳払いをすると、息を吸って、震えがちな声を出した。

「お前に、武術と魔術を教えて欲しい。そんで、いつかお前を超えて、絶対ぶっ飛ばす!」

 ユキアスはそれを聞くと、一瞬目を見開いた。しかし次第に「はははは!」と笑いだし、そして頭を振りながら、困った様子で俺の言葉に受け答えた。

「バカは直ってないようですね、ムダさん」
「俺の名前はカツヒトだ!」
「失礼、カツヒトさん。……いいでしょう、かかって来なさい。そして、思い知らせてあげますよ。私とあなたの間にある、絶対的な差を」
「んなもん、俺の努力で埋めてやるぜ」

 ユキアスが俺の言葉を聞いて、「ふん」と笑い保健室を去った。俺はそれを見て、「ふん!」と鼻息を荒くし、顔をほころばせた。
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