肝胆相照のティーシポネー

人の心無いんか?

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キリちゃん視点

本編6 統合 その2

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「行くわよ。カルディア。」
 
 私は落ち着きを取り戻し、準備を完了させたカルディアを促す。彼女は「うん・・・」と小さく返事をして、部屋の中をいつまでも名残惜しそうに見据えながら扉を閉じた。
 
 私は彼女の前を歩き、先導する。向かうのは、あの魔獣がいる厩舎だ。
 あの糞神は『どの方向に歩いても着く』と言っていたが、あんな奴の言葉だ。全部は信用できない。もしかしたら勝負の話すらにされる可能性だって勿論ある。だが、今の私には、あの糞神が言っていた”黄金都市の神の塔”そこにしか手がかりと希望を感じざるを得なかった。
 だからこそ自力で黄金都市への旅路を考えると足となる、あの魔獣は絶対に確保したかったのだ。

 早歩きで厩舎に向かう。私の知り合いなど後ろをついてくるカルディアか、スタンピードおじさんくらいだが、カルディアは精力的にここで活動をしていた。この夜逃げのような様子を見咎められる可能性がある。
 1秒でも早く足を手に入れ、こことおさらばしたかった。

「キリちゃん・・・」
 後ろを歩くカルディアが不意に話しかけてくる。

「なに?」
 私は振り返らずにそれに答えた。

「ごめん・・・なんでもない。」

「無駄なことしないで頂戴。」

 振り返らずとも、後ろから彼女の不安な気持ちが伝わってくるようだった。
 その不安はこれからの事についてなのか?それとも私に対してなのか?あるいは両方か?それは分からなかったが、ただ、今の私には彼女を気遣えるような余裕は一切持ち合わせてなかった。だから彼女の不安に向き合い確かめることもせず、見ないことにした。

 私は厩舎に着くと手早くてっちゃんを連れ出し、出入口の大広間に行く。しかしそこには・・・

「おいおい。どこへ行くんだ?新入りさんよぉ。」
 
 広間に2メートル半はあろうか、筋肉質の大柄な体躯の男が大勢の雑魚を連れて立っていた。
 その中には、あのおじさん、スタンピードも居る。

「な、なんで・・・」
 カルディアがか細い震えた声で呟く。そんなのあいつらしかいない・・・

「昨日のチンピラ共、全員殺っとくべきだったかしら・・・」

「足抜けは認めてねぇぜ?お嬢ちゃん。」
 大柄の男は不遜にも私に対して高圧的に見つめながら話してくる。

「あなたの許可が要るのかしら?”私の”許可だけで充分でしょ?」 
 当然の真理を”猿”に教えてやる。

「生意気な新人だな。スタンピード、お前の部下だろ?お前がけじめ付けろ。」

「悪いが、遠慮するぜ?ジャガーノート。俺はまだ死にたくないんでね。」
 そう言って、目を瞑り、腕を組んだまま、動こうとしないおじさん。

「ずいぶん腑抜けたこと言うじゃねえか?ああ!?俺の命令が聞けねぇってのか?」

 こいつ何偉そうにしてんのよ。自分でかかってこい!

「お前は知らないからな。そうだな・・・命令無視してお前と戦った方がマシなぐらいだぜ?」
 鼻で笑うようにおじさんはそう言い放った。
 あら?おじさんの方はよく分かってるじゃない。

「なんだと。」
 ジャガーノートと呼ばれた大猿がおじさんの話を聞いて真顔になり、私を睨みつける。

「面白い。俺が直々に相手してやる。」
 そう言って大猿は部下に合図する。すると部下が二人がかりで大猿の得物であろう巨大なスレッジハンマーを運んできた。その巨大なハンマーを右手で持ち上げ構える。

「カルディア。ハルバードを。」
 私は右手を手のひらを広げてピンと横に伸ばす。
 カルディアがすぐさまハルバードを右手の手のひらに渡しにきた。
 私はハルバードをグッと握りしめる。
 (ああ!・・・くる・・・くる!くるくるくるくる!!)
 視界がモノクロから紅色に変わってゆく。

「潰してやるぜ!新人ーーーー!!」
 大猿が地面を蹴って突っ込んでくる。

「てっちゃん、カルディア。下がっててね。」
 そう言ってハルバードを構え、大猿を待ち受けた。

 大猿が私に向かって突撃し、その巨大なスレッジハンマーを振り降ろす。
 私はそれを真正面から受け止めた。

(フン!まぁまぁのパワーね。でも私を潰すには全然足りないわ。)

 大猿がハッとして飛びのく。その額には冷汗が流れていた。

(表情を動かさまいと必死だけど、手に取るように分かるわ。こいつ、まぁまぁやるようね。実力者ほど私に敵わないことを早く悟る。もうこいつはその事に気づいてる。すでに決着はついた。)

「流石、ここで首長務めているだけあるな、ジャガーノート。もう、分かっただろ?」
 おじさんが腕を組んだまま、大猿に語りかける。
 ああ・・・この大猿ってここのリーダーだったのね。雑魚にしてはまぁまぁなのはそのせいか。

「うるせぇ!認められるか!そんな事!!!」
 大猿がもう一度私に向かってきて激しく連打を繰り出す。
 その連打攻撃を全て捌く。
 どんどん速くなっているけど、全くの無駄。相手も分かってるはずなのにね。

「なんなんだ!なんなんだ!?こいつはああああ!!!!」

(はぁ・・・しかたない。手足でも切り飛ばすか。)

 すぐさま飛びのく大猿。

「あら?感が良いのね。流石ここでトップをしてるだけあるってことかしら?」

「なんなんだ・・・お前は・・・ありえない・・・どんどん強くなっていっている。俺が力を出せば出すほど、お前も同様に力を増している。おかしい・・・異常だ!こんな奴見たことねぇ!!!」
 いつの間にか大猿の瞳に恐怖が宿り始めている。
 もう表情を隠すことも出来なくなったか・・・

「当然よ。あなた程度に負けていたら私の宿願は話にならないもの。」
 そう・・・当然なのだ。だって私の目的は・・・

「お前の・・・目的はなんだ!?」
 じっとりと冷汗をかきながら聞く大猿。

「私の目的はね・・・・」

「神殺しよ!」

 シンと辺りが静まる。なんだ、誰もバカにして笑わないじゃない。バカにするようなら首を刎ねてやろうと思ったのにな。
 沈黙を破ったのは大猿だった。

「は・・・はは・・・はははははは!!!神殺しか!そりゃ勝てねえわけだ。」
 あ、笑った。うーん・・・でもそう言う疲れた顔じゃないのよね~。もっと私をバカにした顔だったら刎ねてやったのに・・・

「・・・行けよ。」

「あら?良いのかしら?」
 嫌味のように煽ってやる。

「これからデカい戦しようと思ってるんだ。こんなとこで腕斬り飛ばされる訳にはいかねえよ。」

「そう?次向かって来たら”ダルマ”にしてやろうと思ってたのに。」

「おっかねえ新人だな。誰だよ”キリングドーター”って言った奴。そのまんまじゃねぇか!やめだ!やめ!早く行け。」
 そう言って大猿は道を開ける。
 私達はてっちゃんに乗って堂々と出入口に向かう。
 雑魚共は左右に別れて立ち、誰も止めるものはいない。

「待ちな!」
 振り返ると呼び止めたのはおじさんだった。

「これ持って行きな。」
 箱と麻袋を渡してくる。それをカルディアが受け取り中身を確認していた。まぁ、この子に任せてたら大丈夫だろう。

「お前らそんな軽装で出るなんて、いくら強くても餓死すんだろーがよ。」
 そう言っておじさんがケラケラ笑う。

「すみません・・・急いで出てきたもので・・・そうですよね。何うっかりしてるんだろ、あたし。」
 バツが悪そうにするカルディア。
 え?何?そんなに軽装だったの?私、あなたにみんな任せっきりのつもりだったんだけど?この子の評価を改めるべきなのかしら?

「へっ・・・それくらいの方がお前さん達らしいけどな。金属は希少なものだから物々交換に使え。ぼったくられるなよ。」

「あの・・・こちらの軽い箱は?」
 カルディアがおじさんに白い箱について確認する。

「開けてみな。」
 ニヤニヤとしながらそう言うおじさん。
 カルディアが箱を開けると、彼女は笑顔になり、箱の中身を見せてくる。

「キリちゃん!キリちゃん!これ。」

 あたしはカルディアが見せてくる箱の中を覗くと、そこにはエクレアがぎゅうぎゅうに詰まっていて、私にはそれが輝いて見えた。
 
「ありがとう、おじさん。」
 私はおじさんに心からのお礼を述べる。

「だから、お兄さんだって・・・。はぁ・・・もういいや。」
 おじさんは呆れたような顔でポリポリと頭を掻いた後、
 少し寂しそうな顔をして、
「元気でな、お前ら。キリングドーター、嬢ちゃんをあんま困らせるなよ。」
 そう別れを告げた。

 私はそれに小さく頷いて答えて、てっちゃんの身体を軽く蹴り、歩みを進め、拠点を出ていく。
 カルディアが後ろを振り向き、おじさんに手を振っていた。
 いつまでも、いつまでも、名残惜しそうに手を振り続けていた。
 彼女が私についてきてくれたのは本当は凄く嬉しかった。言葉では恥ずかしくて言えないけど・・・
 ただ、彼女のことを思うと、きっとこの拠点に残していくべきだったんだ。
 これから先どうなるのか分からないのだから・・・

 私のエゴで彼女をここから引っ張り出した。
 彼女を守らないと・・・。きっとこの想いを育てたのは”アイツ”なんだろうな。
 そんな事を考えながら、私は背中に彼女の温もりを感じていた。
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