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キリちゃん視点

サブストーリー To私 Fromわたし その1

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 むかつくね、むかつくね。おにいちゃんがいつも言ってた。悪い事したら『ごめんなさい』するんだって。でも、こいつはしない。全然しない。むかつくね、むかつくね。

 私はおばさんの髪の毛を持って、お顔を床にぶつける。おばさんは泣いてるけど謝ることはしない。

(はやく謝ればいいのに・・・)

 もう、この作業も飽きてきたなー。
 そう思い始めてた時だった。

「あ、あの・・・」
 顔を上げると目の前にはおどおどした人が私と同じ視線になるように座り込んでいる。
 そして胸に抱いていた白い箱を差し出して言ったのだ。
「こ、これ・・・え、エクレア・・・です。」
 
 私はすぐさま箱を受け取ると中身を確認した。中には3つのエクレアが!
 目の前の人を見る。この人は私に対して酷いことは何もしてないのに、私の潰れたエクレアを買ってきてくれたんだ!おにいちゃんが言ってた。人のために何かできる人は良い人だって!

「わあ!くれるの!?ありがとう!3つあるじゃない。あなたも一緒にお茶しましょ!」

 私は良い人をお茶に誘う。
 この人が用意してくれたから、私が準備を頑張らないとね!
 テキパキとお茶の準備をして彼女の席も整える。よし!完璧だね!

「さぁ!食べましょ~。」
 私は彼女にエクレアを勧める。エクレアを食べる彼女の表情が硬いのは緊張してるのかな?人見知りするのかな?だったら緊張が解れる様に笑顔でいよう。おにいちゃんがいつも『キリハの笑顔』を見てると元気が出るって言ってたし!

「どお?美味しい?」
 私は感想が聞きたくて、ソワソワして言っちゃった。

 彼女はちょっぴり泣きながら笑顔で
「とっても・・・おいしいよ。」
 そう言ってくれた。
 私も嬉しくなって、自分のエクレアに手を伸ばす。その時、失敗に気づいた。
(いっけな~い。お手々洗うの忘れてた。てへっ。)




 翌日からは身体がだるくて起きれなかった。何だか頭も痛いし~
 私が「う~ん、う~ん」と唸っていると、

「ねぇ、あなた。大丈夫?」
 
 心配そうに覗き込んできたのは昨日のエクレアの人だった。

「からだ・・・しんどい~・・・」
 私が弱弱しくそう言うと

「ご飯食べた?起きれそう?」
 心配そうにそう聞いてくれる。

「食べれてない~・・・起きれそうにない・・・」
 そう言うと「ちょっと待っててね。」と言って、部屋を出て、どこかに行ってしまった。
 しばらくすると『ガチャっ』と扉が開く音がして、

「キリングドーターさん、身体起こせそう?」
 帰って来たのだろう、さっきの彼女がまた私を覗き込んでいた。

(キリングドーターって私の事なのかな?・・・まぁいいや。ちょっとかっこいいし~。)

 のそのそと身体を起こそうと動くと彼女も手伝ってくれる。
 ベットの脇にはお盆があり、おかゆとお茶が置いてあった。
 スプーンでおかゆを掬って食べさせてくれる。あんまり味はしないんだけど心が暖かかった。
 全部食べさせてくれると、彼女は「あ、そうだ。」と思い出したかのように、足元からあるものを取り出した。私は”それ”を見ただけで目が輝く。

「わぁ~!もしかして・・・」

「へへ・・・プレゼント!」
 得意げに笑いながら白い箱を渡してくれる。
 中身は当然、エクレアだった!でも・・・

「一個・・・」
 しょぼんとなる私。彼女は申し訳なさそうに、

「ごめんね~。最後の一個だったんだ。」
 そう言って彼女は謝ったが、売り切れじゃ仕方ないよね・・・。
 私は一個のエクレアを両手で掴み左右に力を入れ割ろうとするが、うまく力が入らず4分の3と4分の1に割れてしまった。

「・・・・・・」
(どうしよう・・・たくさん食べたいけど、これは彼女が買ってきたんだもの・・・大きい方を渡さないとダメだよね?う~・・・でも大きい方食べたい・・・うー・・・うー!イライラしてきた!)

 すると彼女は
「こ、こっちをくれるのかな?ありがとうね!」
 と、わたしのが持っている、4分の1のエクレアの方の手を掴んでそう言う。ちょっと顔が引きつってたけどなんでだろ?

 わたしは『ニヘラ~』と破顔して、
「どうぞ!」
 と、小さいエクレアを渡した。わたしは手に残った大きいエクレアにかぶりつく。優しい甘い味が口に広がる。
 エクレアを食べながら彼女を見ていると目が合う。優しく笑いかけてくれてわたしの口元に手を伸ばし、

「クリームついてるよ。キリングドーターさん。」
 そう言って指先で口元を優しく拭ってくれる。指についたクリームを舐めとり、優しく微笑んでくれる。

「おいしいね!エクレアの人!」
 そう返すと、何だか困った顔をしてなんか言ってたけど気にしなかった。わたし、エクレア食べてたし。それに頭もぼーっとするし・・・ってあれ、なんか赤いの垂れてきたー。

 目の前のエクレアの人があたふたして「病院、病院!ああ、どうしよう!今リコちゃん居ないし~」ってなんか慌ててる。まぁ、いいや、エクレアあとひと・・・くち・・・あ、あれ・・・?からだ・・・変・・・ちから・・・はいらないや・・・。

 

 頭はぼーっとしたまま身体が揺れている。エクレアの人が通りすがりの人に道を聞きながら、わたしを負ぶさってどこかに走ってるみたい。連れてこられたのは病院だった。
 お医者さんみたいな人とエクレアの人が話をしている。
お医者さんが「どうしてもっと早く連れてこないの!?」と怒ってる。
 お医者さんがわたしの頭に手をかざすと、ずいぶん身体が楽になった気がする。お腹もいっぱいになったし身体が楽になったら眠くなってきちゃった。寝よー。おやすみー。


 起きたら日が変わっていた。わたしは病院のベッドに寝かされていて、看護師さんが遠巻きに私を見ている。

 喉が乾いてたので、
「お水くださーい!」
 と遠くにいる看護師さん達にお願いしてみたが、ひそひそと話すだけでお水は貰えなかった。むかつくー。

 しばらくすると、エクレアの人がやってきた。
「キリングドーターさん。具合は・・・ひっ!ド、ドシタノー?」
 なんかわたしの顔見て怯えてるー。言葉もカタコトみたいになってるし、なんで?喉乾いてちょっとイライラしてるだけだけど。

「お水貰えなくて・・・喉乾いた・・・」
 わたしがそうに言うと、エクレアの人は「え?」と言って、出入り口付近にいる看護師さん達を見る。看護師さん達は見られるとサッと顔を背けて、そそくさとどこかに行ってしまった。

 エクレアの人は誰も居なくなった出入り口をちょっと難しそうな顔でしばらく見つめてから、わたしの方を見て
「食堂でキリングドーターさんがいつも飲んでいるお茶貰って来たんだ。今、淹れるね。」
 そう言って水筒から紙コップにお茶を注いで渡してくれる。
 わたしはそれを受け取ると勢いよく飲み干した。
「プハー!おいしー。」
 味は鈍いんだけどね。喉の渇きが取れたー。

「あの・・・キリングドーターさんご飯は食べて・・・無いよね?」
 エクレアの人が恐る恐る聞いてくる。 

「食べてないよー。」

「えっと・・・さっき居た看護師さん達・・・何かしてくれたかな?」

「ずっと、あそこから見てただけー。」
 その言葉を聞くとエクレアの人は悲しそうな顔をした。

「そ、そうだ!ご飯じゃないんだけど・・・」
 悲しい顔を振り払い、そう言って取り出したのは洋菓子店の箱。

「もしかして~!」
 わたしが目を輝かせると、エクレアの人はニヤリと笑い。

「じゃーん!エクレアでーす!今日は3つ買えたんだ!」
 紙コップにおかわりのお茶を淹れてくれて、エクレアと一緒に出してくれる。
 無機質な病室が一気に華やぐ。
 彼女はとっても良い人だ。それにすごく優しい。まるでエクレアみたいだ。エクレアさんだ!
 わたしはエクレアさんからエクレアを受け取り、かぶりついた。

「美味しい?」

「とっても美味しいよ!ありがとう、エクレアさん!」
 彼女に向かってお礼を言う。あれ?エクレアさんってこんなに鮮やかだったっけ?とても綺麗に映ってる。

「え、エクレアさん!?あたしカルディアって言うんだけど・・・」

「そうなんだ~。あ、エクレアさん!おかわり!」
 ニヘラと笑っておかわりを要求すると、

「ははは・・・聞いてないや・・・」
 何故か疲れた顔をしていた。なんでだろー???

 その後、お部屋に戻って数日間エクレアさんが看病してくれて、徐々に身体が回復してきた。
 エクレアさんは度々、エクレアを買ってきてくれて、一緒にお茶をした。
 一度エクレアを食べてるとき、急に「可愛い!」って抱きつかれて、エクレアを床に落としてしまったときは殺してやろうかと思ったけど、慌てて猛ダッシュで追加のエクレアを買って来たので許すことにした。エクレアさんの優しさを見習わないとね!おにいちゃんも人の良いところは見習いましょうって言ってたし。でも急に抱きつくのはやめて欲しいな。反射的に殺しそうになっちゃうもん。
 わたしはエクレアさんがとっても大好きだから傷つけたくない。ほんとだよ?
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