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塔内編
塔内編その55
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「おいおい・・・まさか・・・。」
「そのまさか。」
翌日、待ち合わせ場所に私だけ現れた姿を見て、頭を抱えるトータル。
「で、なんでアーセナルは倒れたんだ?」
「そんなの私が知りたいわよ・・・。」
「何か口にしたとか・・・。何か無いのか?」
「・・・分かんないんだって・・・。」
「おい。泣くなよ?面倒くさいからな。」
「な、泣かないわよ!」
本当はちょっと泣きそうだった。
「はぁ・・・しょうがない。二人に共通する事を思い出したら言ってくれ。とりあえず昨日言っていた製造元の工場に行くぞ。不動産の持ち主にはもう連絡をしてあるんだ。」
そう言って彼は人差し指で鍵をクルクルと回した。
「わ、わかった・・・!」
先導するトータルに付いて街の外れに向かう。郊外まで来ると人気が無くなり、回りに誰もいないことを確認するとトータルが手のひらサイズの小さな箱を地面に置いた。
「下がってろよ、青いの。”展開”」
箱に向かって命令すると箱が平面に展開するように開き、中からタイヤの無いSF映画に出てきそうなオープンカーが出てきた。
「何これ~?こんなのも売り出してるの?」
「これは受注生産品だな。この世界の奴等は身体能力が高い奴が多くて移動機器のウケは今ひとつなんだ。物の輸送に関しては転移装置がそこら中にあった所為で役目が無かったし、この塔の中の連中みたいに、ちょっと長生きしてる奴等は当たり前のようにマジックポーチ持っているしな。あれも一応神器なんだぜ?そんな訳でこの塔の中じゃ車のメリットとして体力温存くらいなもんだ。色んな奴に目立ってしまうデメリットの方が大きいのさ。」
おまけに高いから欲しがるのは郊外に住んでいる金持ちの生産職の奴ぐらいだ、と笑う。
「じゃ、なんで今、出したの?」
「おいおい・・・。俺は生産職だぞ。お前ら戦闘職の化け物みたいなスピードで走れるわけないだろ?目的地までこれで行くぞ。乗りな。」
そう言うとトータルは運転席に乗り込み、私は助手席へ。車を動かすと地面から若干浮いて僅かな駆動音を立ててゆっくりと走り出した。
「風邪が気持ちいい~。景色も良いし、たまにはこういうのも良いわね~。」
「中々、乙なもんだろ?」
「う~ん・・・。でも、ちょっと遅いかな?もっとスピードでないの?」
「遅いって・・・ははっ、青いのも完全にここの住人だな。今100km以上出てるんだぜ?これを遅いと感じるなんて感覚が完全にぶっ飛んでるな。」
「え?そうなの?・・・」
言われて改めて外の景色を見る。中心部と違って自然があり、畑や店、家がポツポツと見える。それらが風と共に流れてゆく。ゆっくり、ゆっくりと・・・。
(やっぱり遅い・・・。元居た世界の頃、パパの車で送迎して貰っていた頃はこんな遅いなんて思わなかった・・・。不本意だけど人を傷つけることにも慣れてしまった・・・。こんなので元居た世界に戻って私達って”普通”に戻れるのかな?いや・・・そもそも戻ったところで私に居場所はあるのだろうか・・・。私って本当に元居た世界に戻りたいと思っているのだろうか・・・?他の皆はどう思っているのだろう?)
「ねえ、あんたってさ・・・。」
「よし、着いたぜ?ここだ。降りよう。」
元居た世界に戻りたいと思ってる?そう聞こうとしたが、僅かな時間のドライブが終わり、タイミングを逸した。
目の前には石造りの工場。周辺を見渡すとお店や空き不動産がポツポツ立っている。
小さなドアが見える。トータルがドアに近づき鍵を開け中に入る。
「期待しちゃ居なかったが、何もなさそうだな。」
だだっ広い工場の中は何かの生産に使ったのだろうか機械装置がうち捨てられ埃を被っていた。トータルが捨てられている看板を拾い上げ表面に積もった埃を払うと、天井付近の窓から僅かに差し込む光が舞い上がる埃をキラキラと雪のように照らしだし、その光景が寒々しく感じる。
「オオナムジ製薬・・・へっ、薬の神様が大量虐殺だとよ。」
そう自嘲気味に笑うと看板を投げ捨てた。
「ここの鍵のやり取りの時に不動産屋さんが顔を見ているんじゃないの?」
私の言葉に首を振るトータル。
「代理人を雇っていたらしい。そいつを通して受け渡しだとよ。ところで、アドミラルがここの薬を飲んでいたってことは無いのか?」
「そんな様子は無かったけど・・・。」
「お前、それでよくあの社長にあれだけの啖呵切れたな?」
「いやぁ~、へへへ~。」
「なぜにやけてる?・・・褒めてないからな?しかし、アドミラルもアーセナルも服用の様子なしか・・・。本当にここで作られた物が原因なのかどうかすら怪しくなってくるな。おまけにこの有様じゃな・・・」
トータルが工場の奥に目をやる。灯りも無く人気も無い。辺りを見渡してもここを使用していた人物を特定できるような品物は出てきそうにもなかった。
「それじゃあ、もう手がかりが・・・。」
その時、工場の奥から声がする。
「あるわよぉ~。て・が・か・り。」
奥の暗闇から現れたのは紫色の髪の少女。
「は~い。先日はドーモ。」
「お前・・・あの時、役所に現れた・・・。」
「そ。シオンちゃんでーす。」
何こいつ可愛い子ぶってポーズしちゃって・・・嫌な笑顔・・・。
すかさずトータルがシオンと名乗った少女に武器を向ける。
「もぅ、戦いに来たんじゃないんだってば~。」
「なら、もう一人も姿を見せろ。」
「あー・・・バレてんじゃん。キラリ。」
呼ばれて奥の暗闇からおずおずともう一人、見覚えのある金髪の女の子が出てくる。確か・・・昨日の帰り際にアーセナルが腕を掴んでいた子だ。
「おい、アイスエイジだったか?お前、やれるんだろうな?」
挑発じみた目でトータルが聞いてくる。
「馬鹿にしないでよ!瞬足のレイフォース、剛腕のバルバロッサ、邪眼のチュウニー に勝ったんだから!」
「ぷっ・・・誰それ?マヌケそうな名前ね~。」
「わ、笑っちゃ失礼だよ、シオンちゃん。」
「ぐ・・・。」
目の前できょとんとされてから笑われる。本当に倒すのに苦労したのに!
しかし横に居るトータルは感心した顔つきをしていた。
「ほお?まぁまぁやるな。・・・ん?どうした?なぜ泣く?」
「いや・・・やっと分かってくれる人いたなって。」
「さて・・・最低限お前がやれることが分かったことだし・・・」
「わー!ちょっと待って待って!」
呟きながら身構えるトータルに対して両手を突き出し、必死に振って戦う意思が無い事を示すシオンと言う人物。
「あ、あの・・・私達、これを渡しに来ただけです・・・。あなたなら分かるでしょう?」
金髪の大人しそうな子が前に出てトータルに小さなチップのようなものを渡す。
「何よ、それ?」
「俺が作った保存用のチップだな。カメラ等に使われるやつだ。・・・これはなんだ?」
「ここの向かい側、今は空き不動産だけど、以前はお店やってたのよ~。そこの主人、防犯カメラ付けてたらしくってね~。ここまで言えばそれが何か分かるでしょ?」
「なぜ、俺たちに協力する。」
「命令だからかな~。」
「誰の?」
「それは言えない。」
「なら信用できない。」
トータルは受け取ったチップを握りつぶそうとするが、シオンと名乗った少女は妖艶な笑みを浮かべ、トータルに言い放った。
「いいのかな~?」
「何?」
「あなたは物作り”さえ”出来ればそれで満足なはず。違うかしら?それ潰すと、この騒動は暗礁に乗りあげちゃうよ~。そしたらあなたの所の従業員は復帰しないし、また倒れる者も出るかもしれないよ~?物作りに集中できないね~。」
「・・・・」
シオンはクスクスと挑発じみた笑いを漏らす。言われてトータルの握りつぶそうとしていた手が止まる。彼の表情は無表情でそこから考えや感情は読み取れなかった。
「ま、渡すもの渡したし、私達は帰るわね~。じゃね~。」
二人は私達の脇をすり抜けて出ていこうとする。私はその一人、おどおどとしている金髪の子の手を掴んだ。
「待って!!」
「な・・・・なん・・・ですか?」
私に手を掴まれた金髪の子は手を振りほどこうと身をよじる。
「怯えないで!あなた、昨日アーセナルと話していた子じゃない?」
「ち、違います。」
「ううん。遠目だったけど間違いない。あなた、アーセナルの知り合いなんでしょ!?彼女倒れたのよ!?」
アーセナルが倒れたと聞いて金髪の子の瞳が揺らぐ。手を離さない私を見かねて、もう一人の少女、シオンが私の手を強く掴む。その顔は苛立ちを隠せない様子だった。
「あー・・・やめてもらえます?私達関係ないんで。」
「関係ないってことはないだろ?役場のとこで会った時もアーセナルとは知り合いみたいだったじゃないか。」
トータルが口を挟むとシオンという少女の目つきが鋭くなる。
「もう関係ないってことですよ。アーセナルさんにも言っておいてくれますか?放っておいてくださいって。」
「あなた達、あの集落の人じゃないの!?一緒に生活していたんでしょ?」
「あー・・・うっさいなぁ!!!だから”もう”関係無いって言ってるでしょ!!弱いくせにあんな村なんか作ってさぁ!!分不相応に!!ここじゃ、弱けりゃ何も出来ないの!奪われるだけなの!!だからあんなことになったんだよ!!!あいつの所為で!あいつが皆を殺したんだよ!肝心な時に居ないで。いや、居たって結果は同じか?あの御方に勝てる人なんて居ない。死体が一個増えただけだわ。」
そう言って歪んだ顔で下品な笑いを上げるシオン。
「なによ・・・それ・・・。その言い方!!!」
食ってかかろうとした瞬間、身体が重くなり膝をついて這いつくばる。横を見ればトータルも同じ体勢になっていた。
「・・・あーあ、使うつもりなかったのに。もう用は済んだんだから余計なことに首突っ込まず、とっととやる事やれよな。・・・おい、行くぞ!豚!」
「わ、わかっ・・・。あ・・・ちがっ・・・!・・・ぶー・・・ぶー。」
シオンが去っていき、その後ろをキラリが付いて行く。豚のような鳴きまねををしながら・・・。完全に彼女らの姿が見えなくなると、身体の負荷が無くなった。
「くそ・・・またあの神器か。重力系とは厄介だな。やり合う気はないみたいだから助かったが。・・・なんだ?納得してない顔だな。」
「だって・・・。」
「目的を忘れるなよ?今は能力者を特定することが先決じゃないのか?お前のところも二人の命がかかっているんだからな?」
「そう・・・ね。」
「よし、映像を見てみよう。」
トータルはそう言うと手早くタブレットのような端末にチップを差し込み、映像を再生しだした。
「どの辺だ?」
しばらく工場の正面の道をまばらに人が行き交う映像が流れた後、背の高い二人組の人物が工場の前で立ち止まり話をしている様子が映る。僅かだがその横顔を捕らえた映像が映っており、トータルが映像を停止する。
「間違いない・・・右側の女。ヴァリオラだ。」
「この女が・・・。」
右側の背の高い女性、その横顔は笑っている・・・。嫌な感じ・・・悪意に溢れ・・・でも自分を慈しみ、誇っている・・・自尊心の塊のような・・・。・・・あれ?この隣の人・・・。
「この左側の人・・・。」
「ん?左の女がどうかしたか?」
「似ている気がするの・・・。」
「誰だ!?」
トータルが私の肩を掴み、問い詰めてくる。私はその勢いに気圧されながら答えた。
「えっと・・・。アドミラルの通院している看護師さん。」
「そのまさか。」
翌日、待ち合わせ場所に私だけ現れた姿を見て、頭を抱えるトータル。
「で、なんでアーセナルは倒れたんだ?」
「そんなの私が知りたいわよ・・・。」
「何か口にしたとか・・・。何か無いのか?」
「・・・分かんないんだって・・・。」
「おい。泣くなよ?面倒くさいからな。」
「な、泣かないわよ!」
本当はちょっと泣きそうだった。
「はぁ・・・しょうがない。二人に共通する事を思い出したら言ってくれ。とりあえず昨日言っていた製造元の工場に行くぞ。不動産の持ち主にはもう連絡をしてあるんだ。」
そう言って彼は人差し指で鍵をクルクルと回した。
「わ、わかった・・・!」
先導するトータルに付いて街の外れに向かう。郊外まで来ると人気が無くなり、回りに誰もいないことを確認するとトータルが手のひらサイズの小さな箱を地面に置いた。
「下がってろよ、青いの。”展開”」
箱に向かって命令すると箱が平面に展開するように開き、中からタイヤの無いSF映画に出てきそうなオープンカーが出てきた。
「何これ~?こんなのも売り出してるの?」
「これは受注生産品だな。この世界の奴等は身体能力が高い奴が多くて移動機器のウケは今ひとつなんだ。物の輸送に関しては転移装置がそこら中にあった所為で役目が無かったし、この塔の中の連中みたいに、ちょっと長生きしてる奴等は当たり前のようにマジックポーチ持っているしな。あれも一応神器なんだぜ?そんな訳でこの塔の中じゃ車のメリットとして体力温存くらいなもんだ。色んな奴に目立ってしまうデメリットの方が大きいのさ。」
おまけに高いから欲しがるのは郊外に住んでいる金持ちの生産職の奴ぐらいだ、と笑う。
「じゃ、なんで今、出したの?」
「おいおい・・・。俺は生産職だぞ。お前ら戦闘職の化け物みたいなスピードで走れるわけないだろ?目的地までこれで行くぞ。乗りな。」
そう言うとトータルは運転席に乗り込み、私は助手席へ。車を動かすと地面から若干浮いて僅かな駆動音を立ててゆっくりと走り出した。
「風邪が気持ちいい~。景色も良いし、たまにはこういうのも良いわね~。」
「中々、乙なもんだろ?」
「う~ん・・・。でも、ちょっと遅いかな?もっとスピードでないの?」
「遅いって・・・ははっ、青いのも完全にここの住人だな。今100km以上出てるんだぜ?これを遅いと感じるなんて感覚が完全にぶっ飛んでるな。」
「え?そうなの?・・・」
言われて改めて外の景色を見る。中心部と違って自然があり、畑や店、家がポツポツと見える。それらが風と共に流れてゆく。ゆっくり、ゆっくりと・・・。
(やっぱり遅い・・・。元居た世界の頃、パパの車で送迎して貰っていた頃はこんな遅いなんて思わなかった・・・。不本意だけど人を傷つけることにも慣れてしまった・・・。こんなので元居た世界に戻って私達って”普通”に戻れるのかな?いや・・・そもそも戻ったところで私に居場所はあるのだろうか・・・。私って本当に元居た世界に戻りたいと思っているのだろうか・・・?他の皆はどう思っているのだろう?)
「ねえ、あんたってさ・・・。」
「よし、着いたぜ?ここだ。降りよう。」
元居た世界に戻りたいと思ってる?そう聞こうとしたが、僅かな時間のドライブが終わり、タイミングを逸した。
目の前には石造りの工場。周辺を見渡すとお店や空き不動産がポツポツ立っている。
小さなドアが見える。トータルがドアに近づき鍵を開け中に入る。
「期待しちゃ居なかったが、何もなさそうだな。」
だだっ広い工場の中は何かの生産に使ったのだろうか機械装置がうち捨てられ埃を被っていた。トータルが捨てられている看板を拾い上げ表面に積もった埃を払うと、天井付近の窓から僅かに差し込む光が舞い上がる埃をキラキラと雪のように照らしだし、その光景が寒々しく感じる。
「オオナムジ製薬・・・へっ、薬の神様が大量虐殺だとよ。」
そう自嘲気味に笑うと看板を投げ捨てた。
「ここの鍵のやり取りの時に不動産屋さんが顔を見ているんじゃないの?」
私の言葉に首を振るトータル。
「代理人を雇っていたらしい。そいつを通して受け渡しだとよ。ところで、アドミラルがここの薬を飲んでいたってことは無いのか?」
「そんな様子は無かったけど・・・。」
「お前、それでよくあの社長にあれだけの啖呵切れたな?」
「いやぁ~、へへへ~。」
「なぜにやけてる?・・・褒めてないからな?しかし、アドミラルもアーセナルも服用の様子なしか・・・。本当にここで作られた物が原因なのかどうかすら怪しくなってくるな。おまけにこの有様じゃな・・・」
トータルが工場の奥に目をやる。灯りも無く人気も無い。辺りを見渡してもここを使用していた人物を特定できるような品物は出てきそうにもなかった。
「それじゃあ、もう手がかりが・・・。」
その時、工場の奥から声がする。
「あるわよぉ~。て・が・か・り。」
奥の暗闇から現れたのは紫色の髪の少女。
「は~い。先日はドーモ。」
「お前・・・あの時、役所に現れた・・・。」
「そ。シオンちゃんでーす。」
何こいつ可愛い子ぶってポーズしちゃって・・・嫌な笑顔・・・。
すかさずトータルがシオンと名乗った少女に武器を向ける。
「もぅ、戦いに来たんじゃないんだってば~。」
「なら、もう一人も姿を見せろ。」
「あー・・・バレてんじゃん。キラリ。」
呼ばれて奥の暗闇からおずおずともう一人、見覚えのある金髪の女の子が出てくる。確か・・・昨日の帰り際にアーセナルが腕を掴んでいた子だ。
「おい、アイスエイジだったか?お前、やれるんだろうな?」
挑発じみた目でトータルが聞いてくる。
「馬鹿にしないでよ!瞬足のレイフォース、剛腕のバルバロッサ、邪眼のチュウニー に勝ったんだから!」
「ぷっ・・・誰それ?マヌケそうな名前ね~。」
「わ、笑っちゃ失礼だよ、シオンちゃん。」
「ぐ・・・。」
目の前できょとんとされてから笑われる。本当に倒すのに苦労したのに!
しかし横に居るトータルは感心した顔つきをしていた。
「ほお?まぁまぁやるな。・・・ん?どうした?なぜ泣く?」
「いや・・・やっと分かってくれる人いたなって。」
「さて・・・最低限お前がやれることが分かったことだし・・・」
「わー!ちょっと待って待って!」
呟きながら身構えるトータルに対して両手を突き出し、必死に振って戦う意思が無い事を示すシオンと言う人物。
「あ、あの・・・私達、これを渡しに来ただけです・・・。あなたなら分かるでしょう?」
金髪の大人しそうな子が前に出てトータルに小さなチップのようなものを渡す。
「何よ、それ?」
「俺が作った保存用のチップだな。カメラ等に使われるやつだ。・・・これはなんだ?」
「ここの向かい側、今は空き不動産だけど、以前はお店やってたのよ~。そこの主人、防犯カメラ付けてたらしくってね~。ここまで言えばそれが何か分かるでしょ?」
「なぜ、俺たちに協力する。」
「命令だからかな~。」
「誰の?」
「それは言えない。」
「なら信用できない。」
トータルは受け取ったチップを握りつぶそうとするが、シオンと名乗った少女は妖艶な笑みを浮かべ、トータルに言い放った。
「いいのかな~?」
「何?」
「あなたは物作り”さえ”出来ればそれで満足なはず。違うかしら?それ潰すと、この騒動は暗礁に乗りあげちゃうよ~。そしたらあなたの所の従業員は復帰しないし、また倒れる者も出るかもしれないよ~?物作りに集中できないね~。」
「・・・・」
シオンはクスクスと挑発じみた笑いを漏らす。言われてトータルの握りつぶそうとしていた手が止まる。彼の表情は無表情でそこから考えや感情は読み取れなかった。
「ま、渡すもの渡したし、私達は帰るわね~。じゃね~。」
二人は私達の脇をすり抜けて出ていこうとする。私はその一人、おどおどとしている金髪の子の手を掴んだ。
「待って!!」
「な・・・・なん・・・ですか?」
私に手を掴まれた金髪の子は手を振りほどこうと身をよじる。
「怯えないで!あなた、昨日アーセナルと話していた子じゃない?」
「ち、違います。」
「ううん。遠目だったけど間違いない。あなた、アーセナルの知り合いなんでしょ!?彼女倒れたのよ!?」
アーセナルが倒れたと聞いて金髪の子の瞳が揺らぐ。手を離さない私を見かねて、もう一人の少女、シオンが私の手を強く掴む。その顔は苛立ちを隠せない様子だった。
「あー・・・やめてもらえます?私達関係ないんで。」
「関係ないってことはないだろ?役場のとこで会った時もアーセナルとは知り合いみたいだったじゃないか。」
トータルが口を挟むとシオンという少女の目つきが鋭くなる。
「もう関係ないってことですよ。アーセナルさんにも言っておいてくれますか?放っておいてくださいって。」
「あなた達、あの集落の人じゃないの!?一緒に生活していたんでしょ?」
「あー・・・うっさいなぁ!!!だから”もう”関係無いって言ってるでしょ!!弱いくせにあんな村なんか作ってさぁ!!分不相応に!!ここじゃ、弱けりゃ何も出来ないの!奪われるだけなの!!だからあんなことになったんだよ!!!あいつの所為で!あいつが皆を殺したんだよ!肝心な時に居ないで。いや、居たって結果は同じか?あの御方に勝てる人なんて居ない。死体が一個増えただけだわ。」
そう言って歪んだ顔で下品な笑いを上げるシオン。
「なによ・・・それ・・・。その言い方!!!」
食ってかかろうとした瞬間、身体が重くなり膝をついて這いつくばる。横を見ればトータルも同じ体勢になっていた。
「・・・あーあ、使うつもりなかったのに。もう用は済んだんだから余計なことに首突っ込まず、とっととやる事やれよな。・・・おい、行くぞ!豚!」
「わ、わかっ・・・。あ・・・ちがっ・・・!・・・ぶー・・・ぶー。」
シオンが去っていき、その後ろをキラリが付いて行く。豚のような鳴きまねををしながら・・・。完全に彼女らの姿が見えなくなると、身体の負荷が無くなった。
「くそ・・・またあの神器か。重力系とは厄介だな。やり合う気はないみたいだから助かったが。・・・なんだ?納得してない顔だな。」
「だって・・・。」
「目的を忘れるなよ?今は能力者を特定することが先決じゃないのか?お前のところも二人の命がかかっているんだからな?」
「そう・・・ね。」
「よし、映像を見てみよう。」
トータルはそう言うと手早くタブレットのような端末にチップを差し込み、映像を再生しだした。
「どの辺だ?」
しばらく工場の正面の道をまばらに人が行き交う映像が流れた後、背の高い二人組の人物が工場の前で立ち止まり話をしている様子が映る。僅かだがその横顔を捕らえた映像が映っており、トータルが映像を停止する。
「間違いない・・・右側の女。ヴァリオラだ。」
「この女が・・・。」
右側の背の高い女性、その横顔は笑っている・・・。嫌な感じ・・・悪意に溢れ・・・でも自分を慈しみ、誇っている・・・自尊心の塊のような・・・。・・・あれ?この隣の人・・・。
「この左側の人・・・。」
「ん?左の女がどうかしたか?」
「似ている気がするの・・・。」
「誰だ!?」
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