155 / 157
塔内編
塔内編その65
しおりを挟む
アイスエイジ様の演目後ゴールドラッシュ様が直々に部下を引きつれてやって来て暴漢達はその後、簡単に取り押さえられ鎮静化した。
驚くことに私達が会場内で悪戦苦闘している中、外には暴漢たちがまだ居たようなのだが、十数人がナイフで太ももを貫かれて、ゴールドラッシュ様が着く前に全員が戦意喪失して武装解除していたそうだ。誰の仕業かは分かっていた。私は心の中で小さな優しき狙撃手に頭を下げる。
その後、捕らえられた実行犯リーダーのマスクが取り外されると、その下から出てきた顔は、あの日、私とアーセナル様が役所に行ったときに対応してくれた役所の職員だった・・・。
ゴールドラッシュ様も自らの部下がしでかしたことにバツが悪そうだった。
私は事後処理をゴールドラッシュ様に任せて興奮した観客に舞台でわやくちゃにされている、うちのアイドルの元へ行く。背の低い彼女にも私が近寄ってくるのが見えたのか、黒い集団の中から助けを呼ぶ声がする。
「あ、アドミラル~!早く何とかして~~~!」
先程の歌や演技とは打って変わって情けない声で叫ぶアイスエイジ様。流石の彼女も好意的に寄ってくるファンに氷の魔法をお見舞いすることは出来なかったようで、されるがままになっている。私は後ろから咳払いをして、通る声で黒い集団に言う。
「皆さ~ん。当方のアイドルとの触れ合いはCDについている握手券を提示してからでお願いしま~す。既に触られた方は勿論沢山買ってくれるんですよね~?」
黒い集団が一斉に私を見る。私は今きっと完璧な営業スマイルを浮かべているだろう。
「物販はこの会場出てすぐの所でーす♪・・・どうぞあちらに!」
威圧して言うとアイスエイジ様に群がっていた観客たちは『い、今すぐ行ってきまーす!』と慌てて走って行ってしまった。
「た、助かった~。演技している時よりしんどかった・・・」
黒い集団が去っていくと中から床にへたり込んだ疲れた顔のアイスエイジ様が出てきた。そんな彼女に私は優しく手を差し伸べる。
「お疲れ様です。アイスエイジ様。」
彼女は私の顔を見るとニコっと笑って差し出したその手を取る。
「信じてた。アドミラル。」
手を引いて彼女を立たせる。彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。きっと私も似たような顔をしているのだろう。暫く見つめ合っていると、おずおずとした女性の声が横から聞こえた。
「・・・あ、あの・・・!」
見るとその人物は聖夜様の所の歌姫、ローレライだった。
「ふふん!何かしら?」
これ見よがしに得意げな顔を見せて胸を張るアイスエイジ様。それに対してローレライ様は嫌な顔や悔しさを見せたりすることも無く、怖々とした怯えたような表情を浮かべていた。
「あ、あの・・・あの・・・ね・・・いや・・・でも・・・うん・・・そうだよ。あ、あの・・・もしかして・・・ひ、氷上さ・・・ん?」
氷上さん。そう言った瞬間、アイスエイジ様の笑顔が固まり、表情が無くなっていく。
「ねぇ・・・!そうだよね!あの演技!あの最後に見せたシットスピンから最後のレイバックスピンまでの流れ!あれは氷上さんが一番得意にしていたスピンの組み合わせだもんね。私!春香!一ノ宮 春香!覚えてる?ずっと大会で一緒だった!」
「・・・知らない・・・」
「・・・え・・・?」
「人違いです・・・やめてください。」
表情の無い顔でそう言うアイスエイジ様。
「そんな・・・嘘だよね?氷上さんでしょ?ねえ?私!春香だよ!えっと・・・今は姿形違うけど・・・忘れちゃったの?えっと・・・転生前だから随分前になっちゃうの・・・かな?・・・ええっと、時間の流れわかんないや。ねえ!ずっと一緒に表彰台に登った・・・」
「知らないって言ってんでしょ!!!!!!!」
必死にまくし立てるローレライ様の言葉を遮り、叫ぶアイスエイジ様。そのまま私達を置いて走り去っていく。
「ま、待って・・・!私、あなたに・・・。」
それに手を伸ばしてすがり、追いかけようとするローレライ様の腕を私は掴む。
「あなたがかつて何者なのか、今がどなたなのか、存じませんが、今あなたがやっている事はこの世界での重大なタブーですよ。」
「で、でも・・・」
「でも?あなたとアイスエイジ様との間に過去何があったのかは知りません。そんな事はどうだっていい。今あなたがやっていることは”タブー”です。分からないんですか?」
ローレライ様を睨みつけ、彼女の腕を掴む手に力が入る。
「い、痛・・・!」
痛みで顔を歪ませる彼女を見て、手を離す。
「失礼。・・・ですがあなたの都合なんて知りません。二度と私達の前に顔を見せないでください。今度は敵とみなします。」
彼女を睨みつけてから背を向けて私はアイスエイジ様を探しに後を追う。
「あなたに・・・。あなたに何の権利があってそんなこと言うんです!私と氷上さんの問題でしょ!?」
後ろから声が飛んでくる。私は顔だけ彼女の方を向けて、
「あなた・・・拒絶されたのが分からないんですか?ああ・・・だからか・・・。だから拒絶されたんですね。私でも嫌です。こんな無神経な人。」
彼女を冷笑し、嫌味たっぷりに言ってからその場を後にした。呆然と立ち尽くすローレライ様を残して・・・。
驚くことに私達が会場内で悪戦苦闘している中、外には暴漢たちがまだ居たようなのだが、十数人がナイフで太ももを貫かれて、ゴールドラッシュ様が着く前に全員が戦意喪失して武装解除していたそうだ。誰の仕業かは分かっていた。私は心の中で小さな優しき狙撃手に頭を下げる。
その後、捕らえられた実行犯リーダーのマスクが取り外されると、その下から出てきた顔は、あの日、私とアーセナル様が役所に行ったときに対応してくれた役所の職員だった・・・。
ゴールドラッシュ様も自らの部下がしでかしたことにバツが悪そうだった。
私は事後処理をゴールドラッシュ様に任せて興奮した観客に舞台でわやくちゃにされている、うちのアイドルの元へ行く。背の低い彼女にも私が近寄ってくるのが見えたのか、黒い集団の中から助けを呼ぶ声がする。
「あ、アドミラル~!早く何とかして~~~!」
先程の歌や演技とは打って変わって情けない声で叫ぶアイスエイジ様。流石の彼女も好意的に寄ってくるファンに氷の魔法をお見舞いすることは出来なかったようで、されるがままになっている。私は後ろから咳払いをして、通る声で黒い集団に言う。
「皆さ~ん。当方のアイドルとの触れ合いはCDについている握手券を提示してからでお願いしま~す。既に触られた方は勿論沢山買ってくれるんですよね~?」
黒い集団が一斉に私を見る。私は今きっと完璧な営業スマイルを浮かべているだろう。
「物販はこの会場出てすぐの所でーす♪・・・どうぞあちらに!」
威圧して言うとアイスエイジ様に群がっていた観客たちは『い、今すぐ行ってきまーす!』と慌てて走って行ってしまった。
「た、助かった~。演技している時よりしんどかった・・・」
黒い集団が去っていくと中から床にへたり込んだ疲れた顔のアイスエイジ様が出てきた。そんな彼女に私は優しく手を差し伸べる。
「お疲れ様です。アイスエイジ様。」
彼女は私の顔を見るとニコっと笑って差し出したその手を取る。
「信じてた。アドミラル。」
手を引いて彼女を立たせる。彼女は穏やかな笑みを浮かべていた。きっと私も似たような顔をしているのだろう。暫く見つめ合っていると、おずおずとした女性の声が横から聞こえた。
「・・・あ、あの・・・!」
見るとその人物は聖夜様の所の歌姫、ローレライだった。
「ふふん!何かしら?」
これ見よがしに得意げな顔を見せて胸を張るアイスエイジ様。それに対してローレライ様は嫌な顔や悔しさを見せたりすることも無く、怖々とした怯えたような表情を浮かべていた。
「あ、あの・・・あの・・・ね・・・いや・・・でも・・・うん・・・そうだよ。あ、あの・・・もしかして・・・ひ、氷上さ・・・ん?」
氷上さん。そう言った瞬間、アイスエイジ様の笑顔が固まり、表情が無くなっていく。
「ねぇ・・・!そうだよね!あの演技!あの最後に見せたシットスピンから最後のレイバックスピンまでの流れ!あれは氷上さんが一番得意にしていたスピンの組み合わせだもんね。私!春香!一ノ宮 春香!覚えてる?ずっと大会で一緒だった!」
「・・・知らない・・・」
「・・・え・・・?」
「人違いです・・・やめてください。」
表情の無い顔でそう言うアイスエイジ様。
「そんな・・・嘘だよね?氷上さんでしょ?ねえ?私!春香だよ!えっと・・・今は姿形違うけど・・・忘れちゃったの?えっと・・・転生前だから随分前になっちゃうの・・・かな?・・・ええっと、時間の流れわかんないや。ねえ!ずっと一緒に表彰台に登った・・・」
「知らないって言ってんでしょ!!!!!!!」
必死にまくし立てるローレライ様の言葉を遮り、叫ぶアイスエイジ様。そのまま私達を置いて走り去っていく。
「ま、待って・・・!私、あなたに・・・。」
それに手を伸ばしてすがり、追いかけようとするローレライ様の腕を私は掴む。
「あなたがかつて何者なのか、今がどなたなのか、存じませんが、今あなたがやっている事はこの世界での重大なタブーですよ。」
「で、でも・・・」
「でも?あなたとアイスエイジ様との間に過去何があったのかは知りません。そんな事はどうだっていい。今あなたがやっていることは”タブー”です。分からないんですか?」
ローレライ様を睨みつけ、彼女の腕を掴む手に力が入る。
「い、痛・・・!」
痛みで顔を歪ませる彼女を見て、手を離す。
「失礼。・・・ですがあなたの都合なんて知りません。二度と私達の前に顔を見せないでください。今度は敵とみなします。」
彼女を睨みつけてから背を向けて私はアイスエイジ様を探しに後を追う。
「あなたに・・・。あなたに何の権利があってそんなこと言うんです!私と氷上さんの問題でしょ!?」
後ろから声が飛んでくる。私は顔だけ彼女の方を向けて、
「あなた・・・拒絶されたのが分からないんですか?ああ・・・だからか・・・。だから拒絶されたんですね。私でも嫌です。こんな無神経な人。」
彼女を冷笑し、嫌味たっぷりに言ってからその場を後にした。呆然と立ち尽くすローレライ様を残して・・・。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる
ごろごろみかん。
恋愛
α、Ω、βの第二性別が存在する獣人の国、フワロー。
「運命の番が現れたから」
その一言で二年付き合ったαの恋人に手酷く振られたβの兎獣人、ティナディア。
傷心から酒を飲み、酔っ払ったティナはその夜、美しいαの狐獣人の青年と一夜の関係を持ってしまう。
夜の記憶は一切ないが、とにかくαの男性はもうこりごり!と彼女は文字どおり脱兎のごとく、彼から逃げ出した。
しかし、彼はそんなティナに向かってにっこり笑って言ったのだ。
「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」
*狡猾な狐(α)と大切な記憶を失っている兎(β)の、過去の約束を巡るお話
*オメガバース設定ですが、独自の解釈があります
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
