羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その66

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 手紙に書いてあった酒場を張り込む。何も無ければそれでよし。私はギリギリ滑り込みでライブ会場へ行き、あの子の最高のパフォーマンスを目に焼き付けるのだ。これが一番いい未来。何も起きなければ・・・。
 だが、その期待空しくその酒場には営業時間にはまだ早いというのに次から次へと人が集まってくる。ライブまであと少しの時間・・・。

(駄目だったか・・・。あの手紙がただの悪戯なら良かったのにね・・・。)

 心の中で呟き、フードを被って布で顔を隠す。ポケットの中に入れてあるモノを確認してから、意を決して酒場へと足を踏み入れる。

「待て。証を見せろ。」

 入口に立っている男に話しかける。私は指にはめている手紙に同封されていた通行証代わりの指輪を見せる。

「よし、良いぞ・・・いや!?ちょっと待て。」

「何かしら?」

 急に止められて内心焦るが、極力平静を装って言葉を発した。

「指輪についている石が少し違うぞ!?見せてみろ!本物ならリングの内側に共通の合言葉が彫ってある。」

「本物よ。どうぞ確認して。」

 内心焦りを押し込めながら、指輪を外して男に見せる。男はまじまじと指輪を見つめリングの内側もしっかりと確認した。

「確かに合言葉がリングに入っている。本物だ。だが、やはり輝きが少し違うな?石の個体差か?うーん・・・まあいい。入れ。」

 何とか通してもらい、内心安堵する。いきなり作戦が頓挫するかと思ったが・・・。
 営業時間外の酒場の中には大勢の人が集まっており、多くの者が顔をマスクや布で覆っている。

(全員武装しているな・・・やっぱりこいつら・・・。)

 カウンターに座ると店員がやって来て静かにメニューが置かる。メニューのドリンクを適当に指を差してオーダーするとメニューを片づけて奥に帰っていき。程なくしてドリンクが運ばれてくる。
 私はちまちま飲みながら時計を取り出し時間を確認する。

(動きがあるとするならそろそろか・・・)

 そう思った矢先だった。聞き覚えのある声が店内に響く。店の奥、そこに良く見知った顔があった。

「皆さん。良く集まってくれました。同じ志を持つものとして嬉しく思います。」

 彼女・・・シオンはそう言うと上品に深々と頭を下げる。周りから拍手が飛び、シオンが軽く手を挙げてそれに答えた。

「皆さん。今なお続くこのパンデミックで大切な方を亡くされたり、あるいは今なお大切な方が病魔に苦しんでおられるかと思います・・・」

 彼女は沈痛な面持ちで言葉を紡いで俯いてから一度言葉を切った。

「なのに!不届きにも!まだパンデミックは終わっていないというのに!大規模なライブをして!感染を・・・悲劇をまた繰り返そうとする輩が居る!今日集まって頂いたのは!そんな者達に鉄槌を下すためです!!!」

 彼女が勢いよく顔をあげて力説し、そう言うと皆が勢いよく拍手する。中には立ち上がる者も居た。彼女は手を上げ皆を静めると、

「さあ!行きましょう!我々で感染を最小限に留め!今一度、皆に喚起促すのです!」

 ドンドンドンドンドン!と武器で床やテーブルを叩き戦意高揚していく。その様子をシオンは村では見せたことの無いような邪悪な笑みで見つめていた。
 最早やるしかない・・・私は意を決して席を立ち前に歩み出た。

「待ちなさい!!!!」

「その声・・・アーセナルさんですか。一人でいったい何しに来たんです?弾薬作るだけの能力で主体にはなれない。誰かの腰巾着でないと力を発揮できないあなたが~。」

 そう言ってシオンはクスクスと私を見下すように笑った。
 私はフードと口を覆っていた布を外し、顔をさらけ出す。



「確かにね・・・。私はずっとそうだった。村を作ったのも今思えばそれを覆したかったからなのかもしれない・・・。」

「あんたのせいでみんな死んだよ!みんな・・・みんな・・・苦しんで・・・!あんたが余計なことをしなければ!みんな生きていた!私だってキラリだって・・・きっと幸せだった!」

「そうね・・・私の実力不足が招いたわね・・・。」

 顔を歪ませて罵倒する彼女に私は静かに頭を下げる。

「何・・・何してるんだよ!!そんな事したって誰も帰ってこないのよ!もう!遅いんだよ・・・何もかも・・・。」

「ええ・・・。でも私が面倒を見ていた子が過ちを犯そうとしているなら止めなきゃいけない。ずっと流されて・・・誰かに頼る人生だったけど、これだけはしなきゃいけない。」

 そしてポケットから予め作っていた”モノ”を手に握りしめて周りに大声で言った。

「あなた達にはここにずっと居てもらいます。ほんの数時間大人しくしていたら危害は加えません!だから大人しくしてて!」

 そう言うと近くにいた男が私に不用意に近づきながら私に語りかけてくる。

「おいおい嬢ちゃん。この人数相手に一人で何が出来るって言うんだ。どうやって潜り込んだか知らないけど、無謀すぎたな。」

 そう言って私に触れようとした瞬間・・・

「ちょっと待て・・・おい・・・まさか・・・待て!!!そいつに触れるなあああああ!!!!!」

 シオンが脂汗を顔に滲ませながら大声で叫ぶ。
 あまりの剣幕に男は手を引っ込めて固まった。

「何を握ってる!アーセナル!その手をポケットから出して広げて見せろ!!」

 言われてゆっくりと手を出して広げて見せる。手に収まった”それ”を見てシオンの顔は一気に青ざめた。

「このど畜生基地外女がああああああああああ!!!!全員一歩も動くんじゃねぇ!!!!いいか!?絶対動くなよ!!動いたら私が殺す!!!」

 シオンのあまりの剣幕に全員が固まる。さっき私に触れようとしていた男も完全に固まって動かなくなった。しかし中には怪訝そうにシオンを見つめる者もいる。

「爆弾だ!!!その女の言うことに従わないとここら一帯吹っ飛ぶぞ!!!!!」

「タイマーのカウント型だけど私の任意で起動、起爆、停止ができる。言ってる意味わかるわよね?こんな馬鹿な事はやめなさい!あまり猶予は無いわよ!?」

 そう言ってから既に動いているタイマーを見せつける。

「絶対動くな!少しでも動いたら私が殺す!!!」
 
 爆弾と聞いて周りがざわつくがシオンは目が血走った狂気の顔でその周りを牽制する。

「畜生!ふざけやがって!全部上手くいってたのに!イカレてんのか!?自分ごと吹っ飛ばす気かよ!」

「これくらいはしないと止めれそうにも無かったからね・・・。残念だったわね。飼い主のクイーンに怒られるかしら?」

「ああ、クソ!怒られるどころか処分されるよ!こんな失態!」

 半分カマかけだったがやはりそうか・・・既にクイーンの手先に・・・。

「・・・キラリちゃんはどうしてるの?」

「キラリ~?知らね。公衆便所でもしてるんじゃね?もしかしたら死んでるかもな。」

 そう言ってシオンは顔を歪ませて笑う。

「あなた達、親友じゃなかったの?」

「その親友のせいで拷問されたよ。」

 彼女はピタリと笑うのをやめて、死んだ魚のような目で言った。

「それはクイーンのせいでしょ!?」

「あんたが弱かったせいでもあるな。」

 互いに見つめ合い沈黙が流れる。

「ねぇ・・・。さっき処分されるって言ったけど私達の所に来ればいいじゃない。」

「何言ってんだ・・・そんなこと許されるわけないだろ・・・。」

 彼女は私の言葉に凄く疲れた顔で力無く答える。

「大丈夫。今は私だけじゃない。今日ステージに立つアイスエイジは凄く強いわ。私よりもずっと。他にも私の元上官のヘッドシューターは拠点でクイーンより成績が良かったくらいよ?アドミラルはその全体統括をしていた凄く有能な人。とても強い人が集まってきている。大丈夫。キラリと一緒に逃げてきなさい。もう一度私達と・・・。」

「アーセナ・・・ル・・・さん・・・。」

「もうやめましょう。私もカウントを止めるわ。」

 私が手を差し伸べると彼女のそれにゆっくりと手を伸ばす。そして逆の方の手の爆弾を停止・・・停止・・・あ、あれ・・・?

「な、何してるの・・・アーセナル・・・さん?」

 不安げな青い顔でこちらを見るシオン。

「の、能力が・・・言うことを効かない!」

 その言葉を放った瞬間、酒場内がパニックになった。

「う、嘘だろ・・・・な、何やってんだ!あんたああああああああああ!!!」

 顔を歪ませ、憎しみの目で私を見て叫ぶシオン。

「ち、ちが・・・私じゃない!!!な、なんで!?どうして!?今までこんな事一度も・・・」

 残りのカウントは殆ど残っていない!もはや猶予は僅か数秒・・・弁明する時間も無く手の中の爆弾は爆発の時を迎える。私はとっさに空中に爆弾を投げ外套で必死に身体を護ろうとした・・・。そんな事をしても防げる威力では無いというのに・・・。

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!

 大地を震わせ、あたりを灰燼と化する爆風。



 私は辛うじて息が残っていた。だが、それももう少しで尽きるだろう・・・。身体は何も感じない。致命傷で痛みを既に感じないのか・・・頭に靄がかかってくる。思考が出来なくなってく・・・る・・・。何故か・・・・アイ・・・スエイジの歌・・・声が聞こえたよ・・・うな・・・・気がす・・・・る。こん・・・な場・・・所で聞こえるわけ・・・・もな・・・い・・・の・・・・・・・・に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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