羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

文字の大きさ
31 / 157
双新星編

裏本編7 ぼくの女神は便器様 その2

しおりを挟む
 数日後の夜中、ぼくは相変わらずトイレの前で佇んでいた。
 中には入らない。
 入っても無力感に苛まれるだけだからだ。
(ぼくは何をやっているんだ・・・もう帰ろう・・・)
 そんな時、包帯だらけの女の子が数人やってきた。
 手にはバケツやタオル。櫛や飲食物を携えて。

「どけ!!男ども!!!この時間は私たちが占有した!!出ていけ!!早く出ていけ!!!」

 そう言って先輩の身体目当てで来ていた人達を蜘蛛の子を散らすように追い払う。
 ぼくは男たちが消えたトイレに近づく。

「お前!言ってることがわからないのか!」
 一人の女性がぼくに掴みかかろうとしたとき、

「やめなさい、その子は違うわ。」
 包帯だらけの痛々しい、おっとりとしたお姉さんが止めに入る。

「あ、アーセナル様。」
 ぼくに凄んでいた女の子が引き下がる。

「君、隊長を慕っていた子よね?うちの新入りの友達の。今からみんなで隊長を綺麗にして差し上げるの。君も手伝ってくれる?」
 そう優しく声をかけてくれるアーセナルさん。
 ぼくは涙目になりながら静かに首を縦に振り、中に入れてもらった。


 ぼくはタオルを借りてお湯で先輩の身体を拭いた。
 先輩の綺麗な身体は擦り傷や痣だらけになっていた。
 あの日ぼくの手を優しく包み込んでくれた手は指が無く、最低限の治療で包帯からは血がにじみ、手首はずっと縛られているせいで赤く腫れあがっていた。

 何度もタオルを換え、何度も先輩を拭く。
 先輩の綺麗な髪に張り付いた男の体液を根気強く拭いていく。
 ぼくは悔しくて泣いた。
 泣きながら、何度も何度も根気強く・・・少しでも以前の綺麗な先輩にしてあげたかった。
 気づけば周りの女の子も泣いていた。

 女の子たちがずっと食事が出来てなかった先輩に重湯やすりおろした林檎をゆっくりと口に持っていく。
 食事を取った先輩は小さく、
「みんな・・・ありがとう・・・」
 と、だけ言った。
 みんなその短い労いの言葉だけで充分だった。


「おい!お前ら!時間だぞ。早く出て行けよ。」
 ニタニタと下卑た笑みを浮かべた男たちが戻ってくる。

「おっ?綺麗になってんじゃーん!便。」
 一人の男がそう言って女の子の肩を叩く。
 言われた女の子は鬼のような形相でそいつを殴ろうとしたが、

「やめなさい!!!!!!!」
 アーセナルさんが止めた。
「相手にするな。みんな行くわよ。」
 そう言って静かに出ていく。
 しかし視線だけは男どもを見据えて、相手を殺してしまいそうな目つきだった。




「君、ありがとう。」

「ぼくこそ・・・お礼を言いたいです。何も出来なくて・・・悔しかったから・・・」
 トイレの外でアーセナルさんに話しかけられる。ぼくは俯いて消え入りそうな声で謝意を伝えた。

 ぼくの様子を見たアーセナルさんは優しく肩に手を置いて、
「もし、良かったら明日も同じ時間、私たちは隊長のお世話にくるから。君もどうかな?」
 と誘ってくれた。
 ぼくは顔を上げて、アーセナルさんを見る。先ほど男たちに向けた目とは打って変わって穏やかな優しい目をしていた。嬉しかった。男であるぼくを信用して誘ってくれたことに。ぼくは目頭が熱くなるのを感じながら「ご一緒させてください。」と伝えた。



 ぼくはその足で木こりの様子を見に行く。
 看守にポイントで木こりの世話が出来るか訊いてみようと思っていたのだ。
 しかし・・・

「空っ・・・・ぽ」

 木こりの姿はそこには無かった。慌ててぼくは看守に尋ねた。

「あ、あの!ここにいた彼は!?」

「あー、あいつか?サディスティッククイーンが買っていったよ。」
 愕然とした。最悪の人物だ。何をするかわからない。

「サディスティッククイーンの部屋番はわかりますか!!」

「えぇ!?お前、アイツのところ行くの?やめとけって。何されるかわからねぇぞ?」

「いいから!教えてくれ!」

「白金の201だっけか?あ・・・おい!」

 ぼくは急いで独房部屋を飛び出し、階段を駆け上がる。


(はぁ・・・・はぁ・・・・白金・・・201・・・)
 確認してからノックをする。
 少しだけドアが開き、無表情の男がぼくの瞳を覗く。

「き、今日、サディスティッククイーンが買った男について話がある。」
 ぼくは臆病さを隠すように精一杯睨み、そう伝える。
 男は「待ってろ。」と言い、いったんドアを閉じて、暫くしてから「中に入れ。」と、ぼくを通してくれた。
 案内された広間にサディスティッククイーンと木こりがいた。
 木こりはサディスティッククイーンの椅子になっていた。

「何かしら・・・ぼうや。」
 長い前髪の奥で『ぎょろり』と目が動き、ぼくを捕らえる。
 それだけでチビってしまいそうだった。

「そ、その下に敷いてる男はどうされるのですか?」

「・・・ああ、こいつね。あんまり好みの顔でもないし、どうしようか・・・考えていたところ。ガタイが良いから今は椅子にしているけど・・・そうねぇ・・・『ブーちゃん』の餌にしようかしらねぇ・・・」

「ぶ・・・ブーちゃんとは?」

「私がぁ・・・飼ってるキングボア。かかか可愛いのよぉ~。」
 『ニチャア』と笑うサディスティッククイーン。

「そ、その男はぼくの友達です。い、命の保証をしてもらいたい・・・」
 あまりの気色悪さに気圧されるが何とか踏ん張り、声が震えながらも彼の助命を求めた。

「もう、私の所有物よ。」
 長い前髪からチラリと覗く冷たい、刺すような視線。

「ぼ、ぼくが・・・あなたの部隊で働くことによって、温情をかけてほしい。」
 ぼくは何とか交渉の余地を探ろうとする。

 その時、
「や、やめろ・・・ぼんぼん・・・俺のことは・・・もう・・・」

「放っておけないよ!!!」
 まともに水を貰えていないせいか掠れた声で囁くように言う木こりの言葉を遮り、涙声で訴える。

 すると・・・
「いい・・・いいわぁ~!あなた達!」
 サディスティッククイーンが熱い吐息を『はぁはぁ』と漏らしながら、自分の胸と秘部を弄り、自慰行為をしだした。

 (完全にイカレてる)
 元居た世界でAVの自慰行為とか見て興奮を覚えたが、今目の前で行われているソレは恐怖心しか感じなかった。

「あなた達、顔は好みじゃないけど、しししししシチュエーションは好みよぉ~。それでぇ・・・どっちがネコでどっちがタチなのかしらぁ!!」
 口から涎を垂らし、尚も自慰行為しながらそう答えるサディスティッククイーン。

 ぼくはネコとタチが何を意味するのかわからなかったが、
「た、たぶん・・・サディスティッククイーンさんの思っているのとは違うことは確かです。」
 とだけ、答えた。

「まぁ、いいわ。私の部隊は今月激戦区に仕掛けるわぁ。そこで名を挙げて二つ名が獲得できるほどポイントを獲得出来たら、そのポイントで彼を私から買いなさい。もし出来なければ・・・はぁはぁ・・・ああああなたたちは私のビデオ撮影に協力しなさい・・・いいいいいいわね。」
 長い前髪の奥で目を血走らせながら、そう言うサディスティッククイーン。
 この際、条件に文句は言えないのでぼくはその条件を了承した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。
恋愛
α、Ω、βの第二性別が存在する獣人の国、フワロー。 「運命の番が現れたから」 その一言で二年付き合ったαの恋人に手酷く振られたβの兎獣人、ティナディア。 傷心から酒を飲み、酔っ払ったティナはその夜、美しいαの狐獣人の青年と一夜の関係を持ってしまう。 夜の記憶は一切ないが、とにかくαの男性はもうこりごり!と彼女は文字どおり脱兎のごとく、彼から逃げ出した。 しかし、彼はそんなティナに向かってにっこり笑って言ったのだ。 「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」 *狡猾な狐(α)と大切な記憶を失っている兎(β)の、過去の約束を巡るお話 *オメガバース設定ですが、独自の解釈があります

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...