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幕間蛇足編
蛇足編その2
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パキッ!・・・パキッ!・・・パキッ!・・・パキッ!
乾いた音が早朝の森に響く。今日は訓練がお休みなのだ。
大昔は女騎士さんに毎日しごかれていて、『筋肉も休息が必要なんです!』と訴えたことがある。しかし『嘘をつくな!』信用されず、しごかれそうになったところ、フォーチュンさんに『それは事実じゃぞ?』と助けてもらって、ちゃんと休息日が出来たのだ。っていうか、僕が言ったら嘘で、フォーチュンさんが言うと信じるって・・・え?なんだろ?僕・・・もしかして信用されて無い?そんなこと無いよね?・・・・無いよね???
そんなこんなで今日は生活のための薪をこうして朝から作ってるわけですな。僕、えらい!お姉さまが生きてたら頭撫でてくれたことでしょう。なんだかんだで超甘々で優しかったからね、あの人。・・・隊長モードでなければ。
薪割りをしていると『ガチャっ』と扉が開く音がして出てきたのはフォーチュンさんだった。
手にはフォーチュンさんの宝物のどでかい香木が抱えられている。
「おお、小僧。おはよう。精が出るな。」
「おはようございます、フォーチュンさん。どうかしたんですか?」
「ん?いや?どうもせんよ。」
嘘だ。フォーチュンさんとの付き合いもかれこれ数十年になる。この人は考え事があるとコレクションの手入れをするんだ。ほら言ってる間に小屋の前の石段に腰かけて大切な香木を刷毛を使って手入れしだしたぞ。
(昨日の次元斬さんとの話が原因だろうな・・・)
結局、あの後、何を話したのか聞いてみてもフォーチュンさんは何も答えてくれなかった。
薪割りをしながらフォーチュンさんの様子を伺う。
無表情でサッサッと刷毛を使って香木をなぞる、魔女っ子おばあちゃん(見た目は若いよ、見た目は・・・)
さっき、隊長のことを考えたからだろうか・・・僕はその巨大な香木に目を奪われていた。
隊長と僕が忘れてしまっている大切な人、あの制服を着た女の子のお骨は骨壺を作り、僕らの小屋の窓際に並べて大切にお祀りしている。今日も朝起きたら静かに二人に手を合わせてから薪割りに取りかかった。
そういえば、僕が居た日本では亡くなった方に対してお香を焚いて供養していたんだった。
僕の視線に気づいたフォーチュンさんが、
「どうした?小僧?そんなに見つめて。わしに惚れたか?」
『ふふん!』とちょっと得意げに何言ってんだろ?この人。その幼児体型で?頭湧いてんのかな?
「いえ・・・その香木・・・」
「おお?これか?お主にもこの沈香の良さが解るようになったのか?そうかそうか!」
嬉しそうに『うんうん』と頷くお婆ちゃん。
「それって良い匂いするんですか?」
「勿論じゃ。ワシの蘭奢待ちゃんは最高の香りじゃぞ?」
どや顔で自慢するお婆ちゃん。名前までつけて愛でてるのか?あーもう、頬ずりまでしちゃってるよ、この人。
「へ~。じゃあちょっと切り取って分けてくれませんか?ヘッドシューターさんと、あの制服の子にお香の一つまみもあげれてないなって思って。」
そう言うと『ピシっ』という音が聞こえそうなくらいフォーチュンさんは固まり、小声で、
「駄目じゃ・・・」
「え?何ですって?」
「駄目じゃ、駄目じゃ!ぜっっっっっっっったいにやらん!!!!!!!」
「え?そんなに沢山あるのに?良いじゃないですか!ちょっとくらい分けてくれても!」
「ならんならん!そこの薪でも燃やしておけ!」
「いや、これ香木じゃないですやん!?お願いです。亡くなった大切な人への供養に使いたいんです!」
「駄目じゃ!駄目じゃ!」
ガルルルル、と噛みつきそうな目で見てくるフォーチュンさん。なんだよ!ケチ!あんなにいっぱいあるのに・・・
そう思っていた時だった。
「感動した!」
「おわ!びっくりした!気配を消して急に湧いて出るでないわ!」
そこには往年のジュンイチローみたいな顔をした放浪者さんがいつの間にか立っていた。
「よく見なさい、フォーチュン。あの若人の澄んだ輝かしい目を!亡くなった先人を供養しようとする心意気を。我々、先達が手助けしてやらなくてどうするんです!さあ!彼の供養を手助けして共に手を合わせましょう!」
「やだ。」
「フォーチュン・・・いいですか。形あるものはいずれ無くなりますし、執着が強ければ失う悲しみが大きくなります。それに欲には際限は無く、欲を追い求めていては、幸せを掴むことは出来ませんよ。」
放浪者さんはフォーチュンさんに説教をしながら僕に目線を送ってくる。これは・・・
「嫌なものは嫌だもん!」
そう言ってついに年相応の女の子みたいに駄々をこね出した。
「それにヘッドシュータさんは私達にとっても少なからずかけがえのない時間を過ごした仲間ではありませんか。ですから~・・・・・・止まれ!フォーチュン!!今です!剣士君!」
放浪者さんの急な能力発動に一瞬だけフォーチュンさんの動きが止まる。その隙を突き、僕は斧で巨大香木の先端を・・・
「そぉい!!!!」
刈り取った。
空中にくるくると回転しながら飛んだ香木の破片をキャッチ。これだけあれば充分だろう。
ふっ・・・言葉なく目線だけ作戦を実行できる。これが数十年培った放浪者さんとの絆!これで隊長たちの供養が・・・ん?
フォーチュンさんが僅かに先端の無くなった巨大香木を抱えながらあんぐりと口を開け、穴が開くほど見つめて小刻みに震えている。
「おま・・・おま・・・・お前ら殺してやるーーーーー!!!」
泣きながら天秤を出すフォーチュンさん。
おいおい、狭間世界で1、2を争う危険能力って言われてる能力出すとか・・・本気ですやん。
僕と放浪者さんは顔を見合わせ、
「私は右にします。」
「じゃあ僕は左に。」
阿吽の呼吸で左右に別れ、脱兎のごとく逃げ出した。
朝だというのに空の色はこの世の終わりの様にどす黒い赤をしていて、その空からは小隕石と雷が降り注ぎ、大地は割れ、その割れ目から火柱が立ち上った。
以前、酒を飲んでべろんべろんに酔いながら「昔、拠点に居た頃は両陣営全体で2位じゃったんじゃぞ~、わし。」って言ってたけど、正直ふかしてるだけだと思っていた。でも・・・
やばい!やばいって!まじやん!あの人。放浪者さんも昔殺し合う仲だったって言ってたけど、こんな化け物とやり合ってたんかい!どうなってるんだ!?昔の能力者。というか・・・僕一般人!今、無能力者の一般人なんだって!マジで死んじゃうから!これ!洒落にならんて!
小一時間逃げ回り、ようやく空が元の色に戻って、命の危険は去った。
(ありがとう、女騎士さん。あの地獄の様なしごきが無かったら死んでたかもしれない。)
僕は心の中で鬼教官に感謝するのであった。
別方向から放浪者さんも帰ってきたようで、二人して『そー』っと小屋を覗くと、フォーチュンさんは女騎士さんの胸に飛び込んでギャン泣きしていた。
我々二人を見た女騎士・・・いや、般若騎士さんは
「二人とも、正座。」
静かにそう言った。
僕達は顔を見合わせ、大人しく座る。
(これ絶対長いやつですよね・・・)
(ご飯抜きのやつですよ。これ)
正座しながら目で会話する僕達。
そこからは雷雨の嵐のごとく女騎士さんのお説教が続くのであった。晩まで・・・
その日の晩、ようやく食事にありつけてからの食後。
僕は小屋の外に二人の骨壺を持ち出して台所の炭も拝借してくる。
「どうしたんだ?」
声を掛けてきたのは女騎士さんだった。
「僕の居た国では亡くなった人に香りのする木を焚いて死を悼んだんです。」
話しながら骨壺を並べて準備する。
「そうなのか・・・じゃあ私もいいかな?」
そう言って取り出したのは重戦士の骨が包まれているハンカチ。
「勿論ですよ。」
返事を聞いて二人の骨壺に並べてハンカチを置く女騎士さん。
火の残っている炭を三人の前に置き、蘭奢待ちゃんの破片を取り出す。すでにナイフで刻んでおいた。
「お?剣士君。焼香するんですね。おーい!フォーチュン!」
放浪者さんが僕達に気づき、まだべそをかいているフォーチュンさんを連れて出てくる。
「わしの蘭奢待ちゃん・・・」
二人が駆け寄ってくるのを見て僕は刻み香を摘まみ、火種にそっと置いた。
『ブワっ』と煙が上がり辺りに得も言えぬ甘い香りが立ち込める。
「ああ・・・流石わしの蘭奢待ちゃん。最高じゃ・・・」
フォーチュンさんが目を真っ赤に腫らしながら自慢気に笑っていた。
月夜に一筋の白い煙が立ちのぼる。その煙を見ながら静かに手を合わせると、皆もそれに倣った。
(どうか・・・届きますように・・・)
亡くなった人に実際届いているかどうかは分からない。でも・・・
この亡くなった人に想いを馳せる静かな時間は、僕の心にとって大切な時間だった。それは昔の人もそうだったのだろう・・・。体感すると身に染みた。
「ところで蘭奢待って50回くらい切り取られてるそうですから、あと49回出来ますね!」
そう言った瞬間、女騎士さんに頭をグーパンでどつかれるのであった。
「ふぅ・・・」
「だいぶ様になってきましたね。」
真夜中、また僕は放浪者さんと二人で抜け出していた。
音で気付かれないよう小屋からはかなり離れた平地。
そこでの訓練が一区切りつき、座り込んで休憩する。
「しかし、いいんでしょうか・・・?」
「何がです?」
「いや、何というか・・・やっぱり後ろめたい気持ちもあったり・・・」
世話になっている人を騙すような形で流石の僕もちょっとは引け目を感じていたのだ。
僕がソレを指先でクルクルと回していると、放浪者さんがソレを摘まみ取り上げる。
「怖いですか?これが。」
「まー、怖いか怖くないかといえば、怖いかな?」
「なら、大丈夫です。これが怖いと思えるあなたなら。」
そう言って僕の手を取り、ソレを握らせてくる。
「きっと、必要になる。これはあなたの助けになるでしょう。大丈夫!これはまだ弱い方ですし・・・」
「うへぇ・・・まじか・・・これで弱い方ね。」
はよ処分した方がいいんじゃないか?
「さ、もう少し続けましょう。それにもう一つの根本的解決の訓練もありますし。」
放浪者さんの掛け声で立ち上がり訓練を再開する。これを使わない日を願って・・・
乾いた音が早朝の森に響く。今日は訓練がお休みなのだ。
大昔は女騎士さんに毎日しごかれていて、『筋肉も休息が必要なんです!』と訴えたことがある。しかし『嘘をつくな!』信用されず、しごかれそうになったところ、フォーチュンさんに『それは事実じゃぞ?』と助けてもらって、ちゃんと休息日が出来たのだ。っていうか、僕が言ったら嘘で、フォーチュンさんが言うと信じるって・・・え?なんだろ?僕・・・もしかして信用されて無い?そんなこと無いよね?・・・・無いよね???
そんなこんなで今日は生活のための薪をこうして朝から作ってるわけですな。僕、えらい!お姉さまが生きてたら頭撫でてくれたことでしょう。なんだかんだで超甘々で優しかったからね、あの人。・・・隊長モードでなければ。
薪割りをしていると『ガチャっ』と扉が開く音がして出てきたのはフォーチュンさんだった。
手にはフォーチュンさんの宝物のどでかい香木が抱えられている。
「おお、小僧。おはよう。精が出るな。」
「おはようございます、フォーチュンさん。どうかしたんですか?」
「ん?いや?どうもせんよ。」
嘘だ。フォーチュンさんとの付き合いもかれこれ数十年になる。この人は考え事があるとコレクションの手入れをするんだ。ほら言ってる間に小屋の前の石段に腰かけて大切な香木を刷毛を使って手入れしだしたぞ。
(昨日の次元斬さんとの話が原因だろうな・・・)
結局、あの後、何を話したのか聞いてみてもフォーチュンさんは何も答えてくれなかった。
薪割りをしながらフォーチュンさんの様子を伺う。
無表情でサッサッと刷毛を使って香木をなぞる、魔女っ子おばあちゃん(見た目は若いよ、見た目は・・・)
さっき、隊長のことを考えたからだろうか・・・僕はその巨大な香木に目を奪われていた。
隊長と僕が忘れてしまっている大切な人、あの制服を着た女の子のお骨は骨壺を作り、僕らの小屋の窓際に並べて大切にお祀りしている。今日も朝起きたら静かに二人に手を合わせてから薪割りに取りかかった。
そういえば、僕が居た日本では亡くなった方に対してお香を焚いて供養していたんだった。
僕の視線に気づいたフォーチュンさんが、
「どうした?小僧?そんなに見つめて。わしに惚れたか?」
『ふふん!』とちょっと得意げに何言ってんだろ?この人。その幼児体型で?頭湧いてんのかな?
「いえ・・・その香木・・・」
「おお?これか?お主にもこの沈香の良さが解るようになったのか?そうかそうか!」
嬉しそうに『うんうん』と頷くお婆ちゃん。
「それって良い匂いするんですか?」
「勿論じゃ。ワシの蘭奢待ちゃんは最高の香りじゃぞ?」
どや顔で自慢するお婆ちゃん。名前までつけて愛でてるのか?あーもう、頬ずりまでしちゃってるよ、この人。
「へ~。じゃあちょっと切り取って分けてくれませんか?ヘッドシューターさんと、あの制服の子にお香の一つまみもあげれてないなって思って。」
そう言うと『ピシっ』という音が聞こえそうなくらいフォーチュンさんは固まり、小声で、
「駄目じゃ・・・」
「え?何ですって?」
「駄目じゃ、駄目じゃ!ぜっっっっっっっったいにやらん!!!!!!!」
「え?そんなに沢山あるのに?良いじゃないですか!ちょっとくらい分けてくれても!」
「ならんならん!そこの薪でも燃やしておけ!」
「いや、これ香木じゃないですやん!?お願いです。亡くなった大切な人への供養に使いたいんです!」
「駄目じゃ!駄目じゃ!」
ガルルルル、と噛みつきそうな目で見てくるフォーチュンさん。なんだよ!ケチ!あんなにいっぱいあるのに・・・
そう思っていた時だった。
「感動した!」
「おわ!びっくりした!気配を消して急に湧いて出るでないわ!」
そこには往年のジュンイチローみたいな顔をした放浪者さんがいつの間にか立っていた。
「よく見なさい、フォーチュン。あの若人の澄んだ輝かしい目を!亡くなった先人を供養しようとする心意気を。我々、先達が手助けしてやらなくてどうするんです!さあ!彼の供養を手助けして共に手を合わせましょう!」
「やだ。」
「フォーチュン・・・いいですか。形あるものはいずれ無くなりますし、執着が強ければ失う悲しみが大きくなります。それに欲には際限は無く、欲を追い求めていては、幸せを掴むことは出来ませんよ。」
放浪者さんはフォーチュンさんに説教をしながら僕に目線を送ってくる。これは・・・
「嫌なものは嫌だもん!」
そう言ってついに年相応の女の子みたいに駄々をこね出した。
「それにヘッドシュータさんは私達にとっても少なからずかけがえのない時間を過ごした仲間ではありませんか。ですから~・・・・・・止まれ!フォーチュン!!今です!剣士君!」
放浪者さんの急な能力発動に一瞬だけフォーチュンさんの動きが止まる。その隙を突き、僕は斧で巨大香木の先端を・・・
「そぉい!!!!」
刈り取った。
空中にくるくると回転しながら飛んだ香木の破片をキャッチ。これだけあれば充分だろう。
ふっ・・・言葉なく目線だけ作戦を実行できる。これが数十年培った放浪者さんとの絆!これで隊長たちの供養が・・・ん?
フォーチュンさんが僅かに先端の無くなった巨大香木を抱えながらあんぐりと口を開け、穴が開くほど見つめて小刻みに震えている。
「おま・・・おま・・・・お前ら殺してやるーーーーー!!!」
泣きながら天秤を出すフォーチュンさん。
おいおい、狭間世界で1、2を争う危険能力って言われてる能力出すとか・・・本気ですやん。
僕と放浪者さんは顔を見合わせ、
「私は右にします。」
「じゃあ僕は左に。」
阿吽の呼吸で左右に別れ、脱兎のごとく逃げ出した。
朝だというのに空の色はこの世の終わりの様にどす黒い赤をしていて、その空からは小隕石と雷が降り注ぎ、大地は割れ、その割れ目から火柱が立ち上った。
以前、酒を飲んでべろんべろんに酔いながら「昔、拠点に居た頃は両陣営全体で2位じゃったんじゃぞ~、わし。」って言ってたけど、正直ふかしてるだけだと思っていた。でも・・・
やばい!やばいって!まじやん!あの人。放浪者さんも昔殺し合う仲だったって言ってたけど、こんな化け物とやり合ってたんかい!どうなってるんだ!?昔の能力者。というか・・・僕一般人!今、無能力者の一般人なんだって!マジで死んじゃうから!これ!洒落にならんて!
小一時間逃げ回り、ようやく空が元の色に戻って、命の危険は去った。
(ありがとう、女騎士さん。あの地獄の様なしごきが無かったら死んでたかもしれない。)
僕は心の中で鬼教官に感謝するのであった。
別方向から放浪者さんも帰ってきたようで、二人して『そー』っと小屋を覗くと、フォーチュンさんは女騎士さんの胸に飛び込んでギャン泣きしていた。
我々二人を見た女騎士・・・いや、般若騎士さんは
「二人とも、正座。」
静かにそう言った。
僕達は顔を見合わせ、大人しく座る。
(これ絶対長いやつですよね・・・)
(ご飯抜きのやつですよ。これ)
正座しながら目で会話する僕達。
そこからは雷雨の嵐のごとく女騎士さんのお説教が続くのであった。晩まで・・・
その日の晩、ようやく食事にありつけてからの食後。
僕は小屋の外に二人の骨壺を持ち出して台所の炭も拝借してくる。
「どうしたんだ?」
声を掛けてきたのは女騎士さんだった。
「僕の居た国では亡くなった人に香りのする木を焚いて死を悼んだんです。」
話しながら骨壺を並べて準備する。
「そうなのか・・・じゃあ私もいいかな?」
そう言って取り出したのは重戦士の骨が包まれているハンカチ。
「勿論ですよ。」
返事を聞いて二人の骨壺に並べてハンカチを置く女騎士さん。
火の残っている炭を三人の前に置き、蘭奢待ちゃんの破片を取り出す。すでにナイフで刻んでおいた。
「お?剣士君。焼香するんですね。おーい!フォーチュン!」
放浪者さんが僕達に気づき、まだべそをかいているフォーチュンさんを連れて出てくる。
「わしの蘭奢待ちゃん・・・」
二人が駆け寄ってくるのを見て僕は刻み香を摘まみ、火種にそっと置いた。
『ブワっ』と煙が上がり辺りに得も言えぬ甘い香りが立ち込める。
「ああ・・・流石わしの蘭奢待ちゃん。最高じゃ・・・」
フォーチュンさんが目を真っ赤に腫らしながら自慢気に笑っていた。
月夜に一筋の白い煙が立ちのぼる。その煙を見ながら静かに手を合わせると、皆もそれに倣った。
(どうか・・・届きますように・・・)
亡くなった人に実際届いているかどうかは分からない。でも・・・
この亡くなった人に想いを馳せる静かな時間は、僕の心にとって大切な時間だった。それは昔の人もそうだったのだろう・・・。体感すると身に染みた。
「ところで蘭奢待って50回くらい切り取られてるそうですから、あと49回出来ますね!」
そう言った瞬間、女騎士さんに頭をグーパンでどつかれるのであった。
「ふぅ・・・」
「だいぶ様になってきましたね。」
真夜中、また僕は放浪者さんと二人で抜け出していた。
音で気付かれないよう小屋からはかなり離れた平地。
そこでの訓練が一区切りつき、座り込んで休憩する。
「しかし、いいんでしょうか・・・?」
「何がです?」
「いや、何というか・・・やっぱり後ろめたい気持ちもあったり・・・」
世話になっている人を騙すような形で流石の僕もちょっとは引け目を感じていたのだ。
僕がソレを指先でクルクルと回していると、放浪者さんがソレを摘まみ取り上げる。
「怖いですか?これが。」
「まー、怖いか怖くないかといえば、怖いかな?」
「なら、大丈夫です。これが怖いと思えるあなたなら。」
そう言って僕の手を取り、ソレを握らせてくる。
「きっと、必要になる。これはあなたの助けになるでしょう。大丈夫!これはまだ弱い方ですし・・・」
「うへぇ・・・まじか・・・これで弱い方ね。」
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