羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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黄金都市編

黄金都市編その9

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 食事がひと段落して皆さんそれぞれお茶やコーヒーを飲みながら話を交わしていた。

「それでカルディアさん。どうして僕に襲いかかって来たんですか?それにその手は・・・?」

「えっと・・・どちらも説明しづらいんですが・・・。あなたを見た時、何故か殴らなきゃって・・・」

「僕・・・何かしたっけ?」

「い、いえ・・・!本当に!・・・剣士さんは何も悪くないです。あたしが一方的に・・・」
 
 嘘は言っていない。でも全部は言っていない。言ったところで理解はされないだろう。あたしの灰色の世界、なのにあなただけが何故か淡く色づいている。あなたがあたしの失くしたものと何か関係があるかもって・・・。あたし自体ちゃんと理解できていないのだから・・・。
 説明出来ないことは仕方がない。説明できる部分だけしちゃおう。

「あ、あの・・・手なんですが・・・実は私、人間じゃ無いみたいで・・・。神様に人間を模して作られたお人形なんです。その・・・あまり知られていない天秤の神様なんですけど・・・。」

 ライブラ神の名を出した瞬間皆さんの表情に緊張が走る。特に剣士さんは勢いよく立ち上がり、

「あいつに作られた!?あいつとは!あいつとは会ったのか!?」

「え?あ、はい・・・。」

「いつ!?」

「えっと・・・もうだいぶ前になります。」

「どこで!?」

 剣士さんの容赦ない質問攻め。その表情は硬く強張り鬼気迫るものがあった。しかしこれは初対面の人に言っていいものかどうか・・・
 私が悩んでいると、女騎士さんが口を開いた。

「落ち着け剣士君。困らせてしまってすまない。彼はライブラ神に能力を与えられた使徒だったんだ。しかも能力使用時にライブラ神と相まみえていたそうでね。」

「え?いつでも自由にですか!?」
 
 私の言葉に首を縦に振り肯定を示す剣士さん。
 驚いた。もう思い出せない奪われてしまった記憶であたし達・・・いや・・・思い出せない『あの人』は必死にライブラ神を探していたのに、何時でも会える人が居たなんて・・・

「あの・・・さっきの口ぶりだと今は駄目なんですか?」

「能力が使えなくなったんだよ・・・消えたんだ。」

 椅子にドカッと座り、不貞腐れながら吐き捨てるように言う。

「・・・その事なんですがね。」
 静かに話を聞いていた放浪者さんって呼ばれている禿げの人が口を開く。
「私は能力は消えていないと思いますよ。」

「・・・どういうことです?実際、僕はこうして使えなくなってるじゃないですか!?」
 机を叩き苛立ち気味に言い返す剣士さん。

「まぁまぁ、落ち着きなさい。あなたライブラ神との記憶はあるんでしょ?」

「・・・ええ。」

「そこなんですよね。君や女騎士さんは大切な人との想い出を奪われていますよね?フォーチュンとの儀式によって。何かが修正されるって、これだけの弊害が出てるんですよ?なのにライブラ神との記憶は一切何ともなっていない。」

 想い出が奪われ・・・る?それに儀式・・・儀式って・・・何か思い出せそう・・・まずい・・・頭が痛くなってきた。考えてはいけない、触れてはいけない奴だ。それってつまりこの人達はあたしの無くしたもの・・・いや、駄目だ、これ以上考えると倒れてしまう。強制的に思考をやめなくては。

「言われてみればそうですよね。ライブラ様が彼のレバレッジそのものを無かったことにしたなら、失った自身の能力のことを考えるたび頭痛に苛まれて倒れそうになるんじゃないかな?」

 女騎士さんが私見を述べている。

「そ、それは・・・」

「私が考えるに君が能力を使えないのは君自身の問題だと思いますよ。私が行動を制限するアレと同じ原理ですよ。」

「え?放浪者殿のあれはあなたの能力では無いのですか?」

「まぁ、半分正解ですね。正確には私の能力はあなた方の拠点に居たベルセルクという人物のものに近いですね。単純な身体強化です。あの芸当はその副産物というか・・・」

「じゃあ、どうしているのです?」

「絶対的な強者と対峙したとき、身の毛はよだち、身体は竦み、満足に動けないでしょ?所謂威圧感ってやつです。アレを相手に与えて動きを竦ませてるだけです。」

「そんな事で・・・」

「まー、あなた方は本能で怯えてるって事です。だから怯えてくれる人にしか効かないんですよ。フォーチュンに効かないのは本気で戦っても実力が拮抗してるので、私はフォーチュンの絶対的な強者、畏怖の対象になれないんで効きが悪いんですよ。」

 あたしの知らない話が展開され若干置いてけぼりを食らったけど・・・この話って・・・

「それって・・・。」
 私が発言したのが意外だったのか皆から注目される。
「あ・・・えっと・・・それって、同じものを見ていても感じ方は千差万別だから、結局見えている物は自分だけしか解らないし、自分の中だけにしか存在しないモノって・・・ことですか?」

 あたしが口を挟んでしまい。会話が途切れ変な空気が流れる。

「す、すみません・・・変なこと言って・・・」

「いえ、いえ!そう!そうですよ!外側には何も無いのです。内側にしか存在しない。つまり我々は見るもの、聞くもの、味わうもの、触れるのも、香るもの、それら全てが個人の心を通って感じるので同じものでも結局捉え方は全然違うんです。きのこが嫌いな剣士君とそうでない女騎士さんとで同じきのこ料理を目の当たりにして感じ方が違うようにね。きのこの料理は何も変わらないのに。」

 剣士さん、きのこが苦手だったのか・・・それであの絶叫。

「それが僕の能力が消えたのと何の関係があるんです?」

「つまりですね。あなた方は私に勝てない。本気を出した私には到底勝てっこない。その恐怖から動きが止まる。でも、もしも私を雑魚扱いするような奴が居たとしたら私がそいつの動きを止めることなんて不可能なんですよ。私は何も変わらない。同じものを見ているのに。だからね・・・剣士君。君が無能力になったのは君自身の問題ですよ。君自身が無意識に”使えない”と暗示をかけてる。ロックを掛けているんですよ。ホントは使えるんですよ。私が”動くな!”と言って、実のところ動けるように・・・ね。」

「ずいぶん話を脱線させてしまいましたね。えっと・・・ですので彼はライブラ神とは並々ならぬ関係で・・・ん?カルディアさん。大丈夫ですか?顔色が悪いですよ。」

 放浪者さんが自身が脱線させたからか話を本筋に戻そうとする。しかし、あたしは彼らの話の断片で彼らがあたしと似た症状を抱えている事を知り、彼らがあたしと関係あるのではないか?と、ますます深く考え始めていた。どうやらそれは”当たり”だったようで、いつもなら収まるはずの頭痛がより一層酷くなってきているのを感じていた。

「え?・・・ああ・・・ちょっと疲れたのかもしれません。皆さん一旦休憩にしませんか?あたし、お茶を淹れてきます。・・・お菓子もありますから召し上がってください。あたしの手作りなんです・・・」

「大丈夫ですか?私も手伝います。」
 女騎士さんが気遣って手伝ってくれる。どうしよう・・・傍から見てもそんなに悪そうに見えるのかな?
 女騎士さんに手伝ってもらい、あたしが作ったお菓子を出す。何故かこのお菓子だけ不思議と作りたくなるのだ。拠点でもよく口にしたからなのか・・・だが一人で食べていたとは思えないのだ・・・。誰と・・・いや、やめよう、きっと余計頭痛が酷くなるだけだ。

「ほぉ・・・エクレアですか。懐かしいですね。」
 かつての転生する前の事を思い出しているのか・・・それとも拠点に居た頃を思い出しているのか、放浪者さんは目を細め静かに見つめていた。
 剣士さんも静かにじっと見つめていたものだから、そうなのかと思っていたが、様子がおかしい。片手で顔を半分覆うようにして呟き始める。

「エク・・・レア?どう・・・して・・・?そう・・・これはよく現世でも買っていた。買いに行かされていたんだ!誰に!?・・・頭がチリつく・・・。どうして・・・?記憶に、あの・・・制服の彼女が・・・よぎ・・・。」

 剣士さんはふらっと身体が揺れ、椅子から転げ落ちるように受け身も取れず倒れる。
 女騎士さんが慌てて彼の介抱に駆け寄ったがあたしは動けなかった。彼の言葉を聞いた瞬間鈍器で頭が殴られたかのような衝撃を受け朦朧としていた。

「制・・・服の・・・?あたし・・・何か・・・!」
 どこかで知っている!何か思い出せそう。でも記憶に一瞬浮かんだその制服の人は顔が黒く塗りつぶされていた。頭痛はより一層ひどくなり、あたしの意識を刈り取る。
 うっすらと女騎士さんが慌ててあたしの名を呼んでいるのが遠く聞こえる。視界がひっくり返り、かつてない頭痛に耐えきれず、あたしもそこで意識を手放した。
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