羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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黄金都市編

黄金都市編その11

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「ええ~!?闘技場に出るー!?」
 目の前の橙色のボブカットの少女は驚き、目を丸くした後、青ざめる。

「ええ・・・放浪者殿曰く、実力を示してから塔に登れと・・・。それに塔に入るための準備と、入るまでの生活に資金が要るのも事実ですし・・・」

「確かにこの街はお金が全てですから・・・。お二方は市民権は・・・?」

「来たばかりで無いですね。無いとやはり困るのですか?」

 カルディアさんは一瞬口ごもりキョロキョロと辺りを見回し耳打ちするように近づく。もう閉店過ぎの店には我々しか居ないのだが、おかしな子だ。

「市民権が無いとこの街でまともに職につけなかったりします。まともな求人は役所で管理されてますから・・・その求人情報が使えるのは市民証の提示が必要なんです。他にも市民証があれば低金利でお金が借りれたり、厄介ごとに巻き込まれても衛兵さん達が動いてくれますが、無いと全くの放置です、自分でどうにかするしかありません。
 持っていないだけで犯罪者扱いされたり差別されたりもします。犯罪を犯すと市民権が失効しちゃいますから、そういった理由もあるんでしょう。
 二人が出ようとしてる闘技場は確かに市民権が無い方が最も効率良くお金を稼げる所ではありますけど命の危険が・・・」
 カルディアさんは小声で我々に耳打ちする。そう言えばこの街に来たときに役所で市民権が無いってことで衛兵を呼ばれかけた。市民権を得るまではなるべく隠し通さないとな。

「しかもこの街には奴隷商が居て、そこの奴隷は借金漬けの人か市民権の無い人が攫われて金持ちや娼館に売られたりと・・・市民権やお金が無い人はジャッジメントさんも放置なんですよ。」

「うへぇ~。なんでもありだな、この街。ある意味拠点より治安悪いんじゃないのか?気を付けてよ、女騎士さん。美人なんだから。」
 剣士君がげんなりした顔したかと思ったら、表情をころころと変えてニヤニヤとしながらからかってくる。

「そうだな。だからちゃんと守ってくれよ。じゃないと私が誰かのモノになってしまうかもしれないからな。よろしくね、ナイトさん。」

「手を出せないの知っててそれするんだもんな。」

「ええ!?やっぱりお二人ってそういう関係。」
 私がウインクしてしてみせると、彼はぶつくさ言い、口をへの字に曲げる。その様子を見て、カルディアさんがひとり顔を真っ赤にしながらおたおたしている。こんなにも可愛らしい感情豊かな人が人間じゃなく人形とは私には到底思えなかった。

「フフッ、まあ、こういう軽口言い合える関係って事ですよ。」

「へ?・・・あ、そう言う・・・あたしったら早とちりしちゃって・・・。」
 さらにカルディアさんの顔がさらに赤くなる。その様子に私も彼も笑みがこぼれた。

「ふふふ・・・なんだか楽しそうですね~。」
 音も無くいきなり現れたのは放浪者殿だった。私達は慣れているが、慣れていないカルディアさんは小さく叫ぶ。慣れないうちは怖いんだ。こういう世界だから。

「放浪者殿。気配無く急に現れないでください・・・。」
 呆れつつ言うと悪びれも無く、明るい『すみませ~ん』が帰ってくる。

「で?僕達がせっせと労働に勤しむ中、どこ行ってたんです?」

「まあまあ、私も遊んでいたわけじゃ無いんですよ。闘技場と塔を見てきました。」
 その言葉に私も剣士君も顔が引き締まる。

「マッチングしたんですか?」

「先に塔の事をお話しましょう。入口は一つ。噂通り出てくるものはいませんし、外に音も漏れてきません。内部がどうなってるか全くの謎です。外壁は硬く、本気で殴っても傷一つ付けれませんでした。」

「滅茶苦茶怒られたでしょ~?」

「あ、わかります~?」

「二人とも笑い事じゃありません。何をやっているんですか。」
 剣士君と放浪者殿は笑い合いながら楽しそうにやり取りするが、私は呆れて頭が痛くなってくる。悪ガキを持つ母親ってこんな感じなのだろうか?私達のやり取りにカルディアさんからは乾いた笑いが漏れていた。

「いや、私だって無意味に殴ったわけじゃないですよ?入った者は出てこれないって言いますし、物理的に横穴でも作ったらどうなるかなーって・・・。案の定無理でしたけどねー。トータルが所持していた内側から書かれた手紙というのは、ある日、塔の見回りをしたときに無造作に落ちていたそうです。」

 放浪者殿が破壊不能な壁を内側から破壊して手紙を外へ出すなんて芸当が出来そうなのは・・・あの人だろうか?私が知っている中では心当たりは一人しかいないな。

「それで僕らの対戦のほうは?」

「明日の昼です。対戦相手の登録名は『アイスエイジ』になってましたね。」

「氷系の使い手でしょうか?手強そうですね・・・。」
 
「あの・・・登録名は好きに登録できるんですよ?もしかして・・・知りませんでしたか?」
 カルディアさんがおずおずと答える。

「「えっ!?」」
 そんなことは何一つ聞いていない。すかさず剣士君は放浪者殿を問いただした。

「放浪者さん!?僕らの登録名って何になってるんですか!?」

「ふ・・・・」
 放浪者殿は不敵に笑ってから、
「『かの原初七祖の内3人から教えを受けた弟子一号(男)と弟子二号(女)』で登録しておきました!」
 どや顔を決めた。

 は???何をしているんだ????この人は???????
 『ピシッ!』っと空気が凍る音がする。ニコニコしているのは放浪者殿だけだ。

「な・・・」
 俯き、ぷるぷると震える剣士君は、
「なにしとんじゃーーーー!!!この禿げーーーー!!!!」
 やっぱり爆発した・・・。放浪者殿の胸ぐらを掴みガクガクと揺さぶる剣士君に対し、放浪者殿は笑みを崩さずすっとぼける。

「ま、まぁ・・・敢えて名前を強く見せて相手の動揺を狙うという方法は過去にありましたし、相手の方もあんまり本気で捉えていないと思いますよ!」
 カルディアさんが精一杯のフォローをくれて、剣士君が放浪者殿を解放したが、

「大丈夫です!さっきまで闘技場で法被に襷をかけて『私の弟子が出場しまーす。対戦オナシャス!』って宣伝してきましたから、その甲斐あってマッチングも素早くいったわけで・・・。おまけに結構手強そうです!ばっちりですね!」
 
 再びの沈黙・・・。
 カルディアさんは頭を抱え、剣士君は泣きながら放浪者殿を揺さぶり、騒がしく夜は更けてゆく・・・。
 私は喧噪を聞きながら窓から遠くを見つめる。ああ・・・こんなので私達は無事に明日を切り抜けられるのだろうか・・・?
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