羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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黄金都市編

黄金都市編その17

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「よし・・・!」
 その場で飛び跳ねたり、拳を握ったり開いたりして体の具合を確かめる。

「いけそうだな。」
 荷物を纏めて治療院を後にする。

「お?剣士君。迎えに行くところだったのに・・・」
 外に出たところで女騎士さん、カルディアさん、青ニートと出会った。

「みんな、ありがとう。というか、女騎士さんなんて僕より深手のはずなのになんで先に退院できてるんですかね?」

「まあ・・・君のは外部から見えないダメージだしな。それに能力使ったのは数十年ぶりだろ?無理もない。」

「ちょっとバニラ?こいつの能力って土とか構造物の操作じゃないの?」

「あー・・・まあ・・・。」
 アイスエイジが僕の能力に探りを入れるが女騎士さんは曖昧に誤魔化す。

「おい青ニート。」

「ニートいうな!元アイドル!それに魔法少女は現役ですし!ニートじゃないしぃ~!」
 こいつぅ!あの一件以来働きもせず喰っちゃ寝してたじゃねーか!借金まで弁済させやがって!お前のせいで入院中怖いお兄さんが僕のとこにお見舞いに来たんだぞ!?

「他人の能力の詮索はマナー違反じゃねえのか?」

「そーですよ。アイスエイジさん。それで生死を分けたりするんですから。」
 橙色の常識人さんが青ニートを窘める。

「そーだけどさ・・・。む~・・・二人の秘密みたいでなんか悔しいじゃない!」

「黄金都市で出会った私達とは付き合いの長さが違うんですからしょうがないですよ。」

「そーなんだけど。そーなんだけど・・・。」
 正論を言われてるので普段より駄々が大人しいが納得していない様子だ。
「これからこの4人と1匹で塔に登ろうっていうのに・・・なんか仲間って認められてないみたいで寂しいじゃん・・・。」
 俯きしゅんとなるアイスエイジ。背の低い彼女の頭をそっとカルディアさんが抱き寄せ撫でる。

「はあ・・・。レバレッジは身体能力強化。構造物作ったりしてるのはこいつの能力。」
(レバレッジは詳細に言うことは無いだろう。)
 タロットの装着をオフにしタワーのカードを見せてやる。

「え?すご!初めて見た!ねえねえ!これ都市伝説の能力が付与できるってタロットカードでしょ!?なんでこんなの持ってるの!?」
 アイスエイジが目を輝かせタロットを覗き込む。カルディアさんも控えめながら興味津々だ。

「知らなかったのか?フォーチュンさんの二つ名はタロットオブフォーチュン。全てのタロットを所持した人物だぞ。」

「え?マジ?・・・チートじゃん。」
 アイスエイジが青い顔をする。そういやこいつフォーチュンさんに喧嘩売るつもりだったんだよな。

「喧嘩したのが僕達で良かったな。」
 そういうとアイスエイジが首を高速で縦に振るもんだからツインテールが揺らめいて面白いことになっている。

「あと、くれぐれも内緒にしろよ。お前に言ってるんだからな。」

「わ、わかってるわよ!そこまで非常識じゃないわよ!」
 大丈夫かな?てか、自覚あるのかよ。最近、こいつが芸能事務所をクビになったのって、問題児のこいつを僕の写真事件にかこつけてこれ幸いにとクビにしたんじゃ無いかと思い始めてきたんだよな~。

「ねえねえ!それじゃ、明日には塔に入るの?」

「いや、まだ準備が要るよ。ちょっと野暮用もあるしな。」

 だいたいの物は先にカルディアさんや女騎士さんに揃えてもらったが・・・僕には退院したら行きたい別件の用事があった。

「私も用事があるんだ。義手を見てもらっておこうと思ってね。カルディアさんが腕の良い鍛冶師を知っているので案内してもらう予定だ。」

「えー。それじゃ私一人じゃん。ん~暇だからアンタについて行くわ!」

「え?いや・・・普通に迷惑なんですけど?」

「ひどっ!なによ!私のマネージャーのくせに!放っておくつもり!?やだやだやだ!私もついてくついてくついて行く~~!!!」
 道端で駄々こねだしやがった。戦闘能力は高いから用心棒代わりにはいいかもだが、 こいつを連れていったらゆっくり話出来ないかもしれないしなぁ。

「女騎士さんとカルディアさんについて行けばいいだろ?」
 何とか二人に押し付けようとするが、

「悪いな剣士君、てっちゃんは二人乗りなんだ。じゃあな。」

「あの・・・その・・・ごめんなさーい。」

「あっ!ちょっ!」
 言うや否や二人してクソ犬に跨って走り去っていく。
 くそう・・・ジャイ●ンとスネ●じゃあるまいし・・・あいつらアイスエイジが面倒くさい奴だからって逃げやがったな・・・。 
 チラリとアイスエイジを見ると、

「えへへ~。」
 と、馬鹿そうなニヘラ笑いを浮かべる。なにわろてんねん。連れて行くなんて言っとらんじゃろがい!



「二人きりだね。でも、ごめんねぇ~。私ってアイドルだから、みんなのモノで誰かのモノになれないから、私の魅力に魅了されても、あなたの気持ちは受け取れないの~。だから二人きりって言っても発情しないでねぇ~。ああ・・・私って罪なお・ん・な。」

 横にピッタリついて腕からめながらこれ言ってくるんだもんな。殴りてぇ~!超殴りてぇ~!今なら良い感じの男女平等パンチが繰り出せそう。
 結局、ついてくることになったアイスエイジ。こいつの話を聞いてるだけで生命力が吸い取られそうなんだが。な~にが魅了だよ。お前はテンプテーションの使い手じゃなくてソウルスティールの使い手だろうが!ああ・・・見切りが欲しい。

「さいですか。じゃあ横じゃなくて三歩後ろ歩いてくれる?」

「まさかの昭和!?」
 
 酷いだの、冷たいだのギャーギャー騒ぐアイスエイジを放っておいてズンズンと目的地を目指す。

「着いた、ここだ。」

「って・・・役所じゃない?ここになんの用なの?」

「頼むから大人しく、行儀よくしててくれよ。」

「子ども扱いしないで!私は一人前のレディよ!」
 胸をどんと叩いてフフンッ!と得意げなポーズをとる。

「そうかレディ。言っておくがこれから会うのはジャッジメントさんだからな。」
 ジャッジメントに会うと伝えた瞬間得意げなポーズのまま冷汗をかいて固まった。
 こいつでもジャッジメントは恐いんだな。

「ま、自信が無かったら外で待っとけよ。」

「ばばばばばばばばば馬鹿にしないで!ついて行くわよ!」




 役所に入り受付の人に取次ぎを願う。程なくして面会の許可が降りた。
 二階に上がり、ジャッジメントさんの執務室にノックをして入室する。

「久しぶりだな。ちゃんと実力を示したみたいだな。おまけに何が無能力だ。たばかりやがって。」

「ははは・・・おかげさまで。」
 カードのことを黙っていたことを曖昧に笑って誤魔化す。

「まあいいさ。先程、禿げもここに来たぞ。また旅に出るってな。」

「そんな!僕らには何も・・・」

「認めたって事だろ?あの禿げ、わざと強い奴とマッチングするように仕向けてたからな。お前らはそれを跳ね返した。あいつなりにもう一人前として認めたって事だろう。そう言う奴さ。お前さんも知ってるんじゃないのか?」

「そう・・・ですね・・・」
 最後になるかもしれないから挨拶したかったが、ジャッジメントさんが言うようにあの人はそういう人だ。

「それにしても・・・。」
 ジャッジメントさんは僕のしんみりした様子を見て、話題を変えるように不思議そうな顔をして僕とアイスエイジを見る。

「二人は戦ったと聞いたが・・・対戦者同士がつるむってのは珍しいな。」

「そうなんですか?」

「まぁ、あそこは命の取り合いだからな。」

 それもそうか。実際もうちょっとで僕らも殺されるところだった。戦い以外はただのポンコツなんだが、いざ戦いになればこの世界で生き抜いてきただけある。攻撃に容赦が無かったな。まぁ、元来の性格のせいか、ちょっと慢心があるのがな。それさえ無ければ勝敗は逆転していたかもしれない。
 隣に座るアイスエイジを見る。緊張のせいか、ここに入ってから一言も喋らず、まるで美少女のようだった。頼むからずっとそのままの君でいてくれ。

「それで、本題なんですが手紙は拝見していただけたでしょうか?」

「ああ、調べはついている。これだ、持っていけ。」
 ジャッジメントさんからメモを受け取る。

「ありがとうございます。あの・・・お金は・・・」

「要らん。こんなことではした金受け取っていたら私の品性が疑われる。それよりも用事が済んだら早く退室してくれることの方がありがたいね。」
 相変わらず多忙な人だ。席を立ち、静かに頭を下げ部屋を後にする。アイスエイジも僕に倣った。

「ねえ?それなんなの?」
 アイスエイジは市役所を出るとようやく口を開く。

「療養中に頼みごとをしていたのさ。まぁ、人探しなんだけどね。」

「じゃあその人に会いに行くんだ。」

「ああ・・・。」

「昔の彼女とか?」

「ちげーよ。昔の拠点の知り合い。塔に入る前にちょっと話しておこうと思って・・・。」

「ふーん・・・」
 なんだか大人しいな。

「お前は挨拶しておく人とかいないのか?」

「うーん・・・仕事でお世話になった人とかファンとかならいるけど・・・挨拶しておく程じゃないしな~。」

「いや、居るだろ?仲間とかは?」

「みんな死んじゃった。」

「悪い・・・。」
 迂闊だった。こいつが底抜けに明るいからつい忘れてしまっていた。こいつもかつては拠点で戦ったのだろう。戦火を潜り抜け、やがて長い月日を経てここにたどり着いたのだろう・・・。
 そいつをうっかり失念していた。

「なんで?ここじゃ当り前だよ。」
 そう言って笑うが・・・
(そんな当たり前に慣れてんじゃねえよ・・・)

「ねえ!」

「うん?」

「アンタたちはさ・・・長生きしてよね!」

 そう言うとご機嫌な様子で鼻歌歌いながら先に行く。
 (馬鹿が・・・お前が先導しても場所知らないじゃないか。それにしても、『長生きしてよね』か・・・『いなくならないでね』とか『死なないでね』ではなく・・・)
 
 ここは元居た世界とは理が違う。年を取らないこの世界でそのセリフ選んだアイスエイジのこれまでを想像して僕はとても寂しく感じた。
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