羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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黄金都市編

黄金都市編その24

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 僕は石で出来た分厚いドームを踏み台にジャンプしてイージスの首元に剣を突きつけた。空中にあった機銃は音を立てて地面に落ち、イージスは地面にへたり込む。それを確認して皆が僕の所に集まってくる。

「なぜだ・・・なぜ勝てないんだ!お前らみたいなカスに負けるなんて!」

「イージス・・・あなたの能力は攻撃ではなく防御ための能力ですね?隣で見てきた私にはわかります。いつも主人であるあなたを自動で真っ先に守ろうとしますから。おまけに取り扱う武器や火器によって取り回しの速度が違います。リロードが少ない、弾倉の多い機銃を選んだのでしょうが、旋回能力は随分落ちます。照準の優先を左右上下に振られると途端処理能力が落ちるんです。」

 アドミラルさんがイージスの前に跪き、イージスの手を取りナイフを握らせる。そしてそのままイージスの手を自分の胸元に導いた。

「ちょっと何してるの!?」
 アイスエイジが止めに入るがアドミラルさんがそれを目で制止する。

「どうぞ、イージス。さあ、あと少し押し込むだけです。」

「糞ビッチがぁ!!!舐めやがって!!」
 言葉では激昂しているが、ナイフは動かない。刃先が小刻みに震え、一ミリも先に進まなかった。

「代表・・・。私はあなたの傍で長く仕えましたが、その間あなたは自分のその手で人を殺したことが一度もありましたか?いつも能力を使ってました。その指を使って一度だってトリガーを引いたことは無かった。処刑だって命令一つで、自身の手で行うことはしなかった。イージス、あなた・・・自分の手で殺すのが怖いのでしょう?もしかして自分の手さえ使わなければ綺麗で居られると思ったのですか?」

「黙れ黙れ黙れ黙れ!!私は!異世界に・・・こんな世界などに来たくなかったんだ!あの日、事故に合わなければ・・・こんな・・・。今頃は東大に通って、世界で活躍する大企業に入社して、結婚して、東京のタワマン住んで・・・何もかもが上手くいくはずだったんだ!人殺しなんてお前らクズがやっていれば良いんだ!価値のある私のような者がする事じゃないんだ!こんなはずじゃ・・・なかったんだ・・・」

「イージス・・・可哀想な人・・・。冷酷な鉄の仮面の下には誰よりも弱い顔が・・・」

「うるさいうるさいうるさいうるさい!この阿婆擦れが!殺してやる!」

 地面に落下していた。機銃が持ち上がり、アイスエイジと女騎士さんが剣を構えるが・・・

「そこまでだ!!!」
 
 街の役場の方角からぞろぞろと衛兵を引きつれてジャッジメントさんが歩いてくる。

「全員武器を収めろ。」
 その言葉に皆が従った。イージス以外は・・・

「指図するなぁ!!!」
 ジャッジメントさんに照準を向けるが・・・

「跪けぇ!!!」
 ジャッジメントさんが言葉を発するとイージスが地面に這いつくばるように張り付つ。無理に立とうとするが、立つことが出来ず地面で無様にもがくこととなった。

「う、動けん・・・なんだこれは!!」

「ここでは俺が法だ。お前もここに入るときに同意したな?」
 そう言って手に持っているのは街に入った時に貰ったパンフレット。
「イージス。武器職人ガンスミス殺害の及び窃盗、街中での乱射、殺傷によりこのジャッジメントが裁きを下す。連れていけ。」
 控えさせている衛兵に指示を出すと、両腕を抱えられ連れていかれる。

「待て!くそっ!離せ!・・・・アドミラル!お前は何故私と居た!?憐れみか!?お前みたいな安い女に憐れみを向けられる様な筋合いはないぞ!私の両親は議員に上場会社の経営者だ。親族には警察、裁判官や検察官も居る。政界にも財界にも法曹界にも顔が効くんだ!日本に帰ったら、探し出して後悔させてやる!ここにいるお前らもだ。よく覚えておけ!」

「何言ってる?お前はここまでだよ?イージス。何の罪もない人を殺してんだ、処刑に決まってんだろ?」
 イージスは連行されながら僕らに向かって喚き散らすが、ジャッジメントさんは無慈悲な宣告をした。その言葉を聞いたイージスはポカンとしてから両脇の衛兵に向かって喚きだす。

「なん・・・だと!?私は日本に帰ったら必ず必要になる人材なんだ。生まれも受けてきた教育も、お前らとは人としての価値が違うんだ!おい・・・聞いてるのか?おい!」

「あ~・・・ぼっちゃん。ここはね、日本じゃないんでさぁ。」
 頓珍漢なことを言って暴れるイージスに大柄の衛兵が答える。

「そういうことだ、イージス。大人しく死んどけ。・・・ったく、腕の良い職人を殺りやがって・・・」

「ふざ・・・ふざけるな!アドミラル、私を助けろ!おい!聞いてるのか!?アドミラル!アドミラルーーーーーーー!!!」

 連れていかれるイージスの絶叫が街に木霊する。その様子を控えている衛兵たちはクスクスと笑う。

「何がおかしいんだ?」
 笑っている者たちをギロリと睨みつけるジャッジメント。
「お前たちは死ぬ間際そんなに綺麗で居ていられるのか?泣き叫ばず、恨み言もいわず、凛とした顔で高潔に死ねるのか?俺は自信ないね。きっとああだろう・・・。お前たちは違うのか?そんなにすごい奴だったのか?知らなかったよ。」
 嫌味ったらしく、笑っていた衛兵たちに言うと、笑い声は静まり、皆バツが悪そうに俯いた。

「笑っている間があったら息のある者をとっとと助けろ。」
 そう言って睨みつけると、すぐさま蜘蛛の子を散らすように倒れている人に駆け寄り、介抱していく。
「ふぅ・・・。生まれを問うな、行いを問え、とは昔の人は良く言ったものだな。お前たちご苦労だったな。礼を言う。塔に入るんだろ?こいつを持っていけ。俺の紹介状だ。困ったことがあったら中にいるゴールドラッシュに見せな?」

 ジャッジメントさんは労いと一通の手紙を寄越してくれる。僕はそれを受け取った後、この街のことを・・・この街で過ごし感じたことを聞いた。

「一つ聞いていいですか?」

「なんだ?」

「どうしてこの街はこんなに厳しいのでしょう?」

「厳しいか?」

「弱い人は生きていけない・・・。」

「実に自然体だろ?」

「自然体って・・・。」

「ある魚がいる。その魚は産卵期になるとオスはメスを囲い、メスの準備ができるまで他のオスを寄せ付けないように戦うんだ。そして勝ち続けたものだけがメスと交尾が出来る。当然勝ち続けるには大きな体躯が必要だ。さて、魚はその大きな身体を手に入れるためにトレーニングでもするのだろうか?努力によって勝ち得た体躯だろうか?
この世界に送られた奴は何かしら能力を得ている。その点では平等だ。だが能力の優劣がある。その点では不公平だ。でもこの事実がとても自然体に思えるんだよ。俺はそこが気に入っている。」

「でも人類はその不公平を智慧で克服しようとしてきました。」

「そうだ。その通りだ。極端さは避けないといけない。だから俺もどうにかしなくでは、とは考えてるんだけどな・・・。多少税金は取ってるが、やりすぎて”皆同じだけ糧を得ましょう”じゃ不満出るのは分かるだろ?それじゃ真逆の極端だからな。それにここの連中と来たら欲の権化みたいな奴が多すぎる。金や力がある者ほどそうさ。弱者の事なんて気にも留めてねぇよ。下手に再分配を進めるとそいつらが黙っていない。”他者を助けましょう”ってそんな奇特な奴が居ればその活動に多少補助金でも出すんだがな。」

「昔・・・そう言う人居ました。」

「死んだか?」

「はい・・・。」

「だろうな。そう言う奴は大抵死んでるんだよ。長生きできない。それに心の底では俺はそういった支援に乗り気じゃないんだろうな・・・。だってさ、皆味わっただろ?異世界で。
異世界でこんな能力持ってる奴、俺たち以外に居たか?居なかったろ?実に不平等で不公平だ。それを散々楽しんできたんだ。それが急に無くなったら助けてくれは虫が良すぎるんじゃないか?ってな。
ま、でもお前の言ってることは正しいよ。だから善処はするさ。話は終わりだ。さあもう行け。」

 そう言ってジャッジメントさんは部下を引きつれて去っていった。結局ジャッジメントさんにはああ言ったものの結局僕も有効な手段なんてものは持ち合わせているはずも無く、ただ自身のささやかな不満をぶつけただけだった。何もしてあげられない。そんな知恵も力も持ち合わせていないんだ。

「お見事でしたね、皆さん。さすが、お強いですー。」
 少し鬱屈していたところに拍手しながら近づいてきたのはピンク髪の女性。

「どうも・・・」

「危なそうなら私も手を貸そうと思ってましたのに・・・。必要無かったですね~。」

「ごめんなさい・・・あたしも見てることしかできなくて・・・」
 てっちゃんに跨ったカルディアさんが申し訳なさそうに謝る。

「お二人を使わなかったのは、私がその実力を知らないからです。気になさらないでください。それよりも、さあ皆さん、塔へ行きましょう。」
 アドミラルさんがフォローを入れ、皆を塔へと促す。皆がぞろぞろと塔に歩いて行く中、アドミラルさんは表情を変えずポツンと立ち止まっていた。

「さようなら・・・私が希望を託した人・・・。」

「アドミラルさん?大丈夫ですか?」
 誰に伝えるでもない小さく呟くように言う彼女の様子が気になって声をかけた。

「ありがとう。能力がまだ効いているので・・・。でも・・・塔に入って少し落ち着いたら泣こうと思います。今の私にはそれが出来るから・・・。」
 少し寂しそうな笑顔を浮かべてから塔へと歩き出す。その寂しそうな背中に僕も続いた。













「カルディア!カルディアーーーー!!!」

「ちょっと落ち着いて!」

「これが落ち着いていられるか!」

「カルディアが心配なのはわかるがけどちょっと黙って。正直、何が出てくるか分からないんだから。」

 私達は同時に塔に入ったはずだった・・・なのに。ここに居るのは私とてっちゃんとアドミラルさんだけだ。
 辺りは木漏れ日が差し込む穏やかな森。上を見れば空があり、とてもここが塔の中とは思えない場所だ。これが安全な場所ならピクニックに持って来いだったのだが・・・そうはいかない。私は辺りを見回し、手には冷気を溜めて注意深く警戒する。

「皆さん、構えてください。見られてます。」
 アドミラルさんが腰に下げているレイピアを静かに抜きながら声をかける。

 居る・・・確かに・・・。
 右も左も分からない場所でいきなりのアクシデント。これが塔の洗礼とでも言うのだろうか・・・

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