羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その1

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「女騎士さん・・・。」

「大丈夫、大丈夫・・・私が守ります。それよりもあまり不安な表情は見せないでください。つけこまれます。あと、なるべく顔は見ないように。」

 カルディアさんにそう言ったものの、まるで自分に言い聞かせてるようだ。背中にじっとりと汗をかいてるのを感じる。とにかく顔に焦りが出ないようにしないと・・・。
 とは言え、右も左も分からない、塔に入ったと思ったらカルディアさんと二人で大勢の人が行きかう大通りにポツンと立っていて、今はひたすら目的も無く、周りに怪しまれないようにという理由だけでなるべく人の多い道を歩いているだけだ。何とかしないといけないのだが、誰に何を話せばいいのか・・・。質問や話の内容で塔に来たばかりの人間だとバレてしまう。相手が悪人か善人かわかりもしないのに、そのような事態は避けたかった。
 考え事をしながら歩いていると・・・

「しつこいんだよ!!!」

「お願いです!彼女と・・・あ・・・!」
 目の前の店の扉が開いたかと思うと、ガタイの良い男が、ひょろい男を摘まみだしていた。ひょろい男は縋りつくも無慈悲に扉は閉められ、何度叩いても再び開くことは無かった。

「大丈夫ですか!?」

「カ・・・。・・・ああ、仕方ないな・・・。」
 後ろからカルディアさんが止める間もなく小走りに男へ駆け寄る。正直なところ厄介そうなので関わりたくは無かったのだが・・・。私も彼女に続いて男に近寄った。

「す、すみません・・・変なところを見せてしまい・・・。」

「どうしたんですか?」

「実は・・・俺の彼女が仕事を始めてから帰ってこなくなって連絡も取れなくなったんです・・・。ここが彼女が働いている系列店なんですが・・・」

「それで彼女に会えないか尋ねたってこと?」

「門前払いでしたがね・・・。」

「力になってあげたいんですけど・・・あたしたちも来たばかりで・・・仲間ともはぐれるし・・・。」

「そ、そうなんですか?はぐれた仲間とはどんな方なんです?」

「黒髪の剣士だ。嫌らしい顔をしている。あとは青髪のツインテールの恥ずかしい恰好をした少女、アイスエイジ。メイド服の黒髪ロングの落ち着いた女性、アドミラル。喋るガルム、てっちゃんだな。」
 私は二人の会話に口を挟み、皆の特徴を伝えたが、男の表情は芳しくない。

「う~ん・・・すみません。俺は知らないですね・・・。」

「なら、背の低くて、大きな魔女帽を被った、変わった口調の少女を知らないか?フォーチュンと呼ばれているんだが・・・。」

「え!?フォーチュン!?」

「知っているのか!?」
 まさかこんなに早く情報が得られるなんて僥倖だ!

「・・・あの・・・言いにくいのですが・・・」

「何を・・・だ?」
 男の様子がおかしい。奥歯に物が詰まったよな歯切れの悪さ。

「その・・・フォーチュンはこの塔で最も攻略を進めている”攻略隊”に損害を与えた人物って言われているんです。フォーチュンの所為で部隊が壊滅したって・・・だからあまり、その名を呼ばない方が・・・。」

「なんだって!?そんな馬鹿な!あの人はそんな人じゃない!!」
 
「す、すみません!噂になってて・・・。そういえばこの街にフォーチュンと一緒に戦った人が居てるらしいのです。よかったら俺が探してみましょうか?」

「出来るのか!?」

「はい。俺の仕事は配送業ですから、結構顔が広いんです。分かりましたら連絡しますよ。」

「え?どうやって?」

「あ、俺はチェイサーと言います。能力は文字通り追跡能力です。あなた達のことは記憶したので追跡できますよ。何か分ったら会いに行きます。」

「あの・・・チェイサーさんの彼女さんってなんて言うのですか?」
 カルディアさんがチェイサーさんの彼女の名を確認しだす。何だか嫌な予感がするんだが・・・

「ま・・・いえ・・・雷閃公女‐ブリッツライン‐という二つ名で呼ばれてました。」

「なんだか強そうな人ですね・・・。」

「ええ、俺が非戦闘職の俺と違って彼女はバリバリの戦闘職ですから・・・。拠点時代からずっと守ってくれてたんです。それがこの店で働き始めてから会えなくなって、連絡も取れなくなるし・・・それに・・・」

 なんだ?少し表情が暗いな、言葉も歯切れが悪いし。

「じゃあ代わりにあたしがお店に潜入してブリッツラインさんのこと調べてきます。もし会えたら彼氏さんが心配してましたよって伝えますね!」

「え?・・・あ、あの・・・いいんですか!?」

「カルディアさん!危険すぎます!」

「大丈夫ですって!あたし結構アルバイト歴長かったですし!」
 やはりと言うべきか、彼女は安請け合いをしだす。てっちゃんも言っていたがカルディアさんは優しすぎる。良くも悪くも。彼女は分かっているのだろうか?この店は・・・

「あの!何か分ったらこの笛を吹いてください。俺にだけ聞こえるようになってますので!それじゃあ!」
 男はカルディアさんに笛を渡して嬉しそうに去ってゆく。その背中にカルディアさんがニコニコと笑顔で手を振るが・・・

「はぁ・・・カルディアさん?このお店が何か分かっているんですか?」

「え?飲食店か何かじゃないんですか?」

「今、昼ですよ。それでいて閉めてる・・・しかも・・・」

 私は店を今一度見た。妙にけばけばしい派手な外観。そうこれは私が居た世界でもあった。夜にだけ営業する男を喜ばせる施設。

「これ・・・おそらく何かしらの風俗店ですよ。」

「え゛!?」

 やはり気付いていなかったか・・・。私の言葉に固まるカルディアさん。

「ど、どうしましょ~?」

 今度は涙目になりながらオロオロとしだす。守るっと言った手前しょうがない・・・

「私も一緒に調査に入りますよ・・・。」

「女騎士さん・・・!」

 私の手を取り『パアァッ』と表情が明るくなる。全く感情豊かな人だ。この人、本当に人形なのだろうか?
 それにしても・・・夜職か・・・。元居た世界で暮らしていたころは考えられなかったな。でも、あいつと暮らしていくなら、もしかしたらこういう経験も必要になってくるだろう。あの甲斐性だからな。その予行演習だと思えばいいか・・・。はぁ・・・男見る目が無いのかな・・・私。
 私は今一度派手な外装の店を見上げ、大きな溜息をついた。
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