羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その6

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 二人と一匹が森の中を疾走する。一定距離を保って木々の上を移動して追ってくる影が複数。二匹と一匹はそれらを引き剥がそうと必死に逃げているが、土地勘のない彼女らにはそれは些か厳しかった。

「不気味な奴等だ。近寄ってきたら、その頭噛み砕いてやるのに!!」
 黒くしなやかな体躯を持つ獣が苛立ちながら吐き捨てる。

「イライラしたらしくじるわよ!私が言うのもなんだけど。」
 後ろに続きながら宥めるのは青い髪の少女。

「彼女の言う通りです。仕掛けてくる気配が無いのだから不用意に荒立てるのはやめておきましょう。」
 最後尾で警戒しながら走るのは黒髪の女性。

「けど!こんなことしてる場合じゃないんだ!早くカルディアを見つけないと!」

「みんな、止まって!」
 最初に気付いたのは青髪の少女。それに呼応して他のメンバーも警戒態勢に入る。

「ええ・・・あのしつこい猿たちが追撃をやめました。何かおかしい・・・。」
 周りが嫌に静かで音が無い。なのにねっとりとした視線を感じる。
  
「クン・・・クン・・・。微かに臭う・・・。・・・!?アイスエイジ!!!」

 木の影から素早く何かが飛び出してきて青髪の少女を襲ったが、それにいち早く気付いた黒獣が彼女を庇う。

「ぐ・・・!この野郎!!」

「てっちゃん様!?せいっ!!」
 黒獣は肩口を噛まれたが、カウンターでパンチを入れる。黒髪の女性もレイピアをその体躯目掛けて鋭い突きを放つが、噛みついてきた主は素早く攻撃に反応して飛び退き距離を取る。互いに仕切り直しとなるが、お互い痛み分けとはならず、黒獣の方がダメージは大きい。噛みつかれた肩口からはダラダラと血が流れ出ている。それに対して敵は僅かに皮と肉を切り裂かれたのみに留まっていた。

「お、大きい・・・。」

 飛び出してきたのは一緒に居る黒獣よりも大きな虎型の生物。その犬歯は大きく発達していて、尾っぽは蛇になっていた。その虎型の生物はこちらから視線を外さず一定の距離を取ってウロウロしだした。

「このまま待つつもりか・・・嫌らしい奴だ・・・。」

「てっちゃん!?傷を見せて!少し痛むと思うけど、傷口を凍らせて止血するわ!」
 目の前の敵を警戒しつつ、止血作業する青髪の少女。

「すまない、アイスエイジ。まだ牙の方で良かった。あの尻尾の方がやばそうだ。あれ毒あるだろ。」

「そのようですね・・・すみません・・・皆さん・・・。」
 黒髪の女性が青い顔をして額から汗が流れ出てる。

「アドミラルさん!噛まれたの!?それであいつあんなに悠々と!」

「足を引っ張ってしまい申し訳ありません・・・二人とも・・・私を置いていってください・・・。」

「何馬鹿な事言ってるのよ!?しっかりしなさい!」

「アドミラル・・・!あの時俺を庇って・・・!?くそ!」
 黒獣が唸りをあげて黒髪の女性の前に立つ。敵を彼女に近寄らせないように目いっぱい牽制を行っていた。青髪の少女も手に青白い冷気を溜めて、目の前に居る敵を睨みつける。

「てっちゃん、同時に仕掛けよう・・・。」

「任せろ。前にでる。」

「待ってください・・・二人とも・・・。」

「どうして止めるの!?」

「あの獣・・・アイスエイジ様が冷気を溜めるのを見て少し距離を広げました・・・。ただの獣じゃありません。てっちゃん様のようにかなりの知能があるかと思われます。ああして距離を取っているのも、こちらの能力を推し量る為では無いでしょうか・・・。真正面から狩れる相手かどうか?を見極めるために・・・。」

「でも、ぼやぼやしてると毒が回るぞ!」

「ええ・・・。だからあの余裕っぷりなのでしょう・・・。無理せずともああして焦らして、手の内を暴き、そうでなくとも放って置いて時間が経てば一人は潰れる、とね・・・。」

「じゃあ!尚更仕掛けるしかないじゃない!」

「待ってください・・・!先程の私の攻撃、資格からの攻撃だったにも関わらず簡単に避けて見せました。てっちゃん様の攻撃も僅かに皮膚と肉を切り裂いただけで致命的なダメージにはなっていません。はっきり言いましょう・・・下手に手出しすれば我々が格下と判断されて一気に攻めてきますよ・・・。」

「じゃあどうするのよ!」

(そうだ・・・アイスエイジ様の言う通り、このまま睨みあっていてもジリ貧だ・・・。だが下手にやり合えば二人まで危険に晒す・・・どうすれば・・・。ああ…ダメだ・・・毒の所為か、頭がぼんやりとする・・・。ダメよ!アドミラル!考えないと・・・それが私の仕事でしょ!何か手は・・・一手何かが欲しい!)

 黒髪の女性が鈍くなってゆく頭で思考を巡らせている時だった。

「耳と目を塞いで伏せなさい!!」

 女性の声と共に三人と敵との間に何かが投げ込まれる。三人は声に従い、慌てて地面に伏せて目と耳を守った。それは地面に落下すると激しい音と共にまばゆい閃光を放ち視界を奪った。
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