羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その14

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 屋敷に突入した私達は部屋を一つずつ調べていった。こんな大きな館なのに予想外に人気は無く、充分な警戒して入ったのだが若干肩透かしを食らった気分だ。

「ここの住人金持ってそうですね~。」

 剣士君が部屋にある調度品や小物を調べていく。

「言っておくが取るなよ?」

「とととととととと取りませんよ!女騎士さん、僕をなんだと思ってるんです!?」
 ならそんなに慌てるなよ、君は・・・。やる気満々でしたって顔に出てるじゃあないか・・・。

「いや?言っておかないとやるだろ?君。」

「なんて汚らわしい・・・愚民。あなたにはプライドと言うものがありませんの?」
 私達の会話を聞いてヴェスパ様がゴミを見るような目で彼を見る。

「女騎士さん!ヴェスパお嬢様が誤解するでしょ。僕の評判落とすの止めてよね!」

「事実だろ?信用を行動で示すんだな。」

「酷い・・・。僕を甘やかしてくれる女の人は居ないの・・・。」

「気持ち悪い。そんなの漫画やアニメの中だけですわよ。諦めなさいキモ男。これだから男は・・・。」

 彼はヴェスパ様の辛辣な言葉に手をついて項垂れる。そんな緊張感のない馬鹿なやり取りをしていた時だった。

 ガシャン!!!!

 屋敷の上の階で大きな音がする。さっきまでふざけていた彼も既に緊張した面持ちになっていた。私達は互いに顔を見合わせて音の発生源と階を登り進んでゆく。音の発生源であろう部屋の大きな両開きの扉に手をかけると、

『開けるんじゃねぇ・・・。死にてえのか?』
 まただ。屋敷に入る前も聞こえた声だ。

「剣士君・・・何も言ってないよ・・・な?」

「ちょっと・・・何言ってるんですか?ホラーとかやめてくださいよ。」

『俺だよ、俺。アパラージタさ。さっきお前、俺様を抜いただろ?』

「け、剣が・・・」

『おおっと!口に出すなよ?俺の声はお前にしか聞こえていないんだから、変人扱いされるぜ?俺様と会話するときは頭に念じるだけでいい。』

「???女騎士さん?そのショートソードがどうしたんです?」

「あ、いや・・・何でもないんだ。」

(アパラージタ。開けるなってのはどういうことだ?)

『俺様は‐アパラージタ‐なんて大層な名がついてるが、強いからじゃない。死なないからだ。死に関してちょっと敏感なんだよ。その部屋の中はやべえ香りがムンムンするぜぇ・・・?悪いことは言わねえ、反転してゴーバックホームしな?中はダメだ。』

「どうしまして?ぼーっとして。行きますわよ?」

「まっ・・・!」

 私がアパラージタと話している間にヴェスパ様が扉に手をかけ開いてしまう。その扉の向こうは・・・

「聞いてませんわよ・・・なんですの?アレは・・・!!」
 ヴェスパ様が冷汗を垂らしながら合図するように手を振りぬくと、どこからともなく中型の虫が彼女の元に集まってくる。
 
「不味いな・・・。剣士君、能力でどうにかならないか?私じゃ1秒も持たないだろう。」
 
「アレをですか?例えレバレッジを限界まで引き出してもまともな勝負にすらならないでしょうね・・・。」

 紅いドレスを身に纏ったカルディアさんは少女を片手で軽々と持ち上げながら、首だけこちらを向き、口角をあげて嗤っている。持ち上げられている彼女は生きているのか死んでいるのか身動ぎ一つせず手足をだらんとさせて為すがままの状態だ。
 以前、彼女と初めてであった時の・・・いや、あの時以上の威圧感。彼女の吸い込まれそうな紅い瞳を見ているだけで心臓の鼓動が速くなり、汗が吹き出る。

(気持ちが悪い・・・。考えが上手くまとまらない。本能で斬りかかってしまいそうだ。)

 『やらなきゃやられするぞ!』と気がふれそうなくらい頭の中は警鐘を鳴らしていた。

「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・。」

 隣を見るとヴェスパ様は目を見開き顔を真っ青にしながら荒く息をしていた。彼女の美しい化粧が流れてしまうんじゃないかと思うくらい異常なくらい汗をかき、どう見ても限界が近い様子だ。その様子が逆に私に冷静さを少し取り戻させてくれた。

「ヴェ・・・」

「こ、こっちを見るなああああああ!!!」
 彼女に声をかけ落ち着かせようと矢先、彼女は呼び寄せた虫の一匹であるアリ型の虫を右腕に付け、カルディアさんに向けると、アリはカルディアさんに対して蟻酸を放った。
 カルディアさんは掴んでいた女の子を投げ捨てると蟻酸を被る寸前に忽然と視界から消えた。

「どこ!あいつはどこに行ったの!?」

「落ち着いてください!ヴェスパ様!」
 アリを左右に振りながら彼女は半狂乱でカルディアさんの姿を探す。

『落ち着いている場合じゃないぜ!!嬢ちゃん!上を取られてる!見られてるぞ!!』
 アパラージタの声に私は恐る恐る首を動かし上を向くと、私達のすぐ真上。天井にカエルのように張り付いている、その紅い瞳は私達が慌てふためくさまを面白そうに眺めていた。
 私の視線に気付き、ヴェスパ様や剣士君も天井を見上げ、そして固まった。
 ヴェスパ様が腕を上げてアリを向けようと動かした瞬間、天井からヒラリと降りてきて彼女の腕を、そのアリごと蹴とばし、アリはひしゃげて絶命しヴェスパ様は廊下の壁に激突して気を失った。

『目を離すんじゃねぇ!嬢ちゃん!!』

 ハッとして、視線をカルディアさんに戻す。カルディアさんはゆらゆらと揺らめいで立っている。ゆっくりと私達の方に視線を向けてくる。

「くそ!やるしかない!僕が前に出ます。女騎士さんは援護してください!」

 剣士君が前面に出て剣を構える。彼女は私達を見据え、獣のように両手をつき、腰を落としこちらに向かって来ようと身構える。しかし驚愕の表情の後、その真紅のドレスは霧散し、目はいつもの橙色に戻り、そのまま気を失って倒れた。

「な、なんなんだ・・・いったい・・・。」

「一先ず、カルディアさんとヴェスパ様を見よう。剣士君はヴェスパ様を頼む。」

 手早く彼女を確認すると外傷は特に見当たらない。しかし一糸纏わぬ姿では忍びないな・・・。何か着せる服を・・・
 辺りを見回すとベッドのすぐ傍に女物のドレスが転がっている。若干丈が短く、胸やお尻が妙に強調されるようなセクシーなドレスだが、最近、私も彼女もこういった服を着て仕事をしていたからまぁ大丈夫だろう。
 問題はかなりぴったりと体にフィットするようなドレスなので気の失ってる人間に着せるのはかなり骨が折れた。

「ヴェスパお嬢様は右腕がダメでしたね。頭打ってるみたいでそのまま横に寝かせてます。」
 剣士君がヴェスパ様の様子を見てから、こちらに寄ってくる。

「ああ、ご苦労様。・・・ってどうした?何故前屈みなんだ?」
 彼はなぜか手を秘部辺りにやって前かがみで何故かモジモジしている。・・・あれって・・・おい、まさか・・・。私は呆れかえり怒りを通り越しスーッと頭が冷えてくる。
「手をどけて、起立してみろ?」

「え?・・・いや~・・・」

「はやくしろ。」
 何か言おうとしているのを遮り、有無も言わさない。

「はい!」
 彼は私の様子を察し見事な直立を見せる。

「・・・・。なんだ?これは?」

「えーっと・・・僕のクララが勃った?・・・です。」

「カルディアさんを見てか?」

「お、女騎士さんの凛々しい姿かも~・・・」

 私は無言でカルディアさんの煽情的な体をシーツで隠し、言い訳する彼の手を取って自身の胸を揉ませる。

「あ・・・ちょっ!」
 
 するとどうだろう?彼のアレは見る見るうちに萎んでいった。

「・・・・」

「・・・・」

 私は静かにアパラージタを抜いて彼に告げる。

「君のクララとやらにお別れの言葉はあるか?」

『ちょ!お嬢ちゃん!俺様やだよ?お嬢ちゃんとの初仕事が野郎のイチモツカッターなんて!』

「待って待って!僕も解らないんですよ!・・・いや、でもまさか・・・。」

「なんだ?言い分があるなら一応君の”男”としての最後だし聞いてやる。」

「彼女ってほら正確には人じゃないですやん?だからそれが関係してるんじゃないかなーって。あはは~・・・」

 なるほどな。アイスエイジも可愛らしい子だが、しばらく一緒に生活しても盛った様子はこれまでに無かったしな・・・。黄金都市で疑惑はあったものの風俗を利用してる様子もなかった。彼女の特殊な生い立ちが関係している可能性としてはあるか・・・。

「ほーん・・・。分かった。お前を女の子にするのは一旦保留してやる。」

 ホッとする表情を見せる剣士君。
 いやいや、これで終わらせるわけないだろ?私はアパラージタを静かに鞘にしまってから、腰から固定具を外して納刀状態のアパラージタをこん棒のように手に持つ。

「じゃあ、尻をこちらに向けようか♪」

 彼はその様子を見て愕然とし、黙ってのろのろとお尻をこちらに向ける。

『おい嬢ちゃん?ちょっと待て?もしかして?やだよ、俺?やだやだやだやだ!』
 アパラージタが何か抗議しているが、無視することにした。

「え・・・あ、あの~・・・や、優しくして~。」
 今から何が起こるかよく解ってるじゃないか。
 私はアパラージタを納刀して鞘ごとしっかりと手に持ち、後ろを向いた彼の尻を・・・

「それはそうとしてもッ!お前はッ!彼女にッ!失礼だとッ!思わないのかッ!このピンク猿がッ!」
 しばく!
 連続で六発、ケツに良いのを入れてやる。日頃の恨みも込めて。

「あひん!あひん!すんません!カルディアさんにも!女騎士さんも!」

『やめて~!俺様をこんなのに使わないで~。俺様の身が汚れる~。』

「はぁはぁはぁ・・・・今回は・・・これくらいにしてやる。お前はあそこの崩れてるクローゼットを調べてこい。私はあそこの女に用事がある。」

「あ、あい・・・」
 彼は涙目になりながらお尻をさすりつつ素直にクローゼットを調べに行く。その間に私は首を絞められていた彼女へと近づいてゆく。因みに私の頭の中ではすすり泣く声が響いていた。

(鬱陶しいなメソメソと。これoffに出来ないかな。)

 彼女は部屋の隅で膝と頭を抱えるようにして小さくなり震えていた。小水を漏らしたのか、折角の可愛いスカートは濡れてツンと鼻につく臭いが彼女からしている。

「あなたがブリッツラインさんですか?」

 私が声をかけると貝が開くようにゆっくりと体を開いていき、私の顔を見た。

「あいつは・・・。あの化け物はどうなったの!?」
 彼女は目に恐怖を浮かべて私を問いただす。

「今は気を失って眠っています。」

「眠って・・・?何を言っているの?なぜ殺していない!あんな化け物、殺しておかないと後々どうなるか分かったもんじゃないわ!」

「落ち着いてください!彼女は私たちの仲間なんです。」

「はぁ?ふざけんじゃないわよ!それなら首輪でもしてちゃんと管理しとけよ!ボケ!」
 彼女は私を激しく罵倒した後、静かになりスッと立ち上がる。

「あいつが・・・あいつの目があたしを見るの!見るな!くそ!くそくそくそ!!」
 様子がおかしい、その視線は横になっているカルディアさんの方を向いていた。

『・・・嬢ちゃん。そいつ殺気が漏れてるぜ?』
 少し元気のないアパラージタの声がするや否やブリッツラインさんが光となって消える。現れた時には既にカルディアさんの傍に立っていた。

「まずい!!!」

 言うや否や彼女は腰からナイフを取り出して逆手に持ち、カルディアさんの胸を目掛けて振り降ろす。

「・・・っと~。勝手に何してくれてんだよ、お前!」

「何よ!あんた!いつの間に!」

 振り降ろされるナイフを掴んだのは剣士君。能力を使ったのだろうか?いつの間にかカルディアさんの傍まで戻っていた。
 それでも彼女はナイフを押し込もうと力を込める。でも動かないと見るや諦めて、また光となって後ろに下がる。窓辺に足をかけ私達を見回し睨みつけた。

「お前らの顔覚えたから。いつか殺してやる!」

「ま、待ってくれ!私達はただ話を・・・」
 私は引き留めようとしたが彼女は二階の窓から落ちる。慌てて駆け寄ったがすでにその姿は闇夜へと消えてしまっていた。
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