羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その18

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 うっすらと意識が覚醒してくる。瞼を開くと気持ちのいい朝日が顔に差し掛かっていた。

「わたくし・・・。生きてる・・・?」

 あれだけの重症。もう死んだと思っていましたのに・・・。上半身を起こして胸を見る。傷が完全に塞がって・・・えっ!?

「腕が・・・ある?」

 斬り飛ばされたはずの左腕が・・・ある。恐る恐る左腕を動かし、右手で触って感触を確かめる。まるで斬り飛ばされたのが嘘のように動かしても違和感が無く、切り口すら残っていない。

「どうなっているの・・・。」

 辺りを見渡す。木造の家の一室。積み上げられ、乱雑に散らばった道具や武具が山崩れを起こしており、わたくしは床に敷いた簡素な寝具に寝かされている状態だった。

「どこなのかしらね・・・。」

 呟きに答えるように隣室のドアが開き出てきたのはコレクターだった。

「あっ、起きた?おはよ~。よく眠れた?」

「どういうことかしら?」

「どういうことって?」

「なんでわたくしがこんなところに寝かされているのかしら!」

「いや~・・・ごめんねぇ~。部屋無くってさ~。あっ、でも男共なんて隣の部屋で寝具も無しだから、それでも豪華なんだよ~。」

「そうではなくて!・・・わたくしは敵よ?なんで殺していませんの?」

「ええ~・・・なんでって。私達が勝ったし、それで終わりで良いじゃな・・・」

「良くない!!!・・・良くありませんわ・・・。だってわたくしは・・・アーカイブからストラクチャーを始末するように・・・と。そしてそれを・・・実行しようとした!わたくしは本気で・・・あなた達を・・・!」

 わたくしはコレクターの言葉を遮り叫んでいた。本気で殺しにかかっていた・・・そのはずなのに・・・。ヘラヘラと笑いながら何事も無かったようにする彼女に苛立ちを感じていた。

「まー、お嬢様はそう言うけど・・・さ。本気じゃなかったろ?」

「わたくしは!!本気で・・・」

 口元に指を当てられる。”違う”と言うように・・・

「カッカしなさんな。本気なら何時でも殺れたはずだ。アンタなら。背中を預けてる奴を後ろから刺すなんて簡単だろ?女王蜂様ならな。本気なら何故しなかった?答えてみな、レギーナヴェスパ。」

「それは・・・。」

 彼女の問いにわたくしは答えられない・・・。彼女が介入してくる前に小型の蜂で毒を流し込むチャンスなど幾らでもあった。わたくしはどうして・・・。

「なんでって顔してるね。結局イライラしてるのも、それが解らないからじゃない?可愛いなぁ~、もう。」

「なら、あなたなら解りますの!」

「いや~。私はお嬢様じゃないんだから本当の所は解らないよ。でも・・・なんとなく、そうじゃないかな?ってのはある。」

「教えなさいよ!」

「おお~。こわっ!・・・結局さ。アンタもシャークと同じであいつを殺したくなかったんだろうよ?心の底ではね。案外あの坊やのこと気に入ってんじゃないの~?」

「わたくしが・・・。」

 ケラケラと笑いながらからかう様に言ってくるコレクターに無性に腹が立つ。あんな貧相で下賤で下品な男をわたくしが?ちょっと一緒に旅をしたからって何を馬鹿な。そんなこと!そんなこと!ありえません!ありえませんわ!!~~~~~




____________________________________




「まー、それはゆっくり考えて自分の宿題にでもして。さて、次は私の質問に答えて頂戴。アーカイブは何であの子を狙った?それにどうしてヴェスパ。あんたまで殺されかけた?」

「コレクターも知っているでしょ?そう言う人よ。」

「それだけ?」
 私はジッとヴェスパを見つめる。隠し立てしないように目で威圧しながら・・・。それに観念した・・・訳では無いだろうが、ポツリポツリとヴェスパが語りだす。

「はぁ・・・。あの子達を始末するように言ったのはフォーチュンを探ろうとしたからじゃないかしら?だって、あの時、総崩れになったのはアーカイブの指揮の所為でしょ?生きていられたら困るんじゃなくて?」

「やっぱりそうか。」

「なに?知りませんでしたの?」

「直接見たわけじゃないから・・・でも、そうじゃないかとずっと思っていたよ。それでどうして弾劾は起きなかったの?」

「あの子・・・が居るからかしら・・・?」

「あの子?」

「あなたはあの後すぐ抜けたから知りませんでしょう?わたくし達があの時見つけたのは黄金器だけではなくてよ。あの少女とあの小屋・・・。」

「少女?小屋?あなた達は下層で何を見たの!?どうしてあんなに急に敵が湧いて出たの!?」

「言えませんわ。」

「言えない!?ふざけないで!そんな事・・・。」

「言えませんわ言えませんわ言えませんわ言えませんわ言えませんわ。」

 私は彼女を問い詰めようとした。しかしどうも彼女の様子がおかしい。機械のように言葉を繰り返したかと思うと、ぐっと口をつぐみ、押し黙ってしまった。その目は虚ろで私を見ていない。
 すると彼女の口から血が流れだし、シーツをその血で濡らしていく。慌てて口を無理矢理こじ開ける。

「舌を・・・!リペアちゃん!リペアちゃん!!早く来て!!!」

 隣で治療に当たっていたリペアペイメントを大慌てで呼び、彼女を治療して貰う。大事なく治療は終わったがヴェスパはそのまま気を失ってしまっていた。

(なんだ・・・今のは・・・あの反応。まるで操られているみたいに・・・。)



________________________________________



 薄っすらと意識が戻ってくる・・・。先程も感じましたわね・・・これ?デジャブと言う奴かしら?

「・・・で・・・な・・・訳よ・・・。」

「わか・・・ま・・・た。それ・・・で・・・行こう・・・ます。」

 誰かが近くで話をしている。わたくしはゆっくりと身体を起こそうとして失敗した。それを誰かが支えてくれる。

「・・・っとー。大丈夫ですか?ヴェスパ様。」
 支えてくれたのは品性の無いあの男。まあ、よくわたくしの言うことを聞きますし、そこは少しだけ評価いたしますが。

「・・・よくやったわ・・・愚民。褒めて差し上げます・・・。」

「まだ本調子じゃなさそうですけど、それだけ言えたら大丈夫そうですね。気分はいかがですか?」

「最悪ですわ・・・頭がズキズキします。わたくし・・・どうしましたの?確か、コレクターと話していたと思うのですが・・・。」

「あー・・・いやいや!それはもういいの!済んだ話。今はこれからの事を話し合ってたのよ。大丈夫そうならヴェスパの意見も聞きたいわ。」

 コレクターが少し慌てながらわたくしに話に加わるよう促す。この方、誤魔化すのが下手ですわね。あからさまに先程の事を避けてらっしゃる。それでだいたいの事が解りましたわ。わたくし、コレクターとの話し合いの途中で何らかの事象で倒れたのね。恐らく・・・何らかの能力に犯されている・・・。その再現を避けようとしているって所かしら。わたくしも何度も昏倒するなど失態は晒したくありませんので、彼女らに乗ってあげますわ。

「で?なんの話ですの?」

「僕は攫われたカルディアさんと女騎士さんを追う。でも二つ問題がある。一つはアルケミストの事。流石に放っておいて殺されましたは可哀想だからどこかに匿って、誰か付いていてあげないと。もう一つは後を追うのに戦力が欲しいこと。」

「何を・・・簡単じゃありませんの?コレクターとリペアでその二つを分ければよろしくなくって?」

「それが私ってばフォーチュン探索の予定立ててたんだよね~。その為のメンバーも集めてたし。ホントはあの女騎士ちゃんも誘ってさ。勿論それ自体は延期にしても良いんだけどさ~。この坊やがそれはダメだって。」

「コレクターさんは予定通りフォーチュンさんの事をお願いします。」

「これだもん。」

 ああ・・・なんとなく読めましたわ。

「それで、わたくしはお守りと留守番をすれば良いのですね。」

「いえ、ヴェスパ様には僕について来て欲しいのです。」

「わたくしが?お守りの方ではなくて?」

 予想外でしたわ。まさか今状態が不安定で、しかも敵であるわたくしに寝返れ、とまで言ってくるとは。

「ヴェスパ、アンタはアーカイブに何かしらの恩義があるのかもしれない。でもそれは始末されそうになっても守るべきものなのかい?」

「・・・」

「それに直接会って聞きたいこともあるんじゃないのかい~?」

 ニヤニヤとこちらを見透かした様な顔。腹が立ちますわ。

「いいでしょう。わたくしが居れば後も追いやすいでしょうしね。ただしもう一人同行者を付けてくださいまし。」

「ん?お嬢様~、不安なのかい~。」

「不安ですわ。わたくしの身体ですもの。隠さずとも、わたくしが一番良く知っていますわ。わたくしが致命的な足を引っ張ってしまっては申し訳ありませんもの。だからどなたか付けてくださいまし。」

「悪かった。」
 コレクターはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべてからかってくるが、わたくしはそれに対して真顔で答えると、コレクターもバツが悪そうにした。

「ま、まあ他に揃えないといけないものもありますしね。こっち来るときは、シャークさんに食料から野宿の用品まで全部任せてましたけど、それらを揃えて行かないといけませんし~・・・ということで、コレクターさん、ヴェスパ様、折り入ってお願いが・・・。」

「無いわ。」
「無いよ。」

「まだ何も聞いていないよ!?」

「てか、坊やお金持ってないわけ?」

「うーん、黄金都市でのお金なら少し持ってるんですけどね。」

「それ使えるよ?幾ら持ってるの?」

「これだけです・・・。」
 愚民が財布代わりの巾着をコレクターに見せるが、彼女は難しい顔をする。どうも大した額は無いようね。

「う~ん・・・これだけじゃ物資を用意して人雇っては難しいね~。かといってチンタラ働くわけにはいかないでしょ?とりあえず女騎士ちゃん達は暫くこの街で働いていたみたいだし、宿泊先を調べて、使える物あったら拝借しちゃいな!それでもダメだったら・・・」

 ごそごそとテーブルで何やらメモを書いて愚民に渡す。

「ここ尋ねな。」

「どういうとこなんです?」

「審査不要で即金。安心安全?の消費者ローンの事務所。」

「今クエスチョンマーク付いてましたよね?安心安全のところ。」

「ソナコトナイアルヨー。」

「即金で貸してくださるところなんて、そのような者ですわ。急ぐのでしょう?諦めなさい。」

 ギャーギャー文句を言っていた愚民がわたくしの言葉に大人しくなる。あいつ自身も即金で貸してくれるところは、そんなところだと頭では分かっているのだろう。

「まー、悪い奴じゃないから。私の紹介って言ったら多少マシになると思うしー。」

「は、はぁ・・・。」

「よし!あらかた方針が決まったところで行動しますか!ヴェスパ、剣士君、行けるかい?」

「ええ・・・なんとか。って、何でこの愚民が?大したダメージじゃなかったでしょう?」

 確か、わたくしのシールドバッシュがヒットしたぐらいだったはず・・・。そこまで大けがしたとは思えませんが・・・。

「実はコイツさー・・・」

「だーーーー!!!!マナー違反!!」

「えー。一緒に行動してたらその内バレるのに~。」

「それでも!だー!もういいから行きましょう!」

「なんなんですの・・・?」

 愚民はコレクターを押しやって一緒に小屋から出ていく。あいつ・・・何か隠していますわね。マナー違反と言ったあたり能力に関係するものか・・・。
 そう言えば最後わたくしの腕を斬り飛ばしたときの動き。あれは尋常じゃない速さと判断力でしたわ。もしかして・・・土を操る能力じゃない?まさか・・・能力を二つ持っている!?ありえませんわ。その割には最後の動きは強力すぎた。いや・・・まてよ?あいつ、フォーチュンを探していた。フォーチュンの関係者・・・もしかして・・・タロットの保持者か?なら合点がいく。本当の能力は最後に見せた高速移動。何らかの反動付きってところか・・・。
 誰も居なくなった部屋で一人笑いが漏れる。

(今頃、分かったところで勝負がついてからじゃね。次、あるかしら?)

 いや・・・きっと無いだろう。もう彼とはあれほど本気でぶつかることは無い気がする。そんな予感がわたくしの胸の内に広がっていた。
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