羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その22

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 必要な食料や水を買い込み僕らは街の出入口に近い広場に来ていた。ここは人の行き交いが多いため露店も多く賑わいのある場所となっている。
 僕はコレクターさんから貰った魔法の収納袋の中身を確認する。こいつのおかげで身軽に行動できるので実にありがたい。僕は不備が無い事を確認してから皆に声をかけた。

「よし!みんな、準備はいいか!」

「当然、出来てましてよ。」
「まー、お姉さんに任せなさい。」

「あとちょっと金と時間があれば確変が来て取り返せてたんだよ。はぁ~、やだなぁ・・・」
「なんで、私がこんな糞みたいな奴等と・・・。だいたい私がこんな目に合ってるのもこいつらの所為なのに・・・ああ・・・聖夜様成分が足りない。」

 だ、大丈夫だろうか?やる気が両極端すぎる。

「じゃ、じゃあ、しゅっぱー・・・。」

「ま、待ってくれ!」
 
 いよいよ出発というところに待ったをかけたのは、カルディアさん達が泊まっていた宿で出会ったあの男。

「なに?何の用?これから出発なんだけど?」
 ミナモさんが前に出て男を睨みながら冷たく言い放つ。

「お、俺も行くよ・・・。」

「あんた役に立つの?」

「お、俺は追跡に関しては・・・」

「そうじゃない!・・・そうじゃないの。」
 ミナモさんは男の言葉を遮るように自分の言葉を重ねていく。

「足引っ張らないか聞いてるのよ。」

「俺・・・非戦闘職だから・・・。」

「違うって。」
 ミナモさんは拳を作り、男の胸にポンと当てる。
「戦闘が出来るか、出来ないかじゃないのよ。肝心な時に背中預けられる、そんな心を持ってるかどうか聞いてんのよ。」

 実際には戦えない彼に背中を預けるような事はしないだろう。だがそれくらいの気持ちが無ければ、どこかで致命的なミスを起こしかねない。それは個人だけじゃなくパーティー全体に影響が及ぶことになるだろう。ミナモさんが問うのはそう言った心持ちを彼に求めている・・・。あの宿の人物では到底持ち合わせていないハートを求めている・・・。

「で、出来ます。足引っ張らないよう出来ます!」
 
 彼がそう言うと、ミナモさんの手から目にも止まらぬ速さで水の刃が放たれて彼の顔を掠める。彼の髪の毛がハラハラと落ちて、彼は驚きのあまり青ざめながらよろけて尻もちを付いた。

「私は水龍刀刃サーペントエッジと呼ばれた女よ。水の扱い、その中でも速射は得意なの。首と胴体を分離させるのはよくやってきたからお手の物よ?あなたの言葉が嘘だったら・・・分かってるわね?」

「は、はいぃ・・・。」

「名前は?何て呼べばいい?勿論本名じゃなくていいわよ?」

「ちぇ、チェイサーです。」

「そ。よろしくね、チェイサー。」

 見た目ニッコリと笑顔の優しそうなお姉さんなのに、口から出る言葉が超怖いんだけど?僕も気を付けよう・・・。

「待ってよミナモさん!私、嫌なんだけど!」

「みら・・・。」

「本名で呼ぶな!!!あんたのそういう馬鹿な所、昔っから嫌い。」

「ご、ごめん。えと・・・ライカちゃん・・・。」
 チェイサーが本名を口走りかけて激しく怒鳴られる。

「別に私達はいいよ?ついてこなくても?ねえ?剣士君。けど困るのはライカちゃんじゃないの?ついてこないとすぐ返さないといけないんでしょ?」

「う・・・。く・・・!」

「まあ、僕の方もこれだけ人数居てますし・・・無理強いはしませんよ?」

「まじ?じゃあ俺抜けていいかな?」

「あんた行かないとお金返せないでしょ!」
 カウボーイのオッサンが笑顔でとんずらをかまそうとしてブリッツラインさんに首根っこを掴まれ止められる。

「いやいや!どうせ行っても返済期日待ってもらえるだけだからな。それよりもパチンコで一発当てた方が早い。」

「そんなこと言って余計借金増えるだけじゃない!」

 目の前で逃げようとするオッサンと逃がさまいとするブリッツラインさんがわちゃわちゃつかみ合いをしてるのだが・・・
 
(マーモットの喧嘩見てるみたいだな・・・)
「あのー・・・手伝って頂けたら皆さんには多少謝礼を考えていますよ。」

「まじ?おいおい!そう言うことは早く言えよな、兄ちゃん!」

「ほんと?幾ら?先に渡しなさいよ!」

「ええと・・・。」

「ダメですわ。先払いはしません。無事救出できればお渡しします。額としては・・・これくらいを考えておりますわよ。」
 ヴェスパ様はスッと指を立てて見せる。

「しゃー!おっしゃー!!」
「まじぃ!ほら!とっとと行くわよ!何ボーっとしてるの!チェイサー、早く臭いを追いなさいよ!」
「わ、わかったよ。急かさないでよ、ライカちゃん。」
「もう、待ちなさい!長期間になるんだからそんなに急いだら体力続かないわよ!」

 ブリッツラインさんとおっさんが急に元気になってチェイサーさん急かしてをズンズン進んでいく。その後をミナモさんが引率の先生みたいに付いてゆく。後に残ったのはヴェスパ様と僕だけ。しれっと無表情で目を閉じているヴェスパ様に僕は小声で問いかけるのだった。

「あの~・・・ベスパ様?僕、そんなに支払えないのですけど・・・。」

「あら?わたくしは指を立てただけですわ。何を勘違いされたのかしらね?ほほほほほ。」

 楽しそうに日傘を指して鼻歌を歌いながら優雅にみんなの後を追っていくヴェスパ様。
 
「女って怖ぇ~・・・。」

 みんなの向かう先には巨大な大門。僕もこの街に入るときに通った門だ。ここはこのセーフゾーンの街と危険区域への出入り口。一日で最も多くの人が行きかう。うかうかしてると人の波に飲まれて迷子になってしまう。
(いや・・・大丈夫か。)
 西洋貴族の顔負けのフリルをあしらった服装のヴェスパお嬢様に、昼間でも夜職が隠しきれていない身体のラインが強調されたタイトな服装のミナモさん。西部劇に出てきそうなカウボーイのおっさんにピンクブラウスに黒のミニという典型的な地雷系女子のブリッツライン。なんの偶然か、やたら特徴的なコスプレ集団が出来上がってしまっている。

「逆に僕とチェイサーが特徴なさ過ぎて浮くぐらいだなぁ。」

 彼らの後ろ姿を見ていると思わず笑いがこみ上げてきて、僕は小さく吹き出してから彼らの背中を追った。





_____________________________


 珍妙なコスプレ集団が大門から街を出ると同時に街に入る組が一つ。小柄な青髪の少女に栗色の髪の優し気な女性。メイド服を着た聡明そうな女性は大柄なガルムの背に乗って少し顔色が優れない。

「やっと入れたわね。どんだけ時間かかるのよ・・・。こっちは病人連れだってのに。」
 人に酔ったのか青髪の少女がげんなりしながら言う。

「すみません・・・皆さん。少し疲れが出たのかもしれません。・・・あの、どうしました?てっちゃん様?」
 申し訳なさそうに言ったのは黒髪のメイド服の女性。

「いや・・・馬鹿の臭いがしたと思ったんだが・・・気のせいかな?なんせ人が多すぎる。」
 キョロキョロと辺りを見回すのはどす黒い立派な体躯を持つガルム。

「それだけここは充実してるわよ?腕の良い医者も居るわ。さ、先ずは情報収集と行きましょう!」
 そんな彼女たちを促したのは栗色の髪の穏やかな女性。

 彼女たちが向かう先は華やかな街並み。しかし、その煌びやかな街の水面下ではどす黒い悪意が滲み広がりつつあった・・・。
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