羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その23

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「とっとと歩きな。こんなところで原生生物に食われたきゃないだろ?」

「女騎士さん・・・。」

 不安そうなカルディアさんが私を見つめる。

(おい。アパラージタ・・・何とかできないのか?)

『・・・』

 私は意思を持つ不思議な剣とコンタクトを取ろうと念じてみるが、あれほど五月蝿かったおしゃべりな剣は今は私の幻聴だったのではないかと思うほど静かだった。

「仕方がありません、カルディアさん。ここは彼らに従いましょう。」

 謎の影に飲み込まれてどれくらい時間が過ぎただろう。外に放り出されたと思ったら、見知らぬ平野部で複数人に囲まれていた。それから手を縛られ監視されながら移動している。途中、遺跡のような場所に入ると中には階段があり、登った先の出口には全く違う景色が広がっているのだから、空や木や水辺があっても、ここが外ではなく構造物の中なのだと思い知らされる。
 移動しながら私達を攫った男と新たに現れた男が喋っていた。

「助かったぜ。道中は影を伝って移動できない部分も多いからな。一人で二人を監視しながら移動するのは厳しいと思っていた所だ。」

「ラピッドショットから連絡が入ったからな。お前が難儀するとしたら平野部だとあたりをつけてたのさ。」

「何?ラピッドが・・・。まさか殺したのか?」

「一人撃ち抜いたらしいがな。死んだかまでは確認してないらしい。恐らく追ってくるだろうってな。そう言う訳でこの人数だ。で、シャーク、お前はどっちにする?」

「俺は・・・こいつらをボスのところに送り届けるよ。」

「だと思ったよ。ボスもそう予想していた。じゃあ数人付けるから逃がさないよう送り届けてくれよ。」

 そう言って数人が私達から離れていく。

「あいつらを・・・!」

「なんだ?シャーク?まさか『殺すな』なんて言わねぇよな?そいつぁ無理な注文だぜ?」

「いや・・・何でもないんだ。」
 そう言うシャークという男の表情は冴えなかった。





 それから十数日かけて移動して私達は複数のコテージが設営されているキャンプ地へとやってきた。シャークと言う男に連れられて一際大きなコテージに連れてこられる。

「ここだ。入ってくれ。」

『嬢ちゃん。相手に俺様が見えないようしっかり外套で隠してくれ。』

(今までダンマリ決めてたかと思うと、急になんだよ?)

『この奥にはアーカイブがいる。あいつ・・・俺様の特性に気付いているかもしれないからな。それと気を付けなよ?いけすかない、食えない女だぜ?』

 私は腰の横に下げていたアパラージタ後ろに回してからカルディアさんと共にコテージに入る。シャークと言う男は私たちの後ろにピッタリとついて入ってきた。
 中には警備の者が控えており、一番奥に角帽を被った聡明そうな女性が机に噛り付いて書類仕事をしている。私達に気が付くと『パァッ』と表情を明るくして席を立ち駆け寄ってきた。 

「シャーク!お疲れさまでした!それとお久しぶりです、カルディアさん。道中、不便はございませんでしたか?」

「・・・お久しぶりです、アーカイブさん。どうして!・・・どうしてこんなことしたんです・・・。」

「まぁ!こんなこととは?」

「私は気絶していたから・・・。後で事情を聞いたんですけど、無理矢理攫ったって!なんで!・・・言ってくれれば会いに来たのに・・・。」

「無理矢理だなんて・・・そんな!誤解です!不幸な行き違いです。不快な思いをさせたなら謝ります。ごめんなさい。」

「私にじゃなくて!・・・私の仲間に謝ってください・・・。それと私の仲間に酷い事しないで・・・。」

「勿論です。ええっと・・・あなた、強引な招致になりましたことお詫び申し上げます。」
 アーカイブは私に向き直り頭を下げる。

「・・・」
 先程からアーカイブと言う女性の仕草や表情を伺っているが、どうも信用ならない。彼女からは嘘臭さを感じる。それだけに彼女の謝罪を私は素直に受け取ることが出来なかった。

「それと、すぐにあなた方の仲間への攻撃をやめるように言い聞かせます。さ、長旅でお疲れでしょう?シャーク、彼女達に最高の部屋を用意してあげて。」

「分かりました。こっちだ、ついて来てくれ。」
 私達はシャークに促されコテージを後にする。コテージを出る際、後ろを見ると温和な笑顔を張り付かせたアーカイブが私達を見送っていた。シャークの後ろに付いてキャンプ地内を歩く中アパラージタが話しかけてくる。

『アーカイブの奴・・・嬢ちゃんに随分殺意を飛ばしていたぞ。』

(謝罪も上っ面だけで好かれていないとは思っていたが、そんなにか?初対面のはずなんだがな・・・。)

『言葉も嘘だらけだ。嬢ちゃん、何とかして逃げ出さないと、嬢ちゃんも嬢ちゃんの仲間も殺す気だぞ。”もうしない”と言いながら殺気がムンムンだったぜ。』

(そうか・・・殺す気って事は剣士君はベスパさんに勝った・・・と見ていいだろうな。良かった・・・。)

『おいおい。自分の心配もしろよ?』

(そこはお前が何とかしてくれよ?ご主人様が死んだら困るだろ?)

『はー!剣使いの荒い御仁ですことで。』

 後は私達がどうやってここを抜け出すかだが・・・。このシャークという男の能力だとちょっとそっとじゃ簡単に追いつかれて捕縛されるだろう・・・。チャンスが・・・チャンスが欲しい。私は後ろから彼の背中を見つめながらそう考えていた。

 


_______________________________


 
 カルディアさんと”ゴミ”を笑顔で見送る。
 シャークも使えないな。あんな余計な”ゴミ”まで連れてきて。途中で事故にでも見せかけて殺せば良かったものを。あいつは能力的には暗殺系なのに、優しすぎるのが玉に瑕だ。

 傍で警備していた部下が私に尋ねる。

「さっきの・・・本当に奴等への攻撃をやめますんで?」

「は?お前馬鹿なの?やめるわけないでしょ?関係者は須らく全員殺すように通達しなさい。一人も逃すな!」

「ひっ・・・す、すみません!ただちに!」
 部下が慌ててコテージを出ていく。

「ふふ・・・消えろ消えろ!全員消えろ!彼女の信頼は私だけに向けられてればいいの。あの神をも凌ぐ最強の力は私だけの物でいいのだから!」
 
 彼女は誰も居なくなったコテージで先程出ていった橙色の髪の少女の方向を見つめ熱い視線を送る。

「ねえ、私だけの最強のオートマタ、カルディアちゃん。ふふ・・・くく・・・くはははははははははは!!!」
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