羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その26

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「ふぅ・・・ふぅ・・・。かなり離されてるのかな・・・。」

 森の中の一本道を黙々と歩いている。舗装もされていない簡単に切り開かれただけの砂利道だ。本当は森の中を歩いた方が見つかりにくいのだろうが、戦闘職でないチェイサーを連れているし、何より僕らは追いかける側なのに遠回りをして皆、疲労が溜まっていた。これ以上遅れる訳もいかず、歩きやすい歩道を使っている。
 というのも上層に通じる階段は数か所あるそうだが、当初、僕がベスパ様とシャークさんと一緒に初めて街へとやって来た際使った階段は街から一番近い場所のもので、敵の待ち伏せを食らう確率が高いだろうからと、わざわざ遠回りして別の階段を使い上層にやっていた所為だ。
 その分、無理な強行軍をしたため、みんな疲弊している。僕が気になっているのはヴェスパ様があのデカいサソリを呼ばずにずっと自分の足で歩いていることだ。なんでだろう?

「てかさ・・・ライカちゃんの能力で移動していけないの?」

「ライカちゃん言うなし!ストラクチャー、お前が私の”金づる”潰したこと忘れてないからね。その内ぶっ殺すから!てか死ね!この件終わったら死ねカス!」
 
 めっちゃ睨んでくるんだけど。うわぁ・・・最近の子怖いぃ・・・日本の大和撫子どうなった?

「ダメだよ。ライカちゃん。そんな言葉遣い。おばさんが聞いたら泣くよ?」

「うっさい、チェイサー。黙れよ。あとリアルの話はすんな!クソ野郎。」

 うわぁ・・・ぼっこぼこに言われてチェイサーさんめっちゃ落ち込んでるやん・・・。なんかあんまり気の毒でさっきの僕への暴言はどうでもよくなったな。

「じゃあ、ライカ・・・さん?あらためて。能力での移動は出来ないの?」

「2~3人ならいけるんじゃない?でもこの人数は無理。あと出来ても短距離だし疲れるからやだ。一回使うごとに一万出すなら考えてやってもいい。」

「・・・金の亡者。」

「・・・あ?」

「そんなこと言っちゃ駄目よ?ストラクチャー君。お金は大事よ?お金があればなんでも買えるもの~。この世界に居る生産職の人が作るものはアクセサリーも服もどれも素晴らしいわぁ~。それがお金さえあれば何でも買えちゃうのよ~。」

 そりゃ、チーターだらけの世界ですからね。そうでしょうよ。
 ミナモさんは胸の前で手を合わせて目を瞑り恍惚としている。この人も欲の権化だな。

「それだとミナモさんなんかは寧ろ現世に帰らない方が楽しい派じゃないんですか?どうして塔に?」

「それはそれ、これはこれ。私だって現世に帰ってやりたいことや欲しい物あるもの!それに幾らここの生産品が素晴らしいって言っても殺伐とし過ぎよぉ。命幾つあっても足りないわ~。まぁ、帰還まではここで楽しーく暮らさせて貰うけどねぇ~。」

「それだったらわざわざ僕らを手伝って自ら危険を犯すこと無いんじゃ?」

「もう!また聞いてる~。疑り深いなぁ~。まあ、この世界じゃそれくらいの方が良いかもしれないけど。ん~そうね・・・」
 ミナモさんは言葉を区切り、考えるような仕草をしてから僕に対して小声で耳打ちするように続けた。
「例えばこの塔に現世に帰れる方法があったとしてよ?その権利がこの世界の全員分無かったら?権利を掛けて争わないといけない。拠点に居た時みたいにね。その時どこのコミュニティにも属して居なければかなり厳しくなる。そんな事態も想定してパイプ作っておくのは得策でしょ?先にも言ったけど聖夜の事信用してないのよ。ライカちゃんが居るから大きな声で言えないけど・・・。」

 なるほどね・・・中々したたかな人だ。でも、それぐらいの方が逆に信用もしやすい。

「無駄口・・・叩くより足を動かした方が・・・賢明ですわ・・・。」

 皆、一様に表情に疲れが見えるが、一際青い顔をしたヴェスパ様が小言を言ってくる。

「随分顔色が悪いですけどヴェスパ様大丈夫ですか?」

「人の心配するよりもあなたは大丈夫なんですの?いざと言う時戦えるのかしら?」

「剣を振るくらいの体力は残してますよ。」

「そうでなくては困りますわ。それとミナモ。あなたは実際どれくらい戦えますの?」

 ヴェスパ様が僕と並んで会話しながら歩いていたミナモさんに話を振る。

「どれくらい・・・って言われてもね。ちょっとしたダイアウルフの群れ6,7匹ならまあ一人でも倒せますけど・・・。」

「キリングバイトとかタイラントスコルピオンとかは?」

「無茶言わないでよ・・・。殺す気?」

「そう・・・大したこと無いのね・・・。」

「ムカッ!あのねぇ!私もタンク壁役が居れば水龍刃が遺憾なく発揮できるんだから!それぐらい・・・たぶん?おそらく?メイビー?・・・勝てるわ!」

 ヴェスパ様の煽るような文句にミナモさんが買い言葉に売り言葉で返すが、微妙に自信なさげに言い返した。それを聞いたヴェスパ様がニッコリとして皆に告げる。その言葉に皆に緊張が走った。 
「そうですのね・・・じゃあよろしくね。皆!構えなさい!」

「え?何?」
「なんだぁ?敵か!?」
「ひいぃ!か、隠れなきゃ!」

「ストラクチャー!あなたがタンクなさい!」

「はへ?ぼ、僕ですか?ヴェスパ様、あの盾になる硬い虫いたじゃないですか。」

「あれじゃ、面積が小さい。能力でデカい盾作ってやりなさい。」

「い、いや・・・あれじゃ面積が足りないって・・・僕、何と戦わされるの!?怖いんですけど!」

「早くなさい!こっちはお前がコソコソ能力の練習してるの知ってるんですのよ?早く!右手の方向!盾を構えて!ミナモ!アタッカー頼みましたわよ!そこのカウボーイのおっさんはストラクチャーの後ろに。ブリッツラインも頼みましたわよ!チェイサーは私の後ろに隠れなさい。」

「お、俺だけおっさん!?俺にもちゃんと・・・って、なんだ!?何か来てやがる!?」

 慌てて能力で盾を形成していく。おっさんが言ったようにヴェスパ様が指した方角から確かに何か高速で近づいてくる気配がする。何とか盾を形成して身構えると同時に木々の間から虎型の獣が飛び掛かってきた。

「うわっ!!!」

 なんとか虎型の獣の飛び掛かりを盾で防ぐが・・・

「お、重い・・・!」

「おっさん!ストラクチャーを支えなさい!」

「お、俺ぇ!?そう言うの俺の仕事じゃないんだけど・・・。」

「早くなさい!!!」

「は、はいぃ!!」
 カウボーイのおっさんだろうか、後ろから支えられ多少楽になる。

「ミナモ!しっぽ頼みましたわよ!失敗したらストラクチャーがあの世行きですわ!」

「え?なになに?どういう状況なの!?僕の知らない所で何が起きてるの!?」
 なんせ僕ときたら大型の盾を支えるのに必死で視界にはデカい虎の胴体と盾しか見えていない。
あとは顔には生暖かい息がかかっているくらいだ。つまり滅茶苦茶怖いのよぉぉぉ!!!

「まさか、本当にキリングバイトと戦わされるなんてね・・・。オーケー!お姉さんの腕前見てなさいよっと!!!パパウパウパウ、ミナモカッター!!ってね。」

 見えてないけど、どんな技か分かってしまう。何かを切断したのかデカい虎が叫び声を上げ飛び退く。僕らから距離を取って様子を伺うデカい虎は尻尾が切断され、背中も切り刻まれていた。

「ふふん!どうよ?尻尾以外にもだいぶ深く刻んでやったわ!」
 ミナモさんがどや顔を決めながら人差し指で高速回転している直径数センチの水の円盤を操っている。

(あれで切り刻んだのか・・・)

 しかし、何かおかしい・・・。様子を伺う虎は『グルグル・・・』と喉を鳴らしながら、口の隙間からは涎が垂れて、生き物にしては目に輝きが無い。

「ちょっと・・・待ってください・・・。ミナモさん。その水の水流刃を当てたんですよね?」

「ええ。がっつりと入ったわ!」

「なのに、どうしてあいつ・・・あんなに出血が少ないんです!?」

 僕が言うや否や、虎の背中の傷口から『ボコッ』ときのこが生える。

「!?、皆わたくしの後ろへ!!早く!!!・・・来なさい甲鉄虫!!」

 木々の中からどこからともなく甲虫が飛んできてベスパ様の腕に収まる。それと同時に皆が彼女の後方へと逃げてくる。
 虎は大きく息を吸い込むとブレスのように胞子を吐き出した。

「甲鉄虫!跳ね返しなさい!!」
 甲虫が激しく羽ばたき、吐き出した胞子を跳ね返していく。

「おいおい!!ゾンビパウダーかよ!?」
 後ろでカウボーイのおっさんが青い顔をして叫ぶ。

「なんです!?あれは!?」

屍茸かばねたけ・・・死体に寄生するきのこだよ!いや・・・生きてるときでも傷口から菌が入って徐々に身体を蝕み、乗っ取るんだよ。僅かな傷口からでも入ってくるのが厄介な所だ。」

「やばすぎるでしょ・・・。」

「滅多に見ない寄生菌糸なんだがな・・・あの嬢ちゃんの旋風が無ければモロに浴びていたな。」

「だけどやりやすい点もあるわ。屍茸に寄生された生物は単純な動きしか出来ない。キリングバイトは狡猾な獣だけど、その知能も今は大したこと無いでしょうね。まー、あたしに任せなさい。」

 ライカちゃんが前に出てミナモさんに目配せする。彼女は懐から瓶を取り出して虎に突撃すると相手もそれに応じて飛び掛かる。

「ばーか。こんなのに引っかかりやがって。」

 彼女は相手の飛び掛かりをすんでの所で後ろに飛び退き回避しながら虎に瓶の中身をぶちまける。しかし後ろへのバックステップだけではあの猛獣の牙から逃れるのは不十分だ!彼女にその牙が届くか!?という瞬間・・・

「そのまま燃えな!」
 彼女がそのまま猛獣の近くで能力を発動すると身体を雷光に変化させ瞬間移動の様に大きく後退する。そしてその雷光を近くで受けた猛獣から火の手が上がった。

「あはははは!可燃物を纏いながらあたしの傍に来るんじゃないわよ。そうなるからねぇ!」

 だが、猛獣は火だるまになり視界が無いながらも敵を探して暴れる。それをミナモさんの水撃が頭を捉えて吹き飛ばしたことにより動きを止めることとなった。

「まぁ!ただの逃げスキルじゃありませんでしたのね。」

「あん?」
 ヴェスパ様が嫌味のようにわざとらしく驚きながら言うと、ライカさんが睨み返す。

「ちょ!お嬢様。喧嘩売るのやめてください。」

「わたくしの指示があればこそ勝てたのですわ。」

「いやいや、あたしの機転でしょ?どう見ても!焼くことによって菌糸も潰したし。」

「止めを刺したのは私の水撃だけどね~。」
 二人のやり取りにミナモさんが混ざり余計に事をややこしくしていく。

「もういいじゃねえか!チームワークの勝利ってことで。」
 
「あら?あなた、何もしてないじゃありませんの?」

「ひど!ちゃんとほらボウズと一緒にタンクしたじゃねえか・・・。」
 オッサンが止めに入ったが言葉でボコされて、いじけている。ちょっと可哀想。

「せっかく勝ったのにどうして揉めるんだ・・・。」
 チェイサーさんが溜息をつきながら呟く。

 全く本当にね~。こんな調子で大丈夫なのだろうか?戦力面は申し分無いのになぁ・・・無いのになぁ!!
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