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塔内編
塔内編その27
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ひとしきりぎゃーぎゃー揉めた後、ヴェスパ様が真剣な様子で倒れた虎型の猛獣キリングバイトの方を向く。
「さてと・・・。では調べますか。」
「何をです?」
「本当ならわたくし一人でも勝てましたのよ?でも今のわたくしは斥候に虫を使っていて戦闘に虫をあまり割けませんの。」
なるほどそれであのデカいサソリを呼べなかったのか・・・。
ずっと能力を使いながら歩いて、かなり疲労が溜まっているだろうに・・・青い顔にもなるわけだ。
「ぷ・・・負け惜しみ。」
ライカちゃんが嫌味たらしく鼻で笑う。
「あん?」
その挑発的な態度に青筋立てて睨み返すヴェスパ様。疲労が溜まってるせいか、いつもより余計に沸点が低い。
「ちょ!ライカさん。蒸し返さないで!それでお嬢様、珍しく歩いてたんですね。あのデカいサソリ呼ばないのは何でだろうと思ってました。で、それとそこの猛獣の死体が何の関係があるんです?」
「妙なんですの。」
「と、言いますと?」
「当初は屍茸に感染してるとは思ってませんでしたから、獲物として狙われたのかと思ったのですが・・・。屍茸に感染し死んでるにも関わらず、一直線にわたくし達目掛けて来ましたのよ?この森に棲む他の生物に目もくれずにね。脳まで菌が回ってるはずなのに・・・。」
説明しながらキリングバイトの死体に近寄ってゆくヴェスパ様。
「そういえば・・・それ、確かに変な臭いがするんですよね?なんだろうな・・・気のせいかな?」
チェイサーもくんくんと鼻を効かせて首を傾げながらキリングバイトの死体に近づいていく。
「なんですって?」
チェイサーの言葉が発せられたのはヴェスパ様が死体を調べようと手を近づけた瞬間だった。猛獣の死体からズボっと手が出て、赤い液体がヴェスパ様に向かって飛ぶ。ヴェスパ様は素早く反応して飛び退くが、その液体は空中で針のようになり彼女の二の腕に幾つか刺さって体内に入って行った。
「迂闊ねぇ・・・ヴェスパぁ。あなたとあろうものが。ダメじゃない、こんな怪しい死体に不用意に近づいちゃ・・・。」
キリングバイトの体内から『ボコッ』と女性が出てくる。黒と紅を基調としたドレスを着ていて、どこかしらヴェスパ様と似た雰囲気のある女性だ。
「うわあああああ!!」
チェイサーが腰を抜かしてへたり込み、他の全員が構えて臨戦態勢になる。
「-紅月姫-・・・。」
肩を押さえながら膝をついてあらたな敵を睨むヴェスパ様。
「久しぶりぃ、女王蜂。ずいぶんくたびれた顔しちゃって。疲れで判断力鈍ったかしらぁ?クスクス・・・。もうちょっと多めに血が入ればその体をこのネコちゃんみたいに掌握してあげましたのに・・・まあいいわ。それじゃ、さ・よ・う・な・ら!」
ブラッドムーンと呼ばれた女性が手を『きゅっ』と握るとヴェスパさまの首付近で破裂が起き、大量に出血する。
「うわあああああああああ!!ヴェスパさん!!!」
一番近かったチェイサーが彼女に駆け寄るがあまりの出血にオロオロする。
「オロオロ・・・するんじゃ・・・ありませんの・・・。私の袋に止血パッドがあるので・・・お願いできるかしら?」
ヴェスパ様の指示でチェイサーが応急処置をする。
「あはははははは!!!一番厄介なヴェスパを上手く潰せたわ!彼女が索敵してたから奇襲が掛けにくかったけど、これで襲いたい放題ね。」
「あなたどうかしてるんじゃない!?そんな所に潜んで、あたしの攻撃で丸焼けになったらどうするつもりだったのよ!?」
ライカちゃんがそう言うが、言われてみれば妙だ。死体の中に隠れていたとはいえ、火傷もしていないし、菌糸にも犯されていない。
「わたくし少々丈夫でして。あんなぬるい攻撃じゃ死ぬどころか怪我一つ負いませんわ。そう・・・無敵!おまえらはわたくしを絶対倒せない!そして!これで!わたくしの勝利は約束されているッ!!」
ブラッドムーンは銃型の道具を取り出すと空に向かってそれを撃つ。けたたましい音と共に煙と光が立ち上った。
「信号弾か!?」
「さあ!続々とやってくるわよ~!でもヴェスパの索敵能力を失ったあなた達は既にどの方角から何人来るか把握できない!逃げようがない!『詰み』って奴ですわ!おほほほほほ!」
「くそ!?皆、ヴェスパ様を中心に円陣を組むぞ!」
僕の掛け声に皆が素早く動きチェイサーとヴェスパ様を守るように取り囲む。
「ま、その前にわたくしが片づけてしまってもよろしいのですけど!吸血鬼の真祖である、このブラッドムーンがね!」
ブラッドムーンが自分の手を噛みきり、こちらに向け血を弾丸の様に飛ばしてくる。
「その血が体内に入るとわたくしのように体内で爆発させられますわよ!!!」
「水鏡の盾!」
ヴェスパ様の忠告に皆が身構える中、ミナモさんが前に出ると地面から水吸いだし、その水で円形の盾を作り、ブラッドムーンの血を受け止めると水の中で霧散する。
「ふふ、あなたは血を操るかもしれないけど、私は液体を操るのよ。あなたの能力で私の能力を破れるかしら?」
「ぐ、ぬぬ・・・ま、まあ!もう応援を呼びましたしぃ?あなた方の優位ももう暫くの事ですわ~。」
ミナモさんが不敵に笑うと、ブラッドムーンはそれまで余裕の表情だったのに負け惜しみの様なことを言い出した。しかし・・・
シーン・・・
「おい・・・誰も来ないぞ?」
カウボーイのオッサンが辺りを警戒しながらボソッと呟く。待てど暮らせど誰もやってこない。
「そ、そんなはずありませんわ!ピイイイイイイィィィィィ!!」
彼女はもう一度合図の為か笛を取り出して吹く・・・が、しかし、音が木霊した後は森の静けさだけが残った。
「これってもう形勢逆転じゃな~い?」
ライカちゃんが煽るように言うと目の前の敵は目を泳がせながらあからさまに動揺しだした。
「お、おほん!ま、まあ?今回はこれで手打ちにしてあげてもよろしくってよ?」
「な~にが『よろしくってよ』よ!ここから私達が逃がすとでも?」
「ひっ・・・!」
ミナモさんが睨みを効かせながら距離を詰めていくと、相手は青い顔をしながらジリジリ下がっていく。
その時だった。
「はーっはっはっはっはっはっはっはーーーー!!!」
近くの木の上から男の子の声が響く。声の方角を見ると少年が木の枝に乗り仁王立ちしていた。高所恐怖症なんだろうか?微妙に顔が引きつり膝が笑ってるんだが・・・。
「た、タケル!よく来てくれました!他の皆は!?」
「なんかオトコとオンナのナントカ?って言ってお子ちゃまはあっち行ってろって・・・。ひでーよなー。だからオイラ、一人で合図を待ってたんだ・・・。」
「ななななな何をしてますの!?あいつ等は~~~~!」
「まー!でもオイラが来たからには大丈夫だぜ!姉ちゃん!!行くぞ、お前たち!ビューティフル・・・。」
「待ちな・・・。」
少年がポーズを取り、何かをしようとしていた時だった。全員の死角に仮面を付け顔を隠した大きな男が立っていた。
(こいつ・・・近づく気配が無かった!)
「マスクのおじさん!」
「ペルソナ!来てくれたのですね!」
「急襲は中止だ。帰るぞ。」
「何言ってますの!?折角わたくしがヴェスパを潰しましたのよ!?こんなチャンスもうありませんわ!」
「他の奴は全滅だ。変な奴がうろついてやがる。そいつにみんなやられた。残ってるのは俺たちだけだ。」
「なんですって!?」
「それにブラッドムーン。お前はヴェスパを潰せば何とかなると思ってるようだが、一番厄介なのはそこのひょろい冴えないガキだよ。」
目線で大男が僕を指してくる。
(僕のことを知っている!?いや・・・こんな奴と会ったことがあったか?)
「そいつが?そんな馬鹿な。そいつは前情報通り土や石を使って少しの構造物を作るだけの大したことない能力ですわ。」
酷い言われようだ。だが今までの活躍だと、まぁそう言う評価になるよな。
「言っておくが、そいつはタケルの”タケミカヅチ”よりも怖いぜ?」
「タケルよりも?ハッ!それこそありえませんわ!あなた怖気づいたんじゃなくて?」
ブラッドムーンが馬鹿にしたようにマスク男をあざ笑う。
「ま、俺は忠告したからな。そこそこやり合ったらとっとと離脱しろよ。まだ、『あの化け物』はうろついてるからな。」
マスク男は挑発めいたブラッドムーンを相手にせず、そう言い残すと森林の闇へと消えていった。
「何を馬鹿なことを・・・。タケル!やっておしまい!」
「さ、させませんわ・・・!」
虫を使おうとしたのだろう。チェイサーに支えられて立つヴェスパ様が手をかざして能力を使おうとするが、出血が酷いせいかうまく能力が扱えず膝をつく。
「了解だぜ!姉ちゃん!-純真無垢-!!来い!タケミカヅチーーーーー!!!」
少年がポーズを取り、手を掲げると空から巨大な何かが降ってくる。辺りに砂埃が激しく舞い、それが落ち着くと『それ』が全容を表す。
「お、おいおい・・・タイタンフォールかよ・・・。」
「いや、どっちかと言うと見た目は昭和時代のスーパーロボットですよ。」
「ちょっと!カウボーイさんも剣士君もそんなこと言ってる場合じゃないって!」
人間のような顔つきの10mは優にあるだろう、巨大ロボットがタケルの前に立っており、タケルが合図すると手で受け、胸のコクピットに連れていく。
「さあ!オイラのタケミカヅチより強いところ見せてくれよな!」
ロボットからタケル少年の声が聞こえる。
「って言われてもなぁ・・・。」
う~ん・・・どうしたものか・・・皆で顔を見合わせるが皆、顔が『無理無理』と言っていた。しょうがない・・・!
「お~い!タケルって言ったか~?」
「おう!」
「良い勝負にしたいか~?」
「おう!!」
「ちょっと待てる~?」
「いいぞ~!剣士の兄ちゃん!」
素直か!?
「ちょっと!タケル!さっさとやっておしまい!」
「ダメだ!オイラのヒーロー道に反する!」
「だってよ~?タケル君はお前と違っていい子だねぇ~。」
「きーーーーー!!!ならばわたくしが!」
「やれるのかしら?」
ミナモさんが『ふふん』と余裕の表情を見せると、『ぐぬぬ・・・』と言いながらブラッドムーンは引き下がった。この吸血鬼、耐久力はあるのかもしれないけど、たいしたことないな。
猶予を貰った僕はストラクチャーを発動して物質を形成していく。ずっと練習し温めてきたのだ!お披露目は今この時だ!
「お?おお・・・おおおお!・・・おん???」
ふっ・・・オッサンも驚きのあまり言葉を失ったようだな。
「どお?凄いでしょう?ベスパ様。」
ふふん?見直しただろぉ?惚れちゃいけないぜぇ?
「ストラクチャー。」
「はい!!!」
「やりなおしなさい。」
「ワッツ!?」
何がいけないというのだ?
「なあボウズ。これ『ンゴゴー!』とか言ったりしない?」
おい!だれがク●イゴーレムじゃい!失礼なオッサンだな・・・いや?似てる・・・か?あ、愛嬌ある顔だよね・・・うん。
「ぷっ・・・なにこれ!ダサすぎ!ウケる。」
「ええーっと、まさか・・・これに乗って戦う・・・の?」
「もちろん!手と足それぞれ動かさないといけないんでみんな乗ってください!」
馬鹿笑いするライカちゃんに顔を引きつらせるミナモさん。微妙に嫌そうな顔しやがって・・・可愛いでしょうに!
「ボウズよぉ~・・・せめてス●ープドックくらいにはならなかったのか?」
それはそれで縁起悪いだろ、おっさん。むせるなぁ。
「えっと・・・俺は戦えないから遠慮していいんだよね?」
「チェイサーさんはヴェスパ様の介助で一緒に乗り込んで!」
「ブルーデ●ティニーに作り直しなさい・・・。」
「ねえ?それ僕ら乗って大丈夫?頭おかしくなって死なない?いや・・・そもそもそんな複雑な形は無理ですって!」
無理難題言うヴェスパ様にその身体を支えながら嫌そうにするチェイサーさん。
なんだよ!皆。そんなに不安なのか!?まあ?相手の方がちょっとカッコいいけど・・・ちょっとだけ、ほんのちょっとだけな!あれだ・・・ロボも人も顔じゃねーから!ハートだから!
「もう!いいから、みんな乗ってくださいよ!こら!そこの地雷系!足の部分を勝手にデコらない!」
ミナモさんまで地雷系女子と一緒に『こっちの方が可愛くない?』とか言ってデコってるし、みんな自由過ぎるよぉ・・・
「なあ?兄ちゃん・・・そろそろいいか?」
ほら!もう!タケル君も困惑してるじゃない!
「ごめんよぉ!タケル君。もうちょっと待ってぇ・・・。」
何故か情けなく敵に懇願する僕・・・。ほんとなんでこんな事で頭下げてるんだろ?
「さてと・・・。では調べますか。」
「何をです?」
「本当ならわたくし一人でも勝てましたのよ?でも今のわたくしは斥候に虫を使っていて戦闘に虫をあまり割けませんの。」
なるほどそれであのデカいサソリを呼べなかったのか・・・。
ずっと能力を使いながら歩いて、かなり疲労が溜まっているだろうに・・・青い顔にもなるわけだ。
「ぷ・・・負け惜しみ。」
ライカちゃんが嫌味たらしく鼻で笑う。
「あん?」
その挑発的な態度に青筋立てて睨み返すヴェスパ様。疲労が溜まってるせいか、いつもより余計に沸点が低い。
「ちょ!ライカさん。蒸し返さないで!それでお嬢様、珍しく歩いてたんですね。あのデカいサソリ呼ばないのは何でだろうと思ってました。で、それとそこの猛獣の死体が何の関係があるんです?」
「妙なんですの。」
「と、言いますと?」
「当初は屍茸に感染してるとは思ってませんでしたから、獲物として狙われたのかと思ったのですが・・・。屍茸に感染し死んでるにも関わらず、一直線にわたくし達目掛けて来ましたのよ?この森に棲む他の生物に目もくれずにね。脳まで菌が回ってるはずなのに・・・。」
説明しながらキリングバイトの死体に近寄ってゆくヴェスパ様。
「そういえば・・・それ、確かに変な臭いがするんですよね?なんだろうな・・・気のせいかな?」
チェイサーもくんくんと鼻を効かせて首を傾げながらキリングバイトの死体に近づいていく。
「なんですって?」
チェイサーの言葉が発せられたのはヴェスパ様が死体を調べようと手を近づけた瞬間だった。猛獣の死体からズボっと手が出て、赤い液体がヴェスパ様に向かって飛ぶ。ヴェスパ様は素早く反応して飛び退くが、その液体は空中で針のようになり彼女の二の腕に幾つか刺さって体内に入って行った。
「迂闊ねぇ・・・ヴェスパぁ。あなたとあろうものが。ダメじゃない、こんな怪しい死体に不用意に近づいちゃ・・・。」
キリングバイトの体内から『ボコッ』と女性が出てくる。黒と紅を基調としたドレスを着ていて、どこかしらヴェスパ様と似た雰囲気のある女性だ。
「うわあああああ!!」
チェイサーが腰を抜かしてへたり込み、他の全員が構えて臨戦態勢になる。
「-紅月姫-・・・。」
肩を押さえながら膝をついてあらたな敵を睨むヴェスパ様。
「久しぶりぃ、女王蜂。ずいぶんくたびれた顔しちゃって。疲れで判断力鈍ったかしらぁ?クスクス・・・。もうちょっと多めに血が入ればその体をこのネコちゃんみたいに掌握してあげましたのに・・・まあいいわ。それじゃ、さ・よ・う・な・ら!」
ブラッドムーンと呼ばれた女性が手を『きゅっ』と握るとヴェスパさまの首付近で破裂が起き、大量に出血する。
「うわあああああああああ!!ヴェスパさん!!!」
一番近かったチェイサーが彼女に駆け寄るがあまりの出血にオロオロする。
「オロオロ・・・するんじゃ・・・ありませんの・・・。私の袋に止血パッドがあるので・・・お願いできるかしら?」
ヴェスパ様の指示でチェイサーが応急処置をする。
「あはははははは!!!一番厄介なヴェスパを上手く潰せたわ!彼女が索敵してたから奇襲が掛けにくかったけど、これで襲いたい放題ね。」
「あなたどうかしてるんじゃない!?そんな所に潜んで、あたしの攻撃で丸焼けになったらどうするつもりだったのよ!?」
ライカちゃんがそう言うが、言われてみれば妙だ。死体の中に隠れていたとはいえ、火傷もしていないし、菌糸にも犯されていない。
「わたくし少々丈夫でして。あんなぬるい攻撃じゃ死ぬどころか怪我一つ負いませんわ。そう・・・無敵!おまえらはわたくしを絶対倒せない!そして!これで!わたくしの勝利は約束されているッ!!」
ブラッドムーンは銃型の道具を取り出すと空に向かってそれを撃つ。けたたましい音と共に煙と光が立ち上った。
「信号弾か!?」
「さあ!続々とやってくるわよ~!でもヴェスパの索敵能力を失ったあなた達は既にどの方角から何人来るか把握できない!逃げようがない!『詰み』って奴ですわ!おほほほほほ!」
「くそ!?皆、ヴェスパ様を中心に円陣を組むぞ!」
僕の掛け声に皆が素早く動きチェイサーとヴェスパ様を守るように取り囲む。
「ま、その前にわたくしが片づけてしまってもよろしいのですけど!吸血鬼の真祖である、このブラッドムーンがね!」
ブラッドムーンが自分の手を噛みきり、こちらに向け血を弾丸の様に飛ばしてくる。
「その血が体内に入るとわたくしのように体内で爆発させられますわよ!!!」
「水鏡の盾!」
ヴェスパ様の忠告に皆が身構える中、ミナモさんが前に出ると地面から水吸いだし、その水で円形の盾を作り、ブラッドムーンの血を受け止めると水の中で霧散する。
「ふふ、あなたは血を操るかもしれないけど、私は液体を操るのよ。あなたの能力で私の能力を破れるかしら?」
「ぐ、ぬぬ・・・ま、まあ!もう応援を呼びましたしぃ?あなた方の優位ももう暫くの事ですわ~。」
ミナモさんが不敵に笑うと、ブラッドムーンはそれまで余裕の表情だったのに負け惜しみの様なことを言い出した。しかし・・・
シーン・・・
「おい・・・誰も来ないぞ?」
カウボーイのオッサンが辺りを警戒しながらボソッと呟く。待てど暮らせど誰もやってこない。
「そ、そんなはずありませんわ!ピイイイイイイィィィィィ!!」
彼女はもう一度合図の為か笛を取り出して吹く・・・が、しかし、音が木霊した後は森の静けさだけが残った。
「これってもう形勢逆転じゃな~い?」
ライカちゃんが煽るように言うと目の前の敵は目を泳がせながらあからさまに動揺しだした。
「お、おほん!ま、まあ?今回はこれで手打ちにしてあげてもよろしくってよ?」
「な~にが『よろしくってよ』よ!ここから私達が逃がすとでも?」
「ひっ・・・!」
ミナモさんが睨みを効かせながら距離を詰めていくと、相手は青い顔をしながらジリジリ下がっていく。
その時だった。
「はーっはっはっはっはっはっはっはーーーー!!!」
近くの木の上から男の子の声が響く。声の方角を見ると少年が木の枝に乗り仁王立ちしていた。高所恐怖症なんだろうか?微妙に顔が引きつり膝が笑ってるんだが・・・。
「た、タケル!よく来てくれました!他の皆は!?」
「なんかオトコとオンナのナントカ?って言ってお子ちゃまはあっち行ってろって・・・。ひでーよなー。だからオイラ、一人で合図を待ってたんだ・・・。」
「ななななな何をしてますの!?あいつ等は~~~~!」
「まー!でもオイラが来たからには大丈夫だぜ!姉ちゃん!!行くぞ、お前たち!ビューティフル・・・。」
「待ちな・・・。」
少年がポーズを取り、何かをしようとしていた時だった。全員の死角に仮面を付け顔を隠した大きな男が立っていた。
(こいつ・・・近づく気配が無かった!)
「マスクのおじさん!」
「ペルソナ!来てくれたのですね!」
「急襲は中止だ。帰るぞ。」
「何言ってますの!?折角わたくしがヴェスパを潰しましたのよ!?こんなチャンスもうありませんわ!」
「他の奴は全滅だ。変な奴がうろついてやがる。そいつにみんなやられた。残ってるのは俺たちだけだ。」
「なんですって!?」
「それにブラッドムーン。お前はヴェスパを潰せば何とかなると思ってるようだが、一番厄介なのはそこのひょろい冴えないガキだよ。」
目線で大男が僕を指してくる。
(僕のことを知っている!?いや・・・こんな奴と会ったことがあったか?)
「そいつが?そんな馬鹿な。そいつは前情報通り土や石を使って少しの構造物を作るだけの大したことない能力ですわ。」
酷い言われようだ。だが今までの活躍だと、まぁそう言う評価になるよな。
「言っておくが、そいつはタケルの”タケミカヅチ”よりも怖いぜ?」
「タケルよりも?ハッ!それこそありえませんわ!あなた怖気づいたんじゃなくて?」
ブラッドムーンが馬鹿にしたようにマスク男をあざ笑う。
「ま、俺は忠告したからな。そこそこやり合ったらとっとと離脱しろよ。まだ、『あの化け物』はうろついてるからな。」
マスク男は挑発めいたブラッドムーンを相手にせず、そう言い残すと森林の闇へと消えていった。
「何を馬鹿なことを・・・。タケル!やっておしまい!」
「さ、させませんわ・・・!」
虫を使おうとしたのだろう。チェイサーに支えられて立つヴェスパ様が手をかざして能力を使おうとするが、出血が酷いせいかうまく能力が扱えず膝をつく。
「了解だぜ!姉ちゃん!-純真無垢-!!来い!タケミカヅチーーーーー!!!」
少年がポーズを取り、手を掲げると空から巨大な何かが降ってくる。辺りに砂埃が激しく舞い、それが落ち着くと『それ』が全容を表す。
「お、おいおい・・・タイタンフォールかよ・・・。」
「いや、どっちかと言うと見た目は昭和時代のスーパーロボットですよ。」
「ちょっと!カウボーイさんも剣士君もそんなこと言ってる場合じゃないって!」
人間のような顔つきの10mは優にあるだろう、巨大ロボットがタケルの前に立っており、タケルが合図すると手で受け、胸のコクピットに連れていく。
「さあ!オイラのタケミカヅチより強いところ見せてくれよな!」
ロボットからタケル少年の声が聞こえる。
「って言われてもなぁ・・・。」
う~ん・・・どうしたものか・・・皆で顔を見合わせるが皆、顔が『無理無理』と言っていた。しょうがない・・・!
「お~い!タケルって言ったか~?」
「おう!」
「良い勝負にしたいか~?」
「おう!!」
「ちょっと待てる~?」
「いいぞ~!剣士の兄ちゃん!」
素直か!?
「ちょっと!タケル!さっさとやっておしまい!」
「ダメだ!オイラのヒーロー道に反する!」
「だってよ~?タケル君はお前と違っていい子だねぇ~。」
「きーーーーー!!!ならばわたくしが!」
「やれるのかしら?」
ミナモさんが『ふふん』と余裕の表情を見せると、『ぐぬぬ・・・』と言いながらブラッドムーンは引き下がった。この吸血鬼、耐久力はあるのかもしれないけど、たいしたことないな。
猶予を貰った僕はストラクチャーを発動して物質を形成していく。ずっと練習し温めてきたのだ!お披露目は今この時だ!
「お?おお・・・おおおお!・・・おん???」
ふっ・・・オッサンも驚きのあまり言葉を失ったようだな。
「どお?凄いでしょう?ベスパ様。」
ふふん?見直しただろぉ?惚れちゃいけないぜぇ?
「ストラクチャー。」
「はい!!!」
「やりなおしなさい。」
「ワッツ!?」
何がいけないというのだ?
「なあボウズ。これ『ンゴゴー!』とか言ったりしない?」
おい!だれがク●イゴーレムじゃい!失礼なオッサンだな・・・いや?似てる・・・か?あ、愛嬌ある顔だよね・・・うん。
「ぷっ・・・なにこれ!ダサすぎ!ウケる。」
「ええーっと、まさか・・・これに乗って戦う・・・の?」
「もちろん!手と足それぞれ動かさないといけないんでみんな乗ってください!」
馬鹿笑いするライカちゃんに顔を引きつらせるミナモさん。微妙に嫌そうな顔しやがって・・・可愛いでしょうに!
「ボウズよぉ~・・・せめてス●ープドックくらいにはならなかったのか?」
それはそれで縁起悪いだろ、おっさん。むせるなぁ。
「えっと・・・俺は戦えないから遠慮していいんだよね?」
「チェイサーさんはヴェスパ様の介助で一緒に乗り込んで!」
「ブルーデ●ティニーに作り直しなさい・・・。」
「ねえ?それ僕ら乗って大丈夫?頭おかしくなって死なない?いや・・・そもそもそんな複雑な形は無理ですって!」
無理難題言うヴェスパ様にその身体を支えながら嫌そうにするチェイサーさん。
なんだよ!皆。そんなに不安なのか!?まあ?相手の方がちょっとカッコいいけど・・・ちょっとだけ、ほんのちょっとだけな!あれだ・・・ロボも人も顔じゃねーから!ハートだから!
「もう!いいから、みんな乗ってくださいよ!こら!そこの地雷系!足の部分を勝手にデコらない!」
ミナモさんまで地雷系女子と一緒に『こっちの方が可愛くない?』とか言ってデコってるし、みんな自由過ぎるよぉ・・・
「なあ?兄ちゃん・・・そろそろいいか?」
ほら!もう!タケル君も困惑してるじゃない!
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