羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その30

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「で、ここからどうするんです?」

「おいおい、ノープランなのかよ?ストラクチャー!」

「そこの縦ロールが裏切ったって話が伝わってるかどうかも分からないし、勝手に混ざっても案外何とかなるんじゃない?」

「でもライカちゃん。あのブラッドムーンとかいう女の人はヴェスパさんがこっちについたこと知ってたよ?」

「奇襲をかければ一人二人なら水龍刀刃で首を飛ばせるけど・・・この人数じゃねぇ・・・。」

 茂みから12個の目が覗き、忙しなく動くアーカイブの部隊員を目で追いながら、コソコソと話をする。僕らはあの仮面を被った大男を追ってようやくアーカイブの集団に追いついた。・・・が、一度、僕もこのキャンプを見ているが、非常に規模が大きい分、どこに女騎士さんとカルディアさんが居るか分からない。この人数で真正面からやり合う訳にもいかず、こうして隠れているって訳。
 さて、どうしたものやら・・・

「まぁ、見てなさい。」

「どうするの?ヴェス・・・ひっ!・・・む、むぐっ!」

 悲鳴を上げそうになったミナモさんの口をおっさんと二人で必死で塞ぐ。ヴェスパ様が呼び寄せたのは大量の小さい蜘蛛や数センチある大型のアリ達。それにミナモさんのトラウマになってる、あのゴキ●リ。

「行け。」

 短く命令を下すと一斉に散って行く。

「よし・・・それじゃあ一旦離れましょう。」

「おい、いいのかよ?せっかくここまで来て・・・。」

「なんの為に虫を放ったと思ってますの?この中年は。件の女騎士とカルディアを探すためですわ。おまけに彼女らに虫を付けておけばチャンスも伺えるでしょう。お前は戦闘になったら役に立ってもらうのだから、今は大人しくわたくしに従いなさい。・・・ああ、ごめんなさい~。あなたって戦闘でも役に立つかどうか分からない方でしたね。」

 ボロカスに言われて肩を落としながら場を離れる、おっさん。可哀想に。その肩をミナモさんが優しい目をしながらそっと叩いてるのはちょっと羨ましい。

「そうそう。ストラクチャー、能力でそこに小さい穴を掘っておいてくれるかしら?」

「?いいですけど?なにをするんです?」

「ん~・・・そうですわね・・・。退職金を頂こうと思って♪」

「???」

 言われた通り地面に小さい穴を開けてから僕もその場を離れた。


 数キロ離れた場所でキャンプにする。ヴェスパ様は集中しているのか、あれから全く何も話さず、動きも・・・動きも・・・いや・・・元々この人、『何故わたくしがその様な雑務をしなければならないのかしら?』とキャンプの手伝いとか一切しない人だったわ。シャークさんと一緒に街を目指していた時は揉めることも無かったけど、このパーティーじゃ当初はライカちゃんがガミガミとキレ散らかしていた。今ではもう諦めてるけどね。

「あの~・・・ヴェスパ様。」

「なにかしら?愚民。」

「女騎士さんとカルディアさんは見つかったんですか?」

「見つかりはしましたわ。」

「本当ですか!?これで助けに行ける!すぐ行きましょう!」

「お待ちなさい。どういう状況か分からないのに突っ込めませんわ。」

「え?虫達と視野を共有できるんじゃ?ほ、ほら!軽戦士君と会ったとき『虫達を通して見ていた』って。」

「蜂ならね。相性がありますの。わたくしは女王蜂よ。蜂が最も相性がよく、視野や声まで拾いますが、蜘蛛やアリとはそこまでの事は出来ませんわ。」

「じゃ、何で蜂を使役しないんです?」

「アーカイブはわたくしの能力を把握しているのよ。そんな事してみなさい。わたくし達の接近を知らせるような行為ですわ。」

「じゃあ!一体いつになったら助けに行けるんです!?」

「五月蝿い!!疲れてるのに耳元で叫ばないでくださる!!??」

「おいおい、どしたの~?せっかくここまで順調よく来てるんだからさ~。揉め事は無しにしようぜ~。」

 僕とヴェスパ様の言い合いを聞きつけてキャンプの準備をしてくれていたおっさんが仲裁に飛んでくる。

「先程、陣営を見に行きましたでしょ?あれだけ忙しなく隊員が動いているのは、もうすぐ移動が始まるからですわ。移動が始まれば何かきっかけがあるかもしれませんわ。チャンスを待ちなさいな。」

 そう言うとヴェスパ様は毛布に包まり僕に背を向けて寝てしまった。おっさんは頭を掻いてから僕の肩にそっと手を置いて、

「焦る気持ちも分かるけどよ。急いて事を仕損じるって言葉もあるくらいだし、慎重に行こうぜ?な?」

「で、でも・・・。」

「ちょっとー!こっち手伝ってくれる~?」

「おう!今行くー。ま、ジッとしてたら考えすぎちまうぜ?こっちでお前さんも手伝ってくれよ。」

「・・・は・・・い・・・。」

 はやる気持ちを言葉にしようとしたとき、ミナモさんの呼ぶ声にかき消されてしまう。
 僕はおっさんに促されてミナモさんの呼ぶ声の方へと歩いて行った。
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