羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その31

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 あれから随分と移動させられた。この大所帯でも拠点の設営と撤収はずいぶんと手際がよく手慣れている。それだけここに居る者は多くの場数を踏んでいるのだろう。
 だが移動に関しては妙だ。今も深い森の中を移動しているが、アーカイブが指示を出して皆、その方角に従って進んでいる。その指示役のアーカイブは地図も何も持っている様子が無いのだ。こんなにも深い森の中なのに・・・私はその疑問を彼女に投げかけてみることにした。

「一体どこに向かっているのですか?」

「もちろん出口ですよ?」
 
「何故その方角に出口があると?」

「感じるから・・・としか。」

「感じる?」

「この子が教えてくれるのよ。」

 私の疑問に彼女は腕に付けている黄金の盾をコンコンと叩くと、盾から伸びる鎖がジャラジャラと音を立てた。

(あれが黄金器・・・コレクターさんが言っていた。確かに・・・見ているだけでも不思議な感覚に囚われる。持ち主なら尚更何か感じるものがあるのだろう。コレクターさんの話だとフォーチュン様はアレを見て何かを感じたらしいが・・・)

「カルディアさん、あの盾に何か感じる事はありますか?」

 私は隣を歩くカルディアさんに尋ねるも、

「へ?う、うーん・・・綺麗な盾だなー、とは思いますけど。」

 彼女とは関係が無いのだろうか。今一度盾を凝視しても底知れぬ力を感じるという点以外は何も気付くことは無かった。

(一体、フォーチュン様は何に気付いたのか・・・。)

「あいててててて・・・。」
 
 隣でカルディアさんが少し痛そうに身体をさする。

「そういえば、カルディアさん。身体の方は大丈夫ですか?」

「もう・・・。さっきも聞いてましたよ。大丈夫ですって。ちょっと手合わせ?みたいなことをさせられてるだけですから。それも、ちゃんと一般のあたしに合わせてくれてますし。」

「それならいいのですが・・・。」

 この部隊に合流してからは毎晩カルディアさんはアーカイブに呼び出されて、何かをさせられてるようだった。私が付いて行こうとしてもカルディアさんのみだと言うことで、彼女の口から聞く範囲だが、どうも身体能力の測定や模擬試合のような事をさせられているとのこと。戦えない彼女に一体何を・・・。いや・・・もしかしてアーカイブはもしかして知っているのか・・・?あの紅い彼女を。彼女に執着して攫ったのもそれが目的か・・・?しかし、あれを呼び起こしたとしてあんなのを制御出来るとはとても思えない。もしそうだとしたら危険すぎる。やめさせないと!

 考え事をしていると先頭集団から一人の部下がやってきてアーカイブに報告を始めた。

「報告します。前方に洞窟を発見しました。」

「迂回路は?」

「見つかっておりません。」

「ならそこを進むしか無さそうね。」

「そ、それが・・・。」

「何か問題が?」

「先頭まで来ていただけますか?」

「わかった。・・・シャーク!それにお前たちも付いて来なさい。」
 
 私達は移動の際は監視のためか常にシャドウシャークが付けられ、アーカイブの目の届く範囲に留められていた。こうして集団内を移動する際もそうだ。
 先頭まで移動すると森が開けたぽっかりとした空間があり、その先に先程言っていた洞窟の入口が見える。しかしその入口の前には上半身は鳥、下半身は獣で背中から翼の生えた魔獣が陣取り何かを貪っていたのだ。

「よお、来たか。」

 森の切れ目となる木に背中を預けながら仮面を被り顔を隠した大男がアーカイブに気付き話しかけてくる。

「なにをしてるのです、ペルソナ。早く排除なさい。」

「一人やられてな、今まさに食われている奴だ。その所為でタンクもアタッカーもビビっちまって役に立たねえんだよ。」

 そう言って親指で後方を指すと、茂みに立派な鎧を来た十数人が頭を抱えて蹲っていた。

「仕様がありませんわ。後方から‐正戦論ジャスティス‐と‐偏愛強要ラバーズ‐を呼びなさい。あの子、寝起きが悪いから数名で行きなさいよ。」

 近くにいた部下に指示を下すと、数人がすぐさま後方に走り去っていく。暫くすると、一人が目をこする眠そうなラバーズさんを引きつれて帰ってきた。

「なに~。お姉ちゃん~。・・・眠いんだけど。」

「ごめんなさい、ラバーズ。あなたの力を貸してくれないかしら?」

「あのグリフォン?を大人しくさせればいいの?」

「そうそう。お願いね~。」

 アーカイブに言われてラバーズさんが鳥型の魔獣、グリフォンに近寄って行く。グリフォンの方もそれに気付き、食事を止めてジッとラバーズさんを見据えて警戒している。

『嬢ちゃん。気を付けな。』

「おわ!?」

「どうしました?女騎士さん。」

「な、何でもないんだ・・・ははは。」

(急に話しかけるな!カルディアさんに変に思われただろ!)

『酷い!折角忠告してあげようと思ったのに!』

(それでなんだ?殺気か?そりゃ、近寄ればするだろ?)

 アパラージタと話している間にすでにラバーズさんはかなりグリフォンに接近していて、能力を使おうとしているのか両手を広げていた。

『違う違う。逆だよ。全くしないんだ。なーんにも感じない。逆におかしいぜ?あれだけ見た感じは警戒してるのに、おかしい、まるで生物じゃないような・・・。俺の予測なんだがな・・・あのラバーズって子、あいつとは相性最悪、危険かもしれないぜ?』
 
「馬鹿!それを早く言え!」

 思わず声に出てしまう。隣に居るカルディアさんがびっくりしているが構うものか。私は森から出て義手をラバースさんに向けて構えて内臓されている照準器を出す。
 すでにグリフォンは大きく立ち上がりラバーズさんを屠る鉤爪の一撃を繰り出そうとしていた。その行動が全員予想外だったのか、アーカイブもラバーズさん本人も目を見開き唖然としている。

「間に合え!!!」
 
 内蔵されているグラップリングワイヤーを射出してラバースさんを引っ掛けて一気に巻き取った。先程までラバーズさんの居た場所に土煙が上がり、地面に穴が開いている。
 ラバーズさんはと言うとギリギリ間に合い、私が彼女を受け止める形でしたたかに激突している。

「いてて・・・。」

「女騎士さん!!」
 
 カルディアさんが駆け寄って来ていて、倒れこんでいる私と腰が抜けたラバーズさんを必死に森へと引っ張っろうとしている。しかし、グリフォンは既に天高く舞い上がり、私達目掛けて滑空してきている。

「まずい!!助けないと!」

 助けに入ろうとしたシャドウシャークをアーカイブが制止する。

「いえ・・・ちょうどいいわ・・・。待ちなさい!シャーク!・・・さぁ!カルディアさん!!今こそあなたの力を見せてくださいまし!」

「あ、あたしにそんな力ありません!」

「いいえ!あります!私はこの目で見たのですから!さあ!誰も助けませんよ!さあ!さあさあさあ!」

 やはりアーカイブは知っている!あの紅いカルディアさんを!だが、そんな都合良く発現するとは思えない!

「無理だ!彼女にそんな力は無い!」

「五月蝿い!無能のおまけは黙っていろ!!」

 私が口を挟むと鬼のような形相で口汚く罵られる。

『おいおい。とうとう本性を表したな、あいつ。』

「くそっ!」

 私は素早く立ち上がり二人の前に立ち、アパラージタを抜いて構えて、グリフォンの滑空攻撃に対峙する。しかし・・・

(は、はやい!!」

 あまりに速く鋭い一撃に防御が全く間に合わない。急所を抉られる!そう思った瞬間、私の身体とグリフォンの鉤爪の間に見えない壁が出来て、グリフォンの攻撃を弾いた。グリフォンは距離を取った後にまた空高く飛び上がり、旋回しながら私達の様子を伺っている。

(アパラージタ!お前なのか!?)

『・・・何度も出来ない・・・からな・・・嬢ちゃん・・・あんまり頼りにしてくれるなよ!!』
 
 心なしかアパラージタの声に力が無く、いつもの余裕を感じない。コレクターさんが使用していた頃から、いや、それよりもずっと以前からこうして使用者を護ってきたのだろう。癪だが口うるさい剣に感謝をしつつ剣を構えてグリフォンを睨みつける。
『全部聞こえてるからな』という小うるさい声は全力で無視することにした。

「何をしているんです!カルディアさんならそんな奴一瞬でしょ!?」

「無理です。あたしには無理です!!」

「リーダー!!もう助けに入らないと本当にやられてしまいますよ!!」

 尚も、カルディアさんにグリフォンを倒せと言うアーカイブは言うが、カルディアさんに剣士君と出会ったときやアルケミストの館での様な圧迫感は微塵も感じない。アーカイブは彼女を追い詰めたら力が発現するとでも思っているのか!?だが、現状再現性が無い。このまま戦わせてもただやられるだけだ。
 そうこうしている間にグリフォンがまた滑空してこちらを狙ってくる。私は義手を操作ながらグリフォンをギリギリまで引き付け・・・

「喰らえ!!」

 閃光弾を目の前に放つ。バランスを崩して墜落したグリフォンの喉元目掛けて刃を突き立てるが、それだけでは絶命には至らず首を激しく動かし暴れ回り、私は剣にしがみつきながら激しく揺さぶられる。

『嬢ちゃん振り落とされるなよ!俺様と離れ離れになったら守ってやれねえからな!』

「わかってる!はやく!はやく死んでくれ!」

 必死にしがみついて粘っていた時だった。

「やるじゃないか!金髪の女!とう!!」
  
 空高く飛び上がる影が見え、太陽の中から男性が降ってくる。

「正義の心を力に変えて!ジャスティス・・・ざーーーーーーーん!!!!」

 グリフォンの首に空からの一閃。首は綺麗な断面を残して地面に落ち、その巨体は首に遅れて轟音と砂煙と上げて地面に横たわったのだった。

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