羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その45

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「よし・・・上手くいったな!」

「いやいや!どこがよ!見なさいよ、あの穴!」

 私達は家の真下、次元斬の能力で作ったぽっかりと空いた空間に5人顔を突き合わせて座っていた。周囲の壁には崩れたりしないようアイスエイジがカチコチに凍らせて補強してある。そして今、私が指さす上には人が一人通れそうな穴が垂直に開いている。そこにアイスエイジが氷で足場を作ってくれているのだが・・・、その穴は家の床どころか、二階を貫き、天井を貫き、屋根を貫き、お日様の見える青空が映っている。

「いやぁ~、つい力が入りすぎちまった~。悪ぃな、ははは!」

「ねーねー!今、綺麗な鳥が家の上を飛んでいったよ!」

「お?ありゃ、極楽鳥だな。滅多に見られないんだぜ?ツイてるな、アイスエイジの嬢ちゃん。」

「鳥なんぞどうでもいいわ!どーすんのよ~!まだ、あんたのまともな義手や義足も作れてないのに~。」

「ま~、死んだら元も子も無ぇんだから今は勝つことだけ考えようぜ、な!」
 
 1ミリも申し訳なさそうなんだけどこいつ!こっちはギリギリの切り詰めた生活してるのに!この簡素なお家を手に入れるのにどれだけ私とぼんぼん君が働いたと思ってるのよ~!

「大丈夫ですよ、隊長・・・。」

「アーセナルぅ・・・。」

 彼女は優しく声をかけてくれて頭をゆっくりと撫でてくれる。こんな時でも慰めてくれる元部下が温かい。

「借金生活も結構楽しいですから、フフフフフフ・・・・。」

 あ・・・あかん。笑ってるけど目に光が無い。こいつ既に手遅れか。

「大丈夫よ!私がトップアイドルになってじゃんじゃん稼いで家の一軒や二軒、簡単に建ててあげるわ!」

 アイスエイジがその薄い胸をドンと叩いて『フンス!』と自信満々に彼女は言うが・・・。

「アーセナル。」

「はい、隊長。」

「彼女どれくらい稼ぐの?」

「ひと月でこれくらい・・・ですかね?」

「借金は?」

「これくらい。」

「もうお終いよおおおおおお!!!」

 現在の収支を指で地面に書いて教えてくれるが、それを確認して私は崩れ落ちる。あの子、なんであれであんなに自信満々なのか???

「ま・・・まぁ、先生の言うようにここを乗り切らなきゃ未来はありませんから。先輩の弓は一階のダイニングでしたよね?ぼくが取ってきます。」

「いや・・・私が・・・」

「先輩はここに居てください。あいつら結構時間経ってるのに何のアクションもしてこない。何か嫌な予感がするんです。」

「俺も、ぼんの意見に同意するぜ。奴等、俺の能力を見たはずだ。なら穴掘って逃げるって思わないのかねぇ・・・。何故詰めてこない?奴等は何らかの方法で俺たちを視てるんじゃないか?・・・ってな。」

「なら危険じゃない!尚更私が・・・。」

「まあ待てヘッドシューター、お前は遠距離隠密のエキスパートだが、接近戦や防御面じゃはハッキリ言って大した事ない。まだ相手の能力が分からない以上、上に登ったら何があるか分からねえんだからオールラウンドにこなせるぼんの方が向いてる。」

「そう言うことですから行ってきます。」
 
 そう言うと彼はアイスエイジの作った氷の足場を軽やかに駆け上がり、部屋に入って行った。



_______________________________



 穴から部屋に入ると同時に姿勢を低くして辺りを警戒する。

(何も・・・変わったところは無いな。一応やっておくか・・・。)

 ぼくは辺りに風魔法を展開する。この魔法は肉眼では見えない薄い膜の様な大気を展開することで、遠距離攻撃がその膜に触れた瞬間に感知する魔法だ。

(と言っても、気付いてから避けれるとは限らないけどね・・・。)

 あくまで分かるだけだ。そこから必ず躱せるとは限らない。だが、何もないよりかは幾分マシだ。
 身をかがめて窓に気を付けながらゆっくりと進み、目的である先輩の弓と矢筒、外套を掴む。その時だった。

(!!!??・・・来た!!!)

 何か小さな物体が魔法の膜に触れる感覚が伝わり、ぼくは慌てて風魔法を使って身を翻す。しかし相手の弾を完全に避けることは出来ず、腕を貫かれてしまう。

「ぐっ・・・!!これなら!!」

 すぐさま飛んできた方角に土魔法で窓という窓に壁を作って視界を遮り、飛んできた方角に大きな壁を作って、そこに背中を預けてしゃがみ込み、ポーチから止血パッドを出して簡単に止血を行う。

(おかしい・・・窓の位置、飛んできた弾の方角、それらを考慮すると相手からぼくは見えていないはずだ・・・。一体どうやって・・・)

「ぼんぼん君!大丈夫なの!?」

「大丈夫ですよ!今、弓を持っていきますから!」

 先輩に心配かけまいと平静を装って返事をする。やられたなんて言ったら彼女、こっちに上がって来かねない。
 また、そろりそろりと移動を再開した時だった。

(またきた!しかもさっきと同じ正確な射撃!)

 飛んでくる方角に氷魔法で分厚い盾を作り、弾を受け止める。弾は家の壁と土壁を貫いて、盾の半分くらいまで弾丸が到達し大きな亀裂が盾全体に広がっていた。

「くそ!やはり位置がバレている!」

 ぼくは盾を投げ捨て、さらに土魔法で壁を作り、家全体を覆っていく。これなら何も見えないはず!そのはずなのに、移動を再開した直後だった。
 明確に分かる。ぼくの展開した風魔法の膜を切り裂いて迫る弾丸。その射撃はぼくを貫くように正確だ!

「どおなってるんだあああああ!!!!!」

 急いで先程と同じ盾を作り出すが、身体全体を覆えるほどの盾を作り出す前に足を貫かれる。

「ぐうううぅぅぅ!!!くそくそくそ!!このままやられっぱなしで帰れるか!!」

 ぼくは土魔法を使って自分とそっくりの背丈の人型を4体作り、それを自分の動きに合わせ動かし、ゆっくりと穴に向かわせる。
 
(きた!)
 しばらくすると敵からの射撃が飛んでくるが、撃ち抜かれたのはぼくの後ろにいた土人形。

(間違いない・・・見えているわけじゃないんだ!)

 それにこの状況で連射してくる訳でもない。ぼくなら確実にここで連射している・・・なのに・・・いや、違う。相手は連射が出来ないんだ!
 ぼくは走り出しそのまま穴に滑り込むと下で先生が片手で受け止めてくれる。

「だいぶ派手にやられたな、ぼん。」

「怪我してるじゃない!!すぐに手当てを!」

「おかげさまでわかりましたよ・・・。敵は何らかの方法でウォールハック透視してます。ですが、完全に物体を見ているわけではありません。恐らく物体の輪郭だけ見えている・・・ぼくと魔法の土人形の違いが分からないくらいですから。」

 先輩とアーセナルさんから手当てを受けつつ敵に対して気付いたこと話す。ぼくの話を聞いて『うおうるはっくってなんだ?』という先生にアイスエイジさんが『透視の事よ』と教えていた。

「他には何か気付いたか?」

「連射も出来ないようです。全ての攻撃において一定の間隔がありました。それとこれ・・・」

 ぼくは手のひらに握っていたものを差し出すと皆がソレを覗き込む。

「ねぇ。これって普通無理よね?」

「数百メートルの近距離なら行けるでしょうけど、少なくとも近距離からの射撃では無かったですからね。」

「二人組か・・・それか特殊な神器でも持っているのか。」

「上出来だ!ぼん。ただじゃやられなかったな。」
 
 ぼくの手のひらにあるものは氷の盾にめり込んだ相手の弾。衝撃でひしゃげているが、それはなんの変哲もない質量の貧弱なパチンコ玉の様な球体。こんなものがまともな方法で長距離、それも精密に飛び貫通力も備えるとは考えにくい。相手は何らかの特殊な武器を使用しているか、射手と観測手に別れている能力者二人組か、どちらかだ。

「方角も分かっています。相手は位置を移動していません。」

「なら、ここから反撃ね。」
 先輩がぼくの手から弓を受け取り立ち上がる。

「しかし、どうするんです!?もしも相手が想像以上に離れていたら・・・。」

「近づいて射貫くだけよ。大丈夫。相手は初手外した。あの時が一番のチャンスだったのよ?当てれるなら当てない理由が無いわ。相手は肉眼では見えない超遠距離から何らかの方法で位置を知り、都度修正しながら射撃している。入り組んだ森を駆け抜けて修正される前に有効射程まで近寄ってやるわ。」

「無茶ですよ!危険すぎます!」

「だいじょぶ、だいじょぶ!君はそこの役立たずと一緒に留守番しておけばいいの。後はお姉さんに任せておきなさい。」
 そう言って可愛らしいウインクを投げかけてくる。隣では先生が『おい。役立たずって俺の事か?』と自分を指さしムスッとしていた。

「隊長。水臭いじゃないですか。私も付き合いますよ。」

「え?・・・危険よ?アーセナル。」

「自分は大丈夫で人には危険って矛盾してるじゃないですか。相手が識別出来ていないって言うんなら私が一緒に走るだけでも攪乱になります。」
 アーセナルさんは先輩の矛盾を指摘し微笑む。

「じゃ、私も付き合うわ。人数が多い方が相手にもプレッシャーかけれるでしょ?」
 アイスエイジさんも立ち上がり柔軟体操を始める。

「無茶よ。あなたアイドルでしょ!?」

「”戦える”アイドルなんだけどね。こう見えて黄金都市じゃ瞬足のレイフォース、剛腕のバルバロッサ、邪眼のチュウニーと名だたる戦士を打ち負かした実績があるんだから。」
 目を閉じて、その綺麗なくびれをしたおへそ丸出しの腰に手を当て『フッフッフ・・・』と自信満々に笑うのだが・・・

「え?知ってる?」
「いえ全く。」
「初めて聞く名だな。」
「ぼくは、この中でたぶん一番新参なので・・・その・・・」

「ちょっとおおおお!!!!なんで誰も知らないのよおおおおお!!!勝つのに苦労したのよおおおおお!!!なんでよおおおおお!!!!」

「えっと・・・その・・・なんかごめんなさい・・・。」
 
 涙目になる彼女に対して誰しもが明後日の方向を向いて目を合わせようとしない。先輩が目を泳がせながら謝ると、洞穴内には何とも言えない気まずい空気が流れるのであった。
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