羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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塔内編

塔内編その46

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「さーて・・・それじゃ行きましょうか。」

「すみません・・・弓のダミーくらいしか作れなくて・・・。ぼくの作る土人形じゃ動かしても先輩たちのスピードについていけませんから。」

 小太りの彼は能力で作った石造りのダミー弓を青髪の少女と栗髪の女性に手渡す。

「いえ、この弓と矢筒のダミーだけで充分ですよ、ぼんぼんさん。隊長は矢を大切に使ってくださいよ。途中で補充は出来ませんからね。」

「これだけあれば充分よ。私の二つ名忘れたの?”百発百中ヘッドシューター”よ。それよりも、そこのアイドルさんは私たちのスピードについてこれるのかしら?」

「始まれば分かるわ。私が”氷雪世界アイスエイジ”って言われてる由縁が。あんた達こそ置いていかれないよう気を付けてよね。」

「あーあ、つまんねぇな。お前らだけ盛り上がりやがって。女子会かよ・・・。近接で俺と遊んでくれる奴は居ねえのかよ・・・たく。」

 思い思いにそれぞれが喋ると誰ともなく拳を突き出し、5人が拳を突き合わせる。

「死ぬなよ。」

「解ってる。」

 背の小さい弓を携えた少女が無精ひげを生やした浪人に言葉を短く返すとフード付きの外套を深く被って青髪の少女が作った足場を登り、穴から出ると狙撃手の居る方角に向かって全速力で風を切って走り出す。残りの二人の女性もそれに続いた。気配は一瞬で遠くなり如何に早く疾走していったのかが伺える。

「本当に死ぬなよ、ヘッドシューター・・・。あんなに荒れたぼんを見るのはもうごめんだからな。例えお前がが死人でも・・・。」

 無精ひげの浪人の呟きは誰に聞き届けられることも無く霧散していった。




______________________________



 森の中を疾走していると弾丸が私の傍を掠める。相手も流石に高速で移動する私達に狙いをつけ難いようだが、それもしばらくすると合ってくるだろう。もう暫くすると太い木にハイドしつつ近づかなければならないだろう。

「アンタたち”パシュート”って知ってる?」

 不意に後ろからアイスエイジが話しかけてくる。

「スケートとかの競技の奴よね。列を組んで走る。」

「そうそう。じゃ、そういうことでよろしく。あ、すべって転倒しないでね。いくわよ。」

 一体何の話かと思ったが、次の瞬間、彼女の意図が解る。

(なるほど。氷雪世界アイスエイジね。)

 前に出た彼女は片手で自分の走る地面を冷気で凍らせながら、足にはいつの間にか氷で出来たスケートシューズを履きその上を滑走していく。そしてもう片方の手には氷で作り出した大きなラージシールドを前方に構えて身体の大部分をガードしている。

タンクになるからパシュートみたいに後ろについて来いって事か。)

 私とアーセナルは彼女の背中にピッタリとついて走る。銃弾が何発も飛んでくるが、アイスエイジの強固な氷の盾に阻まれて無傷で敵に近づいて行くことが出来た。

「何発撃ち込んだって無駄無駄!」

(弾が盾にめり込みはするが、都度凍らせて盾を修復していっている・・・。)

 タンクをしながら高い機動力で全員を引くことも出来る。ゴツゴツとした森林特有の足場は氷で地面を作れる彼女にはデメリットになり得ない。先程の次元斬との様子を見る限り近接も出来るみたいだし、恐らくぼんぼん君みたいに氷そのものを飛ばすことも出来るだろう。さっきの強敵の打倒自慢もあながちバカには出来ないわね。
 味方で良かったと思える器用さと能力を兼ね備えた良い戦士だわ。あれ?彼女・・・戦士で良かったっけ?

「どお?見直したでしょ~。」

「あなたが心底味方で良かったって思ってるわ。」

 正直な感想を伝えると彼女の髪の毛が嬉しそうにぴょこぴょこ動く。前を向いていて表情は分からないけど、絶対に調子乗ってるな。
 その時だった。

『ビシッビシッビシッ!』

「へ?」

 今まで一定間隔で氷の盾に打ち込まれていた敵の弾が連続で、しかも同じ場所に打ち込まれる。アイスエイジのマヌケな言葉と共に盾に激しい亀裂と『ピシィ!』と嫌な音がしたかと思うと・・・

『バリィィィンッ!!!』

派手な音を立てて氷の盾が砕け散った。

「散開!」

 私は号令を出すと左側に飛び退き、大きな木の幹に張り付く。しかし、アイスエイジは先程の素っ頓狂な声を出したままの状態で呆然として直進したままだ。

「何してるのッ!!早くハイドしなさい!!!」

 私の大声に彼女がハッとするが、足が一瞬止まってしまう。『撃たれる!』そう思った瞬間アーセナルが彼女に飛びつくと、先程まで彼女が居た位置に弾が通っていく。そのままアーセナルはアイスエイジを伴って私とは逆の右側の太い幹に隠れた。

「大丈夫!?二人とも!」

「アイスエイジは無傷です!私は少し掠りましたが、軽度です。」

「ごめん・・・アーセナル。助かったわ。」

 良かった・・・今のは流石にひやりとした。アイスエイジもまさかあの分厚い盾が割られると思わなかったのだろう。正確に同じ場所に高速弾を打ち込んで砕いてくるなんて・・・。恐らく、今まで連射が出来なかったのは視野の問題・・・。今、かなり接近した分、先程とは別の方法で私達を見てるのだろう。

「いや~、今ので一人は片づけたかったんだがね。今みたいに連射だって出来るんだぜ?距離の問題があるがな。」

「下手に能力の情報渡すんじゃないよ!バカ兄貴!」

 女の声?二人組か・・・。男が狙撃役で女が観測手って所か。ぼんぼん君の予想が当たってたわね。
 向こう側ではわーわーと口喧嘩している。随分と余裕こいてくれるわ。だが、こちらとしては順調がいい。声の感じからしてかなり近寄れたみたいだ。

「おっと、挨拶がまだだったな。初めまして、ヘッドシューターさん。俺はあんたのファンなんだけどな・・・。残念だなー。今回はそっちの二人が標的なんだよ。」

「私のファン?なら、サインをあげるからここは引いてくれないかしら?」

「それは魅力的な提案だが、うちのボスがカルディアの関係者を消せって五月蝿いんだよ。悪いね。サインはそっちの雑魚二人を片づけてからいただこうかな?」

「兄貴、余計なことは言わないで!」

「誰が雑魚ですって!・・・って、うわっ!」
 アイスエイジが少し顔を覗かせると正確な射撃が彼女の顔を掠める。

「(不用意に覗くんじゃないわよ!)」

「(ご、ごめんなさい・・・。)」

「あなた、アーセナルを雑魚呼ばわりとは随分大きく出たわね。」

「たかだか、弾を作る能力だろ?そんなんじゃ俺は倒せないさ。」

「それはどうかしら?あなた達、アーセナルを甘く見たこと後悔するわよ?」

「(アーセナル、アイスエイジ。一仕事お願いできるかしら?特にアーセナルは危険なことを頼む形になるけど・・・)」

「(任せてくださいよ、隊長。これより酷い状況は幾つもあったじゃないですか。)」

「(何をすればいいの?)」

「(それはね・・・)」
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