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第16話 ある男の想い 4(セルゲイ視点)
しおりを挟む部屋の中は甘い香りで満たされていた。
そのせいで身体が思うように動かない。
「…くっ どこからこの香りはするんだ!」
窓と入口は鍵が掛けられ、空気を入れ替える事も出来ない。
軟禁状態だ。
レナータがコルネリアを刺し、僕は自分の部屋に閉じ込められた。
いろいろ考えなければならないのに、頭の中に靄がかかって思考がまとまらない。
少しでも気を抜くと、この香りのせいで記憶が飛んでしまう。
まるで強い睡魔に抗うかのように、何度も頭を振る。
だが…侯爵家の事より…何よりも……っ!
コルネリア…!!
彼女が刺され、床に倒れた姿が目に焼き付いて離れない。
なぜ、彼女を刺そうとするレナータを止めなかった!?
なぜ、血を流して倒れているコルネリアを助けなかった!?
彼女はどうなったんだ!!
ああ……身体が全く言う事を聞いてくれなかった。
思考が閉ざされ、ただ、見ていることしかできなかった…
レナータの声にゾワリと寒気を感じながらも、その声に抗えない。
彼女にされるがまま、口づけを交わしていた。
妻の前で!
僕が愛しているのはコルネリアだけなのに―――……
「……………………っ! くそ!!」
!!バンバンバン!!
僕は自分の頭を叩き始めた。
また思考が止まった!
「おいおい、薬でやられる前に馬鹿になるぞ」
「え?」
声の方を向くと、バルコニーから扉を開けて男が立っていた。
黒髪に青い瞳、鼻から下を覆うように黒いスカーフを付けている。
「だ、誰だ? それにそこは鍵がかかっていたはずっ」
「ああ、これくらいの鍵、楽勝楽勝♪」
そう言いながら、一本の針金のようなものを自慢げに見せた。
「まずはこの匂いの元を絶たなきゃなっ リュー、頼むぞ」
「チュチュ」
男はネズミを部屋の中に離した。
ネズミは部屋中を走り始めた。
「ネズミの嗅覚は人間の3倍なんだ。すぐ見つかるよ」
「見つかるって…何が…いや、それより君は…」
「チュチュ~!」
「お、見つけたか?」
彼はネズミがいる本棚に向かった。
その周りを軽く確認すると棚を少し移動させ、隙間に手を入れ何かを探している。
「あった、あった」
それは香炉だった。
彼はズボンに下げていた革袋を取り、香炉を中に入れ、口をしっかり締めるとバルコニーに置いた。
「ふー、やっと話ができる」
そう言うと、彼はスカーフを外した。
そして胸ポケットから、透明な液体が入った小瓶を僕に差し出した。
「解毒剤だ」
「……解毒剤?」
「あんたは薬を盛られたんだ。これはその解毒剤…って言っても、初対面の人間にいきなり怪しい液体を飲めって言われても無理だな。けど、知っているやつからなら飲めるだろ?」
「え?」
「セルゲイ様!」
バルコニーから現れたのは…
「コ、コルネリア!!!」
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