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最終話 今度こそ幸せに…
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「母からの手紙に書いてありました。ロレーヌはあなたの実の娘ですよね? 母と婚約していた時から関係があったイザリアは寡婦ではなく、あなたの愛人だった。そして子供を産ませた。さすがの母も許せなかったのでしょう、相手は夜会で出会った男性だそうです」
連れ子であるはずのロレーヌを可愛がった理由がわかった。
実の子供なら当然よね。
…今の今まで実子と思っていた私に対しては、愛情の欠片もなかったけど。
母は夫が二人のために資金援助をしていた事に気がついていたが、子供を大人の事情に巻き込みたくなかったから放置していたらしい…そのような事も手紙に書かれていた。
あと…自分も妻の身でありながら、他の男と関係をもった事に対しての後悔が多少なりともあったようだった。
結局は、すべてこの男の行動が原因だけど。
「そ…な…デリーヌが他の男と……他の男の子供を…」
彼…ブライスが力なく呟き、膝から崩れ落ちた。
母を裏切っていたくせに、自分も裏切られていたとは思ってもみなかったようね。
どこまでも傲慢な人間だ。
「裁判ではきっと有罪判決になるでしょう、証拠は揃っておりますから。あなたをエルゴー伯爵家から除籍します」
私の言葉が届いているのか分からないけれど、ブライスは微動だにしなかった。
騎士たちは引きずるようにして、彼をその場から連れ出した。
部屋に残されたのは私と叔母様だけとなった。
「叔母様…本当にいろいろとありがとうございました。母からの手紙には、困った事があったラフリーヌを訪ねなさいと書かれていました。叔母様がいらっしゃらなかったらどうなっていたか…」
母は自分亡きあと、ブライスがイデリアと再婚するであろうと予想していた。
そしてエルゴー家の当主問題が起きるかもしれないと懸念し、手紙を残してくれていた。
そのおかげでエルゴー家の正当な当主が私という事が分かり、ブライスに権限がなく虚偽の申告をしている事が判明した。
私もブライスが婿養子だとは知らなかったわ。
「私はお姉様から預かっていた誓約書をあなたに返しただけ。あなたが行動し、あなた自身でエルゴー家を守ったのよ、よくやったわ。でも……あなたの出生の事は私も聞いていなかった……」
そういうと叔母様は悲しげに俯いた。
「…手紙を読んだ時は驚きました。母は父…いえブライスに愛人がいて更に子供がいた事がショックだったようです。だから夜会で会ったゆきずりの男性と一夜を共にしたと。それが母なりの復讐だったのでしょうか…」
…けどブライスが父親の可能性もある。
両親の仲は冷えきっていても、跡継ぎを設ける為に夫婦の営みはあったようだから。
けれど私は敢えて、自分は他の男との子供という事を強調した。
これも私を冷遇した彼に対する復讐だったのかもしれない…
ぽろぽろ…と涙が溢れて来た。
「アーマコット…」
叔母様がそっと私を抱き締める。
「わ、私はなぜ生まれてきたのでしょうか? 私は…の、望まれていなかった…っ! ただ自分を裏切った夫に対する…あ、当てつけの為に…母は…母は…っ」
自分が生まれてきた経緯を知った時はショックだった。
父に愛されていなくても、母は私を心から愛してくれていると思っていたから。
けれど本当は、母からも愛されていなかったのかもしれない…っ!
「…よく聞いて。お姉様はあなたの事を心から愛していたわ、アーマコット。届く手紙にはあなたの事ばかり書かれていたもの。あなたが初めて寝返りをうった事、あなたが初めて言葉を発した事、あなたが初めて立ち上がった事…いつも…いつも…あなたの事ばかり書かれていた。そして最後には必ずこう書いてあったわ、アーマコットがいるから私は幸せよ…ってね…」
「…っう…っ…お…おか…さ……っ…」
私は生まれてきて良かったのですか? お母様。
お母様は私を愛してくれていた、私がいて幸せだった…そう思っていいですか?
2人しかいない部屋には、私の嗚咽だけが響いていた…
◇◇◇◇
冷たい空気を感じるようになり始めた季節―――…
ブライスは横領と文書偽造の罪で、15年の刑が確定。
エルゴー伯爵家の戸籍からはもちろん、ブライスの実家である子爵家からも除籍された。彼が刑期を終えた時、待っているのは平民としての人生だ。
イザリアとロレーヌは実家の男爵家に戻ったが、慰謝料という多額の借金を抱えて出戻った二人に親族はどう対処するかしら。
男爵家が簡単に払える金額ではないけれど…
ただ今まで贅沢に暮らしてきた生活を、この先二度と味わう事はできないだろう。
ジョシュアの実家であるローハイド子爵家からは一括で慰謝料が支払われた。
そしてロレーヌとも離婚した後、彼は騎士に志願したらしい。
三男の彼は私と結婚する事でエルゴー伯爵として生活できたのに、自らそのチャンスを棒に振った。
あとは修道士になるか騎士になるかまたは他の専門職に就くか…残された選択肢の中で騎士を選んだようね。
昔から運動神経が足りない人だったけれど…どうなのかしら。
短い期間で2度も離婚をして出戻ったジョシュアの行く末も、生きづらいものとなるかもしれない。
まぁ…そもそも自業自得だから。
その後、私は解雇された昔の使用人たちを呼び戻した。
そして…
「当主様っ 身体が冷えますからこれをお召し下さいっ」
バルコニーに出ている私に、ばあやが慌ててストールをかけた。
「もうっ 以前のように名前で呼んでって言っているのにっ」
「いいえ、これはけじめですっ それと大事なお体なのですから、外に出る時は必ず何か羽織って下さい」
「はいはい」
私は苦笑しながら、少し大きくなり始めたお腹に手を当てた。
ブライスを告訴したあと、自分が妊娠している事に気が付いた。
もちろん父親はジョシュアだ。
けれど彼に伝えるつもりはない。
「ここは冷えますから、そろそろ中に戻りましょう」
「そうね」
張り詰めた空気の中、私は頭上に広がる青い空を見上げた。
『最後には必ずこう書いてあったわ、アーマコットがいるから私は幸せよ…ってね…』
ふと叔母の言葉が脳裏を過る。
〈……お母様、私も幸せです。この子がいてくれるから〉
天を仰ぎながら、私は母の思いを感じていた―――
<終>
連れ子であるはずのロレーヌを可愛がった理由がわかった。
実の子供なら当然よね。
…今の今まで実子と思っていた私に対しては、愛情の欠片もなかったけど。
母は夫が二人のために資金援助をしていた事に気がついていたが、子供を大人の事情に巻き込みたくなかったから放置していたらしい…そのような事も手紙に書かれていた。
あと…自分も妻の身でありながら、他の男と関係をもった事に対しての後悔が多少なりともあったようだった。
結局は、すべてこの男の行動が原因だけど。
「そ…な…デリーヌが他の男と……他の男の子供を…」
彼…ブライスが力なく呟き、膝から崩れ落ちた。
母を裏切っていたくせに、自分も裏切られていたとは思ってもみなかったようね。
どこまでも傲慢な人間だ。
「裁判ではきっと有罪判決になるでしょう、証拠は揃っておりますから。あなたをエルゴー伯爵家から除籍します」
私の言葉が届いているのか分からないけれど、ブライスは微動だにしなかった。
騎士たちは引きずるようにして、彼をその場から連れ出した。
部屋に残されたのは私と叔母様だけとなった。
「叔母様…本当にいろいろとありがとうございました。母からの手紙には、困った事があったラフリーヌを訪ねなさいと書かれていました。叔母様がいらっしゃらなかったらどうなっていたか…」
母は自分亡きあと、ブライスがイデリアと再婚するであろうと予想していた。
そしてエルゴー家の当主問題が起きるかもしれないと懸念し、手紙を残してくれていた。
そのおかげでエルゴー家の正当な当主が私という事が分かり、ブライスに権限がなく虚偽の申告をしている事が判明した。
私もブライスが婿養子だとは知らなかったわ。
「私はお姉様から預かっていた誓約書をあなたに返しただけ。あなたが行動し、あなた自身でエルゴー家を守ったのよ、よくやったわ。でも……あなたの出生の事は私も聞いていなかった……」
そういうと叔母様は悲しげに俯いた。
「…手紙を読んだ時は驚きました。母は父…いえブライスに愛人がいて更に子供がいた事がショックだったようです。だから夜会で会ったゆきずりの男性と一夜を共にしたと。それが母なりの復讐だったのでしょうか…」
…けどブライスが父親の可能性もある。
両親の仲は冷えきっていても、跡継ぎを設ける為に夫婦の営みはあったようだから。
けれど私は敢えて、自分は他の男との子供という事を強調した。
これも私を冷遇した彼に対する復讐だったのかもしれない…
ぽろぽろ…と涙が溢れて来た。
「アーマコット…」
叔母様がそっと私を抱き締める。
「わ、私はなぜ生まれてきたのでしょうか? 私は…の、望まれていなかった…っ! ただ自分を裏切った夫に対する…あ、当てつけの為に…母は…母は…っ」
自分が生まれてきた経緯を知った時はショックだった。
父に愛されていなくても、母は私を心から愛してくれていると思っていたから。
けれど本当は、母からも愛されていなかったのかもしれない…っ!
「…よく聞いて。お姉様はあなたの事を心から愛していたわ、アーマコット。届く手紙にはあなたの事ばかり書かれていたもの。あなたが初めて寝返りをうった事、あなたが初めて言葉を発した事、あなたが初めて立ち上がった事…いつも…いつも…あなたの事ばかり書かれていた。そして最後には必ずこう書いてあったわ、アーマコットがいるから私は幸せよ…ってね…」
「…っう…っ…お…おか…さ……っ…」
私は生まれてきて良かったのですか? お母様。
お母様は私を愛してくれていた、私がいて幸せだった…そう思っていいですか?
2人しかいない部屋には、私の嗚咽だけが響いていた…
◇◇◇◇
冷たい空気を感じるようになり始めた季節―――…
ブライスは横領と文書偽造の罪で、15年の刑が確定。
エルゴー伯爵家の戸籍からはもちろん、ブライスの実家である子爵家からも除籍された。彼が刑期を終えた時、待っているのは平民としての人生だ。
イザリアとロレーヌは実家の男爵家に戻ったが、慰謝料という多額の借金を抱えて出戻った二人に親族はどう対処するかしら。
男爵家が簡単に払える金額ではないけれど…
ただ今まで贅沢に暮らしてきた生活を、この先二度と味わう事はできないだろう。
ジョシュアの実家であるローハイド子爵家からは一括で慰謝料が支払われた。
そしてロレーヌとも離婚した後、彼は騎士に志願したらしい。
三男の彼は私と結婚する事でエルゴー伯爵として生活できたのに、自らそのチャンスを棒に振った。
あとは修道士になるか騎士になるかまたは他の専門職に就くか…残された選択肢の中で騎士を選んだようね。
昔から運動神経が足りない人だったけれど…どうなのかしら。
短い期間で2度も離婚をして出戻ったジョシュアの行く末も、生きづらいものとなるかもしれない。
まぁ…そもそも自業自得だから。
その後、私は解雇された昔の使用人たちを呼び戻した。
そして…
「当主様っ 身体が冷えますからこれをお召し下さいっ」
バルコニーに出ている私に、ばあやが慌ててストールをかけた。
「もうっ 以前のように名前で呼んでって言っているのにっ」
「いいえ、これはけじめですっ それと大事なお体なのですから、外に出る時は必ず何か羽織って下さい」
「はいはい」
私は苦笑しながら、少し大きくなり始めたお腹に手を当てた。
ブライスを告訴したあと、自分が妊娠している事に気が付いた。
もちろん父親はジョシュアだ。
けれど彼に伝えるつもりはない。
「ここは冷えますから、そろそろ中に戻りましょう」
「そうね」
張り詰めた空気の中、私は頭上に広がる青い空を見上げた。
『最後には必ずこう書いてあったわ、アーマコットがいるから私は幸せよ…ってね…』
ふと叔母の言葉が脳裏を過る。
〈……お母様、私も幸せです。この子がいてくれるから〉
天を仰ぎながら、私は母の思いを感じていた―――
<終>
2,002
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