恋するオナホール

色部耀

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あの春の日のピンサロを、僕は忘れられなかった。

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 あの春の日のピンサロを、僕は忘れられなかった。


 大学生になって初めてのゴールデンウィーク。その日僕は親戚のおじさんに連れられて地元の風俗街へと足を運んだ。時代に取り残されたかのようなネオンが彩る夜の街。飲み屋街から一本裏へと入った小さな風俗街。

「直生(なお)がハタチになっても童貞だったら本番のある店に連れて行ってやる」

 今日はピンサロで風俗デビューだ……。そんなことを言われて断れずに付いて行った。お金を出してくれるとまで言われて断わることは僕にできなかった。
 案内されて入った店は小さな雑居ビルだった。暖簾をくぐってすぐに二階への階段がある。真っ暗で足元も見づらいその階段は、さしずめ大人の階段の具現化のようだった。期待と不安でいっぱいの階段だった。


 そうして風俗デビューを終えた僕はゴールデンウィークの帰省を終えて一人暮らしをしている東京、上野に帰ってきた。新幹線を降りた僕はあの春の日の夜が忘れられず、その足で薬局に向かい『あるもの』を購入して下宿先へと戻ったのだった。

「これが、オナホール……」

 無駄なものが少ない1DKの下宿先。ベッドの上で僕は新品のオナホールと五〇〇ミリリットル入りのローションを手に動悸を早めていた。
 オナホールのパッケージには『あの子の中を思い出す。これはまるで初恋の具現化――』と書かれている。思い出すという単語に心を惹かれて買ってしまった。あの春の日がフラッシュバックしてしまった。
 僕は奇しくもあの日の夜と同じく期待と不安でいっぱいになりながらもオナホールが入ったプラスチックケースを開けようとした。薄い透明なプラスチックケースは、同じく透明なシールで封がされており、なかなか開封できない。爪も引っかからずシールは剥がせないし、無理矢理引き千切ろうにも頑丈で上手くいかない。もどかしい。しかしその時はハサミやカッターを使う考えが浮かばなかったのだ。

「開いた!」

 苦悩の末に開封し、右手に乗せられたオナホール。百パーセントシリコン製で手に吸い付くような触感。気持ち良いような気持ち悪いような不思議な感触。強く握りしめると千切れてしまうのではないかと思うほどに柔らかい。

「これがオナホール……」

 穴の入り口は淫靡な形をしており、つい生唾を飲み込んで口元を緩めてしまう。不安は吹き飛ぶ。そして事前に調べていた使用方法を思い出す。

「オナホールにローションを注いで内側に満遍なく塗る……」

 僕はオナホールを膝の上に乗せてローションの蓋を開ける。そして左手に持ったオナホールの穴へとゆっくりローションを流し込んだ。

「おぼぼぼぼ!! ごほっ!! ごほっ!! ボゥェ!!」
「うわー!!!!」

 僕は『突然咳き込んだオナホール』を全力で投げ飛ばした。オナホールは勢い良くタンスにぶつかると「ぐぇっ」と潰れたカエルのような声を出して床に転がった。

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