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57.聞かなければ分からない
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美波さんのお父さんの言葉を受けて、俺は迷わず美波さんを追いかけた。判断が早かったからか、廊下に出たところでまだ美波さんの背中が見える。廊下を走ってはいけないなんて貼り紙があるが、そんなものはこの際無視だ。四階の病室から廊下を抜け、階段を駆け下りる。一階まで下りたところで俺はようやく美波さんを捕まえた。
「美波さん。少し、話をしよう」
美波さんは混乱した様子で目を濡らし、視線を泳がせる。返事はない。というかできないみたいだった。走ったせいもあってか息も絶え絶えだ。
「とりあえず座ろう」
階段を下りた先。少し歩くとソファが並ぶ待合室がある。総合病院とはいえ、特殊能力者がメインの病院な上に時間帯の問題もあって待合室には誰もいない。美波さんを半ば無理矢理ソファに座らせて俺は隣に座る。
「美波さん」
俺の呼びかけに美波さんは反応を示さない。それほどまでにショックだったのか。もしかするとかなり前の段階からお父さんの話を聞いてしまっていたのかもしれない。
「さっきの話、どこから聞いてた?」
その問いにも美波さんはすぐに答えない。答えてくれるかどうかすら怪しいと思えるほどの沈黙。話のどの時点から聞き始めていたとしても普通なら耐えられないだろう。そう思えるほどにお父さんの話は美波さんにとってきつい話だった。頼むと言われてすぐに動いたは良いものの、俺に何ができるのか分からない。
「ありがとうございます。追いかけて来てくれて」
何ができるのか悩み、何もできていない俺に対して美波さんはそうやってお礼を言ってくれた。
「お礼を言われるようなことじゃない。普通のことだよ」
「いいえ。普通のことじゃありません。凄いことです。私なんかのそばに来てくれることは普通のことじゃないです。凄いことなんです」
美波さんはまたしても卑下するような言い方をする。元々自己評価が低かった美波さん。その上でお父さんの話を聞いてしまったら……
「話は……私の母親は父親の特殊能力で生き返っていて、私の代わりに死んでしまったということは聞きました。なぜ私に秘密にしていたのかも聞きました……」
思い出話の部分だけ聞いていなかった感じだろうか。美波さんに直接関係のある話は全て聞いたと思って良いだろう。その上で美波さんは何を思ったのか。
「……真壁君の心配は当たってます。私は、私のせいで母親が死ななくてはいけなかったことが何よりも辛いんです」
それは確か俺が一番に危惧してお父さんに聞き返したことだ。責任を感じるのではと。美波さんは真面目で優しい。自分の幸せよりも他人の幸せを願ってもおかしくない。その上で他人の幸せを奪ってしまったなんて考えたら潰れてしまうかもしれない。
「お母さんは生き返りたくなかったって言ってたらしい。だから美波さんが責任を感じる必要はないと思う」
「本当にそうでしょうか」
俺はお父さんから聞いた言葉どおりにしか受け取っていなかったが、違うというのだろうか。記憶がなく生き返ったことでずっと思い悩んでいたと、辛かったと、そう言っていたらしい。だから自分ではなく娘に能力を使って欲しいと。
「生き返ったことで辛いことばかりだったって……」
「本当にそう思いますか?」
美波さんは先ほどよりも強い言葉で聞き直してきた。何が、いったい何が美波さんを疑問に思わせているのだろうか。
「美波さんはそうは思わないの?」
「……」
逆に俺から聞き返されて美波さんは少しの時間押し黙った。違和感の正体を言葉にするべく悩んでいるといった様子。俺は美波さんが話し始めるまでただただ待った。
「ちゃんとした理由があるわけじゃないんですが……。ただ、私は記憶がなかったとしても思い悩むことが沢山あっても、生き返って良かったと思ってるんです」
「だからお母さんも自分と同じく生き返って良かったと思ってたと?」
美波さんはコクリと頭を縦に振って肯定する。
「真壁君が私と会えて良かったと言ってくれましたし……」
遠慮がちにそう言った美波さん。俺はいつ美波さんにそんなことを言ったのだろうかと考えていたが、なんのことはない先程お父さんに言ったばかりだった。本人がいないと思っていたとはいえ、歯の浮くような恥ずかしい台詞を口にしてしまっていたものだ。
「私の父親も、生き返らせた後に幸せな日々を感じていたと思うんです。だからやはり、私は残り少ない二人の幸せな時間を奪ってしまったんです」
「そんなこと……」
ないとは軽々しく言うべきではない。それでも俺は美波さんの心を少しでも軽くしたかった。
「それでも俺は美波さんが生き返ってくれて良かった。もし責任があるとするなら、美波さんに生き返って欲しいと思った人にある。それならその一人は俺だし、俺にも責任はある」
我ながら無茶苦茶な理論だ。
「誰か一人が全ての責任を感じる必要はない。ましてや自分ではどうすることもできなかった美波さんは特に自分を責める必要はない」
「でも……。分からないんです。私は自分の価値が分からないんです。だから生き返ったからといって何をすればいいのかも分からないんです」
「なら聞きに行こう」
「美波さん。少し、話をしよう」
美波さんは混乱した様子で目を濡らし、視線を泳がせる。返事はない。というかできないみたいだった。走ったせいもあってか息も絶え絶えだ。
「とりあえず座ろう」
階段を下りた先。少し歩くとソファが並ぶ待合室がある。総合病院とはいえ、特殊能力者がメインの病院な上に時間帯の問題もあって待合室には誰もいない。美波さんを半ば無理矢理ソファに座らせて俺は隣に座る。
「美波さん」
俺の呼びかけに美波さんは反応を示さない。それほどまでにショックだったのか。もしかするとかなり前の段階からお父さんの話を聞いてしまっていたのかもしれない。
「さっきの話、どこから聞いてた?」
その問いにも美波さんはすぐに答えない。答えてくれるかどうかすら怪しいと思えるほどの沈黙。話のどの時点から聞き始めていたとしても普通なら耐えられないだろう。そう思えるほどにお父さんの話は美波さんにとってきつい話だった。頼むと言われてすぐに動いたは良いものの、俺に何ができるのか分からない。
「ありがとうございます。追いかけて来てくれて」
何ができるのか悩み、何もできていない俺に対して美波さんはそうやってお礼を言ってくれた。
「お礼を言われるようなことじゃない。普通のことだよ」
「いいえ。普通のことじゃありません。凄いことです。私なんかのそばに来てくれることは普通のことじゃないです。凄いことなんです」
美波さんはまたしても卑下するような言い方をする。元々自己評価が低かった美波さん。その上でお父さんの話を聞いてしまったら……
「話は……私の母親は父親の特殊能力で生き返っていて、私の代わりに死んでしまったということは聞きました。なぜ私に秘密にしていたのかも聞きました……」
思い出話の部分だけ聞いていなかった感じだろうか。美波さんに直接関係のある話は全て聞いたと思って良いだろう。その上で美波さんは何を思ったのか。
「……真壁君の心配は当たってます。私は、私のせいで母親が死ななくてはいけなかったことが何よりも辛いんです」
それは確か俺が一番に危惧してお父さんに聞き返したことだ。責任を感じるのではと。美波さんは真面目で優しい。自分の幸せよりも他人の幸せを願ってもおかしくない。その上で他人の幸せを奪ってしまったなんて考えたら潰れてしまうかもしれない。
「お母さんは生き返りたくなかったって言ってたらしい。だから美波さんが責任を感じる必要はないと思う」
「本当にそうでしょうか」
俺はお父さんから聞いた言葉どおりにしか受け取っていなかったが、違うというのだろうか。記憶がなく生き返ったことでずっと思い悩んでいたと、辛かったと、そう言っていたらしい。だから自分ではなく娘に能力を使って欲しいと。
「生き返ったことで辛いことばかりだったって……」
「本当にそう思いますか?」
美波さんは先ほどよりも強い言葉で聞き直してきた。何が、いったい何が美波さんを疑問に思わせているのだろうか。
「美波さんはそうは思わないの?」
「……」
逆に俺から聞き返されて美波さんは少しの時間押し黙った。違和感の正体を言葉にするべく悩んでいるといった様子。俺は美波さんが話し始めるまでただただ待った。
「ちゃんとした理由があるわけじゃないんですが……。ただ、私は記憶がなかったとしても思い悩むことが沢山あっても、生き返って良かったと思ってるんです」
「だからお母さんも自分と同じく生き返って良かったと思ってたと?」
美波さんはコクリと頭を縦に振って肯定する。
「真壁君が私と会えて良かったと言ってくれましたし……」
遠慮がちにそう言った美波さん。俺はいつ美波さんにそんなことを言ったのだろうかと考えていたが、なんのことはない先程お父さんに言ったばかりだった。本人がいないと思っていたとはいえ、歯の浮くような恥ずかしい台詞を口にしてしまっていたものだ。
「私の父親も、生き返らせた後に幸せな日々を感じていたと思うんです。だからやはり、私は残り少ない二人の幸せな時間を奪ってしまったんです」
「そんなこと……」
ないとは軽々しく言うべきではない。それでも俺は美波さんの心を少しでも軽くしたかった。
「それでも俺は美波さんが生き返ってくれて良かった。もし責任があるとするなら、美波さんに生き返って欲しいと思った人にある。それならその一人は俺だし、俺にも責任はある」
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「誰か一人が全ての責任を感じる必要はない。ましてや自分ではどうすることもできなかった美波さんは特に自分を責める必要はない」
「でも……。分からないんです。私は自分の価値が分からないんです。だから生き返ったからといって何をすればいいのかも分からないんです」
「なら聞きに行こう」
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