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クラスメイト 花岡 二宮
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授業が終わると、生田先生は頼みたいことがあるという理由で亜紀さんを生物準備室に呼び出していた。他の生徒は弁当を食べに教室に戻る人や購買へ向かう人など様々だったが、皆一様にして足早ではあった。生物室は一年二組の教室よりも購買までの距離が離れている。そのため私もいつものフレンチトーストが買えないかもしれないと思い、勉強道具を置きっぱなしにして駆け足気味に生物室を出たのだった。
結論から言うと、購買に着いた時点ですでに人だかりができておりフレンチトーストを買うことはできなかった。校舎が遠いというのがやはりネックだったようだ。本気で走ったりしない限りは間に合わなかったのだろう。小走りや早歩き程度では欲しいものは手に入らなかった。結局私が手にしたのはジャムパンとコロッケパン。二つ合わせて百五十円。金額はいつもどおりだ。私はそのまま近くのベンチで二つのパンを腹に収める。水筒は教室に置いたままなので、自動販売機の隣に備え付けられているウォータークーラーで水分補給を済ませた。日も昇りきっていてついつい大量に飲んでしまい、お腹から冷えてくる感覚になる。
そして私は勉強道具を取りに戻るついでに生物室へと向かったのだった。その道中、亜紀さんとすれ違ったので話が終わっているのは間違いない。クラスメイトに直接話を聞くつもりはないが、何が起こっているのかは気になる。生田先生と亜紀さんはいったいどんな話をしたのだろうか。そんなことを考えている内に生物準備室の前に到着する。勉強道具をとるよりも先に私は生物準備室の扉をノックして開けた。
「失礼します」
そう言って扉を開けると、中では生田先生が弁当を食べていた。大きな弁当。運動部の男子が食べるようなサイズだ。手作り弁当のようで、私は中身が気になって生田先生の返事も聞かずに近づいて覗き込んだ。野菜中心の弁当でタンパク質はウインナーと出汁巻き卵のみ。惣菜のようなものはなく、手がかかっているように見えた。
「これ生田先生の手作りですか?」
「そうですよ。プチトマトとキュウリは自家製です」
そう言うと生田先生は満足気にプチトマトを持ち上げた。本当に生田先生は自分で育てた野菜を食べるのが好きな人だ。ここで私が食べたいと言えば喜ぶのだろうけど、残念ながら先生が育てた野菜を食べるのは未だに多少覚悟を必要とする。エネルギーの循環、コンポスト、同化……。私の頭の中で巡る先生から教えた貰った単語が悪い意味で作用する。
「先生、あの……」
私がそう問いかけたところで生田先生はプチトマトを食べると小さな溜息をついて口を開いた。
「花岡さんの件。気になっているのでしょう?」
「はい……」
何を聞こうとしているのか分かっていたらしい先生は弁当を少しずつ食べながら言葉を紡いだ。私には言っても大丈夫だと信頼してくれているのだろうか。本来ならば他の生徒の問題を話すことはあまり良いことではないと思うのだけれど、先生からの信頼は少なからず嬉しく思った。
「バレー部でのストレスが大きな理由のようでした。放課後には顧問の先生も呼んで話をしようと思っています。それで解決すればいいのですが……。断言することはできませんね」
「そうですか……。事の顛末だけでも後で教えてくれませんか?」
「解決しそうかどうかだけならお教えできると思いますよ」
生田先生はそう言いながら少しずつお弁当を食べていく。教えてくれるのがそれだけだとしても十分だ。野次馬精神で気になっているというのもあるが、実際のところ心配だからという理由に他ならない。周りで不機嫌な人がいると居心地が悪いのでどうにかして欲しいという気持ちも否定できないが……。これも以前先生に教えてもらったテラフォーミングの話を思い出す。自分が生きやすいように環境を変えようとする欲求。確かそのような話だったように思う。自己分析をすればするほど自分の心が汚いような気にもなってしまうが、答えが出て納得する一面もあってついつい考えてしまっていた。
「それにしても、生田先生はやっぱり生徒のことをちゃんと考える先生ですね。困ってる生徒に手を差し伸べるのは教師の務めなんて言ってましたけど、困ってるって言われなくても手を差し伸べてますよね」
ほんの少し笑みを浮かべて私がそう言うと、生田先生はさも当然かのように答える。それは私にとっても目から鱗の言葉で、おそらく一生忘れることのできない言葉になるだろう。
「困っている人が誰しも困っていると言えるわけではありません。言えないのかもしれませんし言いたくないのかもしれません。だから私は手を差し伸べるのです」
困っている人が誰しも困っていると言えるわけではない……。私はその言葉を何度も何度も頭の中で繰り返した。確かにそのとおりだ。困っていても言えないことはある。言いたくないことはある。それでも助けて欲しい、手を差し伸べて欲しいと思っている人だっている。我儘かもしれないけれど……。しかし実際はそういうものなのかもしれない。それが普通なのかもしれない。多分……私だってそうだ……。本当に助けて欲しいことは誰にも言えやしない。
「おせっかいだと……言われないといいですね」
天邪鬼な私は生田先生にそう言ってしまう。しかし生田先生は笑ってそれに答えてくれた。
「本当にそう願うばかりです」
結論から言うと、購買に着いた時点ですでに人だかりができておりフレンチトーストを買うことはできなかった。校舎が遠いというのがやはりネックだったようだ。本気で走ったりしない限りは間に合わなかったのだろう。小走りや早歩き程度では欲しいものは手に入らなかった。結局私が手にしたのはジャムパンとコロッケパン。二つ合わせて百五十円。金額はいつもどおりだ。私はそのまま近くのベンチで二つのパンを腹に収める。水筒は教室に置いたままなので、自動販売機の隣に備え付けられているウォータークーラーで水分補給を済ませた。日も昇りきっていてついつい大量に飲んでしまい、お腹から冷えてくる感覚になる。
そして私は勉強道具を取りに戻るついでに生物室へと向かったのだった。その道中、亜紀さんとすれ違ったので話が終わっているのは間違いない。クラスメイトに直接話を聞くつもりはないが、何が起こっているのかは気になる。生田先生と亜紀さんはいったいどんな話をしたのだろうか。そんなことを考えている内に生物準備室の前に到着する。勉強道具をとるよりも先に私は生物準備室の扉をノックして開けた。
「失礼します」
そう言って扉を開けると、中では生田先生が弁当を食べていた。大きな弁当。運動部の男子が食べるようなサイズだ。手作り弁当のようで、私は中身が気になって生田先生の返事も聞かずに近づいて覗き込んだ。野菜中心の弁当でタンパク質はウインナーと出汁巻き卵のみ。惣菜のようなものはなく、手がかかっているように見えた。
「これ生田先生の手作りですか?」
「そうですよ。プチトマトとキュウリは自家製です」
そう言うと生田先生は満足気にプチトマトを持ち上げた。本当に生田先生は自分で育てた野菜を食べるのが好きな人だ。ここで私が食べたいと言えば喜ぶのだろうけど、残念ながら先生が育てた野菜を食べるのは未だに多少覚悟を必要とする。エネルギーの循環、コンポスト、同化……。私の頭の中で巡る先生から教えた貰った単語が悪い意味で作用する。
「先生、あの……」
私がそう問いかけたところで生田先生はプチトマトを食べると小さな溜息をついて口を開いた。
「花岡さんの件。気になっているのでしょう?」
「はい……」
何を聞こうとしているのか分かっていたらしい先生は弁当を少しずつ食べながら言葉を紡いだ。私には言っても大丈夫だと信頼してくれているのだろうか。本来ならば他の生徒の問題を話すことはあまり良いことではないと思うのだけれど、先生からの信頼は少なからず嬉しく思った。
「バレー部でのストレスが大きな理由のようでした。放課後には顧問の先生も呼んで話をしようと思っています。それで解決すればいいのですが……。断言することはできませんね」
「そうですか……。事の顛末だけでも後で教えてくれませんか?」
「解決しそうかどうかだけならお教えできると思いますよ」
生田先生はそう言いながら少しずつお弁当を食べていく。教えてくれるのがそれだけだとしても十分だ。野次馬精神で気になっているというのもあるが、実際のところ心配だからという理由に他ならない。周りで不機嫌な人がいると居心地が悪いのでどうにかして欲しいという気持ちも否定できないが……。これも以前先生に教えてもらったテラフォーミングの話を思い出す。自分が生きやすいように環境を変えようとする欲求。確かそのような話だったように思う。自己分析をすればするほど自分の心が汚いような気にもなってしまうが、答えが出て納得する一面もあってついつい考えてしまっていた。
「それにしても、生田先生はやっぱり生徒のことをちゃんと考える先生ですね。困ってる生徒に手を差し伸べるのは教師の務めなんて言ってましたけど、困ってるって言われなくても手を差し伸べてますよね」
ほんの少し笑みを浮かべて私がそう言うと、生田先生はさも当然かのように答える。それは私にとっても目から鱗の言葉で、おそらく一生忘れることのできない言葉になるだろう。
「困っている人が誰しも困っていると言えるわけではありません。言えないのかもしれませんし言いたくないのかもしれません。だから私は手を差し伸べるのです」
困っている人が誰しも困っていると言えるわけではない……。私はその言葉を何度も何度も頭の中で繰り返した。確かにそのとおりだ。困っていても言えないことはある。言いたくないことはある。それでも助けて欲しい、手を差し伸べて欲しいと思っている人だっている。我儘かもしれないけれど……。しかし実際はそういうものなのかもしれない。それが普通なのかもしれない。多分……私だってそうだ……。本当に助けて欲しいことは誰にも言えやしない。
「おせっかいだと……言われないといいですね」
天邪鬼な私は生田先生にそう言ってしまう。しかし生田先生は笑ってそれに答えてくれた。
「本当にそう願うばかりです」
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