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私 細川卯月
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「お父さんとお母さんも昔はすごい仲良くって、三人で毎週のように遊びに出かけてたんです。それで帰って疲れて夜に二人の間に挟まって寝るのが好きで……。卯月が産まれてきてくれて良かったって言ってくれるのが好きで……。そんな当たり前の毎日が幸せで……」
そうやって話をしている内にまた抑えきれないような感情が込み上げてくる。その感情が溢れてしまう前に今頭の中にある言葉を吐き出してしまおうと焦るように舌を回した。
「離婚するって決まったらあの頃のことが嘘だったって言われたみたいに思えるんです。あの頃みたいに戻ってほしいって思うのは我儘ですか? お父さんとお母さんに仲良くしていてほしいって思うのは我儘ですか? 二人が愛し合って産まれたはずの私って何なんですか? 愛が無くなったんだったら私のこともいらない存在なんですか?」
吸い込んだ息を一気に吐き出すように言い放つ。言葉と一緒に息を吐き出したせいで苦しくなり、息を整えるためにダッシュボードに腕と頭を預ける。私が荒く息をしていると、隣で生田先生が優しく話してくれる。その声にはいつも助けられている気がする。
「細川さん。今の言葉が本心で辛かったことなのでしょう。話してくれてありがとうございます。ただ、私はこう思ってしまったのです。もしかすると、細川さんの苦しみはそれだけではないのではと」
それだけではない。そう言われて何のことかと考えるが、頭に酸素が回っていないためか答えが何も思い浮かばない。涙が零れる目を擦って生田先生の方を見ると、真剣に前だけを見て運転を続ける生田先生の姿。
「その言葉をご両親に言えないことこそが、最も細川さんを苦しめているのではないかと」
両親に言えないことが私の苦しみ……。両親に言えない……そりゃ、そりゃそうだ。言えるわけない。
「だって、そんなこと言ったらお父さんとお母さんが困るじゃないですか。そりゃ仲良くはしてほしいですけど……。二人が幸せになるために離婚するって決めたんだから、その邪魔だけはしたくないです。仲良くしてほしいけど、私はやっぱり二人ともに幸せになってほしいんです」
自分の中でもどうしようもない理論なのだと自覚している。自分が望むものと両親が望むものが違う。違うからこそ我慢しないといけないことがある。生田先生が生物準備室で花岡さんたちに教えていた考え方の多様性は悪いことではないという言葉があったが、私はどうしてもそれが受け入れられない。だってお父さんとお母さんの考え方が違っているから、価値観が違っているからこそ我慢しないといけないことが出てきて、我慢できなくなって別れることになったのだから。私と両親の考えが違うと分かっているから私は自分の気持ちを言葉にできないのだから。
また息を整えて生田先生を見ると、今はなぜか少し嬉しそうな顔をしている。私の言葉に何かおかしいところでもあったのだろうか。
「職業柄、いろんな親や子供を見てきました。今の細川さんに告げるのも酷な話かもしれませんが、残念ながら親というのは必ずしも子供の幸せを願っているものではありません。無関心な親もいれば分かりやすく虐待をしている親もいます。だから容易に子を思わない親はいないなんて綺麗事は言えません。しかし、私は今まで一度だって親を思わない子はみたことがないのです。子を思わない親はいても、親を思わない子はいない」
親を思わない子はいない……。
「そこに確かな親子の繋がりというものを感じて少しだけ嬉しくなってしまうのです。ただ、自立した大人になってからは話が別かもしれませんが。だから細川さんとご両親は、たとえ離婚されたとしても間違いなく親子なのだろうと」
確かな親子の繋がりを感じる……そう言ってもらえるとそれだけで嬉しく思う。やっぱり私は親子でいたいんだと思う。
「親子の絆があるのならば、話をするべきだと。気持ちを伝えるべきだと思うのです。だから私は今日、細川さんがご両親に想いを伝える手伝いをしたいと思います。離婚が無かったことになるとかまた昔のような家庭に戻すとかいったことまではできないと思いますが、私にできることを全力で手伝わせてもらおうと思います。それで良いでしょうか?」
生田先生は赤信号で止まったタイミングで私を見るとそう問いかけた。離婚が無かったことになるとか昔のように戻すとかは無理……分かってはいたし受け入れてはいたけれど、何だかやっぱり寂しい気持ちになる。でも、それでも私は生田先生を信じて生田先生にお願いするしかできない。
「よろしくお願いします」
「はい。ではそろそろ家の近くの駐車場に着きますので家までの案内はよろしくお願いしますね」
そうやって話をしている内にまた抑えきれないような感情が込み上げてくる。その感情が溢れてしまう前に今頭の中にある言葉を吐き出してしまおうと焦るように舌を回した。
「離婚するって決まったらあの頃のことが嘘だったって言われたみたいに思えるんです。あの頃みたいに戻ってほしいって思うのは我儘ですか? お父さんとお母さんに仲良くしていてほしいって思うのは我儘ですか? 二人が愛し合って産まれたはずの私って何なんですか? 愛が無くなったんだったら私のこともいらない存在なんですか?」
吸い込んだ息を一気に吐き出すように言い放つ。言葉と一緒に息を吐き出したせいで苦しくなり、息を整えるためにダッシュボードに腕と頭を預ける。私が荒く息をしていると、隣で生田先生が優しく話してくれる。その声にはいつも助けられている気がする。
「細川さん。今の言葉が本心で辛かったことなのでしょう。話してくれてありがとうございます。ただ、私はこう思ってしまったのです。もしかすると、細川さんの苦しみはそれだけではないのではと」
それだけではない。そう言われて何のことかと考えるが、頭に酸素が回っていないためか答えが何も思い浮かばない。涙が零れる目を擦って生田先生の方を見ると、真剣に前だけを見て運転を続ける生田先生の姿。
「その言葉をご両親に言えないことこそが、最も細川さんを苦しめているのではないかと」
両親に言えないことが私の苦しみ……。両親に言えない……そりゃ、そりゃそうだ。言えるわけない。
「だって、そんなこと言ったらお父さんとお母さんが困るじゃないですか。そりゃ仲良くはしてほしいですけど……。二人が幸せになるために離婚するって決めたんだから、その邪魔だけはしたくないです。仲良くしてほしいけど、私はやっぱり二人ともに幸せになってほしいんです」
自分の中でもどうしようもない理論なのだと自覚している。自分が望むものと両親が望むものが違う。違うからこそ我慢しないといけないことがある。生田先生が生物準備室で花岡さんたちに教えていた考え方の多様性は悪いことではないという言葉があったが、私はどうしてもそれが受け入れられない。だってお父さんとお母さんの考え方が違っているから、価値観が違っているからこそ我慢しないといけないことが出てきて、我慢できなくなって別れることになったのだから。私と両親の考えが違うと分かっているから私は自分の気持ちを言葉にできないのだから。
また息を整えて生田先生を見ると、今はなぜか少し嬉しそうな顔をしている。私の言葉に何かおかしいところでもあったのだろうか。
「職業柄、いろんな親や子供を見てきました。今の細川さんに告げるのも酷な話かもしれませんが、残念ながら親というのは必ずしも子供の幸せを願っているものではありません。無関心な親もいれば分かりやすく虐待をしている親もいます。だから容易に子を思わない親はいないなんて綺麗事は言えません。しかし、私は今まで一度だって親を思わない子はみたことがないのです。子を思わない親はいても、親を思わない子はいない」
親を思わない子はいない……。
「そこに確かな親子の繋がりというものを感じて少しだけ嬉しくなってしまうのです。ただ、自立した大人になってからは話が別かもしれませんが。だから細川さんとご両親は、たとえ離婚されたとしても間違いなく親子なのだろうと」
確かな親子の繋がりを感じる……そう言ってもらえるとそれだけで嬉しく思う。やっぱり私は親子でいたいんだと思う。
「親子の絆があるのならば、話をするべきだと。気持ちを伝えるべきだと思うのです。だから私は今日、細川さんがご両親に想いを伝える手伝いをしたいと思います。離婚が無かったことになるとかまた昔のような家庭に戻すとかいったことまではできないと思いますが、私にできることを全力で手伝わせてもらおうと思います。それで良いでしょうか?」
生田先生は赤信号で止まったタイミングで私を見るとそう問いかけた。離婚が無かったことになるとか昔のように戻すとかは無理……分かってはいたし受け入れてはいたけれど、何だかやっぱり寂しい気持ちになる。でも、それでも私は生田先生を信じて生田先生にお願いするしかできない。
「よろしくお願いします」
「はい。ではそろそろ家の近くの駐車場に着きますので家までの案内はよろしくお願いしますね」
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