過労死社畜は悪役令嬢に転生して経済革命を起こす

色部耀

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土の王国編

え、私現代知識チート使ってる?

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 市場が独占的に卸売りをして町の店は皆そこに品物を仕入れに来る。それはまさしく私が生きていた日本で昔のスタンダード。詳しくは知らないけど昭和くらいまでなら普通だったかもしれない。今でも高級店や産地直送の鮮度命の魚介類の店ならある。しかし私が提案する店は庶民向け。さらに言えば猪肉なのでエージングという熟成時間もある。卸売りを通す必要自体がそもそも無い。

「ヒューリ王子。この国で市場を通さずに直接店舗に品物を届けることは違法だったりしますか?」

 私の問いかけにヒューリは少し考えるように目をつむる。そしてゆっくりと口を開いた。

「そのような法律に心当たりはありません。しかし大量の品物を多くの店に行き渡らせるには市場が効率的です。直接店にとなると全ての店で購入数を決め、品物を受け渡し、金銭のやり取りをする……。それを何十店舗と繰り返していては時間がいくらあっても足りません」

 なるほど。だから市場で一括という考え方になるのか。ヒューリの話を聞いて私も勉強になる。

「それに一番の問題は店をまわって売る場合、初めに訪れた店ほど仕入れに有利になってしまうということではないでしょうか? 極端な話、初めの店が買い占めてしまうと他の店が営業をできなくなってしまいます」

 ヒューリの頭の回転の速さに唸るばかりだ。しかし私は学生時代にアルバイトをしていたコンビニの経験がそれらの問題を解決できる。確信がある。

「フルハイム家が出資する肉料理屋は売上予測によって1日の納入量を前もって店舗からの注文によって決定。金銭のやり取りは月末に一括で支払いとしましょう。納入量の決定は事務処理能力によって1週間分とかから始めて、最終目標は毎日決める形を目指します」
「それならば……」

 ヒューリは私の話を聞いて検討を始める。コンビニでアルバイトをしていた時は毎日翌週の発注を店ですることによって配送業者が店に品物を届けに来てくれるシステムだった。物によっては注文できる量も本部が上限を決めていたので、そこも踏襲してしまえばいい。

「1日に獲れる猪肉の量が分からないうちは比率で計算。当面の売上予測は店舗周辺の人口から算出して按分しましょう」
「率直な感想を言わせてもらうと、可能……でしょう」
「何か他に懸念事項でもございますか?」
「挙げるとするならば、やはり店に配るのに時間がかかること……でしょうか。市場を使えば店の従業員が一斉に買いに来るのでタイムラグもなく大きな時間もかかりません」
「……市場が開いている時間に渋滞とか起きてないんですか?」

 私の質問にヒューリはハッとなって持っていた鞄から地図を広げた。

「確かに渋滞による交通麻痺は当たり前になっています。もしそれを回避できるなら時間の問題も上手くいくかもしれません。渋滞が起きるのはここ。市場の周辺の6区画です」

 ヒューリはそう言って地図を指でなぞる。市場があるのは南にある町の入口から少し東へ移動した壁際。そこから入口手前までの場所が渋滞問題がある区域のようだった。

「入口の西側に倉庫を建てましょう。そこから輸送を始めればレジーナ様の案は上手くいくかもしれません。いえ、上手くいきます」

 ヒューリの目が輝く。

「熟成時間に5日ほど使いたいんですけど、町中の店の全仕入れ量の5日分を貯蔵できる倉庫にできますか?」
「やりましょう。私個人の近衛兵団の魔法士を動員して5日以内に」

 ヒューリはとても楽しそうに笑いながら提案をしてくれる。これはまさしく商談だ。私も楽しくなってきていた。

「倉庫の賃貸料はこの後王宮に言って見積もりをしてくださいますか?」
「はい大丈夫です。後々は他の業種にも水平展開させたい案でもあるので、アイデア料としてかなり安くさせていただきます。なんなら無料でもいいくらいです」
「そこはちゃんとしましょう。その後の他の業種の方々に悪いので正規の見積もりで」
「本当にレジーナ様は二代目フルハイム王のようですね」

 そう言ってヒューリはクールな印象からは想像がつかないほど豪快に笑ったのだった。
 そして私の隣ではアリスがポカンと口を開けていた。
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