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番外編とあとがき

キャラクター語り(18)修道士ロワズルール

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 翻訳者だって「ひとりの読者」としてネタバレ感想書きたい!
 そんな主旨で、好き勝手に語ります。

 ここからは、各章の「登場人物紹介」ページの順番にならって、私が思ったことを書いていきます。


▼修道士ロワズルール(23歳)
フードを深くかぶった懺悔僧。
みずから志願し、捕らわれたジャンヌのために寝食の世話から裁判の付き添いまで献身的に働いている。
夜になると、紫色の従者服に着替えてひそかに暗躍している。




(第一章の登場人物紹介とは別パターンの正面顔)



最終章は、オルレアン包囲戦(1429年)から二年経っているので、トリスタンは23歳、ジャンヌは19歳になっています。

トリスタンは架空のキャラクターですが、修道士ロワズルールは実在した人物で、裁判記録に名前が残っています。
最初の判決のとき、ジャンヌに罪を認めて署名するように勧めた張本人です。
従来の解釈だと「処刑に導いた元凶」とされ、ジャンヌ・ダルクの物語では嫌われ役らしい。

ロワズルールの本心はわかりません。
言われているように、最初からジャンヌを処刑に導こうとしたのかもしれませんが、好意的に解釈するならば、ジャンヌの命を救うために司法取引をしようと試みたとも考えられます。

後者だとしたら、ロワズルールの誤算はジャンヌの本心を見誤ったこと。
つまり、ジャンヌは命を取引材料にして偽証してまで生き延びようと思わなかった。

ジャンヌへの献身が本物だとしたら、ロワズルールも悲劇の人といえます。
生かしたい人を死なせてしまったのですから。
善意でした行為が、相手のためになるとは限らない。
二人の「すれ違い」が最悪の結果を招いてしまった。

火刑後、ロワズルールはイングランド陣営からもフランス陣営からも嫌われて、追われるように町を出て行き、数年間、教会関係の仕事に関わっていたようです。
死後の遺品は、粗末な修道服と聖書のみ。詳しいことは不明。

歴史の空白部分を、フィクションで埋めたキャラクターですね。
史実のロワズルールも、本作のロワズルールも、なんてしんどいキャラなんだ……!

二度読みすると、途中で何度か「トリスタンが修道士になる」伏線が貼られていることに気づきます。
メフレーやサラセンからは嘲笑的な意味で、トリスタンは目的のために修道士になって神を騙してみせると話しています。



ちなみに、オリヴィエが変装していたマルタン・ラドヴヌも実在した人物です。
火刑から25年後の復権裁判まで生き延び、証言を残しています。

最終章のラストで、シャルル七世とリッシュモンがオリヴィエを呼び出しているのはおそらくこの件ですね。



キャラクター語りはこれでおしまい。
18人もいましたが、隙あらばシャルル七世を絡めていた気がします。

次回は、後日談代わりに「火刑後の復権裁判」について簡単に説明して、この物語を終わりにしようと思います。

何か質問などありましたら、今のうちにどうぞ。
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