こんな私でいいですか?

棘花翡翠

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落ちていく

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それから日が経ち、家に帰れる事になった。

家から大学に通っているため叶人も近くにいるが、会いにこないだろう。


「よっ遊びに来たぞ」

「…」

叶人は、会いに来た。会いに来てくれた。

けど、私はずっと返事をせずに、無視し続けた。
それでもめげず、叶人はずっと話していた。








ある日、私は叶人と外出する事になった。お母さんに無理やり着替えさせられて、無理やり外に出された。

叶人とお母さんを見ていると、計画していた事がわかる。

「今日の買い物楽しみだな!」

「…」

「…悪かったよ。勝手に連れ出して」

叶人はバツが悪そうに頬をかく。しかし

「あ!財布忘れた!」

いくら時間が経って大人っぽくなっても本質は変わらない。

何しにきたんだよ。もぅ、毒気が抜かれるじゃん。

「行ってくれば?」

久しぶりに喋ったせいで少しかすれていたが、叶人に届いたらしい。
嬉しそうな顔で私を見つめ、自分の家に入っていった。

全く何しに来たんだか。それにしても、こんな坂の上に私を放置とか…不用心すぎない?

そんな事を考えながらぼんやりと空を眺めた。綺麗な青空だ。




次の瞬間、車椅子が押された。そんなに強くないが、坂を下らせるのには十分だった。

「え」

「あなたが、あなたが悪いんだ!ちゃんと教えてあげたのに説得出来てない!週末が楽しみだって叶人先輩が言ってたから来てみれば一緒に買い物?ふざけるな!」

そう言われている間にも車椅子は坂を下っていく。

嫌だ。怖い。速くなっていく。だめ。壁にぶつかる!

私は意を決して車椅子から飛び降りた。

地面のアスファルトで手や足を擦る。
そして、私も転がる。壁にぶつかる。
車椅子に乗ったままよりはマシだが痛い。

叶人が走ってくるのが見える。

「結望!!ごめん…!また、俺が…」

叶人が泣く。

もう、泣き虫だな…。

私は、叶人を安心させるように頭を撫でた。

「だか、ら、いってるで、しょ?かなとの、せいじゃない。あのときも、いっしょ。さいしょにかなと、が、かけつけてくれた。それだ、け」

「…でも!それは俺が近くにいたのに、何も出来なかった、証拠」

「それでも、わたしは、あなたのせい、だと、おもわ、ない…」

意識が遠のいていく。

「結望!結望!くそっ痛くても我慢しろよ!」

体が浮いた。ああ、この匂い、安心する…。

そこで私の意識は途絶えた。 




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