「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです

鬱沢色素

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31・俺の使命(ウィリアム視点)

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(ウィリアム視点)

 メルヴィンから衝撃の真実を知らされた俺は、急いで王城に帰り、国王陛下と謁見していた。


「──というわけで、ヤツはセレスティアに、“穢れ”のアイテムを流してしまいました。その理由は、“穢れ”の王復活のためです」


 俺の言葉に、陛下は黙って耳を傾けている。
 なにも言おうとしない陛下の態度に、俺は苛立ちを覚えた。

「“穢れ”の王が復活すれば、その被害はこの国──ベイルズにも及びます。こるのは十年前の大災害の再来でしょう。陛下、セレスティアへの挙兵をお許しください。俺が兵を率います」

 覚悟を持っての進言であった。

 陛下は玉座の背もたれに体を預け、目を閉じる。
 そしてすーっと息を吸い、とうとう口を開いた。

「──挙兵を許可する。十年前の再来はなんとしでも阻止せなばならぬ。たとえそれが、セレスティアとの戦争を意味することになってもな」
「陛下……っ!」

 よかった……!
 やはり、陛下も事の重大性が分かっておられたのだ。

 陛下から許可が出て、気持ちがさらに昂る。
 “穢れ”の王の復活を阻止……仮にそれが無理だったとしても、俺自身の手で“穢れ”の王を倒す。

 それが、俺が十年前から抱いている使命で──。

「だが──」

 しかし、次に陛下から語られる言葉は、俺にとって到底受け入れられないものであった。

「ウィリアム、そなたがセレスティアに向かうことは許可できぬ」
「なっ……!」

 愕然とする。

「陛下! なにを考えられておられるのですか! 皆が戦っているというのに、俺は国内でぬくぬくと待っていろと!?」
「その通りだ」
「陛下はこの十年間、俺がで過ごしてきたかお分かりでしょう!? その命令には従えません! 俺もセレスティアに向かいます!」
「ウィリアム……」

 必死に懇願する俺に対して、陛下は悲しみの眼差しを向ける。

「そなたが“穢れ”の王について、並々ならぬ想いを抱いていることは知っている。謂わば、そなたの感情は“復讐”だ。たとえ死んでも、“穢れ”の王を打倒しようとするだろう」
「なら……っ!」
「だからこそ、儂は心配なのだ。いくらそなたとて、“穢れ”の王と戦えば無事にすまない。儂に、も家族を失えというのか?」

 陛下の言葉は、臣下の一人に向けられたものではない。
 大切な息子をなくしたくない、という一心からのものであった。
 俺も、今は陛下が大切な者を亡くした、一人のか弱い男性に見えてくるが……だからといって、首を縦に振るわけにはいかない。

「そなたは事態が収束するまで、城の中で待機。街に出ることも許さん」
「納得できません」
「そなたは儂の親心を理解せぬか。儂も譲るつもりはない。だが……一方で、儂の命に従えば、そなたが一生後悔するのも見えておる」

 陛下は俺の瞳をじっと見つめ、こう問いかける。

「だから、そなたの覚悟を示せ。を捨てるなら、儂はこれ以上は止めぬ」

 陛下の言葉にハッとなる。


 ──王子の名を捨てる。


 それは俺にとって、重い言葉だった。

「……分かりました。、陛下の命に従います」

 覚悟を決めて、俺はすぐに頷く。

 玉座の間を後にして、俺が向かったのは城内の自室だ。
 そして誰にも言わずに、身支度を始める。

「お許しください、陛下」

 そう呟き、俺は城を抜け出した。



 外はすっかり日が落ちていた。
 夜が深くなっていくにつれ、大通りを歩く人の数も少なくなっていく。

 法廷内での出来事は、箝口令が敷かれている。
 ここにいるほとんどは、“穢れ”の王が復活しようとしているなど夢にも思っていないのだろう。

 みんなは充実した顔で、家路を急ぐ。
 明日はどんないいことがあるのか──そう未来に期待しているかのようだった。

 平和な光景だ。
 俺はこの国が大好きだ。

「馬を走らせれば、セレスティア王都まではさほどかからないか」

 街の風景を目に焼き付けてから、郊外にある隠し厩舎に向かおうとすると──。

「……ん」

 途中、とある建物を見かける。

 そのお店は人通りの少ない場所に、ひっそりと佇んでいた。
 しかし、店先には花が飾られ、自然と足を運びたくなるような店だ。

 窓からは中の光が漏れ出て、うっすらと物音も聞こえてきた。
 看板にはユキのしっぽと書かれている。


「アルマ……」


 彼女の名を呟く。

 急がなければならない。
 そうじゃないにしても、今の俺は無許可で城内を抜け出してきた立場だ。いつ城の者に見つかるか分からないし、
 こんなところで道草を食っている場合じゃない。

 だが、何故だろう。
 最後に、彼女の顔をどうしても見たくなった。

「別れの挨拶をしよう」

 気付けば、導かれるように俺は道具屋の扉に手をかけていた。
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