「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです

鬱沢色素

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33・今の私は聖女ではないから

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「私はセレスティアの聖女でした」

 すると、ウィリアムは目を丸くします。

「セレスティアの……聖女?」
「はい。あの国には──」

 私はウィリアムに、全てを打ち明けます。

 セレスティアには代々、王城で勤め、“穢れ”を払う役割を担った女性がいること。
 ですが、サディアスに『第二の聖女になってくれ』と一方的に言われ、腹が立ってセレスティアを飛び出したこと。
 そして、隣国ベイルズ向かう道中の馬車の中で、あなたに出会った──と掻い摘んで説明しました。

「なるほど……」

 ウィリアムは顎を手で撫でながら、

「セレスティアには聖女がいる……という噂は聞いたことがあったが、まさか君がそれだったとは。しかし、今までのことを考えるに、君が聖女だとするなら納得だ。君は一介の解呪師にしては、規格外の力を有していたからな」

 と言いました。

「どうして、今まで喋ってくれなかったんだ?」
「……きっと、あなたに嫌われるのが怖かったから」

 バレて、セレスティアに連れ戻されたくない──と最初は考えていましたが、今となってはウィリアムがそうする人じゃないことは分かっています。

 なのに打ち明けなかった理由は、ウィリアムが私の正体を知り、身勝手な女だと軽蔑するかもしれないから。
 それほど、私の行動は間違っていたのかもしれないのですから。

「嫌う? なにを言うんだ」

 しかし、ウィリアムは優しい口調で。

「俺が君を嫌うはずがない。それに、元々悪いのはその身勝手な男だ。君は悪くない。なにがあっても、君が聖女であることには変わりないと思うよ」
「ありがとう……ございます」

 ウィリアムの返答が嬉しかった。
 涙が零れそうになりますが、今は泣いている場合ではありません。

「ですが……私が身勝手であったことは事実。聖女をもう一度名乗る気には、とてもなれません」

 ──私は聖女ではありません。

 ウィリアムの母君様のような聖人で、みんなを守るためなら自分の命を投げ出そうとは思えないのです。
 “穢れ”の王が復活すると聞いても、怖くて、セレスティアに向かう気にはなれませんでした。

 でも。

「あなたの決意を聞いて、考えが変わりました。ウィリアム、私も連れて行ってください」
「なっ……!」

 ウィリアムは言葉に詰まります。

「セレスティアには大きな忘れ物があるんです。私はそれを持ち帰るためにも、セレスティアに向かわなければなりません」
「君が行く必要なんてない!」

 ウィリアムは鬼気迫る表情で私の両肩を掴みます。

「“穢れ”の王は、俺一人でも命がけの戦いになる! そんな危険な戦いに、君を巻き込むわけにはいかない!」
「それですよ」
「え?」
「先ほどから、ウィリアムは自分一人でなんとかしようとしていますよね?」

 私も、元々は彼と同じ考えでした。

 聖女の時も全部一人で抱え込んで、ベイルズに行く際も誰の力も借りずに生きていかなければならないと覚悟しました。

 しかし、それは間違っていたとすぐに分かりました。

 ここまで来るのに、何人の人の力を借りたでしょうか。
 サビィちゃんがいなければ、このお店を継続できていませんでした。
〈真紅の爪痕〉との一件でも、クラークさんが私を守ってくれました。
 街の住民も、ほとんどの人が私を受け入れいてくれて、優しく接してくれています。

 そして、ウィリアム。
 彼がいなければ、私はこの街でまだ自分の生きる道を見つけられていなかったかもしれません。

 ここまで他人の力を借りているのに、一人で生きてきたとは言えません。

「きっと陛下も、そういうつもりで王子の立場を捨てるように言ったわけじゃないと思うんです」
「というと……?」
「王子の名をなくしても、付いてきてくれる仲間。そういう人たちがいるなら、行きなさいという意味だったと思います」

 もちろん、これは私の想像です。
 ですが、王城で一度話した陛下の顔を思い出すに、とてもじゃありませんが、ウィリアムに『死ぬなら一人で死ね』と言うとは思えませんでした。

「だから私もウィリアム王子ではなく、『冒険者ウィリアム』とセレスティアに行きます。お願いします、ウィリアム。私にあなたの手助けをさせてください」
「俺は……一人じゃなかった?」

 考えもしなかったことなのか、ウィリアムの声は震えています。

「俺は……一人でも、大切な人を守れるために冒険者になった。それが間違いだったと?」
「間違っているとまでは言いません。それは、あなたの覚悟を否定することになるから。ですが、もっと肩の力を抜いた方がいいと思うんです。それとも、あなたにとって、私はそんなに頼りない存在ですか?」

 微笑んで、私は首を傾げます。
 少しウィリアムは考え込む素振りを見せたものの、やがて口を開きます。

「……分かった。アルマ、俺に力を貸してくれるか? 俺と共に復讐を……いや、世界を救ってくれるか?」
「もちろんです」

 即答して、首を縦に振ります。

「ありがとう。だが、セレスティアに行くまでには日数がかかる。しばらくこの道具屋を開けることになるが──」
「心配するなにゃ!」

 ウィリアムが言葉を紡ごうとすると、突如、サビィちゃんの声が店内に響き渡ります。

「サ、サビィちゃん!? 起きていたんですか?」
「うんにゃ。殿下とご主人様の声が聞こえたにゃ。深刻そうな雰囲気だったから、なかなか顔を出せなかったけど……話は聞かせてもらったにゃ」

 サビィちゃんは拳を握り、

「ご主人様が留守の間、お店は任せろにゃ! ご主人様たちは、 “穢れ”の王をぶっ倒してこいにゃ!」

 と力強い言葉をかけてくれました。

「それに……“穢れ”の王ってやつを倒せば、貴重なアイテムが手に入るかもしれにゃいでしょ?」
「ああ。魔物を倒せばそれが素材となって高値で売れるように、“穢れ”の王からもなにか手に入るかもしれない」
「だったら……それをうちの目玉商品にすればいいにゃ! 大儲けのチャンスにゃ!」

 とサビィちゃんは明るく言います。
 気負いすぎていた私ですが、彼女の言葉にくすりと笑ってしまいます。

「道具の仕入れに行く……それ、いいですね。いつも通りです。では、サビィちゃん。私が仕入れに行っている間、お店はお願いしますね」
「任せろにゃ!」

 サビィちゃんが頷きます。

「アルマ──行こうか」
「はい。ですが……私は聖女ではありません。今の私はご覧の通り、聖女ではなく、ただの道具屋の店主。お力になれなかったら、すみません」
「なにを言っている」

 ウィリアムがきょとんとした顔をして。

「今まで、君に何回助けてもらったと思っているんだ。それに……仮にそうじゃなくとも、俺は君に来てほしい。聖女の力がなくとも、君が傍にいてくれるだけで、俺は強くなれるから」

 ああ──。
 ウィリアムは私を聖女としてではなく、一人の人間として求めてくれます。

 それは今、私が一番欲しかった言葉。



 こういうことを言ってくれるから──私はこの人を好きになってしまいそうになります。
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