上 下
36 / 43
四章

36・魔族を返り討ちにする

しおりを挟む
 一方、彼等が王都から追放されるよりも少し以前。
 アルフは……。

「大変だ! 魔族が村に襲撃しにくるぞ!」

 故郷の村でゆっくりくつろいでいると、そう叫びながら村中を走り回っている男を見かけた。

「やれやれ……魔族が襲撃ってどういうことだ?」

 そういや、先日倒したのは魔族だと名乗っていたな。

 そう思いながら、広場に行く。
 広場には村中の人達が集まっていた。
 みんな焦っているような、不安を感じているような表情をしていた。

 俺はみんなの話に、黙って耳を傾けた。


「ど、どどどういうことだ? どうして魔族なんかが、こんな村に来る?」
「分からねえ……だけど今日、森に行ったらウサギが殺されたんだ」
「ウサギ? それが魔族とどういう関係があるんだ?」
「そのウサギの腹に血で文字が書かれていたんだよ!
『お前等、人間共に復讐する。三日ほど前に殺されたルコシエルの仇を取る』
 って!」
「はあ? ルコシエル? 殺された? こいつ、なにか勘違いしてるんじゃねえか?」
「そう言って、おとなしく帰ってもらえると思うか?」
「……思わないな。例え最初は勘違いでも、俺達は殺されちまうだろう」


 ぶるぶると震えている。

 ふむ……ルコシエル。俺が殺した魔族で間違いない。
 復讐しにきた、ということか。
 ヤツ等の気持ちも分かるが、完全に逆恨みだ。

「逃げよう! この村から!」
「この村を置いていけと? それに俺達が外に出て、生き残れると思うか? 外にはモンスターがうじゃうじゃいるんだぞ!」
「だからって、ここに留まっていても死ぬだけだぞ!」

 みんなが言い争って、中には怒号が飛び交ったりもしている。
 子ども達はそんな大人を見て、怯えていた。
 平和な村に訪れた恐慌。

「なあなあ、みんな」

 俺は一歩前に出る。
 魔族が逆恨みかなんだろうが、この事態を招いたのは俺に一因がある。

 だから。

「安心してくれ。俺が魔族を返り討ちにしてやるから」

 俺が口にすると、みんなの注目が一気に集まる。

「そ、そうだ! アルフは勇者パーティーの一員だったんだ!」
「アルフだったら、この村を救ってくれるに違いない!」

 その瞳には希望が宿り、キラキラと輝いているように見えた。

 ——こんなに人から期待されるのは、いつ以来だろう?
 慣れていないのでむず痒いが、悪い気分じゃない。

「じゃあみんなは家の中にでも……」

 そう言いかけた時であった。

「来た! あれじゃねえか!」

 一人の男が空の方を指差して、叫んだ。

 俺は空を見上げる。

 突き抜けるような青空だ。
 だが、向こうのはぽつぽつとした黒点が。
 それは少しずつ大きくなっていき、やがて魔族ルコシエルのような形であることが視認出来た。


「魔族ってのは一体だけじゃなかったのか?」
「十体はいるぞ! さすがにアルフでもこれだけは……」


「だから安心しろって」

 何故なら。
 魔族をしっかりとこの目で捉えた瞬間、彼等には”みんな俺より弱くなって”もらっているのだから。

「愚かな人間共よ」

 十体を超える魔族は村の上空に止まり、俺達を見下しながら言葉を続けた。

『我らは復讐者なり。我が同士ルコシエルがこの近くの森にて息絶えていた』
『人間どもよ、調子に乗るなよ。ルコシエルは我が同士の中でも最弱。今から貴様等を根絶やしにしてくれるわ』

 ルコシエルってヤツより、人間の言葉を操っている。
 より高度な知能を持つ魔族であることが、ここからでも分かる。

 十体以上の魔族は一斉に村に向かって降下してきた。

「キャーーーーーーッ!」

 村に響き渡る悲鳴。
 そのまま魔族は風を切りさき、一人目の人間の手をかけようとした瞬間……地面にぶつかった。

『グハッ! どういうことだ!』
『いきなり飛行能力がなくなったぞ? それに力もなくなって……これは?』
「お前等にスマートな答えを教えてやろう」

 俺は腰からぶら下げていた剣をつかみ、

「俺が空なんて飛べないからだ」

 と地面で悶え苦しんでいる魔族の首を、一気に切断したのだ。

『貴様がルコシエルをやったんだなっ?』
「それがなにか?」
『我が同士の仇、取らせてもらおう』
「やれるもんならやってみろ」

 そこからは一方的な戦いであった。
 魔族どもが襲いかかってくるが、その動きがあまりにのろい。
 ゆっくりと首を切断し、羽をもぎ取り、命を刈っていった。

『どうしてだ! どうして魔法が使えなくなっている!』
『き、貴様……なにをしたんだ!』
「みんな俺より弱くなってもらったんだよ」

 いくら高度な知能を持っていようが、俺には関係ない。
 相手がどれほど強いだろうが、俺のスキルさえあればみんな仲良く底辺だ。


『き、貴様! 待て! これが見えぬか!』


 戦いに集中していると。
 少し離れたところで、魔族が一人の少女を後ろからつかみ、首に爪を当てていた。

「た、助けて……アルフさん」
「あの子は……」

 村の子どもだ。
 どうやら気を取られている隙に、魔族が子どもを人質に取ったらしい。

『ククク。分かるな? 今すぐその行いを止めないと、この少女を八つ裂きにする!』
「さすが魔族だな。汚い」
『勝てばそれで良かろう』
「今までそうやって戦ってきたのか?」
『フンッ。言わなくても分かるだろう』

 魔族がニヤリと口角を歪ませ、

『前、とある一国と戦った時は壮観だったなあ。千人の兵士相手に、我一人ではさすがに手に余った。だから転移魔法を駆使して、あいつ等の家族の何人かを人質に取ったのだ! さらに国の王様や大臣もな。我の力さえあれば、それすらも容易い』
「それで?」
『あいつ等は涙を流して降伏した。だが! 降伏しても、我に傷を負わせたのだ! 許すはずがない!』
「殺したのか?」
『もちろんだ。まずはあいつ等の目の前で、家族をな。涙を流していたよ。だが、我はそんなもの関係なしに、人質を取られて無抵抗なあいつ等の前で殺してやった! ハハハ! あれほど、愉快なことはなかなか起こらないだろうな! これだから人間狩りは止められない』
「やはり……お前等はあいつ等と一緒だな」
『あいつ等?』

 もちろん、勇者パーティーのあいつ等のことだ。
 性格がねじ曲がっているのに、それで自分がおかしいことに気付いていない。
 自負心だけ膨らませていって、今にも爆発しそう。
 こいつの言葉を聞いているだけで、不快な気分になった。

「それにお前知ってるか?」
『なにがだ?』
「人質ってのは、自分より弱いヤツを取ってはじめて成立するんだぜ? なあ、アビー」

 囚われている村の女の子……アビーの名を呼ぶ。

「アビーはこいつより強いから大丈夫だ。ちょっと肘で攻撃してみな」
「え……?」

 アビーは戸惑ったように口を開く。

「大丈夫。俺を信じて」
「……うん。分かった!」

 純粋で良い子だ。
 アビーはそのまま肘で魔族の腹あたりを思い切り突いた。

 すると……。

「グガアアアアアアアアアアアア!」

 腹に一撃をくらった魔族は、口から血を吐きながら後ろに吹っ飛んでいった。

「お前はもう弱くなってるんだ。子ども一人にも勝てないくらいにな」

 息絶え絶えの魔族に近付き、そのまま容赦なく剣で頭を突き刺した。

 ふう……これで最後か。
 気付けば地面には、襲撃をしかけにきた魔族全員分の死体が転がっていた。
 俺もこいつ等の返り血を浴びて、決してカッコ良い姿ではなかったが、

「ア、アルフ! さすが勇者パーティーの一員だ! 魔族をこんな一瞬で倒しちまうなんて!」
「この村の英雄アルフ! この村の誇りだ!」

 と村のみんなは俺のところに集まってきて、賞賛を繰り返してくれた。

「……こういうのも悪くないものだな」

 照れ隠しに頬をかいた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】未来の王妃様は恋がしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:353

頻尿メイドの今日のご奉仕

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:15

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,491pt お気に入り:4,185

夢見る頃を過ぎても

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:100

処理中です...