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1章
3間奏-帰路
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「ーーいや~ボウズ達のお陰で助かったぜ!」
激しく揺れる馬車の中、キブソン達は勝利に湧いていた。
当の奏太達は、またもや激しく揺れる馬車に酔い潰れていた。
しかも、蓄音箱は戦いで大破し、帰りは気休めの音楽すらない。
「ああ……、それはどうも……。」
奏太は力なく応える。
初めての戦いで危険な目に遭い、更に先程の精霊魔法で魔力を使い果たしたことも重なって、奏太は完全に憔悴していた。
響子や金重も、来る時以上に元気がない。
「にしてもボウズ達、まさか音楽家だったとはなぁ!
ところであれはなんていう音楽なんだ!? 今まで聴いたこともない歌だったぞ!
詳しく教えてくれよ!なあ!なあ!」
キブソンは、キラキラと目を輝かせながら、項垂れる奏太にグイグイと説明を求める。
「あれはロックンロール、またはロックって呼ばれる音楽だ……。オエッ……。」
頼むから揺らさないでくれ……。
奏太の思いとは裏腹に、キブソンのテンションは収まる気配を見せない。
「ロックンロールか! スゲー格好良いじゃねーか! なんつーか、心の奥底から感情が滾るっていうかよ!
とにかくあの音楽があれば、俺達は戦場で無敵だぜ!」
城のお偉いさん達には理解されなかったが、キブソン達にはロックの良さが伝わったようだ。
「なあボウズ達、これからも俺達のクエストに付いてきてくれよ!」
「いや、それはちょっと困る……!」
キブソンから思わぬ要請を受け、奏太は即答で断る。
こんな馬車に毎回乗せられたらたまったもんじゃない。
「そう言わず頼むよ! 金は払うからさ! 戦わずにロックンロールをやってくれるだけでいい! な!?」
ぬ、ぬぬ……。金が貰えるのか、しかし、毎回酔い潰れるのは中々辛いし……。
「ーーあ、そうだ……。俺達の演奏を蓄音箱に保存して、それをあんた達に売るっていうのはどうだ?」
永吉の言っていた話を思い出し、提案してみる。
「おお! 本当か! 買うぜ! 蓄音箱が出来たらすぐ知らせてくれ!」
交渉成立だ。早速俺達の音源の販売ルートが出来た。
これは夢の印税生活も、それほど遠くないかもしれない。
「ただ、あの髭のおっさんの歌声をまた生で聴きたいなぁ~。
まぁどうしても生演奏が聴きたくなったらまた同行してくれよ! そん時は報酬を弾むからな!」
ぐぐ……。ま、まあ、たまになら大丈夫だろう。
音源を売りながら、クエスト同行で高額の報酬を受け取るっていうのもビジネスとしては有りだ。
奏太は脳内で算盤を弾く。
ーーうん。とりあえず帰ってから永吉と隆司に相談しよう。
今は何か考えただけで吐きそうだ。
冒険者としての初陣は散々な結果に終わったが、今後の稼ぎの目処がたったので収穫ありだ。
馬車に酔いながらも、歌が好評だったことに満足し、奏太は少し口元に笑みを浮かべたーー
*********************
ーー城内の音楽堂に、オーケストラの演奏が鳴り響く。
曲は丁度クライマックスに差し掛かる最中(さなか)。
指揮者であるローラントの激しい手の動きに合わせ、管楽器、弦楽器、パーカッション、全ての楽器が終焉に向けて躍動する。
いよいよローラントが両手を振り上げ、ピタリと拳を止めると、『ドンッ!』という衝撃が壁をビリビリと響かせ、演奏が止まる。
演奏を終え、アイバニーゼは『ふぅ』と息を吐いた。
黒く重厚なグランドピアノの鍵盤から、白く細い指をそっと離し、楽譜のページをめくる。
あれから演奏に集中出来ない日が続いている。
今の演奏も、時折自分が今どこを演奏しているのか分からなくなってしまった。
気付くと、奏太達の姿が脳裏に浮かぶ。
奏太と金重の演奏を聴いて以来、あのエレキギターという楽器の音に取り憑かれてしまった。
「ーーニーゼ様、アイバニーゼ様。」
はっと我に返ると、ローラントが呼んでいる。
「どうなさいましたか。ご気分が優れませんか?」
「いえ、少し考え事をしておりました。」
アイバニーゼは姿勢を正し、身を引き締める。
「そうですか。音がいつもより不安定でしたよ。
副隊長として、もっと他の隊員を先導して頂かないと。」
「はい。申し訳ありません、ローラント隊長。」
そう、私は副隊長なのだから、しっかりしなければーー
ローラントの指摘を受け、アイバニーゼは自身の態度を戒める。
一方、その様子をローラントが怪訝な目で見つめる。
昨日の一件以来、どうもアイバニーゼ様の様子がおかしい。
時折、あの低俗な2人に、妙に影響を受けた素振りも見せる。
あの者達には注意する必要がある。
いずれ私の計画の邪魔となるやも知れない。
芽は刈り取っておかねばーー
ローラントが不穏な思考を走らせるが、隊員達はそれを知る由もなく、各々の作業に取り掛かる。
シンバルとしてその場に混ざる律動も、ローラントの思惑など気付く様子もなく、自身の演奏を確認している。
「ーー時に律動君、君の演奏は実に素晴らしい。音量、音色、タイミング、全て完璧だ。
君は以前居た世界でも、オーケストラのシンバル奏者の経験があるのかな?」
ローラントが律動の演奏に賛辞を送る。
「ありがとうございます! 以前住んでいた世界では、学校の吹奏楽部……吹奏楽団で一通りの打楽器を担当しておりました!」
日本での中高生時代の経験を思い出しながら、律動は自信満々に答えた。
「ふむ、吹奏楽団か。参考までに尋ねるが、打楽器以外の経験はどうかな?」
「えっと……両親の指導で、幼少期からピアノとバイオリンを習っていました……。」
先程とは裏腹に、律動は妙に籠った声で答えた。
「ほう、ピアノとバイオリンも出来るのか。ならばオーケストラでそれらの楽器を担当した事もあるのかな?」
「いえ……ありません……。」
今度は明らかに声のトーンが低い。目線も下を向き、落ち込む様子が見て取れる。
「そうか。まあ打楽器にそれだけの技術があれば、私の音楽隊でも十分役立つ。
活躍を期待している。」
「はい……。ありがとうございます。」
ローラントから期待の言葉を掛けられても、律動の浮かない顔が晴れる事はなく、何か思い詰めながら、陰鬱に謝辞を返すだけだったーー
激しく揺れる馬車の中、キブソン達は勝利に湧いていた。
当の奏太達は、またもや激しく揺れる馬車に酔い潰れていた。
しかも、蓄音箱は戦いで大破し、帰りは気休めの音楽すらない。
「ああ……、それはどうも……。」
奏太は力なく応える。
初めての戦いで危険な目に遭い、更に先程の精霊魔法で魔力を使い果たしたことも重なって、奏太は完全に憔悴していた。
響子や金重も、来る時以上に元気がない。
「にしてもボウズ達、まさか音楽家だったとはなぁ!
ところであれはなんていう音楽なんだ!? 今まで聴いたこともない歌だったぞ!
詳しく教えてくれよ!なあ!なあ!」
キブソンは、キラキラと目を輝かせながら、項垂れる奏太にグイグイと説明を求める。
「あれはロックンロール、またはロックって呼ばれる音楽だ……。オエッ……。」
頼むから揺らさないでくれ……。
奏太の思いとは裏腹に、キブソンのテンションは収まる気配を見せない。
「ロックンロールか! スゲー格好良いじゃねーか! なんつーか、心の奥底から感情が滾るっていうかよ!
とにかくあの音楽があれば、俺達は戦場で無敵だぜ!」
城のお偉いさん達には理解されなかったが、キブソン達にはロックの良さが伝わったようだ。
「なあボウズ達、これからも俺達のクエストに付いてきてくれよ!」
「いや、それはちょっと困る……!」
キブソンから思わぬ要請を受け、奏太は即答で断る。
こんな馬車に毎回乗せられたらたまったもんじゃない。
「そう言わず頼むよ! 金は払うからさ! 戦わずにロックンロールをやってくれるだけでいい! な!?」
ぬ、ぬぬ……。金が貰えるのか、しかし、毎回酔い潰れるのは中々辛いし……。
「ーーあ、そうだ……。俺達の演奏を蓄音箱に保存して、それをあんた達に売るっていうのはどうだ?」
永吉の言っていた話を思い出し、提案してみる。
「おお! 本当か! 買うぜ! 蓄音箱が出来たらすぐ知らせてくれ!」
交渉成立だ。早速俺達の音源の販売ルートが出来た。
これは夢の印税生活も、それほど遠くないかもしれない。
「ただ、あの髭のおっさんの歌声をまた生で聴きたいなぁ~。
まぁどうしても生演奏が聴きたくなったらまた同行してくれよ! そん時は報酬を弾むからな!」
ぐぐ……。ま、まあ、たまになら大丈夫だろう。
音源を売りながら、クエスト同行で高額の報酬を受け取るっていうのもビジネスとしては有りだ。
奏太は脳内で算盤を弾く。
ーーうん。とりあえず帰ってから永吉と隆司に相談しよう。
今は何か考えただけで吐きそうだ。
冒険者としての初陣は散々な結果に終わったが、今後の稼ぎの目処がたったので収穫ありだ。
馬車に酔いながらも、歌が好評だったことに満足し、奏太は少し口元に笑みを浮かべたーー
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ーー城内の音楽堂に、オーケストラの演奏が鳴り響く。
曲は丁度クライマックスに差し掛かる最中(さなか)。
指揮者であるローラントの激しい手の動きに合わせ、管楽器、弦楽器、パーカッション、全ての楽器が終焉に向けて躍動する。
いよいよローラントが両手を振り上げ、ピタリと拳を止めると、『ドンッ!』という衝撃が壁をビリビリと響かせ、演奏が止まる。
演奏を終え、アイバニーゼは『ふぅ』と息を吐いた。
黒く重厚なグランドピアノの鍵盤から、白く細い指をそっと離し、楽譜のページをめくる。
あれから演奏に集中出来ない日が続いている。
今の演奏も、時折自分が今どこを演奏しているのか分からなくなってしまった。
気付くと、奏太達の姿が脳裏に浮かぶ。
奏太と金重の演奏を聴いて以来、あのエレキギターという楽器の音に取り憑かれてしまった。
「ーーニーゼ様、アイバニーゼ様。」
はっと我に返ると、ローラントが呼んでいる。
「どうなさいましたか。ご気分が優れませんか?」
「いえ、少し考え事をしておりました。」
アイバニーゼは姿勢を正し、身を引き締める。
「そうですか。音がいつもより不安定でしたよ。
副隊長として、もっと他の隊員を先導して頂かないと。」
「はい。申し訳ありません、ローラント隊長。」
そう、私は副隊長なのだから、しっかりしなければーー
ローラントの指摘を受け、アイバニーゼは自身の態度を戒める。
一方、その様子をローラントが怪訝な目で見つめる。
昨日の一件以来、どうもアイバニーゼ様の様子がおかしい。
時折、あの低俗な2人に、妙に影響を受けた素振りも見せる。
あの者達には注意する必要がある。
いずれ私の計画の邪魔となるやも知れない。
芽は刈り取っておかねばーー
ローラントが不穏な思考を走らせるが、隊員達はそれを知る由もなく、各々の作業に取り掛かる。
シンバルとしてその場に混ざる律動も、ローラントの思惑など気付く様子もなく、自身の演奏を確認している。
「ーー時に律動君、君の演奏は実に素晴らしい。音量、音色、タイミング、全て完璧だ。
君は以前居た世界でも、オーケストラのシンバル奏者の経験があるのかな?」
ローラントが律動の演奏に賛辞を送る。
「ありがとうございます! 以前住んでいた世界では、学校の吹奏楽部……吹奏楽団で一通りの打楽器を担当しておりました!」
日本での中高生時代の経験を思い出しながら、律動は自信満々に答えた。
「ふむ、吹奏楽団か。参考までに尋ねるが、打楽器以外の経験はどうかな?」
「えっと……両親の指導で、幼少期からピアノとバイオリンを習っていました……。」
先程とは裏腹に、律動は妙に籠った声で答えた。
「ほう、ピアノとバイオリンも出来るのか。ならばオーケストラでそれらの楽器を担当した事もあるのかな?」
「いえ……ありません……。」
今度は明らかに声のトーンが低い。目線も下を向き、落ち込む様子が見て取れる。
「そうか。まあ打楽器にそれだけの技術があれば、私の音楽隊でも十分役立つ。
活躍を期待している。」
「はい……。ありがとうございます。」
ローラントから期待の言葉を掛けられても、律動の浮かない顔が晴れる事はなく、何か思い詰めながら、陰鬱に謝辞を返すだけだったーー
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