異世界に奏でる狂騒曲(ロックンロール)~ランク0だけどロックの力で最強パーティに~

伊太利 千重治

文字の大きさ
25 / 78
1章

3間奏-帰路

しおりを挟む
「ーーいや~ボウズ達のお陰で助かったぜ!」

 激しく揺れる馬車の中、キブソン達は勝利に湧いていた。
 当の奏太達は、またもや激しく揺れる馬車に酔い潰れていた。
 しかも、蓄音箱は戦いで大破し、帰りは気休めの音楽すらない。

「ああ……、それはどうも……。」

 奏太は力なく応える。
 初めての戦いで危険な目に遭い、更に先程の精霊魔法で魔力を使い果たしたことも重なって、奏太は完全に憔悴していた。
 響子や金重も、来る時以上に元気がない。

「にしてもボウズ達、まさか音楽家だったとはなぁ!
 ところであれはなんていう音楽なんだ!? 今まで聴いたこともない歌だったぞ!
 詳しく教えてくれよ!なあ!なあ!」

 キブソンは、キラキラと目を輝かせながら、項垂れる奏太にグイグイと説明を求める。

「あれはロックンロール、またはロックって呼ばれる音楽だ……。オエッ……。」

 頼むから揺らさないでくれ……。

 奏太の思いとは裏腹に、キブソンのテンションは収まる気配を見せない。

「ロックンロールか! スゲー格好良いじゃねーか! なんつーか、心の奥底から感情が滾るっていうかよ!
 とにかくあの音楽があれば、俺達は戦場で無敵だぜ!」

 城のお偉いさん達には理解されなかったが、キブソン達にはロックの良さが伝わったようだ。

「なあボウズ達、これからも俺達のクエストに付いてきてくれよ!」

「いや、それはちょっと困る……!」

 キブソンから思わぬ要請を受け、奏太は即答で断る。
 こんな馬車に毎回乗せられたらたまったもんじゃない。

「そう言わず頼むよ! 金は払うからさ! 戦わずにロックンロールをやってくれるだけでいい! な!?」

 ぬ、ぬぬ……。金が貰えるのか、しかし、毎回酔い潰れるのは中々辛いし……。

「ーーあ、そうだ……。俺達の演奏を蓄音箱に保存して、それをあんた達に売るっていうのはどうだ?」

 永吉の言っていた話を思い出し、提案してみる。

「おお! 本当か! 買うぜ! 蓄音箱が出来たらすぐ知らせてくれ!」

 交渉成立だ。早速俺達の音源の販売ルートが出来た。
 これは夢の印税生活も、それほど遠くないかもしれない。

「ただ、あの髭のおっさんの歌声をまた生で聴きたいなぁ~。
 まぁどうしても生演奏が聴きたくなったらまた同行してくれよ! そん時は報酬を弾むからな!」

 ぐぐ……。ま、まあ、たまになら大丈夫だろう。
 音源を売りながら、クエスト同行で高額の報酬を受け取るっていうのもビジネスとしては有りだ。
 奏太は脳内で算盤を弾く。

 ーーうん。とりあえず帰ってから永吉と隆司に相談しよう。
 今は何か考えただけで吐きそうだ。
 冒険者としての初陣は散々な結果に終わったが、今後の稼ぎの目処がたったので収穫ありだ。
 馬車に酔いながらも、歌が好評だったことに満足し、奏太は少し口元に笑みを浮かべたーー



 *********************


 ーー城内の音楽堂に、オーケストラの演奏が鳴り響く。

 曲は丁度クライマックスに差し掛かる最中(さなか)。
 指揮者であるローラントの激しい手の動きに合わせ、管楽器、弦楽器、パーカッション、全ての楽器が終焉に向けて躍動する。
 いよいよローラントが両手を振り上げ、ピタリと拳を止めると、『ドンッ!』という衝撃が壁をビリビリと響かせ、演奏が止まる。

 演奏を終え、アイバニーゼは『ふぅ』と息を吐いた。
 黒く重厚なグランドピアノの鍵盤から、白く細い指をそっと離し、楽譜のページをめくる。
 あれから演奏に集中出来ない日が続いている。
 今の演奏も、時折自分が今どこを演奏しているのか分からなくなってしまった。
 気付くと、奏太達の姿が脳裏に浮かぶ。
 奏太と金重の演奏を聴いて以来、あのエレキギターという楽器の音に取り憑かれてしまった。

「ーーニーゼ様、アイバニーゼ様。」

 はっと我に返ると、ローラントが呼んでいる。

「どうなさいましたか。ご気分が優れませんか?」

「いえ、少し考え事をしておりました。」

 アイバニーゼは姿勢を正し、身を引き締める。

「そうですか。音がいつもより不安定でしたよ。
 副隊長として、もっと他の隊員を先導して頂かないと。」

「はい。申し訳ありません、ローラント隊長。」

 そう、私は副隊長なのだから、しっかりしなければーー
 ローラントの指摘を受け、アイバニーゼは自身の態度を戒める。
 一方、その様子をローラントが怪訝な目で見つめる。

 昨日の一件以来、どうもアイバニーゼ様の様子がおかしい。
 時折、あの低俗な2人に、妙に影響を受けた素振りも見せる。
 あの者達には注意する必要がある。
 いずれ私の計画の邪魔となるやも知れない。
 芽は刈り取っておかねばーー

 ローラントが不穏な思考を走らせるが、隊員達はそれを知る由もなく、各々の作業に取り掛かる。
 シンバルとしてその場に混ざる律動も、ローラントの思惑など気付く様子もなく、自身の演奏を確認している。

「ーー時に律動君、君の演奏は実に素晴らしい。音量、音色、タイミング、全て完璧だ。
 君は以前居た世界でも、オーケストラのシンバル奏者の経験があるのかな?」

 ローラントが律動の演奏に賛辞を送る。

「ありがとうございます! 以前住んでいた世界では、学校の吹奏楽部……吹奏楽団で一通りの打楽器を担当しておりました!」

 日本での中高生時代の経験を思い出しながら、律動は自信満々に答えた。

「ふむ、吹奏楽団か。参考までに尋ねるが、打楽器以外の経験はどうかな?」

「えっと……両親の指導で、幼少期からピアノとバイオリンを習っていました……。」


 先程とは裏腹に、律動は妙に籠った声で答えた。

「ほう、ピアノとバイオリンも出来るのか。ならばオーケストラでそれらの楽器を担当した事もあるのかな?」

「いえ……ありません……。」

 今度は明らかに声のトーンが低い。目線も下を向き、落ち込む様子が見て取れる。

「そうか。まあ打楽器にそれだけの技術があれば、私の音楽隊でも十分役立つ。
 活躍を期待している。」

「はい……。ありがとうございます。」

 ローラントから期待の言葉を掛けられても、律動の浮かない顔が晴れる事はなく、何か思い詰めながら、陰鬱に謝辞を返すだけだったーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら

リヒト
ファンタジー
 現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。  そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。  その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。  お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。    ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。    お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?

処理中です...