26 / 78
1章
3間奏-指導
しおりを挟む「ーーようやく着いた……。」
長い帰り道がようやく終わり、奏太達は城下町と帰ってきた。
3人は馬車から降りると、急いで気付け薬をポーションで流し込む。
「それじゃあボウズ達、蓄音箱の事よろしく頼むぜ!」
キブソン達は、先程の歌をご機嫌に口ずさみながら去っていった。
今回の討伐クエストは、奏太達には何の成果も無かったため、冒険者ギルドへの報告はキブソン達に任せ、3人は宿へと向かう。
「宿に帰る前に、どこか飯でも食べにいくか。」
「そうでござるな。小生も戦い疲れてお腹がペコペコでござる。」
金重は殆ど逃げ回ってただけじゃないか?
と奏太は思ったが、自分も大して変わらない事に気付き、ポリポリと頭を掻く。
「ーーあの!この後なんですけど、ベースを教えて貰ってもいいですか?」
奏太と金重が食事に行くことで同意の中、一番大食いの響子から、意外な言葉が出たことに奏太が驚いた顔を見せる。
「えっ……あ、それは別に良いですけど、ご飯は食べないんですか?」
奏太がまさかという顔で響子に尋ねる。
「あ! えっと、食事は頂きたいのですが……先程のお2人を見てましたら、私も早く一緒にベースが弾きたいな~って思いまして……。」
「なんだビックリした。まさか晩飯を食べずに宿に戻るのかと思った。」
「響子殿に限ってそれはないでござるよ。」
「も~、酷いですよ2人とも!」
奏太と金重が笑うと、響子がぷくりと頬を膨らませる。
「すみません響子さん。じゃあ食事が終わったら3人で宿の防音室に行きましょう。」
「いいですな! でも小生の指導はスパルタでござるよ?」
「お手柔らかにお願いしますね。」
3人は楽しく会話を交わしながら、街へと歩いていったーー
ーー3人は夜の食事を済ませ、宿の防音室に来た。
部屋は丁度1つ空いており、カウンターで利用の手続きを済ませ、部屋に入る。
夜の、しかも場所は地下にも関わらず、部屋の中は割と明るい。蛍光灯とまではいかないものの、視界を保つのには充分な明るさだ。
後からカウンターの男に聞いた話だが、どうやらこの世界では、水道だけでなく夜の灯りも魔法を使うらしい。
防音環境もかなり整っており、他の部屋も使用中のようだったが、音もれは部屋の前で僅かに聞こえるだけで、部屋の中では全く聞こえてこなかった。
広さは10畳程で、流石にオーケストラ全員が入れるスペースはないが、我々少人数のバンドが練習するには充分の広さだ。
「では響子殿、ベースを出して貰って良いでござるか?」
「はい!」
響子が金重から借りたベースを収納魔法で取り出す。
ベースは金重が指導する事になっていたので、この場は金重が仕切っている。
奏太はその横で、アンプに繋がれていないギターを『チャカチャカ』と弾きながら、2人の様子を眺めている。
「まずはチューニングからでござる! 基本的なチューニングは一番太い弦がEでーー」
金重が別のベースを使いながら、一つ一つ教えていく。
2人の様子を見ていると、自分がギターを始めた時の事を思い出す。
何も分からずただ闇雲に掻き鳴らし、『うるさい!』と親に怒られた。
教本を買って基礎から練習するも、定番のFコードでつまずく。
初めは指が痛くて指先がボロボロになった。
一曲弾けるようになった時は感動だったなぁ。
カエルの歌だったけど。
「ーーでは次に、弾き方を教えるでござる。ベースには大まかに2種類の弾き方があるでござる。
1つはピックを使って弦を弾く方法、もう1つは指を使って弾く方法でござる。」
ギターにもピック弾きと指弾きがあるが、アコースティック・ギターや、特殊な奏法でない限り、エレキ・ギターは基本的にピックを使う。
だが、エレキ・ベースの場合には両方の奏法が多用される。
「曲や出したい音色によってピックと指を使い分けるでござるが、響子殿にはまずはピック弾きから教えるでござる。
このように先を1cmほど突き出して、親指と人差し指で握るでござる。
そして弦にピックを当てるでござるが、この時ピックが斜めに当たって弦を擦らないように気を付けるでござるよ。」
「え~っと……こうですか?」
響子が確認しながら弦を弾くと、『ベーン』と音が鳴った。
「わっ、わっ! 鳴りました! 私ベースを弾きましたよ!」
ベースの開放弦 (フレットを押さえずに弦を鳴らす事)の音が鳴ったことに、響子がはしゃぐ。
「中々良い感じでござるよ。今のがダウンピッキングでござる。次にアップピッキングでござるがーー」
金重が一つ一つ丁寧に教えていく。
最初は上手く教えられるか不安に思っていたが、中々良い指導じゃないか。
奏太が感心しながら見ていると、金重が粗方の弾き方を説明し終わった。
「ーーという感じでフレットが構成されているでござる。
まあ最初はゆっくり一つずつ練習していくでござるよ。
されど優しいのは今のうちだけでござる! 今の小生はスパルタ教師でござるから、どんどんペースアップしていくでござーー」
「ーーなるほど! 大体分かりました!」
「ふおっ!?」
「へっ!?」
突然の響子の言葉に、奏太と金重は訳が分からず間抜けな声を出す。
「えっと、こんな感じですかね?」
そう言うと、響子は『ボンボンボン』とベースを弾き始めた。
一つ一つの弦を音粒良く弾き、スケールに沿って左手を動かす。
このベースラインは聞き覚えがある。確かーー
奏太が聞き覚えのあるベースラインに、記憶を辿っていると、
「ア~イア~ムァン アンチクリィストゥ♪
ア~イア~ムァン アナ~キストゥ♪」
おもむろに響子がベースに合わせて歌い始めた。
そうだ。この曲はセッ◯ス・ピストルズの名曲、アナーキー・イン・ザ・UKだ。
つーかいきなりベースで弾き語り!?
教えてからたったの数十分で!?
響子の驚異的な吸収力に、奏太と金重は唖然とする。
そしてワンコーラス弾き終わると、響子は「じゃじゃーん」と格好良くポーズを決めた後、こちらを見て照れ臭そうにお辞儀した。
「ーーえっと、どうでしょうか……?」
口を開けてただ呆然と見つめる2人に、響子は遠慮がちに尋ねた。
「て、ててて天才でござるーーー!!」
「いやいやいやいやいやいやあり得ねーーー!!」
響子が教わってすぐベースを弾きこなした事に、奏太と金重は驚愕し取り乱す。
「え!?響子さんってベース初めてなんだよね!?」
「はい! あ、でもセッ◯ス・ピストルズの曲は沢山聴きましたので全部覚えてます!
セッ◯ス・ピストルズ以外の曲はまだ弾けるか分からないですけど……。」
響子が照れながら答える。
いや、覚えてるとか他の曲とか、そういう次元ではないのだが……。
確かにパンクロックのベースは比較的簡単なものが多いが、それにしても初心者が教わってすぐに弾けるものではない。
「信じられないでござる……。これは指弾きも……、それどころかタッピングやスラップ奏法もすぐにマスター出来るかも知れないでござる!」
とんでもない逸材を目の当たりにし、奏太と金重は、興奮と若干の敗北感を味わったーー
その後も響子は金重に教わりながら、ベースの弾き方をどんどん吸収していった。
まるでスポンジや砂漠の砂のような吸収力に、金重の指導にも熱が入る。
途中、有名な曲を題材に3人で合わせてみる。
初めはたどたどしく、しかしすぐに奏太と金重の音を聴きながら合わせるコツを掴んだ。
そして3人は時を忘れ、気付けば深夜に近付いていた。
「ーーそろそろ終わりにしよう。練習を始めてからかなり時間が経つし。」
「そうでござるな。あまり初めから練習し過ぎても手を痛めるでござる。」
「とても楽しくて時間を忘れてしまいました!
お二人ともありがとうございました!」
3人はやや長い初日の練習に満足し、部屋を出た。すると他の部屋から微かに楽器の音がする。
どうやらまだ練習している人がいるようだ。随分熱心な人だ。
奏太は漏れる音に意識が向き、ふと窓の中を覗き込む。
すると何故かそこにはドラムセットを叩く律動の姿があったーー
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら
リヒト
ファンタジー
現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。
そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。
その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。
お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。
ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。
お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる