異世界に奏でる狂騒曲(ロックンロール)~ランク0だけどロックの力で最強パーティに~

伊太利 千重治

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1章

5A-ディナー

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 おおおおちつけ俺……!
 まずは深呼吸だ……!

「スーハースーハー……」

 奏太は初めての女性と2人きりのディナーに、この上なく緊張していた。

 響子に連れられて店に入ると、中は魔法の込められた華やかなシャンデリアが店内を照らしていた。
 テーブルの一つ一つに純白のクロスが敷かれ、その上に置かれたキャンドルが、料理を楽しむ客達の顔を仄かに揺らしている。
 白いシャツと黒いベスト、蝶ネクタイを纏ったゴリラのウエイターに案内され、奏太と響子は窓際の席に座った。


「お飲み物はいかがなさいまウホ?」

 ウエイターがメニューを提示するが、何も読めない。
 まるで海外旅行客のように奏太がテンパっているとーー

「私はあそこに置いてあるワインをグラスでお願いします。」

 響子が壁に立て掛けてあるワインボトルを指差しながらさらっと注文すると、店員が「かしこまりまウホ。」と承った。

「じ、じゃあ俺も同じので。」

 それを聞いた奏太が慌てて響子に乗る。

「あ、お酒でも大丈夫でした?
 付き合わせちゃってごめんなさい。」

 注文が終わった後で、響子が奏太に確認を取る。

「いえ、大丈夫です! 一応はたちですし、大学のサークルでよく飲まされましたので!」

 奏太が軽音楽サークル時代に、イケメン達の引き立て役、もとい盛り上げ役として散々飲まされた事を思い出しながら答えた。

「奏太さん、はたちなんですねぇ~。私は今年で21です。」

「あ、やっぱり年上なんですね。」

 響子からは大人びた雰囲気を感じていたが、実際に年上という確認が取れて奏太が納得する。
 本当はもう少し年上かと思っていたがーー

「その言い方ちょっと酷いです~。」

 響子が頬を膨らませる。歳を気にするような年齢でもないが、少しデリカシーのない言い方になってしまったと、奏太が反省しながら「ははは」と笑って誤魔化す。
 そうこうしているうちに、ウエイターがボトルを持ってきて、2つのグラスにワインを注いだ。
『トクトクトク』と心地いい音がボトルを鳴らす。

「では奏太さん、乾杯しましょう!」

 響子がワインの注がれたグラスを奏太に向ける。

「それじゃあ……、異世界に!」

 奏太が響子の乾杯に応じ、グラスを向ける。

「ロックンロールに!」

「「 乾杯!」」

『チン』と、グラスの乾いた音が2人の間に響いたーー


 一方、一人で猫耳カフェに行った金重も、お酒を飲みながら異世界を満喫していた。

「猫耳に乾杯でござる~!!」

 可愛い猫耳娘達に囲まれながら、金重はグラスを高々と掲げたーー



 半刻程が過ぎ、奏太と響子は完全に出来上がっていた。
 特に響子は、普段の可憐な姿は見る影もなく、グラスを握りながらヘラヘラと奏太に喋りかける。

「だからぁ~奏太さ~ん、私はぁ~もっとハートにガツン! と来るロックがやりたいんですよぉ~。
 確かにぃ~奏太さんの歌も素敵ですけどぉ~、あんなんじゃまだまだ足りないですよぉ~!
 もっとぉ~! お腹の底から『うおおおおー!』って感じに叫んでぇ~、観客をモッシュ&ダイブさせないとぉ~!」

 まさかお酒を飲んだ響子さんがここまで豹変するとは……。
 しかも普段は優しいのに、凄いダメ出ししてくる。

 まだ辛うじて正気を保っている奏太は、変わり果てた響子の言葉に、ひたすら「はい。はい。」と返事を繰り返す。

 だけど、考えてみればこれはチャンスかもしれない……。
 今俺が精霊魔法を使ってシド・ヴ◯シャスに変身すれば、判断力が鈍っている今なら響子さんは俺だと気付かない可能性がある。
 そしてシド・ヴ◯シャスになった俺が響子さんの前に現れれば、今夜は……!
 まて、落ち着け、俺……。
 こういう時は焦っちゃいけない。

 奏太は鞄の中のポーションをガサゴソと確認する。

 よし。ポーションは日中補充したし、魔力も鍛えられてきたから、これだけあれば1時間は変身していられるだろう。

「ちょっと奏太さ~ん、聞いてますかぁ~?」

 何やら落ち着きのない奏太に、響子がふて腐れる。

「すみません響子さん、ちょっとトイレに行ってきてもいいですか?」

「もぉ~、早く帰ってきてくださいよぉ~?」

 やや不満そうだったが、響子の了承を得たところで、右手に持ったポーションを体で隠しつつ、奏太は急いでトイレに向かった。

 トイレに入ると、奏太はポーションをグビグビと飲み、魔力を練る。

 日中は結局ジ◯ン・レノンに変身しなかったから、もし次の霊魂を呼び出せるようになっていれば……!

 奏太が祈る思いでシド・ヴ◯シャスを念じた。
 すると、トイレの中がモクモクとした白い霧に包まれたーー


 席では響子が1人でワインをグビグビと飲んでいた。

「遅いなぁ~奏太さん。師匠も一人で何処かに行っちゃうし……。
 皆もっとレディを大切に扱って欲しいです!」

 響子が男達への不平を漏らしていると、『コツコツ』と足音が近付いてきた。

「あ~! もう遅いですよぉ~奏太さん!」

 ようやく帰ってきたと思い、響子が立腹しながら足音の方に目を向けると、そこには自分がずっと憧れ、恋い焦がれてきた人物が立っていたーー


 見間違いだろうか。いや、見間違える筈がない。
 短い黒髪を逆立て、黒の革ジャンに黒のスラックス、鉤十字の描かれたTシャツを中に着て、南京錠の首飾りをぶら下げるという、最高にブッ飛んだファッション。
 今までに何度もその姿を、動画で目に焼き付けてきた。残っているステージ上での演奏動画は数少ない。
 それでも記録に残っているものを探し尽くし、その衝動的かつ過激なステージパフォーマンスに、響子は熱狂した。

 自分もあんな風に自由な音楽をやってみたい。

 興味は憧れに、憧れは崇拝に変わり、親に縛り付けられる響子にとってのアイドル、神にも近い存在だった。

 そんな自分にとって最も憧憬する存在である、シド・ヴ◯シャスが目の前にいる。


「ーーシド……様?」

 かろうじて振り絞る言葉で、響子は真偽を確かめる。

「ヘイそこの腐れ売女ファッキンビッチ

 俺様のマイクに跨がって、夜の寝床ステージで最高にイカれたライブをキメようぜ。」

 シド・ヴ◯シャスの姿に扮した奏太の口から、最高にロックな台詞が響子に浴びせられたーー
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