異世界に奏でる狂騒曲(ロックンロール)~ランク0だけどロックの力で最強パーティに~

伊太利 千重治

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1章

7間奏-ファン

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 奏太達はアイバニーゼを置いて、冒険者ギルドへと向かっていた。

「ーー全く、何なんですかあの子! セッ◯ス・ピストルズの素晴らしさを理解出来ない人なんか、私は絶対に認めません!」

 響子は相変わらずアイバニーゼへの怒りが収まらない。

「まあまあ、アイバニーゼもまだセッ◯ス・ピストルズの音楽まで否定した訳ではないし……。」

「奏太さん!あの子の肩を持つんですか!? 仲間なのに酷いです!」

「いや、別にそういう訳じゃ……。」

 奏太が何とか響子をなだめようとするが、逆に火に油を注いでしまった。
 それも当然の事。『女性をなだめるには説得ではなく共感が一番』という女性の正しい扱い方を、女性と付き合ったことの無い童貞の奏太には分かる筈もなかった。

「師匠はどう思いますか!?」

「ふお!?……うむむ……小生はバンドの幅が拡がるのは良いことだと思うでござる。」

「し、師匠まで……!」

 女心どころか、人間心を読めるかも怪しい金重が、尚更響子の感情を逆撫でしてしまい、響子はショックで今にも泣き出しそうだ。

「と、とにかく! ピアノだけだとジャンルが限られるのは事実だし、アイバニーゼの件は一旦忘れよう!」

「むぅ~……。」

 響子は不満な表情を浮かべつつも、奏太の言葉に一応の納得を見せた。

 な、なんとか収まった……。女性が怒るとこんなに大変だとはーーおや?

『ズンズンチャ♪ ズンズンチャ♪』

 何やら覚えのあるリズムがどこからか聴こえてくる。

 3人が音の方向に目を向けると、そこには冒険者らしき人物が仲間に蓄音箱を聴かせていた。

「ーーどうよこれ! ロックンロールって言うんだぜ!」

「スッゲー! なんだか力が湧いてくるぜ!」

「超カッケーじゃん!」

 冒険者達は奏太達が販売したWe Will Rock Youを聴きながら、「ロックンロール! ロックンロール!」と盛り上がっている。

「俺達の音楽が少しずつ広まっているみたいだな。」

「本当ですね!」

「でござる!」

「ただーーちょっと音がデカくないか……?」

 見ると、大型の蓄音箱の蓋を全開に開いて音楽を流しており、辺り一体に鳴り響いている。
 周囲の住人達は、騒音に顔をしかめていた。

「流行ってくれるのは嬉しいが、せめてもう少し周りに気を遣って欲しいな……。」

「ちょっと恥ずかしいですね……。」

「なんだか小生達が迷惑をかけている気分でござる……。」

 何か問題が起きなければいいが……。

 奏太達は大音量で流れる自分達の音楽に、若干の不安を抱きつつも、とりあえずはファンが着実に増えている事を喜び、誇らしい気持ちで冒険者ギルドへと向かったーー


 丁度その頃、アイバニーゼも執事と共に馬車にて街へと繰り出していたーー

 馬車が止まり、アイバニーゼが中から降りると、目の前は永吉の店だった。アイバニーゼがその身なりには到底似つかわしくない、オンボロな店の扉を開く。

「ーー御免下さい。」

 アイバニーゼが店の奥に声をかけた。

「ヘイいらっしゃ……って、あんたはーー」

「ご無沙汰しております、早馬永吉様。」

 アイバニーゼの姿に永吉が驚くと、アイバニーゼはヒラリと挨拶をする。

「これはこれは……お姫様がこんな店にいったい何のご用で?」

 意外な来客に戸惑いつつも、VIPの訪問に永吉は笑顔で応対する。

「突然恐縮では御座いますが、永吉様は“シンセサイザー“という楽器をご存知でいらっしゃいますか?」

「そりゃあ勿論。シンセサイザーは俺が前の世界で働いていたメーカーでも、看板商品の一つだったからな。」

「まあ。それは話が早いですわ。」

 はて、一体どういう事かと永吉は首をかしげた。

「そのシンセサイザーを、永吉様に作って頂きたいのです。」

「なっーー」
 
 アイバニーゼの突然の注文に、永吉は驚きの余り言葉を失ったーー


「ーー姫さんよお……悪いけど、それは流石に無茶だぜ。」

 永吉がそりゃ無理だと言わんばかりに呆れた顔をする。

「ですが永吉様は、隆司様に不思議な楽器をお作りになられたと伺っております。」

「確かにあれは蓄音箱を使って俺が設計したものだけどよぉ、流石にシンセサイザーは“アレ“とは鍵盤の数が比べ物にならねえぜ。」

 鍵盤一つ一つに蓄音箱を割り当て、更にシンセサイザーのように様々な効果を加えるとなると、途方もない手間がかかる。

「永吉様はミューサ神様に選ばれる程に、優れた楽器職人と見込んでの申し出で御座います。報酬は幾らでもお支払い致しますので、どうかお願い致します。」

「う~ん、そう言われちまうとなぁ……。」

 アイバニーゼは中々引き下がらず、殺し文句まで使ってくる事に、永吉の楽器職人としてのプライドがくすぐられる。

「せめて電子ピアノでもあれば、蓄音箱を応用して出来なくもないだろうけど……。」

「電子ピアノという楽器なら、金重様が持っていると仰っていました! それがあればシンセサイザーが作れるのですね!?」

 希望の光が差し、アイバニーゼの目が輝く。

「おいおい! まだ出来ると決まったわけじゃねえし、完成にどれぐらいかかるかわかんねえぜ!?」

 グイグイと迫るアイバニーゼに、永吉が待ったをかける。あまり期待されても、出来なかったときが怖い。何せ相手は王族の姫様だ。

「あら。永吉様は確か、世界一の楽器職人を目指しておいでではありませんか?
 この程度の注文にも応えられずに、本当に世界一になれるのでしょうか……。」

「ぐ、ぐぐ……。」

 永吉がこの世界に召喚された日の事を思い出すーー

 確かにあの時、永吉は国王の前で「世界一の楽器職人になる!」と豪語した。
 まさかその事をアイバニーゼが覚えていたとは夢にも思わず、永吉が唸り声を上げる。

「ーーよし分かった! そこまで言うならこの永吉様が作ってやろうじゃねえか! ただし2週間は待ってくれよ?」

 ここで『口だけの男』のレッテルを貼られる訳にはいかない。
 永吉は覚悟を決め、アイバニーゼの注文を引き受けた。

「いえ、1週間です。」

「いっ……あーもー分かったよ! やればいいんだろ! その代わり報酬はタップリ頂くぜ!? 勿論隆司の分も含めてだ!」

「勿論ですわ。このお店が国のどのお店よりも大きく、華やかに改装出来る程の報酬をご用意致します。」

「よっしゃ! その言葉忘れんじゃねーぞ!」
 
 商談が成立し、2人はガッシリと握手を交わしたーー

(これで私も奏太様のお仲間になれますわ! 後はーー金重様の電子ピアノを頂かなくてはなりませんね……!)

「ーー爺!」

「いかがなさいましたか、アイバニーゼ様。」

 アイバニーゼが店を出ると、執事を呼び寄せた。

「帰ったらすぐに手配するのです!」

「かしこまりました。」

 アイバニーゼが深く説明するまでもなく執事の男が了承し、アイバニーゼを迎えて馬車を走らせたーー

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