69 / 78
2章
1A-商談
しおりを挟む「ーー先日金重様が持っていると仰っていた『電子ピアノ』を、私に頂けませんか?」
「だ、ダメです! 師匠の大切な楽器が欲しいだなんて、図々しいにも程があります!」
アイバニーゼの申し出に、響子がすかさず待ったをかける。
アイバニーゼの話ももちろん唐突ではあるがーー
「その大切な楽器を燃やした人が言えるセリフじゃないけど……」
「ぐ、ぐぐ……」
奏太が思わずツッコミを入れ、響子は悔しそうに押し黙る。
「さすが奏太さん。アイバニーゼさんの騎士だけあって、忠実に護衛を勤めますね」
今度は反撃といわんばかりに、響子が奏太に向かってチクリと刺す。
うっ……。うかつに蜂の巣をつついてしまった……。
余計な発言をすぐさま後悔し、奏太はコソコソと金重の影に隠れる。
「うむむ~……。貸したベースを昨日燃やされてしまったばかりでござるし、電子ピアノはひとつしか持っていないでござる……。
それにあの電子ピアノには、タマ美殿のステッカーがーー」
金重も昨日のトラウマがまだ残っているのか、すんなりOKとはいかないようだ。
「もちろんタダで頂こうとは思っておりません。爺、あれを!」
「かしこまりました」
アイバニーゼから促されると執事の男が奥へと消え、程なくして白い布をかぶせた台を運んできた。
「金重様の電子ピアノは、こちらのもので買い取らせて頂きたく存じ上げます」
そういってアイバニーゼが布を払うと、山のような金貨と、毛皮のマフラーのようなものが顔を出した。
「す、スゲー! これ一体金貨何枚だよ!?」
「は、はわわわわ……」
「こちらは金貨300枚になりますわ。もし足りなければ、さらにお出し致しましょう」
その圧倒的な大金に、奏太と響子が大きく口を開けている。
だが、金重は微妙な反応を見せた。
「う~ん……小生はグッズや楽器を買うためにお金は溜めていたでござるが、今となってはもうあまりお金に興味はないでござるよ。」
「な、何言ってんだよ金重! これだけあればいくらでも猫耳カフェに通えるぞ!?」
これほどの大金に全く興味を示さない金重に対し、奏太は甘い誘惑で説得を試みた。
「そんなにしょっちゅう大勢の猫耳娘達に囲まれていたら、小生昇天してしまうでござる!
普段は目で眺めつつ、たまに戯れるからいいんでござる!
奏太殿は男のロマンが分からぬでござるな~」
「いやでもこれだけあれば、当分は働かなくて済むじゃないか!
家に籠ってた金重にとっては願ったり叶ったりじゃないのか?」
謎のロマンを語る金重に対し、奏太はなおも引き下がらない。
「確かに前の世界なら嬉しいでござるが、小生にとって異世界の冒険は夢のようでござるし、ギターを弾いてお金を貰えるのも幸せでござるよ」
金重にとってこの世界にいることこそが、大金を持ってしても得られない幸せであり、お金なんかなくともこの世界にいるだけで満足だったのだ。
お金がなくとも夢が叶っている人に、お金の魅力は意味をなさないことに気付き、奏太はようやく説得を諦めた。
確かにバンドをやって生計を立てる今の生活が楽しいってのは俺も分かるけど、俺だったらこれだけあれば毎日あんな店やこんな店に行くけどなぁ……。
奏太はいまだ足を踏み入れたことのない、この世界のいかがわしい店を想像する。
「そうですか……流石は奏太様のお仲間の金重様です。無欲なことは素晴らしいですわ。
では、こちらはどうでしょうか……?」
アイバニーゼは金貨の山の隣に置かれた、毛皮のマフラーを取って見せた。
「これは……?」
「これは獣人の女性がお好きという金重様のために、私が獣人の女性達に頼んで特別に作らせた首巻きです。
この毛は全て獣人の女性達が剃毛したものを使用して作られております」
「ブッ!!」
アイバニーゼの言葉に、金重が鼻血を吹き出して即倒した。
「そ、それは本当でござるか!?」
そしてすぐに「ガバリ」と起き上がり、眼鏡を輝かせながらアイバニーゼに聞き直す。
「ええ。ズームー王国の猫耳カフェなるお店の従業員の方々にお願いしたところ、快く応じてくださいました。少々お礼は致しましたが……」
どうやらアイバニーゼが獣人達の体毛を金で買ったらしい。「そこまでするか」と、王族のえげつない金遣いに奏太と響子がドン引きする。
「売る! 電子ピアノを売るでござる!」
「交渉成立、ですね。」
呆れる奏太と響子を他所に、金重とアイバニーゼは「ガッシリ」と握手を交わし、毛皮のマフラーと電子ピアノの物々交換が行われた。
しかもちゃっかり金貨は渡さず、執事の男が回収して裏に運んでいった。
金遣いの荒い姫様かと思ったが、案外したたかな娘だ。
「な、なんと神々しい……。これは小生の家宝にするでござる……!」
金重はご満悦そうに、受け取ったマフラーを天高く奉った。
「で、でも電子ピアノが手に入ったからって、バンドには入れませんよ!」
金重が商談に応じてしまったことに焦った響子が、苦し紛れに牽制球を投げる。
確かにこの前の話では、アイバニーゼがシンセサイザーを手に入れたらバンドメンバーとして認めるということになっていた。
電子ピアノだけでは多彩な音は出せず、ロックをやっている奏太達のバンドでは使いどころが限られてしまう。だがーー
「ご心配なく。その点につきましては既にとある方に依頼してあります。
今からこの楽器をその方のところへ持っていきますので、皆さんもよろしかったらご一緒にいかがですか?
あ、奏太さんは私の側近なので強制です。」
一体誰に何を依頼したのだろうかと、奏太達は疑問を浮かべながら、アイバニーゼに連れられて街へと繰り出したーー
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら
リヒト
ファンタジー
現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。
そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。
その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。
お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。
ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。
お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる