4 / 4
第四夜 『手を伸ばした先の宇宙船』
しおりを挟む
彼女が寝袋に潜り込むと、部屋が静かになる。 ガサガサという寝袋の音と、かすかないびきのような寝息だけが、深夜の空気に溶けていく。
シングルサイズの布団に座ったまま、僕はぬるくなったコーヒーを手に、ぼんやり天井を見上げた。
寝袋にくるまった彼女との距離は、ほんの数十センチ。 手を伸ばせば届く距離。 何なら、指先を伸ばせば、あの寝袋の端にすら触れることができる。
だけど、そのたった数十センチが、果てしなく遠く感じる。
彼女が来るのは、いつも気まぐれだ。 なんの前触れもなく、ふらっと現れて、 そしてふらっといなくなる。
それでも、彼女がいない夜は、正直少し物足りない。 静けさが落ち着かない。 コンビニで何を買っても、一人で食べると味がしない。
だけど、彼女が来て、寝袋に潜り、そこで安心したように眠り始めると、 その姿を見るだけで、どうしようもなく胸が苦しくなる。
触れたい。 ほんの少しでいい。指先だけでも。 髪の端でも、寝袋越しでも、なんでもいい。 この距離が本当はどれくらいなのか、確かめたくなる。
でも――
もし、手を伸ばしてしまったら。 もし、彼女に「そういうつもりだったの?」って言われたら。 この不思議な均衡が、全部壊れてしまいそうで。
だから僕は、動けない。
この距離がちょうどいいんだ、と自分に言い聞かせる。 この関係に名前がないからこそ、保てているものがある。 だから、それを壊すようなことを僕からしてはいけないんだ。
たとえ、彼女の寝息が近すぎて、眠れない夜でも。 たとえ、この部屋の中で、一番触れたいものが、いちばん触れてはいけないものでも。
僕は、手を伸ばさない。
彼女がこの部屋を”安全な場所”だと思っている限り、 僕はその幻想を守りたい。 自分の気持ちを、そっと奥にしまい込んででも。
そして今日も、隣の宇宙船の中で、 彼女が静かに眠っている。
たったそれだけのことが、 僕の夜を、満たしていた。
シングルサイズの布団に座ったまま、僕はぬるくなったコーヒーを手に、ぼんやり天井を見上げた。
寝袋にくるまった彼女との距離は、ほんの数十センチ。 手を伸ばせば届く距離。 何なら、指先を伸ばせば、あの寝袋の端にすら触れることができる。
だけど、そのたった数十センチが、果てしなく遠く感じる。
彼女が来るのは、いつも気まぐれだ。 なんの前触れもなく、ふらっと現れて、 そしてふらっといなくなる。
それでも、彼女がいない夜は、正直少し物足りない。 静けさが落ち着かない。 コンビニで何を買っても、一人で食べると味がしない。
だけど、彼女が来て、寝袋に潜り、そこで安心したように眠り始めると、 その姿を見るだけで、どうしようもなく胸が苦しくなる。
触れたい。 ほんの少しでいい。指先だけでも。 髪の端でも、寝袋越しでも、なんでもいい。 この距離が本当はどれくらいなのか、確かめたくなる。
でも――
もし、手を伸ばしてしまったら。 もし、彼女に「そういうつもりだったの?」って言われたら。 この不思議な均衡が、全部壊れてしまいそうで。
だから僕は、動けない。
この距離がちょうどいいんだ、と自分に言い聞かせる。 この関係に名前がないからこそ、保てているものがある。 だから、それを壊すようなことを僕からしてはいけないんだ。
たとえ、彼女の寝息が近すぎて、眠れない夜でも。 たとえ、この部屋の中で、一番触れたいものが、いちばん触れてはいけないものでも。
僕は、手を伸ばさない。
彼女がこの部屋を”安全な場所”だと思っている限り、 僕はその幻想を守りたい。 自分の気持ちを、そっと奥にしまい込んででも。
そして今日も、隣の宇宙船の中で、 彼女が静かに眠っている。
たったそれだけのことが、 僕の夜を、満たしていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる